WEB・モバイル2005.08.01

フリーランス・クリエイティブディレクターが語るWebという仕事

vol.4
フリーランス・クリエイティブディレクター
クリエイティブの世界を産業として見たとき、この10年でもっとも目覚しい躍進を遂げたのはWeb業界だということに異論を唱える人はいないはず。で、そのWebの制作現場のたった今はどんなことになっているのか?が今回のテーマです。 登場するのはフリーランスのクリエイティブディレクター/A氏。昨年、大手デジタル系エージェンシーとコンサルティング契約を結び、同社のWeb制作案件にクリエイティブディレクター&コピーライターとして参加するようになりました。それまでA氏は、自分の専門分野は広告で、Webはその埒(らち)外だと考えていた。しかし手がけてみると、思いのほか面白く、やりがいがあり、コンペにも勝ち続けているそうです。 もちろん、広告クリエイターがWeb制作を手がけることそのものは、そんなに目新しいことではありません。しかし、新規参入して1年のA氏の見たこと、感じたことは、Web業界の今を知るにはまたとない材料。なぜ自分が今Webを手がけるのかという自己分析も含めて、貴重な話を聞かせてくれました。

《取材協力者プロフィール》 クリエイティブディレクターA氏~40歳代後半。大学卒業と同時に、老舗プロダクションに入社し、コピーライターとしてキャリアをスタート。その後、国内外の広告会社で経験を積み、数年前にクリエイティブディレクターとして独立。

Webと広告の間にあるギャップは、 不思議なくらい埋まっていない。

簡単に言うと、お互いに相手を「素人」だと考えている。それが広告クリエイターとWebクリエイターだと思う。たしかに広告屋はテクノロジーに疎いし、一方Webクリエイターたちはマスコミュニケーションのイロハを学んでいない人が多い。いがみ合っているというわけではないけど、敬遠し合っているというのは事実。Web制作という仕事が誕生して10年はたつし、広告界からたくさんの人が流入しているはずなんだけど、そのギャップが全然埋まっていないのには驚きます。<br/ >コミュニケーション戦略や企業と商品のブランディングをトータルに考える人がいないんだなあ、というのが最初に感じたこと。もちろん、だからこそ僕がこの1年間ご飯を食べることができたワケ(笑)。

広告制作の基本的手法を使って、 クライアントから高評価を獲得。

たとえば、広告を作るときには、まず全体のコミュニケーション戦略、トーン&マナー、表現アイディアなどを考える。Webにはそれが足りないと思う。とくにページが増えていく中で、そこへの配慮がどんどん希薄になっていくようです。たしかに、トップページの下に数百のページがぶらさがっていたら、すべてを統一するのは至難の技だと思うけど、企業Webサイトはそれを目指すのが理想だと思う。事実、僕はそういうことに配慮した企画を立てて、クライアントさんからも概ね高い評価を得ています。

Webデザインは、 これから加速度的に変わると思う。

Webが生まれたばかりの頃、誰もここまで隆盛をきわめるとは思わなかったでしょ。当然、メディアとしては電波や紙の次に位置付けられたし、写真などの制作素材も「Webはマスの流用素材で十分」というところから始まった。だから、少し前までWebデザイナーは「流用写真のレイアウト」屋さんで済んだんです。でも、そろそろそんな状況は変わる。Webデザインにオリジナリティが求められるし、それに見合った予算もつくようになってきた。Webデザイナーはアートディレクションやマスコミュニケーションのスキルを求められるようになる。写真だって、Web用の撮影が当然になりますよ。

アーカイブだから オリジナルの撮影のほうが経済的。

とても不思議ことがある。それは、レンタルフォト。Webデザイナーにデザイン案を求めると、すぐにレンタルフォト探しを始める。「それ安直だよ、オリジナルなビジュアルアイデア出そうよ」ってアドバイスしていたある日、ふと気づいた。Webってアーカイブがあるよね、蓄積されたページに使っているレンタルフォトって使用期限やリピート使用の問題ってどうなってんの?答えは、レンタルフォトを使ったものは極力アーカイブに残さない。残す場合はリピート料を払う、でした。だったら、オリジナル撮影の予算組めるじゃない!現にこの1年間、クライアントを説き伏せ、Web用でロケに行き、何度飲んだくれたことか(笑)。まあ、これまでは、そういうところに気づかないくらい混沌としていたということなんですね、この世界は。

企業の意識と体制も変わり始めている。

企業が「広告=宣伝部」「Web=広報部」と分けて考えていたことも、これまでのあり様の大きな要因だったのだと思う。でも、それ自体が変わり始めている。大手の、意識の高い企業は両者を統合した部署を作ったり、宣伝部出身の広報マンを起用したりしてWebに宣伝手法を融合させようとしていますよ。

僕の成功事例――ある大手自動車メーカー

かなり大きなキャンペーンです。それにまつわるWeb制作のコンペ。呼ばれたのは大手のWeb会社だけでした。広告会社は、いわゆる息のかかったWeb制作会社を参加させていたけど、本体はまったく出てきていませんね。さらにいうと今回は、マス媒体でどんなキャンペーンをはるのかの詳しいブリーフもなかった。つまり、「Webとしてまったくオリジナルなアイディアを作ってくれ」という要請だったんです。異例です。どうやら、Webでどこまでできるかを見きわめたかったみたい。 やりましたよ。販売戦略を分析して、独自のコミュニケーション戦略を立て、動画も組み込んだアイディアを提案しました。そして勝利!ほかに色々なオマケが付いてきて、総額○億近い案件を獲得しました。

Web上での動画、がここ数年のポイント。 うまくやれば大成功すると思う。

ブロードバンドが普及して、Webにかかわる人たちが躍起になっているのが動画の導入。企業のWebサイトにもそんなトレンドが押し寄せてます。でも今の最大の問題は、コストですね。企業の顔となるものだから素人に毛が生えた程度の人じゃダメ。とはいえ、CM屋さんを起用しようとなると、まだ、コストが折り合わない。Webの予算はかなり増えているけど、それなりのCMディレクターを起用できるまでにはなっていなんです。今は、僕のような企画屋が、間にたって奔走して、なんとかそこに折り合いをつけている。クオリティとコストがピッタリとしたものを出せる会社があったら、大成功 すると思います。 本音を言うと、CMと同じ、いや、それ以上のコストをWebの動画にかけてもいいと思っています。だって世界中の人が見にこられて、媒体費はゼロに等しいワケだしね。どっちが得なのか考えてみようよ。

まだ未成熟。これからも変わり続ける業界。 そこが一番の魅力だね。

僕が今、Web業界に感じているのは、未成熟な業界への魅力。まだまだ変わるし、まだまだ伸びる。そんなタイミングで参入できたことは苦労も多いけど幸運に思います。とにかく、昨年から今年にかけて軒並み予算枠が拡大してる気がします。総額1~2千万円でも大きいとされていたWeb制作の仕事が、億単位でも夢じゃないんですよ。 見わたすと、大手クライアントの仕事となると、お決まりの3~4社がしのぎを削っているという状況。ポイントは、まだ本気じゃない様子の大手広告会社がいつ本気になってくるかということだと思う。そのときは、またひとつ大きなうねりが生まれるんじゃないかと予想します。すでに本気なんだけど、それが見えないだけかもね(笑)。

やらず嫌いを乗り越える。 それが最大の課題。

気づけば、すっかり「電脳中年」(笑)。自分が、パソコン2台を同時に操ってWeb用の企画を立てることになるとは夢にも思わなかった。パソコン2台っていうのは、1台をネット上の情報収集に使い、それを見ながらもう1台で原稿を書くという意味。プログラムを操ったりしているわけじゃないですよ。ふりかえれば、単なる「やらず嫌い」だった。今も決してテクノロジーには明るくないけど、それは決して壁じゃないということはつくづく感じます。わからないことは聞けばいい。また逆にわからないことを武器にしている面もありますよ。Webのことをわかっていたら、ありえない注文だってデザイナーに出すんだから(笑)。 そうそう、友人に長年フリーランスで活躍していたCMディレクターがいるんです。年齢は40代前半。僕が最近Webをやっていると聞きつけて、「僕も興味あるんだよね」と情報収集に訪れた。いろいろとわかったことを教えてあげたんだけど、しばらくしたら「Webの専門学校で勉強してる」って報告が来ました。エライ!彼は絶対成功するよ。Web制作の世界にいるみなさん。こんな感じで、競争相手がどんどん増えてますよ。うかうかしていられませんよ。

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