今の時代を“解釈”ですこやかにしたいコピーライター・阿部広太郎のこだわり

Vol.197
(株)電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター コピーライター/プロデューサー
Kotaro Abe
阿部 広太郎

流行語にもなったフレーズで有名な予備校のCM制作に携わり、コピーライターとして記憶に残るさまざまな言葉を生み出してきた阿部広太郎(あべ こうたろう)さん。2020年3月に出した書籍『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』(ダイヤモンド社)からわずか1年2ヶ月後、2021年5月に『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を出版しました。

『それ、勝手な決めつけかもよ?』のテーマは「解釈というクリエイティブ」による課題解決です。新刊出版にいたる背景、書籍のテーマである「解釈」について、さらに阿部さんがこの1年で感じたことや執筆の裏話などを伺いました。

 

コロナ禍がきっかけで「解釈」の輪郭が明確になる

前回の書籍を出してから1年後に新刊を出版することは想定していましたか?

『それ、勝手な決めつけかもよ?』の『「おわりに」という名の「はじまり」』にも書いたように、2019年末に出版社の方からお手紙をいただいたんです。2020年に入ってから打ち合わせをして、雑談をしながら「本を出せたらいいですよね」というさぐりさぐりのスタートで。

僕の中では正直、ダイヤモンド社から刊行した『コピーライターじゃなくても知っておきたい、心をつかむ超言葉術』で出し切ったぞという気持ちもあって、『超言葉術』の宣伝活動もありましたし、まさか2021年、こうして刊行できるとはという感じです。

本を出すことだけが決まっていたんですね。

決定、ではなくて、出したいですよね、とまずは話し合う感じですね。ここから話が進まないということもよくあるんじゃないかと思います。というのも、テーマすら決まっていなかったので、出版社の方からすると企画会議にかけようがない状態なんですよね。

しかも2020年の春先からコロナ禍による、リモートワークで、人と直接会うことがなかなかできず、僕自身も思った以上に戸惑いがありました。書籍では「積極的な受け身」という拠り所を見つけたと書きましたが、当時、「ああ…これからどうなるんだろう」という不安が渦巻いていました。

そんななか『心をつかむ超言葉術』をきっかけに、オンラインで登壇させていただく機会をいただいたんです。「言語化することによってすごく心が軽くなりました」「肩の荷が下りました」など、僕の話に対して、ポジティブな反響が多くあったことは、自分にとってとても大きかったです。

価値観すら急速に変わっていくこの状況下において、自分の培ってきた考え方は人の役に立てるんだと思えたんです。そこでようやく、物事の捉え方、つまり「解釈」の仕方というテーマであれば、モチベーションを高く持って書けるんじゃないかと。一冊書き上げるというのは相当な気力と体力が必要で、覚悟が決まった感じでしたね。

阿部さんの言葉で解釈の定義を改めて教えてください。

シンプルに言うと、自分なりのアンサーを持つことだと考えています。ある一つのものごとに対して、辞書に載っている意味もあるし、人から言われる意味もあります。その上で、目の前の出来事を咀嚼して自分なりの答えを見つけていくことこそが解釈だよなと思っています。

「解釈が大事」というのは、普段からの講義でも僕は言ってはいたんですけど、SNSであらゆる意見に触れられて、ときには流されてしまいそうになる今、マジで大事だぞ!と次第に思いを強くしていった感じなんです。

特にどんな人に読んでほしいですか?

環境が変化して心にモヤモヤを抱えたり、今まで通りいかなくなったり、行き場のない閉塞感をおぼえていたりというような、自分の心の羅針盤が乱れているなと感じる方の力になりたいという一心で執筆しました。まさに僕自身が、揺らいでいたのを解釈で乗り切ってきたので。

 

一行あたりの字数までこだわりを込めた本作り

 

制作の過程で一番こだわった部分はどこですか?

最後の最後までずっと粘っていたのは導入部分ですね。今回、「はじめに」の前に、イントロの文章を入れたんです。書店で手にとってくださった方が、そこを読んでみて、気持ちが乗るかどうか。出だしがなにより肝心だと思うんです。

始まりが“高い位置”だと、角度がついて滑り台のように一気に加速して読めるのではないかなと。

ジェットコースターも最初はドドドと上に上がっていって、高く上がれば上がるほどその先の高低差を楽しめますよね。ただ、登っていく過程はある種、負荷もかかると思うんですね。導入部分が難しすぎたり長すぎたりしてはいけない。気軽に読めるけれどワクワクもするバランスをどうするか、最後の最後まで考えていました。やっぱり文章って、読んでテンションが上がるものでありたいなと。

確かに一気に読めました。最初が肝心というのは、広告の仕事を通して考えるようになったのでしょうか?

それもあるかもしれませんね。そもそも広告って見ようとして見るものではないですよね。たとえば街中にもたくさんありますけど、じっと見せるというより、視界に飛び込んでくるもので。

書籍はちょっと違うのかなと。買ったとしても最後まで読み切るかどうかも含めて読者は1ページごとにジャッジしていると思うんです。広告にしかり本にしかり、見る人の「無意識ジャッジメント」にどう対応すればいいかは、やっぱり考えちゃいますよね。

執筆以外の書籍作りにもこだわられたのでしょうか?

そうですね。編集者の方だけでなく、本文のデザインをしてくれた方にも思いを伝えさせてもらって、本の1行あたりの文字数にもこだわりました。

1行あたりの文字数が40文字以上だと結構みっちり入っているなっていう印象があるので、どうしてもそれ以下にしたくて、それで1行あたり38文字にしました。

いやあ…本当に面倒くさい人だと思われているかもしれないなと思いつつも、伝えないで悔いは残したくないなとお願いをしてましたね。

読みやすいのは一文が短いからなんですね。

『心をつかむ超言葉術』も一文を長くしすぎないようにしてました。一文の長さ、一行あたりの文字数の変化によって、軽い、重いの印象が変わってくるので、そのあたりのさじ加減はずっと考えていましたね。

実際のところ、本を読むって結構大変だと思うんですよ。読んでいただけることは当たり前じゃないですし、少しでもハードルを下げつつも、次第に心が盛り上がっていけたらなと。一行あたりの文字数なんて、そんなにだれも気にしている人はいないかもしれませんが、すっと入っていけるかはとにかく意識しましたね。

ただ書くのではなく、まるで広告制作のように、世界観を作り上げたんですね。

「読書という体験」をどう作るか?それを考えてしまうし、気になるんですよね。もうこれは自分がそういう人だとしか言いようがないのですが、最後のスペシャルサンクスのクレジットに関しても、初版と二刷り以降で位置をちょっと変えたんですよ。

初版は『「おわりに」という名の「はじまり」』のあとすぐにスペシャルサンクスを載せていました。ただ、それだと余韻を味わう時間がちょっとだけ少ないかもなと。空白のページを挟んで、ページをめくると見開きでスペシャルサンクスのクレジットが入る。その方が、映画でいうところのエンドロール感もあるかなと。

読者のことをそこまで考えているのはすごいですね。

やっぱり自分がどこまでいっても「受け取り手」なんですよね。もともと自分からガツガツいくタイプではなく、社会人になってからも、リアクション派なんです。自分が何かを受け取ったら、それをみんなにアクションとして提案をしていくタイプなんです。今もそういう仕事のやり方をしていて。

書籍に「積極的受け身で」とありましたね。

多分これからもずっと受け取り手である自分のスタンスは変わらないと思います。受け取り手でいられるからこそ「みんながどういう風に感じるか」が最後まで読み取ろうと考えられるので、これからも積極的な受け身でいけたらと思います。

編集者の橋本莉奈様は、もともと営業だったそうですね。そして阿部さんに企画を持ち込んだことで編集に異動されたと。

僕との企画があってもなくても、異動は叶えていたと思います。強い気持ちがあれば、その先に進めますからね。はじめて向き合う著者として、僕はご面倒をかけただろうなとは思います。原稿は流し込みだから1文字だけ次の行にハミでちゃうみたいなことがたまにあるんですよね。それがどうしても気になってしまって、数文字足して見栄えを整えたり。

「もう修正終わりです」って言われたのに、どうしてもここは修正させてくださいってお願いをして…未練を残したくないし、妥協もしたくなかったとはいえ、大変だったと思いますよ。もちろん不躾にならないよう、できるだけ気持ちよく対応していただけるように心と言葉を尽くしました。

自分が納得して自信を持って世に出したいですよね。

自分がいなくなった後にも残るものなので、いいものを残したい気持ちは強いですね。編集者の方に信頼して託される著者の方もいらっしゃるとは思うのですが、私は道中全て味わいたいタイプなので、装丁する方やデザイナーの方との打ち合わせも同席させていただきました。

「そこまでするの?」と思われるもしれないですけど、そこまでしたかったんです。

 

「国民的ヒットを狙う」と「すこやかにクリエイティブを作り続けたい」

『それ、勝手な決めつけかもよ?』の反響はいかがでしたか?

SNSやメッセージを通して「気持ちが軽くなった」とか「解釈することで解放感があった」と言ってもらえて、もう本当に嬉しかったですね。

僕がこれまで携わってきた講座の中で出会ってきた方を中心に声をかけて、本のPOPになるコピーを募集したんです。そこでも本当にいろいろな角度から解釈してもらって、言葉をいただけました。

「解釈の練習って避難訓練みたいに一度はしておいた方がいいと思いました」というコピーが印象的でしたね。避難訓練ってやっている最中は何のためにしているんだろう? と思っていたけど、もしものときはその経験があるかないかで結構違うと思うんです。解釈を避難訓練という言葉と紐付けてくださったのが面白かったですし、まさにその通りだなと感じましたね。

本を読んで解釈した方から、阿部さんが思いつかなかった意見が出てきたんですね。それらを受けて、本に書き足したいことはありますか?

書き足したいことはないのですが、語り合いたいことはたくさんあります。本の続きって、読んでくださった方の日々だと思うので、日常を通して感じられたことを教えてほしいと思うんですよね。

最後に、今後の展望について教えてください。

これからも創作を続けて、新作に取り組みます。書籍はもちろん作詞した音楽を一人でも多くの人に届けたい、国民的なヒット作品を生み出したいという思いはあります。

「これからやりたいこと」よりも、「自分がどうありたいか」というのが明確にありますね。

とにかく心身ともにすこやかにクリエイティブな活動を続けていきたいんです。今、SDGsというキーワードをよく聞きます。それを個人にあてはめると、「人は持続可能な成長をしていけるか?」という問いだと思うんです。

そのために自分はどうすればいいのかを考えたら、ずっと学び続けて、ずっと作り続けることだと思います。“すこやか”に走り続けるためにはどうすればいいか考える、それに尽きます。工夫と覚悟を持って継続していくのが、今の目標ですね。

“すこやか”にクリエイティブを持続していきたいというのが阿部さんらしいですね。

今年「大戸屋ごはん処」のステートメント開発に携わって、最終的に決まったのが「ちゃんと、すこやか」なんです。

ちゃんと、すこやかでいる。それって本当に大事なことだと思っていて、心底そう思えるメッセージに辿りつけたのがすごく嬉しくて。自分自身もですし、今の時代を“解釈”ですこやかにしていけたらと思います。

取材日:2021年9月28日 ライター:坂本 彩

 

 

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プロフィール
(株)電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター コピーライター/プロデューサー
阿部 広太郎
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。2008年、慶應義塾大学経済学部卒業後に電通入社。人事局に配属されるも、転局試験を突破し、2年目からコピーライターに。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」編の制作に携わる。作詞家として「向井太一」や「さくらしめじ」に詞を提供。2015年より、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰。著書に『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない解釈の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。また著書イベントやコピーライター講座など、数多くの登壇を精力的に行っている
■Twitter:@KotaroA

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