脚本家と映像製作者を結ぶ「Green-light」が生み出す映像物流の新たな潮流
映像化されていない脚本や企画を対象とした製作マッチングサイト「Green-light(グリーンライト)」は、脚本や企画をアップロードする脚本家や監督と、掲載された脚本や企画を閲覧する映像製作者をつなぐ会員制マッチングサイトです。2020年のサービス開始以来、映像業界に新たな物流を生む仕組みとして注目を集め、2021年12月には、掲載作品から初の映像化となる映画『衝動』が公開されました。「Green-light」の設立者であり、自ら映画プロデュースや配給も手掛ける和田有啓さんに、設立に込めた思いや現在の利用状況、今後の展望を聞きました。
脚本や企画がある人と、映像製作者をつなぐマッチングサイト
まずは「Green-light」とは、どのようなサービスなのか教えてください。
「Green-Light」は、脚本家や監督と呼ばれるような、映像の企画や脚本を持っている人と、製作者と呼ばれる映像を作る側の人を結びつける会員制のマッチングサイトです。ユーザーは、脚本ないし企画をアップロードする「脚本家会員」と、掲載された脚本や企画を閲覧する「製作者会員」の2種類に分かれていて、脚本家会員側は脚本や企画をアップロードでき、製作者会員側はアップロードされた脚本や企画を閲覧できます。
脚本家会員が月額有料制で、掲載できる企画/脚本の本数によりプランが分かれ月額税込1,980円〜2,980円。製作者会員は、映画やドラマの製作実績のある方を対象にした審査制となっており、承認された方が無料で使える形になっています。
脚本家会員は、具体的にどういったものをアップロードできるのでしょう?
完成された脚本はもちろん、脚本の形になっていない状態、いわゆるプロットと呼ばれるものや企画書なども、アップロード可能です。
会員にとってのメリットは何ですか?
脚本家と呼ばれる人のキャリアパスがあいまいでクローズドな映像業界においては、「Green-light」の存在自体が貴重だと言えます。
本サービスに近いものをあえて挙げると、脚本賞になります。例えば、城戸賞(一般社団法人日本映画製作者連盟主催)と呼ばれる有名な脚本賞がありますが、これは映画製作配給大手4社で結成された団体が運営するもので、審査するのは基本的に4社の関係者に限られます。つまり、脚本を読んでもらえる人が限定されるわけです。他の脚本賞や映画祭においても、特定の審査員がいるという点で、限られた人にしか脚本が見られない状況は同じだと思っています。
それに対して「Green-light」は、時間や期間の制限がなく、脚本や企画は常時アーカイブされる上、製作者会員には、企業の大小を問わず、映像業界のさまざまなジャンルの人が登録しているため、幅広い業界関係者に閲覧いただけます。この点が脚本家会員にとっての一番のメリットだと考えています。
一方、製作者会員側にとってのメリットは、これまで付き合いがあった脚本家や監督以外の新しい才能に出会えるところに、大きな利用価値があると考えています。
製作者会員で圧倒的に多いのは「プロデューサー」
具体的にどういった方が登録されているのでしょうか?
製作者会員で圧倒的に多いのは、いわゆるプロデューサーと呼ばれる方々です。プロデューサーにもいろいろな立ち位置の方がいますが、配給会社と制作会社の方が中心です。あとは放送局、ビデオメーカーの方々や、数は少ないですが、俳優事務所の方も登録されています。
実は欧米の映像業界だと、Aクラスの有名俳優が優れた企画や脚本を自ら探して、映像化の契約を結ぶケースがあります。日本の映像業界でもそういった流れが生まれることを願って、サービス開始当初から俳優事務所の方々にも門戸を開いています。
脚本家会員にはどのような方が登録されているのですか?
やはりデビュー前の脚本家や監督が多いですが、中には既にかなり大きな実績を残されている方もいます。
「Green-light」では基本的に登録者の個人名などは見えないようになっています。お名前を公表することについて許可をいただいている会員の方を数名ご紹介しましょう。
脚本家の松本稔(まつもとみのる)さん。松本さんは、城戸賞などの脚本賞を複数受賞している他、映画やテレビドラマの脚本を多数執筆されています。
映画監督の中嶋莞爾(なかじまかんじ)さん。中嶋さんは『クローンは故郷をめざす』という長編映画を撮られており、国内外で高い評価を得ています。
その他にも、内田英治監督の作品や『うみべの女の子』の映画脚本(実写)を担当された平谷悦郎(ひらたにえつお)さんにご登録いただくなど、多様なキャリアを持つ方々に利用いただいています。
ちなみに、和田さんはご自身で映画のプロデュースや配給もされていますが、そういう立場から見たときに、脚本家にはどういった力を求めますか?
まずひとつめは、作品が狙いたいところを理解して、きちんと芯を取る力。野球で言うところの、バットの芯にボールを当てられる力が必要だと考えています。
プロデューサーや監督が脚本家に依頼するときは、基本的にまだ脚本がない状態でお願いすることになります。つまり、依頼する側に物語の大体のイメージはあるものの、最後まで話ができあがっていない状態でお願いすることが多い。そういう中でも、きちんとこちらの狙い通りの脚本に仕上げてくれたり、「まさかそんな球筋で来くるとは…」と良い意味で裏切られたり、そういった返しができる脚本家に力量を感じます。
もうひとつは細かいところ。設定や物語の細部に矛盾を生じさせない力も大事です。当たり前のようですが、じつはストーリーが破綻しないようディテールや設定を組み立てていくのはとても難しいこと。死角がないものを書き上げられる方にも力量を感じますね。
『衝動』公開時には、レールが1本敷かれたような感動が
「Green-light」掲載作品から初の劇場映画となる『衝動』(土井笑生監督)が2021年末に公開されました。サービス運営者として、どういったお気持ちでしたか?
「Green-light」のサービスが担っているのは、脚本や企画と映像製作者をマッチングするところまでですが、作品作りはそこで終わりではなく、マッチングした先に実際に作品が作られ、お客様にお披露目されるところまでつながります。「Green-light」を提供することで私たちが目指しているのは、作品作りが最後のフェイズまでつながっていくことです。『衝動』が公開されたときには、そうした自分が思い描いていた作品作りの流れに、初めて1本レールが敷かれたように感じられ、とても感動しましたね。
作品自体も、キャストの皆さんの演技が素晴らしくて、特に主役のハチとアイを演じた倉悠貴さんと見上愛さんの演技にはとても感動しました。キャストの皆さんは、『衝動』がきっかけで他作品への出演が決まるなど、活躍の場がどんどん広がっていると聞いています。作品だけでなく、キャストの方々も含め全てが世に出るきっかけを提供できたという意味で、感慨深いものを感じています。
他にはどういった作品が世の中に出ているのでしょう。
じつは、いろいろあるのですが、中でも特に印象深いのが、「Green-light」の存在が脚本家・鈴木史子(すずきあやこ)さんのデビューにつながったことです。
彼女の場合は、「Green-light」に掲載した脚本や企画がそのまま映画やドラマになったというわけではありません。しかし、掲載した企画や脚本が、ある映像制作プロダクションのプロデューサーの目にとまり、脚本家デビューを果たすことになりました。すでに『感謝離 ずっと一緒に』という映画と、『片恋グルメ日記』というドラマで脚本を手がけられています。
サイトに掲載している企画や脚本が作品になるだけでなく、掲載がきっかけで新たなつながりが生まれていることにも、意義深いものを感じています。
「受け身」から「能動」、攻めの姿勢へ
「Green-light」立ち上げのきっかけや経緯を教えてください。
そもそものきっかけは、「Green-light」の類似サービスである「The Black List」というサービスがアメリカで利用されているのを知ったことです。
私は以前、アニメ・キャラクター関連事業を展開する株式会社ディー・エル・イー(DLE)に所属し、映画製作の仕事に携わっていたのですが、同社が希望退職を募った際に手を挙げて、アメリカでしばらく過ごすことがありました。そのとき通っていた語学学校の知り合いから、脚本や企画を映像製作者とつなげる「The Black List」というサービスがあり、プロデューサーに広く使われていると聞いたのです。
同じ頃、アメリカで映画製作に携わっている日本人に出会いました。彼は、ニコラス・ケイジが主演するある映画のプロデュースに携わっていたのですが、その企画を「The Black List」で見つけてきたと聞いたときに、こんなに身近なところでも機能しているサービスなんだと、衝撃を受けました。
帰国後、しばらくフリーランスで映画配給やプロデュースに携わった後、株式会社Atemoを立ち上げることになりました。その際、個人でしている仕事の延長だけでなく、会社だからこそできる事業も始めようと考えました。さらに映像業界関係者が利用できるサービスを作ろうと考えたときに、アメリカで知った「The Black List」のことが頭に浮かび、その日本版をやってみてはどうかと考え、「Green-light」を立ち上げたのです。
立ち上げの原動力になったのは?
脚本や企画を持つ人と、映像製作者と出会う場が少ない現状を改善したいという思いがありました。その上、私がこれまでのキャリアで以前の会社で築いたコネクションを活用できる可能性が高かったことです。前職では、いわゆる映画の製作委員会に関わることが多く、配給会社をはじめさまざまな映像製作会社とのお付き合いがありました。自分の知っている映像製作者の方々と、そこからの口コミがあれば、かなりの数の利用者が集まるのではないかと考えたのです。
こういった会社の人たちにご登録いただき、さらにデータベースとしてどのような製作者会員がいるのかを提示できれば、脚本家や監督の方々も集まってくれるのではないかと。つまり、映像製作者側の発想が最初にあったというわけです。
立ち上げから2年ほど経ちました。利用状況も含めた現在の状況を、どのように捉えていますか?
当初は大きな注目を集めましたが、成長を続けるのは簡単ではないと今は実感しています。継続的に実績を出し、いかにスタンダードなサービスとして定着させていくかが、今後の大きな課題だと感じています。
以前、講演に呼んでいただいたご縁から、最近では、脚本家養成スクールであるシナリオ・センターさんとの新たな試みにも着手しています。シナリオ・センターさんが開催している公募コンクール「シナリオS-1グランプリ」で、賞を受賞された方への副賞として、「Green-light」の登録権を提供する試みを始めました。
今後は積極的に新しい才能をお招きすることで、次なる成長につなげていこうと考えています。
今後の展望を教えてください。
実績の数を増やしていきたいです。実績というのは、作品が世の中に出るというわかりやすい実績だけではなく、例えば脚本家が映像製作者とつながれたといったことも含めています。表に出るものも、表に出ないものも含め、どんどん実績が積み重なっていくようなマッチングサービスでありたいですね。
最後に、いろいろな現場で試行錯誤するクリエイターにメッセージをお願いします。
特に映像コンテンツは、プロデューサーも、監督も、脚本家も、キャストも、どの立場の人も個人では決して成立しないジャンルだと思います。人とつながらないと前に進めない世界ですから、我々「Green-light」はもちろん、城戸賞とか、TSUTAYA CREATOR’S PROGRAM(ツタヤクリエイターズプログラム)とか、映像関係者の皆さんはいろいろなことを考えて、さまざまな取り組みを実施しています。
そういったものをきちんと見つけ、果敢に挑戦していく姿勢が大事だと思います。もちろん一番大事なのは、自分が作る脚本や企画などの完成度を上げることですが、それを手元に持っているだけではどうにもならない世界なので、人に見せていく活動を積極的に行っていくと良いのではないかと思います。
取材日:2022年7月12日 ライター、スチール撮影:庄司 健一
株式会社Atemo
- 代表者名:代表取締役 和田有啓 氏
- 設立年月:2019年8月
- 資本金:1,000,000円
- 事業内容:映画の企画プロデュース、配給宣伝など
- 所在地:〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町2-25-8-213
- URL:https://atemo.co.jp/
- お問い合わせ先:上記HPの「Contact」より
Green-light https://green-light.tokyo/