フリーランス必見!~確定申告から投資まで~“ゼロ”から学ぶ、教わってこなかったお金の話

Vol.198
株式会社ArtBiz CEO / 税理士
Ohkouchi Kaoru
大河内 薫

令和2年の調査では、フリーランスとして活動している人数は462万人(※1)。 そのうちクリエイティブ系の職種で収入を得ている人の割合は約40%にものぼるという試算もあります。(※2)

そんなクリエイターたちは、クライアントからの依頼を受けて求められるものを作り続けています。せわしない日々の中で、つい「お金」の問題をおろそかにしがちな人も少なくありません。生活に必要なものであるにも関わらず、どんぶり勘定で貯金もままならず、いつの間にか自転車操業となっていたという話もよく聞きます。毎日の作業に追われて気が付けば「確定申告に間に合わない!」と焦る人たちも多々。

クリエイターは、お金とどう向き合うべきなのか。フリーランスに特化した税理士であり、著書やYouTubeを通してお金の教育“マネーリテラシー”の啓発に取り組む大河内薫(おおこうち かおる)先生に、これまでのキャリアとお金についてお話を伺いました。

※1個人事業主(副業含む) 参照PDF:内閣官房日本経済再生総合事務局「フリーランス実態調査結果」
※2参照PDF:フリーランス協会「フリーランス白書」

 

日芸から税理士に。クリエイターのお金を支えたい

大河内先生は日本大学芸術学部出身で、クリエイターやアーティスト、芸能系の方に特化したインフルエンサー税理士として活躍されています。芸術学部からなぜ税理士を目指したのでしょう?

元々、名古屋から上京して、漠然と一芸で有名になりたいと思い日芸へ行ったんですよ。幼い頃から「目立ちたい」と、人一倍思っていたのもありましたし。でも、卒業が近づいてもこれといってやりたいことが定まらず、ふと「東京に残るならカッコつくぐらい稼げる仕事に就きたい」と考えるようになって。いろいろ調べて、士業がいいかなと思い、税理士を選びました。

ちなみに数ある士業の中でも、税理士は試験の方式が特殊なんです。必修2科目の合格は必須で、あとは選択必修2科目のいずれかと、選択11科目のうち2科目、計5科目を合格すればよく、しかも、各科目とも一度合格すれば生涯ずっと有効になる。つまり科目の合格を毎年積み重ねられるんです。資格取得まで平均9年と言われていますが、僕は大学卒業後の4年間でパスしました。

「クリエイターやアーティスト、芸能系の方に特化したインフルエンサー税理士」というのは珍しいですよね。

税理士になってからどこかの事務所へ入るつもりはなかったので、独立のためにエッジを効かせたかったんです。僕もクリエイターとしての活躍を目指していましたし。芸能界とか、そこに特化している人はあまりいなかったので、ここなら自分が役に立てるのかなと思い、名乗り始めました。

現状、どういった方々からの相談が多いですか?

アフィリエイトやYouTubeの配信などで、気軽に副収入へのチャレンジができるようになったためか「副業で稼ぎすぎてしまった」という悩みは多いです。インスタグラマーやインフルエンサーの方々、芸能界からも相談を受けています。表舞台で活躍されている方ばかりではなく、音響スタッフの方、作曲家、作家の方々などから相談されることもありますね。ただ、今は税理士としての実務をセーブし、マネーリテラシーを広める活動に力を注いでいます。幅広く、フリーランスのお金を支えることにつながると思うので。

 

確定申告は絶対! お金の出入りを把握できないのは危険

大河内先生の著書『お金のこと何も分からないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)の中で「確定申告で100点を取れているフリーランスはいない」と述べていましたが、その真意は?

まず、確定申告の考え方に正解はありますが、数字に落とし込んだ時に決まりきった正解はないんですよ。税務署に確定申告書を提出して、書類が受理されたから内容がオッケーというわけではありません。

答え合わせは、税務署による税務調査で、領収書などを申告内容と突き合わせることで初めて分かるもの。特に税理士に任せず自分で確定申告しているフリーランスの中で、完璧に申告できている人たちはほとんどいない、という思いからの発言ですね。

誰も教えてくれませんから、完璧でなくて当然です。

念のためお聞きしますが、確定申告は絶対すべきもの、なんですよね?

そうです、申告義務がある方は確定申告を必ずしましょう。理由は単純で、しないことは法律違反だからです。

無申告の場合、いずれ延滞税や無申告加算税、重加算税が課せられますし、悪質とみなされれば、刑事罰の対象にもなります。内容が間違っていたので修正申告するのとは明らかに違いますし、いらぬ十字架を背負うのはよくないと肝に銘じておいてほしいです。

確定申告のために、今日からでもやれることはありますか?

お金に関する書類はできるだけ定期的に整理することを、習慣化してください。単純に、確定申告は「年間の売上げと経費を集計する」という作業です。集計して出されたその差額(=利益)に対して課税され、税金を納めることになります。

売上げに関する部分では取引先への請求書や通帳、経費でいえば領収書、交通系ICカードやクレジットカードの明細をこまめに整理しておくのがいいです。

領収書の整理など、つい「忙しい」を言い訳にしておろそかにしてしまう人たちへ伝えたいことは何でしょう。

お金はやはり、人生にとって大切なんですよ。手元に入ってくるお金も、そこから出て行くお金も「分かりません」ではだめなんです。今は適当にしていて暮らせていても、いずれ生活に悪影響が出てきます。

例えば、クレジットカードの明細を見ないという人も実際にいますが、よほどのお金持ちでなければ、それが危険なのは感覚的には分かってもらえるはず。

フリーランスとして生活していく想いやスキルを持っているのに、お金に対して無頓着なせいで、生活が苦しくなるかもしれません。それはあまりにももったいない……。「自分のお金の流れを把握する作業」を面倒臭がらずに、習慣化してほしいですね。

 

フリーランスが備えるべき老後対策と、投資に抵抗感がある人へ伝えたいこと

収入が流動的なフリーランスにとっては、資産の築き方も切実な課題です。貯金や投資については、どう考えるべきでしょうか?

まず、先入観にとらわれず、貯金にも投資にもメリットとデメリットがあることを理解してほしいです。その上で、今の日本の経済を考えてみてほしい。個人的には日本円だけを握りしめているのはリスクだと感じています。貯金だけではそう遠くないうちに限界を迎えるかもしれません。だからこそ、投資にも目を向けてみて、と言いたいです。

なかには「投資」という言葉自体に抵抗感をおぼえている人たちも少なくなさそうです。

そういった風潮もありますね。確かにお金を費やす以上はリスクも当然ありますが、色眼鏡では見ず「危険なものもあれば、そうでないものもある」と理解しておいてほしいです。

例えば、皆さんが加入している現行の国民年金は高齢者世代の受給者がもらう分を、現役世代の支払った分で充当する「賦課方式」を取っています。ただ支払った残りの積み立て分は貯めておくわけではありません。実は厚生労働省所管の独立行政法人により投資で運用されているのです。

国はこのような大事な場面で貯金ではなく投資を選んでいます。そう聞くと、投資のリスクに対するネガティブなイメージが、やわらぐのではないでしょうか。

大河内先生の最新著書『貯金すらまともにできていませんがこの先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)では、フリーランスの資産形成に関する話題も出てきますね。会社員の立場ではない人たちが、心がけておくべきことはありますか?

さまざまな意見もありますが、僕は国民年金がもらえなくなることはないと思っているんですよ。ただフリーランスは何もしなければ、会社員のように厚生年金の上乗せがないことは意識しておきましょう。

著書でもふれていますが、個人型確定拠出年金の「iDeCo」や、一定額が非課税で優遇される「つみたてNISA」もおすすめです。

将来現在と同じように仕事をこなせるとも限らないですよね。老後になって「お金がなくて生活できない」と考え始めては手遅れですし、今から考えてほしいと思います。

 

お金の知識は学校で教わらない。正しい知識を得て上手く使え

著書やYouTubeを通して、マネーリテラシーの大切さを訴えていらっしゃいますが、お金に関して学ぶ意義をどう考えていますか?

例えば、英語の分からない人が一生懸命に学んで、流暢にしゃべれるようになったら大きな変化ですよね。本来、お金の話も本質的には変わらないはずですが、日本では学校で教わらないんですよ。だから、年齢に関わらず「お金の知識がない」と感じても、私はそれは国のせいだと思うんですよ。まず皆さんは何も悪くないと言っておきたいです。勉強し始めるタイミングに早い遅いはないですし、関心を向けるだけでも世界は変わりますよ。

大河内先生の著書は、その一歩を踏み出す助けになりますね。フリーランスの方に、どのように読んでほしいですか?

一冊目の『お金のこと何も分からないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』は、確定申告や税金に関する“入門書中の入門書”のようなイメージですね。必要な知識をできる限り分かりやすくギャグ漫画にしたので、ぜひ手に取ってほしいです。

また、二冊目の『貯金すらまともにできていませんがこの先ずっとお金に困らない方法を教えてください!』は、全国民に向けたお金の入門書です。もちろんフリーランスの年金の仕組みについて解説、資産や投資に関する話題も学べます。

あと家族にお金を学んで欲しいなら、さりげなくリビングに置いておくのもおすすめですね。実際、僕の周りでもそうしたら「気が付いたら家族が読んでいた」と話してくれる人がいて。お金に関してのコミュニケーションツールとして役立ててもらえたらうれしいです。

最後に、お金に関して悩みを抱えるフリーランスへのアドバイスをいただけますか?

繰り返しますが、確定申告はやりましょう。絶対に逃げられないものですから。そして、お金は生きていくのに欠かせない道具だと考えましょう。使うなら正しい知識を身に付けないといけません。

車の運転は免許がなければできません。使い方を知らないと道具は動かせないのです。お金の扱い方を知らずにお金に触れるのは「無免許運転」のようなものですよ。

僕は著書やYouTubeを通して、現実的なお金の話をたくさん伝えているので、見ていただければ嬉しいです。

取材日:2021年11月4日 ライター:カネコシュウヘイ

 

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プロフィール
株式会社ArtBiz CEO / 税理士
大河内 薫
1983年生まれ。愛知県出身。日本大学芸術学部卒業後、クリエイターや芸術、芸能系に特化した税理士に。人生の目標は「お金の教育を義務教育に」。お金に関するあらゆる話を分かりやすく伝えるYouTubeチャンネル「大河内薫のマネリテ学園 https://www.youtube.com/channel/UCs7rJz4WvRVd0-PbXKiBi2Q 」の登録者数は30万人を突破。著書も相次いでベストセラーに。
株式会社ArtBiz / ArtBiz税理士事務所:http://artbiz.jp/

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