メタバースがショッピングを変える! バーチャル店舗開発におけるサイバーエージェントの挑戦
メタバース空間における企業の販促活動の支援を目的に、バーチャル店舗開発に特化した事業会社として、2022年2月に設立された株式会社CyberMetaverse Productions(サイバーメタバースプロダクション)。事業責任者を務める中野英祐さんは、「メタバースが産業を再発明する」と大きな期待を寄せています。 メタバースはショッピングに何をもたらすのか。リアル店舗やECとは異なる、新たな販売チャネルとしてのバーチャル店舗のあり方とは? 同社が求めるクリエイター像、今後の展望についてもじっくり伺いました。
メタバース空間でのショッピングを新しい販売チャネルとして確立
はじめに、メタバースが注目を集める背景について、お考えをお聞かせください。
やはり、2021年10月にFacebook社が社名を「Meta」へ変更したことが、注目を集めるきっかけになったのではないでしょうか。それまでも、ソーシャルVRサービスやオンラインゲームなどの利用者数が世界的に急増していたり、NFT市場においてメタバースプラットフォームの土地価格が高騰したり、各所では盛り上がりを見せていました。
そこにMeta社の発表が大きなニュースとなったことが加わり、メタバースという言葉が一般的に浸透していった印象です。ただ、メタバースはまだ発展中の概念で定義も幅広く、人によって捉え方はさまざま。一概には言えない部分も大きいですね。
一方、企業がメタバースに関心を持つ転機となったのは、2022年1月にラスベガスで開催されたデジタル技術の見本市「CES 2022」だと感じています。P&Gビューティーさんが「BeautySPHERE(ビューティースフィア)」を発表し、VR空間内で美容やサステナビリティーの取り組みを紹介したことで、メーカーや小売業界におけるメタバースへの関心が、一気に高まりました。
そうした盛り上がりの中、2022年2月に株式会社CyberMetaverse Productionsが設立されました。設立の経緯を教えてください。
サイバーエージェントグループでは、2017年からAIやCG事業に積極的に取り組み、フォトグラメトリー(※1)という3Dスキャニングや高品質な3DCG制作、AIの研究開発などを行ってきました。つまり、もともとCGアーティストやエンジニアといったメタバース開発に必要な人材がそろっていました。
加えて、小売企業のDX支援事業に注力するなど、EC関連のノウハウも豊富に蓄積されています。そこに、ECに次ぐ新たな商空間としてのメタバースのニーズが高まってきました。こうした背景から、メタバース空間でのショッピングを新しい販売チャネルとして確立させるべく、バーチャル店舗開発に特化した事業会社として、新たに当社を設立したという経緯です。
※1 被写体をさまざまなアングルから撮影した写真や動画をもとに、立体的な3Dモデルを作成する技術。
バーチャル店舗とはどういったものですか? 御社の事業内容についてもお聞かせください。
バーチャル店舗でのショッピングが今までのECと異なるのは、静的な2次元の表現が、動的な3次元の表現に変わったことです。CGで作った空間を「Unity」や「Unreal Engine」などのゲームエンジンを使って動かしているため、店舗内を自由に動きまわったり、商品を手に取ったりできるのですね。
さらに、店員アバターの接客サービスの提供により、商品の詳細を聞いたり試着をしたりすることもできます。商品の購入にあたって、今までのECとは違う体験ができるようになったというわけです。物理的・空間的制約が解消されていつでもどこでも自由にアクセスでき、ユーザー同士のコミュニケーションの活性化を図れるのもポイントです。
当社のバーチャル店舗開発では、既存のメタバースプラットフォームの活用はもちろん、オリジナルのメタバース空間の構築も可能です。実際の“モノ”を販売するだけでなく、NFTを活用したデジタルアイテムの制作販売も強化する予定です。バーチャル店舗がオープンした後も、毎月の販売データを分析して活用するなど、収益向上に向けたサポートを提供できるのが強みですね。
リアルでしかできなかった体験が、デジタルで完結する
バーチャル店舗の構築から運用まで、一貫したサービスを提供できるのですね。バーチャル店舗には、どのような活用のされ方がありますか?
わかりやすい事例を2つ挙げてみましょう。
1つは、リアル店舗をお持ちでないBtoCの企業さんが、商品やブランドの世界観を体験できる場としてバーチャル店舗を利用されるケースです。単純に物を売る場所というだけでなく、ファンとの距離感を縮める目的でもバーチャル店舗を活用しようというわけです。こうした動きは、世界的なファッションブランドにも広がってきています。
もう1つは、住宅展示場やカーディーラーの事例です。これまでのように広大な土地を用意してコストをかけて運用するのではなく、VRゴーグルをかけて手軽に体験できれば、例えば駅やショッピングモールの小さなスペースに出店することができます。ユーザーもわざわざ郊外に出かける必要がなくなり、アクセスしやすくなりますよね。今までリアルでなければ体験できなかったものが、デジタル上で完結していく。アイデア次第で活用範囲は無限に広がります。
しかし、単に店舗をバーチャルにしたからメリットが生まれるというものではありません。大切なのは「メタバース空間で何をしたいか」です。
今後、ソフトウェアなどのレベルが向上して技術的な差がなくなってくると、高品質なサービスが低コストで作れるようになるでしょう。そのとき、きちんとした軸がなければユーザーに飽きられるのも早いですし、わざわざメタバースにする意味もなくなってしまいます。ですから、最初に企業課題やユーザーの動向を見極め、しっかりとしたコンセプト設計をしておくことが重要です。
課題によって店舗のあり方は大きく変わるのですね。AIによる接客サービスにも力を入れていると聞きました。
そうですね。AIの学習精度は日進月歩で進化しています。ビジュアル面でいうと、フォトグラメトリー技術やCG制作を強みとする株式会社CyberHuman Productionsと連携し、より写実的で現実の人間と比べても違和感のない店員アバターを制作できるようになりました。
深層学習を用いた3DCGモデル生成や、ロボットによる遠隔接客の研究といった面では、サイバーエージェントグループの研究開発組織「AI Lab」と連携して進めています。
当社はこれまでも、著名人のデジタルツイン(※2)をキャスティングするサービス「デジタルツインレーベル」などの取り組みを行ってきました。例えば、世界的トップモデルである冨永愛さんのデジタルツインが三菱地所レジデンス株式会社さんと直接広告契約を締結するなど、国内初の先進的な事例があります。こうした技術をフル活用して、新たなショッピング体験の提供を支援していきたいと考えています。
※2 現実世界に存在する物や人のデジタルコピーを仮想空間上に再現したもの。
今後はどういった普及が見込まれますか?
1つは、アパレルやコスメなど、現在ECサイトが主戦場になっているカテゴリーで、体験価値の向上を目的としたバーチャルショップ化が想定されます。これはどちらかというと、パソコンやスマートフォンを使って、Web上に構築されたバーチャルの店舗にアクセスするものです。
もう1つは、VRゴーグルを使ったパターンです。ただ、VRゴーグルは没入感に優れている反面、一般に普及するにはまだ時間がかかりそうですから、例えばリアル店舗にVRゴーグルを設置して「リアル×VR」「リアル×AR」といった使われ方が先に広がるでしょう。タブレットを使ったARサービスを提供している実店舗はすでにありますが、そのメタバース版というわけですね。
いずれにせよ、メタバース関連の事業は今後、市場規模としても大きく拡大が見込まれるため、当社では採用を増やすなどして、さらなる体制強化に努めているところです。
素直さこそが、最大の強みになる
エンジニアやCGアーティストの採用強化を発表されていますね。御社が求めるクリエイター像を教えてください。
職種によって求めるスキルはさまざまですが、スキル以外の部分であれば「素直でいい人」ですね。月並みな表現ですけれど、会社の成長に向かって一緒に働く仲間ですから、一番はそこかなと(笑)。
実際、サイバーエージェントの強みは、素直な人をしっかり採用できているところだと思っています。業界水準と比べて低い離職率を継続できているのも、カルチャーマッチがうまくいっているからではないでしょうか。
また、当社ではスタジオや設備に大きな投資をしているため、「新しい技術に興味があって使ってみたい!」という方は合っているかもしれません。技術習得にも積極的で、実際の業務の中で新しいツールを試して慣れていくこともしばしばあります。
ほかにも社内勉強会やゼミ制度が充実しており、研究開発に集中しやすいオフィス環境を整えています。自分で目標を設定してチャレンジできる人は、当社に向いていると思いますよ。メタバースはまだ新しい領域なので、企業としても常にチャレンジングなマインドを持った人が集まる組織でありたいですね。
産業の再発明の第一人者として、常に挑戦し続けたい
CyberMetaverse Productions社内のカフェスペース
今後のチャレンジについてお聞かせください。
私たちはよく「産業を再発明する」という言い方をします。約20年前にECサイトが普及したことで、私たちの購買活動は激変しました。リアル店舗で物を買うのが当たり前でしたが、そうではなくなった。まさしく、ショッピングにおけるターニングポイントです。メタバースでのショッピングは、それと同じインパクトをもたらすと思っています。
エンジニアさんで言えば、UnityやUnrealEngineの技術を生かせるフィールドは、これまで主にゲーム業界でした。しかし今はゲーム以外の、メタバースという新しい領域にチャレンジの裾野が広がっています。時代の転換期に新しい事業領域で活躍できる。これほど面白いことはないと思うのです。
冒頭に申し上げたとおり、メタバースはまだ定義のあやふやな面もあります。ECサイトのようなノウハウの蓄積も足りない分野です。だからこそ、当社が最初に定義作りをして「未来の店舗」「新しいショッピング体験」のスタンダードを築く存在でありたいのです。これからの産業を再発明していく第一人者として、常に挑戦を続けていきたいですね。
最後に、新分野へ飛び出そうと考えているクリエイターにメッセージをお願いします。
私は新卒の頃からずっとインターネット関連の事業に軸足を置き続けてきましたが、産業の変革や成長を間近に感じられたのは、とてもエキサイティングな体験でした。クリエイターにとっても、変革したり成長したりしている市場に身を置くのは、刺激的で面白いことだと思います。自己成長につながり、クリエイター自身の市場価値も上がるはずですから、新しい分野へ積極的にチャレンジすると良いのではないかと思います。
取材日:2022年8月29日 ライター・写真:小泉 真治
株式会社CyberMetaverse Productions
- 代表者名: 事業責任者 中野 英祐
- 設立年月:2022年2月
- 事業内容:企業ブランディングに合わせたオリジナルの「メタバース商空間」を提供する、バーチャル店舗開発に特化した事業会社として設立されました。
事業の初期段階ではリテール業界でリッチな購買体験を提供し、将来的にはメタバースの経済圏への普及を目指しています。
バーチャル店舗の企業ベースのメタバース空間の開発から、利用者の導線や購買データなどを活用した店舗運営を行っていきます。 - 所在地:〒150-6122 東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア 22F
- URL:https://www.cybermetaverse-productions.co.jp/
- お問い合わせ先:上記HPの「Contact」より