売れるクリエイティブとは何か
- vol.17
- オンエアーセールスマネージャー、代表取締役 林賢太郎氏、伊藤深氏
<取材協力者> ジュピターショップチャンネル株式会社/www.shopch.jp 株式会社ヴァイスロイ・インターナショナル/www.viceroy.co.jp
<ショップチャンネルの場合/オンエアーセールスマネージャー・林賢太郎氏の話>
主役は商品、それをどう提案して購入して いただくかだけを考えています。
ショップチャンネルは24時間生放送をオンエアし、週に700アイテムもの商品を販売している。視聴者の反応は電話やネットからの注文という形でダイレクトに生まれ、その反応はリアルタイムにオンエア中のサブコントロールルーム(副調整室)でモニターされている。
例えば掃除機の紹介でも、吸引力を紹介しているときに注文が殺到したのかフィルターのときかということまでモニターで確認できます。担当のセールスプロデューサーはそれを瞬時に見極め、「フィルターのところをもう一度」とスタジオに伝えます。そして、その場面をもう一度となる。瞬時の判断と瞬時の対応は、ショップチャンネルのオンエアには必須のファクターになります。「売り切れ」の表示を出すタイミングひとつにも、とても神経を使う。買っていただけないこと以上に、買いたいのに買えなかったというご不満のほうが怖いですからね。
オンエア中のサブコントロールルームには、セールスプロデューサーの他、テクニカルディレクター、カメラマン(リモートカメラオペレーター)、CGオペレーター、オーディオマンが詰めている。彼らもオンエア中には自己の判断で、演出にかかわっている。
スタッフはチームになっていて、事前の打ち合わせに十分時間をかけています。紹介する商品への知識はもちろん、どう紹介するか、何がポイントになるかというストーリーまで頭に入れる打ち合わせです。それがあるからこそできるのですが、カメラマンが「この宝石は、この角度が綺麗に映っている」と感じればそのカットを増やしていく。キャストのトークにどの商品写真をどうインサートするかもその場で決めていきます。
少なくとも「作っただけで満足」「作る以外に興味がない」というタイプのクリエイターには、向かない現場なようだ。もっと言えば、「売ることの楽しさ」を共有できる者が求められる。
綺麗な映像が作れた、面白いトークだった、よくできた――それで、売れた?売れなかった?というところまで考えることが求められる現場です。番組には売上目標が設定されていますから、そこでも一喜一憂することになります。「売ることが面白い」と思えた人間だけが残っていくのは、事実ですね。お客様に対するセールスマインドとサービスマインドを共有できるクリエイターたちと番組を作っています。
ショップチャンネルの番組は見て楽しい娯楽番組であり、有益情報を提供する報道番組でもある。
楽しくなければチャンネルは変えられてしまいますし、また見ていただくこともなくなります。「楽しい」は大切なことです。ただ、私たちの考える楽しいには、「信用できる」「安心できる」も含まれます。純粋な楽しさのために海外からのオンエア企画なども恒例になっていますが、それと同じくらい信用保持にもつとめています。例えば「綺麗な」映像はOKですが、「綺麗過ぎる」映像は反省の材料になることもある。つまり、本物より綺麗な映像でお客様を騙す、なんていうことがあってはならない。現場のクリエイターの苦労は、例えばそんなところに象徴されると思います。
<ぽんマルシェ、eブティックヨーロッパの場合/代表取締役・伊藤深氏の話>
サイト上のイベントを楽しんでくれるファンが増えれば、 売り上げも伸びる。そう考えています。
1990年にブランド品輸入卸売業としてスタートしたヴァイスロイ・インターナショナルは、2000年にE-コマースに進出すると、たちまちyahoo!ショッピングや楽天市場の部門賞、年間大賞などを次々に受賞する人気サイトの運営者となった。
私たちは、物を売る以前にまず、私たちのサイトのファンを増やそうと考えました。キーワードは、一言、「楽しい」。見ていただくとわかりますが、「ぽんマルシェ」も「eブティックヨーロッパ」も、決してファッショナブルで洗練されたHPではありません。私たちは、それよりも親しみやすさを選択し、さらにはサイト上でいかにお客様を楽しませるイベントを実施できるかに注力しています。
現在、携帯サイトも含め、7つのサイトを運営する同社は、各サイトを店舗と位置付け、同数の店舗責任者を置き、計15名のWEBクリエイターが各店舗のプロジェクトごとに参加する柔軟な体制をとっている。
基本的に制作期間は短いです。販売企画、イベント企画がぎりぎりまで決まらず、徹夜で締め切りに間に合わせてもらうケースもかなりある。WEB制作だけにフォーカスすれば、かなりきつい現場と言えるかもしれません。ですが、当社のクリエイターのほとんどは、イベント企画の立案から打ち合わせに参加しています。下請けでデザインを起こしているという感覚は、かなり薄いはずです。つまり、プロジェクトの当事者のひとりとして参加している。だから、少々時間がなくても頑張れるのだと思います。
とくにデザインを仕事にしている者は、「綺麗」「かっこいい」という価値にこだわる傾向がある。しかし、伊藤氏は「綺麗でも、売れなければ意味がない」と断言する。経営者感覚、販売者感覚と、クリエイターのこだわり。それが衝突するのは、世の常だが……。
もちろん、そういうタイプのデザイナーはいますし、当社にもいます。厳密に言うと、入社時にはそうだった人もいる。もちろん私が採用の決定権者ですから、絶対に変わらないと感じる方は採用しません。現場を知れば変化するという可能性を信じて、実際に順応してくれている人ばかりです。要は、売ることの面白さ、売れることの大切さを理解し、実感してもらえれば、当社の方針に賛同してもらえるようになるのですね。デザイナーとして入社し、販売の面白さに開眼した結果、今は店舗の責任者になっているという人も実際にいます。
~取材後記~ つまり、クリエイティブと販売者の距離がせばまったのだと思う。一昔前はクリエイティブの専門家、専門会社に委託していた制作を、自ら手がけられる環境が整った。自ら手がけることによって、販売の意思やアイデアがダイレクトにクリエイティブに反映できるようになった。そして、そこで活動するにクリエイターは、販売の感覚とクリエイティブのアイデアを直結させることを求められるようになったのである。ショッピングチャンネルでは商品情報と販売システムを頭に入れた番組スタッフが活躍している。E-コマースでは、販売計画立案に興味を持ち、店舗責任者となるようなWEBクリエイターが生まれている。そんな変化が始まっている現代のクリエイティブの現場では、どんなクリエイターが生き残れるか?もちろん答えはない。ひとつだけ言えることは、これまで以上に多様なことに好奇心を持ち、様々な形の達成感を受け入れ、楽しめる人が成功に近づく。そういうことなのだと思う。