ソーシャルクリエイティブ編

vol.43
株式会社スペースポート 取締役社長 上田壮一さん
「風雲会社伝」第41回で、株式会社スペースポートの取締役社長/上田壮一さんへの取材記事を掲載したところ、読者から大きな反響があった。同社は、上田さんがソーシャルクリエイティブを展開するために設立。通常のデザイン会社、企画制作会社とは明らかに立脚点の違う、「社会貢献」をテーマにしたクリエイティブ活動を展開している。 「ソーシャルクリエイティブ」--2008年後半の現在、そこに明確な定義はない。しかし、明らかに、そのようなテーマが存在していることは多くのクリエイターが気づいているし、実際にそのフィールドに乗り出す人も増え始めている。 今回は、上田さんに再取材をお願いし、ソーシャルクリエイティブについて考えてみた。

ソーシャルクリエイティブとは、何か。

制作活動を通じて社会貢献を果たそうとする活動、およびビジネス

クリステ編集部では、それを「制作活動を通じて社会貢献を果たそうとする活動、およびビジネス」と受け止める。経済活動全般は、それ自体が暮らしを良くしたり、社会に活気をもたらしたりと「社会に貢献」しているものだが、より明確に、「環境保護」や「貧困撲滅」、「紛争地帯への援助」などのテーマに取り組んで、世の中の動きに参加する制作活動と制作ビジネスをソーシャルクリエイティブと呼びたい。 実際に「ソーシャルクリエイティブ」で検索しても、「ソーシャルデザイン」で検索しても、Web上で、それらの活動が驚くほど活発に展開されていることがわかる。冒頭にも触れたが、もうすでにそれに「気づき」、「取り組み」始めているクリエイターは多くいるのである。

【上田さんのお話】 ソーシャルクリエイティブという言葉は最近使われるようになったもので、明確な定義もまだありません。ソーシャルデザインやソーシャルマーケティング、ソーシャルコミュニケーションなどは使われるようになってかなり時間を経ていますから、ビジネス用語に「ソーシャル」がついて新しい用語ができる流れの、ひとつの現象と見ることもできます。

なぜ、ソーシャルクリエイティブなのか。

クリエイターは、本来、人々に「感動」や「喜び」を伝えたいという動機を持っている。

私たちが上田さんに取材してもっとも印象に残っているのは、「クリエイターと呼ばれる人々は、元来、社会貢献への意識が高いもの」という一言。つまり、新しい流れとしてクリエイターが社会貢献しているというより、原点回帰に近いのだという認識だ。 言われてみれば、そうだ。ものづくりを仕事にしようと志す人々は、もちろんそのある部分に「お金を稼ぐ」もあるが、それ以上に人々に「感動」や「喜び」を伝えたいという動機を持っている。そのような志の先に、「自然環境を守りたい」や「社会をよくしたい」「戦争をなくしたい」があっても、何の不思議もない。

【上田さんのお話】 当社のように、はじめから社会貢献を標ぼうして会社を立ち上げた者もいれば、気づけば社会貢献に関わる制作を手がけていたという人もいるでしょう。広告クリエイターが、クライアントからの依頼で環境保護にまつわるメッセージをつくることなどがそれにあたります。 特に企業にとって今、CSRに代表される、社会との接点を作っていく活動はなくてはならないものになっている。NPOの広報活動を、主旨に賛同して無料で引き受ける広告クリエイターも何人もいます。昨年度の広告賞でも、環境貢献や社会貢献をテーマとする作品、つまりソーシャルクリエイティブと呼べるものが多く賞を獲得している。そういう時代になっているのです。

どうやって、ソーシャルクリエイティブを始めるか。

チャレンジし、勉強し、理解を深める人がひとりでも増えることの意義。

ソーシャルクリエイティブに従事するにあたって、必要とされる国家資格などはない。つまり、「やりたい」と思えば、今日からでも取り組むことができる仕事である。ただ、その仕事には社会的使命もあり、間違ったメッセージを発してしまえば責任も重い。当然、専門知識も必要になる。そんな風に考えれば、かなり敷居の高い世界とも言えるが、たとえば上田さんは、「まず、やってみることが大切」という持論を持つ。 最初からソーシャルクリエイティブの専門家である人などいないわけで、失敗を恐れず、ひとりでも多くの人が参入することがフィールドを成熟させるという考えだ。

【上田さんのお話】 私は、ソーシャルクリエイティブは「経済と社会をつなぐ」仕事と考えています。その両者の間で、コミュニケーションの専門家としてクリエイターの存在意義がある。ただ、「経済と社会をつなぐ」なんていうのは、その言葉どおり、きわめて難しい仕事で、最初から正解にたどりつける人なんてそういるはずはありません。 もちろん、嘘や間違いは発信してはいけませんが、それはクリエイティブのプロとして初歩的なものです。そこをしっかり心がけ、あとは怖がらずにチャレンジしてみてほしいですね。なにより、チャレンジし、取り組むことで、ひとりでも多くの人がソーシャルな課題を知り、理解を深めることの意義が大きい。私はそう考えています。

クライアントからの発注ではなく、 自律的に世に発信するソーシャルクリエイティブも 生まれ始めている。

<取材協力者> 株式会社スペースポート 取締役社長/上田壮一さん

<取材協力者>
株式会社スペースポート
取締役社長/上田壮一さん

飛騨高山に飛騨産業株式会社という家具メーカーがある。(http://www.kitutuki.co.jp/)同社は、本来家具に向かないが、日本では定期的に伐採する必要のある杉に、圧縮技術の開発によって家具素材としての可能性をもたらしたメーカーである。技術で、日本の環境保護に貢献する同社の活動は、イタリアデザイン界の巨匠「エンツォ・マーリ」氏までも動かし、2005年にはイタリア・ミラノサローネにおいて「HIDA」ブランドを設立するにも至っている。 同社の存在は、上田さんが、「広告のようなクライアントありきのクリエイティブの場ということではなく、企業のものづくりの現場が社会的なテーマを考えるようになっていくだろう」という予測の実例として教えてくれたもの。 ものづくりにたずさわる人々が、一人ひとり、自分の経験や問題意識を具体的な活動に結実させて世に問う、世に発信する時代は、もうすぐそこにまで来ているのだと感じる。 ソーシャルクリエイティブに、心のアンテナが反応した読者のみなさん。さっそく、できることから始めてみてはいかがでしょう。

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