ブロードバンドは、日本映画変革のインフラだと考える人々。

vol.5
株式会社ブロードバンド・ピクチャーズ 取締役兼プロデューサー 萩尾友樹さん
みなさんご存知のとおり、高速でオンデマンドな環境を利用して、過去の名作などの映画コンテンツをストリーミング配信するサービスが始まっています。が、今回とりあげるのは、それではありません。株式会社ブロードバンド・ピクチャーズ(以下BP社)が提唱する、新しい映画供給スタイル「ネットシネマ」にスポットを当てます。 ネットがブロードバンド化し、電波にも劣らない映像配信メディアになった。この、まっさらで、可能性に満ち溢れたツールを活かして何ができるか?という問いに、「これこそ日本映画再隆盛のきっかけになるもの」と考え、活動しているのがBP社。数社のパートナー企業とともにネットシネマ(www.netcinema.tv)というサイトから、オリジナル・シネマコンテンツを無料配信する事業を展開しています。映画ファンも映画制作関係者も、熱い視線を送るネットシネマの中核人物にお話を伺うことができました。

インタビュー対象者/株式会社ブロードバンド・ピクチャーズ 取締役兼プロデューサー:萩尾友樹さん

エンターテインメントと広告の融合 ――“アドバテインメント”。

インターネット上で動画を観るということに関しては、もう可能になってずいぶん経ちます。動画を供給しているポータルサイトも数多く存在します。が、これまで、動画配信でビジネス的な成功を収めた例は、皆無。会員限定や課金制のもとでは、アダルト映像配信の一部以外、いまひとつ成果があがっていないというのが現状ですね。 そんな中で誕生したのがインフォマーシャル。企業が広告活動の一環としてオリジナルなネット配信用の映像作品(自社製品を映像ストーリーの中で紹介)を制作し、無料配信することを言います。2~3年ほど前に生まれた手法。海外の例ではBMW、日本でも自動車会社や菓子メーカーなどがインフォマーシャルシネマを作り、自社サイトで無料配信するようになりました。ブロードバンドの普及と足並みを揃えるように隆盛を見せています。ただ、インフォマーシャルは、あくまで企業主導の、広告目的の映像配信です。 私たちのネットシネマでは、そこからさらに考え方を進めて、エンターテインメントと広告の融合――アドバテインメントというコンセプトを立て、インフォマーシャルの手法を利用しながら、作品主導のエンターテインメントとして成立するビジネスを目指しています。

おおむね宙に浮いているインターネット配信権

ネットシネマという用語は登録商標ではありませんし、他社さんでも使っています。ただ、他社さんは既存のコンテンツの配信がほとんど。 インターネット配信権は、おおむね浮いているものなんです。過去の映画も、アニメも、契約条項の中に「インターネット配信」という項目なんてありませんでしたからね。ですから今は、そのインターネット配信権をより早く、より安く獲得する競争が起こってるようです。そちらのビジネスで活動し、課金配信しているサイトは数多く、軌道に乗っている企業もあるかとは思いますが、私たちはそういう既存コンテンツの配信は競合の対象とは思っていません。 当社で配信するのは、あくまでもオリジナル作品です。90分前後の、そのまま劇場公開も可能なものを作ります。それを1回10~15分に分割し、毎週更新するという方式で配信。テレビの連続ドラマのような形式になります。1回の配信内には、これもテレビドラマのようにCM枠を設け、そこへの広告出向費で制作費をまかないます。そして次には、DVD販売やTV放映権の売却、海外展開などで収益をあげる。これが基本的なビジネスモデルです。

これは、映画のためのメディアだととらえました。

なぜBP社がオリジナルな作品にこだわるのか。そもそも、インターネットで映像作品を配信しようとした動機は、映画そのものをもっと大勢の人に観てもらいたかったから。他社さんとはコンセプトからして違うんです。 一部の超大作以外、中小規模、単館系の作品は、地方では映画館で観られないのが現状。レンタルするかテレビで再放送を待つしかない。しかも業界自体が低迷して地方には宣伝も行き届きませんから、レンタルショップに置かれても、ほとんどが埋もれてしまっている。日本で映画そのものは恐ろしいほどの数作られているのに、観られるのはごくごく一部です。 しかし、インターネットならテレビのように規制もなく簡単に配信できて、観るほうも好きなときに観られる。苦もなく、全国公開できるというわけです。日本映画に元気を取り戻させるには、またとないメディアだと確信しました。だから、作品にこだわるし、オリジナルにこだわるのです。

オリジナル作品にこだわる、もうひとつの理由。

それならば、お蔵入りしている作品、中小規模の埋もれている作品を配信したら、という考え方も確かにありますし、できるものならしていきたい。ただ、配信権をクリアさせるのには、大変な労力を必要とします。日本映画の場合、権利がどこにあるか不明確なケースが珍しくなく、どこに交渉すべきかはっきりしない場合が多々あります。それに、既存の作品には当然協賛スポンサーがついています。その方々を無視して新たに配信に際してスポンサーをつけるのは難しい。既存作品の配信には、そういう見えないハードルが多いし、高い。 出演者の中にも、インターネットへの懐疑心がかなりありますし。いわゆる垂れ流し状態になって、コピーが蔓延し、収拾がつかなくなるといった悪いイメージを持ってる方が多いですね。実際には、セキュリティーがしっかりしていてそんなことはないんですが(笑)。

ジャンルも多岐に年間50作品のハイペースで制作。

2003年6月からオリジナル作品の制作をスタート。2年で約50作品をリリースしました。2005年度は50作品が目標、7月現在で20本を完成させていますので、たぶん達成できるでしょう。 現在のメインストリームはラブストーリー。実のところ、スポンサーが協賛していただきやすいジャンルなものですから。でも、今年になってアクションなどのジャンルにも着手しています。スポンサーに協賛していただかなくても、パッケージとして面白ければ二次展開で回収できるんじゃないかと予測してのことです。年に何本かはホラーも作りたいですね。ホラーは、アイデア次第で出演している俳優の人気などに左右されることなくキラーコンテンツになる可能性が高いジャンルです。 そもそも新しいことに挑戦しているのですから、冒険しないと大きな成果は得られない。ここで縮こまっていたら何も広がりません。どんどんジャンルは増やしていきます。

映画やテレビと同じ大きさの業界を作りたい。

集まってくる企画は、正直、そうとうな数にのぼります。映画業界の方に限らず、最近ではビデオシネマやPV畑の方からの持ちこみが多いですね。広く門戸を広げて企画を受け入れ、これだけの作品を制作していますので、人材発掘、育成にも貢献できると思います。クリエイターだけでなく、役者さんに関しても、チャンスの場を提供することになるでしょう。 採用する企画は、当社にはプロデューサーが3人いて、基本的にこの3人が合意したもの。スポンサーがつきそう、純粋に脚本が面白い等、どっかに引っ掛かりがある作品が採用されます。 制作予算は色々ですが、映画作品としてはまだまだ低予算ですね。クリエイターの中には、映画とは別、これはネットシネマというカテゴリのものだと、参加される方も多いですよ。ただ、同じようにクレジットは入って残りますから、低予算だからといって手を抜くようなクリエイターはいません。全力投球で参加してくれています。 とはいえ、映画やテレビと競合する気はまったくなく、むしろコラボレーションしながらひとつの市場を作りたいと思っています。

ヒット数が100万人にまで伸びたときが ターニングポイント。

現在、他社のコンテンツでもおそらく共通ですが、ドラマの場合、1作品延べ視聴者数は15万人くらいです。どこでも頭ひとつ飛び抜けたコンテンツの例がない。50万、100万のヒット数を獲得する実例が登場したとき、周りの見る目が変わるはず 。そこを目指していきます。 映画館の観客動員数と比較すると、この数字でも大ヒットの数なんですが(笑)。そこは媒体の特性がありますから、もっと数を伸ばさないと広告としての価値は認められません。ネットシネマというコンテンツを使った媒体価値を底上げしていくのが、差し当たりの目標です。

映画のために何ができるか? という視点で活動しています。

「映画を元気にしたい」。そこが原点ですから、作品をネット配信して完結とは思っていません。だからこそ、DVDにしたり、劇場公開したりしています。そうした姿勢の証というわけでもないんですが、「5コインズシネマ」と銘打った500円で観られる映画館を作りhttp://www.netcinema.tv/5coinscinema/)、DLPで上映したりもしています。とにかく映画業界の活性化を第一義にしている。 もちろん、ボランティアと思ってやっているわけではありません。ネットの世界のスピードは恐ろしく速く、たった半年、1年で状況ががらりと変わる可能性を秘めたメディア。いい作品さえ作っていけば、必ず支持される日がくると信じています。ですから、目先の利益や数字目標を掲げることには、あまり意味がないと思っています。近い将来、オオバケしますよ、この業界は。

(出典:『Yahoo! Internet Guide』 FEB 2005)

(出典:『Yahoo! Internet Guide』 FEB 2005)

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