オンラインゲームの安全性と新しい可能性のために ~訪問、日本オンラインゲーム協会~
- Vol.70
- 一般社団法人日本オンラインゲーム協会 事務局 大塚志乃さん
一方では、若い世代や子どもへの“悪影響”を懸念する向きもある。最近でも、子どもが遊んで高額のパケット代が請求された一件が、あたかも業界の過失であるかのような報道がなされた。
ゲーム企業23社(全会員企業は43社)が集まってつくった日本オンラインゲーム協会(以下、JOGA)は、社会との接点でさまざまな情報発信で業界の健全発展に寄与している。業界団体としての社団法人にありがちな“親睦団体”ではなく、真のユーザーサービスとは何かを考え、ユーザー目線の充実した活動を展開する点が大きな特徴だ。
同協会の大塚志乃さんに、業界そして協会の現状と今後について伺った。
喫緊の課題は不正アクセス対策
将来は携帯ゲーム業界との連携も
現在、JOGAがいちばん力を入れている活動は?
【大塚さんのお話】
現在、オンラインゲーム(OG)業界での最大の課題は、不正アクセスなどのセキュリティといえます。たとえば、ゲームのユーザーさんには、複数プレイするゲームでも同じID・パスワードを使いまわす方も多いので、ハッカー側からすればひとつヒットすれば複数の不正アクセスが可能なのです。
そこで、JOGAでは、会員企業とともにさまざまな対策を講じています。まずは会員企業に、情報収集のため秘密保持契約を結んで、「実はこれだけハッキングされたので、このセキュリティシステムを使ったところ、この程度の防止効果があった」といったデータを出していただきました。しかし、何しろ不正の数が多いので、こうした個々の事例の集積だけでは、不正アクセスを完全に防ぎきれる対策はなかなか立てられません。
昨年私どもは、JOGAワンタイム・パスワードというセキュリティシステムを開発しました。ユーザーがゲームをしたい時にログインすると数字が表示され、それを毎回パスワードとして利用する。数字は随時変わるので、ハッカーもついて来られないという仕組みです。
開発は、セキュリティシステムを作っている準会員企業によるもの。会員企業に使い勝手などをヒアリングしてもらいながら、OG会社専用のシステムを開発してもらいました。
セキュリティ共通基盤を利用することで費用をかなり抑えることができ、会員各社は単独開発の10分の1程度の維持費で利用できています。会員の過半を占める小規模の企業にとっては、有効なシステムではないかと思います。
もちろん最終的な目的は、あくまでユーザーの安全確保であり、今後もそこを踏まえた開発・普及が不可欠だと考えています。
ユーザー(消費者)からの相談の窓口も務めていますね。
【大塚さんのお話】
消費者センターなどからも問合せや相談の連絡が入りますし、警察庁や経済産業省などとの協議も行います。協会会員企業のことであれば橋渡しをしますし、その他の件でも協力は惜しみません。
ただし、JOGAは、PCをプラットホームとした企業が多いのですが、最近はスマートフォンでのゲームを提供する会員も増えています。近い将来、オンラインゲームをプレイする環境は、デバイスが関係なくなってくると思います。とはいえ、携帯電話でソーシャルゲームのサービスを行う企業は、携帯電話のカテゴリーということで電話我々の会員ではありませんので、現状はフォローできていません。
ビジネスモデル開発や人材発掘にも
会員企業の情熱を集約して挑戦
協会内での分科会活動も盛んですね。
【大塚さんのお話】
これは、業界自体が若いことも一因だと思います。分科会には、会員企業の社長クラスが直々に参加し、積極的に意見を出してくれます。経営者自身がゲームのファンであることも多く、ビジネスだけでゲームをとらえていない方が結構いらっしゃるので、他業界とはちょっと違った傾向が、斬新で柔軟な発想を可能にしているのかもしれません。
そうした若さや情熱を活かし、先ほどお話ししたセキュリティ対策を担当する、不正アクセス・RMT分科会をはじめ、各分科会が活発に活動しています。
ゲーム広告分科会、人材育成・マッチング分科会などは、どういう活動をされているでしょうか?
【大塚さんのお話】
ゲーム広告分科会は、新しいビジネスモデルを開発するのが狙いの分科会です。たとえば、ゲーム内で道を歩いていたら実在企業の広告が出てくる、それによって得られる広告効果を予測、測定します。そもそも会員企業から提案いただいて立ち上がった分科会で、当協会の未来志向を反映した試みのひとつといえます。
そもそもゲーム広告は、中国・アメリカでは成功をおさめているビジネスモデルなのですが、収益などの実績が数字として見えづらいためか、日本ではなかなか浸透しません。不景気な状況ではありますが、こうした実験的な試みを継続していくことが協会の役割だと考えています。
人材育成・マッチング分科会は、OG業界に優秀な人材を勧誘したいという意図で活動しています。2004年の協会設立当初、OG業界はまだまだ新しい業界だったので、新卒採用などにおいて人材確保に苦労しました。そこで、業界を知り興味を持ってもらうために、業界ハンドブックをつくって配ってみようということで立ち上げた分科会です。
ハンドブック以外では、理事(会員企業社長)がデジタルコンテンツ系の専門学校などに直接働きかけるなど、OG業界を志望してくれる人材の発掘に力を入れています。
省庁や大使館にも働きかけ
国内外OG企業のマッチングを実現
本当に実践的な活動を展開されていますね。ゲーム輸出・ゲーム開発ワーキンググループではどのような活動をされていますか?
【大塚さんのお話】
実は私はこれがやりたくて協会に入りました(笑)。本来の趣旨は日本のOGを海外に紹介すること、国内外のニーズを把握した上で新たなゲーム開発に結びつけることを目標にしています。
現在の主な活動は、毎年9月に国内外からOG企業を集めて行うビジネスマッチングでしょう。関東経済産業局からベンチャー支援していただいています。また、各国大使館にも情報共有。企業マッチングのお願いに行ったりしています。
東京ゲームショウの前日に設定して、1日ずっと商談してもらうというスタイルが受け入れられ、国内からはもとより、海外からも多数の参加を得ています。アジアではシンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ヨーロッパからもアイルランドやオランダなどの企業が来ています。
最終的な成果物までは教えていただけませんが、何件か商談が進んでいると伺っていて、手応えを感じているところです。
会員への情報提供やセミナー開催などにも積極的に取り組んでいますね?
【大塚さんのお話】
たとえば、法律についての情報提供があります。OG企業やユーザーの利益あるいは不利益になるような法律であれば、施行前から省庁で情報を収集して、早めに対策を講じています。
また、JCN(ジャパン・クリエイターズ・ネットワーク)という、コンテンツ関連のセミナーをやっている団体を後援して、OG分野のセミナーを開いています。これまで3回ほど開催し、毎回200名くらい来ていただいています。昨年7月の第1回は、協会の統計結果、「オンラインゲーム業界の2009年の売り上げは約1300億円」といったような資料を公開しました。
昨年の当協会の資料統計には、PCやPS3、Xboxなどで遊ぶOGは含まれる半面、ソーシャルゲーム、携帯ゲームなどの数字は入っていません。調査に際し会員企業各社と秘密保持契約を結び、実際の売り上げの実際のデータをいただいているので、対象企業の実績に関する統計数値の精度は確かです。
ユーザ目線を常に意識し
真のユーザー志向を実現する組織へ
最近、無料をうたうOGで、利用者に高額の課金がされたという問題がありました。ゲームの世界は常にメディアの監視の対象になってきた感がありますが、気をつかわれることも多いのでしょうか?
【大塚さんのお話】
その際、消費者センターにも説明をいたしましたが、よく調べてみるとほとんどがパケット料金の問題でした。ゲーム自体はたしかに無料だったのですが、パケット無制限ではない携帯で子どもが遊んだ結果、高額の請求が親に届いてしまったというのが実情でした。
その他にも、ゲーム内マネーと現実のお金の区別がつかなくなって困っているというようなクレームはいただきます。当協会でも会員企業には、できるだけ規約書などの説明をわかりやすくといったアラートは出すようにしています。 子どもや若いユーザーが多い会員企業では、そういった問題が起きないよう、細心の注意を払っています。その他の企業も、ユーザーさんに不快な想いをさせないよう、さまざまな想定をしながら努力を重ねていますので、これまでのところ会員企業が責任を問われるような事件や事故は起こっていません。
JOGAは今後どのような方向を目指されますか?
【大塚さんのお話】
もともと、当協会は会員間の連帯感が強いと言えます。同業同士なので売上などで激しくしのぎを削っていますが、共通の目標があります。つまり、各社とも最終的にはユーザーさんをどう保護し楽しんでいただくかを目標に懸命に努力しているのです。それが最終的に利益に結び付くということもありますが。各社トップは「ユーザーのためになることであれば、足並みを揃えてやっていきましょう」との意見でも、完全に一致しています。
今後も強い連帯意識という特徴を生かしつつ、何よりもユーザーの視点を忘れることなく、OG業界を盛り上げていきたいと考えています。
クリエイターの皆さんにも、一度OG業界について知っていただき、ぜひとも業界に加わっていただければと思います。
取材/2011年2月7日 一般社団法人日本オンラインゲーム協会