CM音楽制作番組/音楽プロデューサーという仕事

vol.3
音楽プロデューサー
ひと頃のタイアップブームの印象だけで、「ほとんどのCM音楽は、レコード会社がヒットさせたい曲を売り込んで決まっている」なんて思っている人はいないかな?あれはCM音楽の、ほんの一側面。この世界にも専門家がいます。主流となる仕事は、オリジナル音楽の制作。作曲家?いえ違います。作曲家に曲作りを依頼し、演奏や歌唱のディレクション、録音から完パケまでのすべてに責任を持つ人たち。音楽制作会社(業界用語で、「音プロ」<読み方は、オンプロあるいはオトプロ>)の音楽プロデューサーと呼ばれるクリエイターたちが、日夜、広告宣伝活動のための独自の音作りにいそしんでいるのです。

《取材協力者プロフィール》 プロデューサーA氏~経験30数年・大手音楽制作会社取締役兼務~ プロデューサーB氏~経験20数年・2年前に独立し有限会社設立~ プロデューサーC氏~経験約5年・大手音楽制作会社勤務~

作曲家が、作曲家だけではやっていけない。 ことを知って作ったCM音楽業界。

現在は、CM制作会社からの発注に対して、プランナーやディレクターが、音楽パートをすべて任せることのできる音プロ、あるいはフリーの音楽プロデューサーとチームを組むのがCM作りの基本スタイルだ。

【プロデューサーA氏のコメント】 私の会社は、現状はエージェンシー(広告会社・広告代理店)プロダクションからの発注が6~7割。後は演出家からの指名発注です。業界全体的に見ると、フィルムプロダクションからの発注の割合が増えてきています。演出家からの直接発注は一時ブームのようにったんですが、今ではかなり減っています。

【プロデューサーB氏のコメント】 この業界は、誕生してせいぜい40年の世界です。作ったのは、三木トリローさんやいづみたくさん、小林亜星さんといった作曲家の先生方。その先生方が直接作曲の依頼を受けるところから始まり、彼らが作ったCM音楽の専門会社が音プロの原型になりました。作曲家自身が、プロデューサーなしではまわっていかない仕事だということをよくわかっていたということなんでしょうね。

醍醐味は、 1億人の視聴者がいるところなのだ。

15秒でも難しい。いや15秒だから難しい。作曲できるアーティストは数多くても、プロフェッショナルなプロデュースなしでは、まず、クライアントの要求に応えることはできない。音楽に精通し、なおかつ広告のロジックと制作プロセスを理解する音楽プロデューサーは、音楽作りの醍醐味と広告作りのカタルシスを同時に味わっている、かなり特権階級的な人々なのだと思う。

【プロデューサーA氏のコメント】 私が、この仕事の醍醐味と思っているのは“コマソン”、コマーシャルソングです。商品特性に合致した面白い詩に、良い曲をつけて、多くの人に口ずさんでもらえるような曲を作る。最近、そういう仕事が少なくなっていることが残念。将来また、コマソンが求められる時代が来るはずだと思っていますけどね。

【プロデューサーC氏のコメント】 オンエアと同時に、1億人の人に作品を聴いてもらえる。それはもう凄いことです。作品は完成しているのにリリースのメドが立たないなんてことが茶飯事のCDに比べると、CM音楽は事故でもない限り確実に日の目を見るところも気に入ってます。

音楽まわりはテクノロジーの話題で満杯。 CM音楽業界にも、デジタルな諸現象あります。

ポップミュージックの世界には、「宅録の帝王」と呼ばれるようなアーティストもいる。コンピュータ化され大量生産された、ハイクオリティな音響機器が氾濫する現代。音プロの曲作り、音作りにはどんな影響が現れているのだろう?

【プロデューサーB氏のコメント】 作曲家が案を提出する方法は、今、ほとんどがデモ音源です。自宅の機材を使って完成に近いクオリティであげられるし、あげてきます。だからこの段階でNGが出て再提出ということが続くと、作曲家が作曲ではなく「デモ作り」で疲弊してしまうことがあります(笑)。それなりに手数のいる作業なのでね。もちろん、そうならないようコントロールするのが私たちの仕事なんですが。

【プロデューサーC氏のコメント】 民製機のクオリティが上がって、プロユースの機材と遜色のない性能を持ち始めています。アマチュアでも、かなり凄い音を作ってしまう。そして、それに、スポンサーさんも気づき始めている。その影響は、レコーディングスタジオ予算をターゲットにした予算削減という流れになって出てきています。

再び【プロデューサーC氏のコメント】 「スタジオに入る」というマジックが効かなくなってきています。もちろん、スポンサーさんに向けてのマジック(笑)。デモもサンプルもなくて、スポンサーさんもスタジオで立ち会うまではどんな曲ができるのか知らなくて、みんなで一緒に演奏を聴くというのがイベントになっていた時代もあったそうですから、隔日の感ありですね。でも誤解しないでください。「スタジオに入る」というマジックは、なにもスポンサーさんを騙すという意味ではない。大きな部屋で録った大きな音は、確実にいい音なんですから。

ビートルズやミスチルが使われている。 タイアップ?いいえ、それは既製曲というものです。

なつかしの名曲や誰でも知っているヒット曲がCM音楽として使われているケース。そういう音楽は、既製曲と呼ばれている。オリジナル曲を作ることが基本である音プロはノータッチ?いや、そんなことはない。

【プロデューサーA氏のコメント】 音楽プロデューサーが、心から100%既製曲でいきたいと思っているケースはほぼないはずです。少なくとも私はそうです。つまんないです(笑)。でも、自動車やビールは、今やほとんどが既製曲ですね。「これ聴いたことある」とか「好きだ」とかいう感情にプラスαの効果を期待していて、実際あるんです。現在は、エージェンシーのプランナーがスポンサーに提出する案の中に、必ず既製曲の企画が入っているそうですよ。既製曲でいくとなったときの私たちの仕事は、権利者との交渉とカバーの制作。それはそれで、オリジナル作りに勝るとも劣らない労力を必要とする仕事ですね。

【プロデューサーC氏のコメント】 既製曲の依頼を受けることは、多いです。いざというときのために、時間があればオリコンチャートに目を通すよう心がけてます(笑)。

再び【プロデューサーA氏のコメント】 既製曲を使うとき、まず気をつけなければいけないのは、権利がふたつあるということ。原盤の音源の権利と楽譜(出版)の権利は別なのです。だから、その双方に許諾を得なければならない。しかも、たとえば、あのビートルズは、楽譜は使ってもいいけど、原盤の音源の使用許可は絶対に出ません。だから、ビートルズを使うということは同時にカバーを制作するということになります。許諾が取れるケースでもカバーを選択するケースはけっこう多い。なぜなら、楽譜で4千万円の権利は音源まで使うとさらに4千万円必要だから。そう、権利はふたつなんです。だから、オリジナルの元歌が流れているCMは、スポンサーさんが覚悟を決めて予算を組んだと思っていい。CM用の新アレンジになっている曲は、その分安上がりになっていると思ってくれていいです(笑)。

音楽が好き――程度の動機では入れない? いや、それでいいらしい。でも、入ってからは・・・。

あまり知られていないようだが、音プロ各社はほぼ常時新規採用、中途採用の門戸を開いている。業界に入るのは、それほど難しいことではないようだ。

【プロデューサーA氏のコメント】 まず、アシスタントから始めてもらいます。私もそうですが、今の音プロ・音楽プロデューサーは、ほとんどがプロデューサー兼ディレクター。音作りの現場の経験もそうですが、見積もりや料金交渉まで多岐にわたる業務をこなさなければならない。先輩のやること、やり方を見ながら自分のスタイルを作っていく。もちろん、いろんなスタイルがあり得ます。自分で作れる人は自分で作曲したってかまわない。ちなみに、私は一切作曲はしません。

【プロデューサーB氏のコメント】 どの会社も人は常時採用しているはずです。だって、なかなかものになる人がいないから。これはほんとうに特殊な仕事。特殊技能を身につけなきゃなりませんからね。しかも、ものになったらなった人たちの多くは、独立してしまう。私もそうですが(笑)

【プロデューサーC氏のコメント】 漠然と「音楽を仕事にできたらなあ」と思っていたら、知人の紹介で今の会社の入社試験を受けることになりました。バンド活動で作曲もしていたので、短いフレーズにいろんな企画意図を込めるCMの世界にはすぐ馴染めました。音作りは面白いです。大変なのは見積もり・請求等の事務作業ですね。「見積もりのこの項目はどういう意味?」というクライアントからの質問に懇切丁寧に答えるのが、一番骨の折れる仕事です(笑)。

再び【プロデューサーB氏のコメント】 どんな大きな会社でも、クライアントからの発注は人にきます。そんな中でクライアントとの間に信頼関係が出来上がれば、結局独立ということなりますよね。CM音楽業界は、社員の独立についてはかなり寛容な世界だと思います。プロデューサー兼社長ひとり、アシスタントひとりという形態でやってる、やっていけてる会社がたくさんあります。やろうと思えば、プロデューサーひとりで年100作品できますから、頑張ればかなり稼げると思います。

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