『アリーナロマンス』~トリウッドスタジオプロジェクト報告~

vol.30
短編映画トリウッド 代表 『アリーナロマンス』脚本・監督 ビジュアルアーツ在学中 大槻貴宏さん、板垣英文さん
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トリウッドスタジオプロジェクトは、東京/下北沢の短編映画館トリウッドと専門学校ビジュアルアーツによる「学生による商業映画製作」のプロジェクトだ。立ち上げの年/2006年には、見事な感性で思春期を描いた『ミックスマシン』をリリース。そしてこの2007年には、第2弾となる、アイドルオタクのラブストーリー『アリーナロマンス』を完成させた。脚本・監督は、約20人のゼミ参加者の中から選ばれた板垣英文さん。36歳(入学時35歳)にして映画界を目指してビジュアルアーツ入学という異色の経歴を持つ彼が、長きにわたって温めつづけた「オタク道」の造詣を、見事な青春ラブロマンスに仕上げて見せている。 クリステは、この意欲的取り組みに共感しました。応援します。ということで、同作品公開を間近に控えた下北沢トリウッドにお邪魔して、板垣監督とプロジェクト・マネージャー大槻さんにお話をうかがってきました。

 

取材対象者

板垣英文さん 脚本・監督 ビジュアルアーツ在学中

板垣英文さん
脚本・監督
ビジュアルアーツ在学中

大槻貴宏さん 短編映画トリウッド/代表

大槻貴宏さん
短編映画トリウッド/代表

 
トリウッドスタジオプロジェクト概要

 

(プロジェクト・マネージャー/大槻貴宏)

~学校の制作作品を世に出すことこそ、映画界を面白くする人材を育てる道~

かつては撮影スタジオが映画制作の中心であり、連日映画が企画・制作され、作品は直営の映画館で公開されました。映画を志す若者はなんとか撮影所に入ろうとし、運良く潜り込めた者は鍛えられ、一人前になっていったのです。

スタジオシステムが崩壊した現在、その役目を負っている存在が学校です。機材、設備といったハード面は撮影スタジオと遜色なく、またソフト面でも講師が論理的に教えてくれます。 しかし、撮影スタジオと学校、その2つの大きな違いは、作られた作品の扱いの違いなのです。 “観客という第三者に見せる機会があるかどうか”

つまり、公開を前提として作っているか、最初から習作として第三者に見せる前提なしに制作しているかの違いです。その意識の違いで、出来上がる作品は、かなり違ったものとなるはずです。

実際、社会に出てからは公開・販売を前提にのみ制作するのだから、実習作品を「実際に世に出す」前提で制作することができれば、即戦力となり、かつ映画界を面白くする人材を育てる道となるのではないだろうか。

トリウッドスタジオプロジェクトは、そのような考えに基づき、実際に企画から販売までを学生とともに実施していくという画期的なプロジェクトです。

『アリーナロマンス』(68分) 10月6日より、東京・下北沢トリウッドにてロードショー 当日料金 一般:1000円 学生800円(特別鑑賞券800円) http://homepage1.nifty.com/tollywood/

最初の企画はスタイリッシュなホラー。 でも、それは全然つまらなかった(笑)。

クリステ)トリウッドスタジオプロジェクトの仕組みについて、説明してください。

大槻)このプロジェクトは、私がビジュアルアーツの演出コースの、カリキュラムのひとつとして担当しているものです。昨年は約20名の受講者があり、基本は毎週がプレゼンテーション。自分で作った企画書をみんなの前で読み、私と山本君(ビジュアルアーツ非常勤講師)の質問に答える。そんな中で、企画として内容が成熟していったものが制作作品として採用されます。今回は、それが板垣君の『アリーナロマンス』になったというわけです。

クリステ)では、約20倍の競争率を勝ち抜いた作品ということになるわけですね。

大槻)そうですね。ですから、自分の作品が採用されないとわかったり、興味を失った学生は出席しなくなり、どんどん人は減っていきます。でも、『アリーナロマンス』の撮影が始まると、みんな制作の応援にかけつけてくれました。

クリステ)大槻さんは、板垣さんの企画のどんなところに興味を持ったのですか?

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大槻)最初は、スタイリッシュなホラーの企画を出したんだよね?それは、全然つまらなかった(笑)。で、ほかに何かないかと突き返したら、出てきたのがこれだった。あるじゃないか!面白いじゃないか!……どうやら、アイドルオタクである素顔は、隠しておきたかったみたいなんですが(笑)、明らかにこっちのほうが面白かった。

板垣)これは、オタクにとっての夢の物語です。

大槻)テーマも、着眼点も抜群に面白かったのだけど、問題は、物語をどこに落としこむかだった。どうしたいの?と聞くと、彼は最初「2人がさりげなく結ばれる」と答えましたが、もっと面白くしようと粘ってもらった。

クリステ)なるほど、それで、あの見事なエンディングと終盤の展開になるわけですね。

板垣)ストーリーを詳しく説明するわけにはいきませんが、とにかくエンディングで舞華(歌手を夢見る女の子)の唄を聴かせて終わることにはこだわりました。

演出に関しては、プロよりエキストラの 扱いのほうが、ずっと難しかったです。

クリステ)この物語のアイデアは、もともと板垣さんの中にあったもの?

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板垣)アイドルオタクの男女が恋に落ちたら面白いな、素敵だなというアイデアは持っていました。実際は水と油の存在で、なかなかありえないことですが……。お互い理想高いから(笑)。でも、だからこそ夢として素敵ですよね。

クリステ)オタクに関するディテールは満載で、素晴らしく楽しめました。

板垣)編集の過程でカットされたディテールは、もっともっとたくさんありましたよ。でも、この仕上がりには満足しています。

クリステ)バジェットと制作期間は?

大槻)制作予算は、300万円。撮影期間は計16~17日、編集には3ヵ月かかっています。

板垣)毎週ここにきて編集の打ち合わせをしてましたね。

クリステ)もちろん、板垣さんは、プロの俳優を使った作品は初めてですよね。

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板垣)はい。だから、撮影の現場では、最初、なにをしていいかわからなかった(笑)。でも、だからこそ逆に、プロの俳優の凄さを感じました。主演の2人(田中康寛、池田光咲)とは事前に本読みをさせてもらっていたのですが、その段階から、どんどん演技のアイデアを出してくれました。プロと仕事をするとは、こういうことなんだとよくわかりました。演出に関しては、プロよりエキストラの扱いのほうがずっと難しかったです(笑)。

好きなことを伝えると 面白くなるのは、当然なんですね。

クリステ)板垣さんは、この作品がきっかけで、すでにアイドル系の仕事のオファーが舞い込んでいるそうですね。

板垣)小さな仕事ですが、いくつか声をかけていただいています。

クリステ)では、卒業後にはプロの映像作家として活動することは決まったようなものだ。

板垣)どれくらい厳しい世界なのか、想像もつきません。ですから、正直迷っている部分はあります。撮影技術者としてやっていこうか、演出でいこうか、ちょっと迷っている。ですが、やれるならやりたいという気持ちはある。特に、大好きなアイドルの仕事をやっていけるなら、少しでも可能性があるならチャレンジしたい。

クリステ)大槻さん、このプロジェクトは、見事に才能を発掘しているようですね。

大槻)『ミックスマシン』でもそう感じましたが、才能を発掘したという感慨は、ありますね。特に今回の場合は、最初、彼はオタクであることを隠していた。それを出せたということに、尽きると思います(笑)。彼が披露するオタクに関することは、誰が見ても抜群に面白かった。 好きなことを伝えると面白くなるのは、当然なんです。

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<『アリーナロマンス』作品ストーリー> ミツルはアイドル・夏紀の追っかけをしているオタクの高校生。オタク仲間と出かけた歌番組の観覧会場で、人気男性アイドル青木のオリキ(リキの入った追っかけ)の中に、同じクラスの美少女/舞華を見つける。舞華は憧れの青木に近づくためにオリキ活動をしながら、歌手になるという自分の夢もかなえるため、レッスンを受ける毎日を過ごしている。お互いの夢や目的を知り、それをかなえようと応援しあう2人。 そんな中、2人に起きた出来事がきっかけとなり、舞華はあるオーディションを受ける決意をする。

 
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