バイラルの魅力と可能性
- vol.23
- ロカリサーチ株式会社 代表取締役 伊藤直也さん
取材協力者 ロカリサーチ株式会社代表取締役 伊藤直也さん(写真左) http://www.loka.jp モバイルプロデューサー 道上(みちかみ)大輔さん(写真右) http://www.otway.jp
狙うのは、「教えたい」「知らせたい」という心理。
バイラルアドは広告であると同時にエンターテインメント作品として成立させることにより、口コミを誘発し、人々の話題を一瞬にして集めます。これまでのマス広告やバナー広告などは、消費者が本来見たいコンテンツに割り込んでくる形であり、消費者が広告に能動的に関与しているとはとても言えません。一方、バイラルプロモーションは、知人や注目している人からの推薦により、口コミで広告が伝播されるため、受け手側が、能動的に広告に関与します。広告主も、広告を何人に「露出したか」というだけではなく、何人が積極的に広告に「関与したか」を求め始めており、バイラルアドが注目されています。あらかじめそういう狙いを持って企画、制作される広告をバイラルアドと呼びます。
人は、信頼できる人からの推奨には能動的に関わるもの。
大量投下せずに特定の人にだけ教えて、そこから徐々に広がっていく。マス広告が得意なのは数多くの人に「見せる」ことですが、バイラルは数多くの人に「見てもらう」ことを目指します。キーになるのは、クリエイティブの力以外に、インフルエンサーと呼ばれる人の存在があります。主に人気ブロガーや人気サイトの運営者がそれにあたります。伝播力のあるインフルエンサーにいかに共感・協力してもらい、バイラル=口コミを生み出していくかは重要なファクターです。人は、信頼できる人からの推奨には能動的に関わるもの。おもしろいことを教えてもらい、自分もそれを認めたのであれば、「それを誰かに教えたい」と考え、行動してくれる可能性が高くなります。その行動の連鎖を生み出すことが、バイラルプロモーション成功の第一歩です。
ブランディングへの再認識が後押ししている。
厳密には、クライアントの要望によって目的は変わってきますが、総じて、認知度アップのためにバイラルプロモーションが使われるケースが多いですね。これまで、ネットを使ったプロモーションは、クリック回数やコンバージョン(問い合わせ・登録などのサイトコンバージョン率)向上などが主流でした。そこで見落とされがちになったのが、ブランディング(企業が顧客にとって価値のあるブランドを構築するための活動)です。目先の実利ではなく、認知度を上げ、ブランディングの観点からの成功を目指すことの大切さが再認識されて始めている。バイラルプロモーションが注目される背景には、それが確実にあります。 道上氏: これまでネット上で展開される広告、プロモーションは、基本的に販売促進予算で成り立っていました。つまり、売れてナンボということですね。バイラルプロモーションは、広告予算がとれる。そこが画期的なのです。これまでのネット広告は数が勝負。質は問わない。バイラルは、ブランディングの期待を担っているので、当然質が問われる。これまでのネット広告とは、そういう諸々の意味で、対極にあるのです。
「バイラル=ブラックユーモア」ではない。
これはクリエイターさんに向けた注意喚起です。ネットを通して、ヨーロッパのバイラルアドを知った方の中には、「バイラル=ブラックユーモア」という刷り込みのある方が多いようです。テレビで流せないすれすれの表現でなくてはならない。あるいは、そういうことができるのがバイラルアドだ――誤解です。たしかにあちらには、イギリス流のブラックユーモア、ブラックジョークでできあがったバイラルアドが多いのですが、それが日本でもうけるとは限りません。私の実感では、日本ではうけない。規制がないからやりたい放題と考えたものは、ほとんど失敗しています。大切なのは、口コミしたくなるようなクオリティの広告、CMだということです。 道上氏: ゲームの世界は今、任天堂のWiiの出現によって、「プレイヤーがゲームをしている姿」をイメージしてソフト開発することが求められるようになりました。バイラルCMは、広告クリエイティブに、それに近い要求を生み出しているのだと思います。どれくらい良いCMを企画するかも大切ですが、それが、見た人によって、どんな風に「いいよ」と薦められているか――その“吹き出し”の部分もディレクターの考えるべきところになるのかもしれません。
良い:悪いの評価が5:1でなければ成功しない。
プロモーションの仕掛けのポイントは、もちろんインフルエンサー。CGM(Consumer Generated Media)と呼ばれるブロガーや、その分野で影響力のあるサイトに広告掲載を依頼することが重要になります。コンタクトは私たちが直接とり、交渉します。掲載料を前提とした契約と、パブリシティを送って「興味があったら書いてください」とするものとの併用が基本ですが、最近は前者の比率が上がってきています。大切なのは、それを見た人が自由にコメントの書けるスタイルであること。成功の基準は、良い反応が5、そうでない反応が1。それくらいでないと、口コミで広がりません。半々では、まず無理。もちろん、どんなコメントを書かれるかに関しては、一切コントロールが効きません。作品のクオリティがすべてを握っています。
クライアントへの成果報告、フィードバックが数値でできる。
シーディング(Seeding)とトラッキング(Tracking)の精度が生命線になります。シーディングの精度とは、インフルエンサーの選定。トラッキングの精度とは、バイラルの追跡。これはシステムが問題になります。シーディングに関しては、当社は独自の評価指標を持っていて、常にインフルエンサーを評価し、取捨選択しています。トラッキングに関しては、自社開発のトラッキングツールがあるのが強みです。トラッキングツールでバイラルがどこでどれだけ生まれたかが的確に把握できるので、クライアントへの成果報告、フィードバックが数値化できる。そこが、既存のマーケティングやプロモーションとは違うところです。また、そこで得たデータとしての実績が、インフルエンサーの評価にも使えるので、数は少ないけれど質は高い、影響力が高い――そんなシーディングも可能になります。 道上氏: 私はSNSの立ち上げを依頼されることが多いのですが、SNSはクローズ(囲い込み)をしてこそのSNSなので、数を増やすことが難しい。つまり、収益を上げるのが至難の業というジレンマを抱えています。そこで、ロカリサーチさんのノウハウが参考になるし、勉強になります。カテゴライズしつつ、参加した人が集中した時間を指標化して参加数に劣らぬ意味を持たせている。口コミの意味をよく知っていらっしゃるのです。
2005年――啓蒙とともに営業が始まった。
当社は2005年4月頃から、バイラルプロモーションのシーディングとトラッキングをセットにしたサービスを開始しました。この2つをセットにしたサービスを提供している会社は、日本ではまだ、ほんの数社だと思います。当時は、大手広告代理店にも、バイラルという手法を知った方はほとんどいらっしゃいませんでした。ですから、啓蒙活動も込みで営業を展開していました。幸いにして、同年10月に大手ゲーム会社のキャンペーンに採用していただき、満足していただける成果が得られました。そこから順調に評判を広め、2006年夏以降、「使えそうだね」という感触が広がり、現在に至っています。特に評価されたのは、誘導率の高さでした。当社実績では、バイラルアドを見た人の20~60%が企業HPに行ってくれます。誘導率が高く、ブランディングにも寄与している。それが高評価につながっています。 道上氏: 2005年に私がバイラルに興味を持ち、いろいろ探した末に出会ったのがロカリサーチさんでした。伊藤さんと出会ってすぐに、意気投合しましたが、しばらくはバイラルについて語り合えるのは伊藤さんとだけでした(笑)。2007年のこの状況、バイラルの市民権が徐々に確立している状況を見るにつけ、感慨無量になります。
マス広告とバイラルプロモーションは、共存共栄の関係。
マス広告とバイラルプロモーションは、敵対関係にはありません。バイラルはマスな到達力では、テレビなどのマス媒体にはかないません。マス広告とバイラルプロモーションは共存共栄していくべきだし、広告主さんもその2つをいかに上手に併用できるかを模索すべきでしょう。ちなみに、昨今、マス媒体の扱いを獲得する営業の切り札としてバイラルプロモーションからの企画アプローチをする広告代理店さんが、ちらほらいらっしゃるようです(笑)。もちろん、とても嬉しいことです。 道上氏: 私は実は、CMの世界、映像制作業界の出身です。後にスピンアウトしてモバイルプロデューサーとなりましたが、今も当時の仲間との交流がある。ネットの世界で、当時の仲間とまた仕事をしたい――そんな願いを叶えてくれそうなのが、ほかでもないバイラルです。映像作品のクオリティが、口コミを生み出す重要な役割を担う。ネット広告で、映像が新たな存在価値を得たバイラルに、大きな期待を寄せているのは私だけではないと思います。