小さな「ワクワク」がプロジェクトとなる。クリエイティブの力で未来を描くイベント“SIW2022”の魅力とは

Vol.209
一般社団法人 渋谷未来デザイン ジェネラルプロデューサー
Jungo Kanayama
金山 淳吾
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SIW2021 渋谷駅前憲章シート広告

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SIW2021 東京アイデア会議「渋谷から東京の可能性を考える」

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SIW2021 カンファレンス 「NEWソサエティ:成長から成熟へ」

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SIW2021 ネットワーキング「移動型プライベートスペース『POTAL』あなたならどう使う?」

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SIW2021エクスペリエンス「お父さんのための こども髪結び方&アレンジ講座」

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SIW2021 アワード 最終審査会の様子

日常の中で見つけた小さなアイデアにワクワクする——。誰しもが経験することではないでしょうか。しかし、構想を実現する方法が見つからなかったり、多忙な仕事に追いやられたりして、ワクワクする感情が過ぎ去っていってしまうことも少なくありません。「ソーシャルデザイン」をテーマとした国内最大級のイベント、“SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA”(SIW)は、そうしたアイデアの種を育てるための場です。

渋谷を舞台にした都市フェスとして、まだ見ぬ未来への変化を考えるために企業や行政、そしてあまたのクリエイターが参加。学びや議論だけにとどまらず、SIWから実際に多数のプロジェクトが社会に実装されてきました。前身となるイベントから数えて6回目となる2022年は、11月8日~13日の計6日にわたって開催されます。SIWとはどんなイベントなのか、クリエイターにどのような可能性をもたらしてくれるのか。ジェネラルプロデューサーを務める金山淳吾氏に聞きました。

行政の外郭団体を超え、「未来」という何でもありのテーマに挑む

SIWが生まれた背景と、取り組み開始に至る経緯をお聞かせください。

そもそものきっかけは、2016年に渋谷区長の長谷部健さんから「渋谷の観光資源について検討してほしい」というオファーをいただき、渋谷区観光協会代表理事に就任したことでした。

渋谷区にはセンター街やスクランブル交差点、ハチ公像、明治神宮、代々木公園などの有名なスポット(場所)がありますが、こうしたスポットを観光資源として生かしきれていませんでした。コロナ前はたくさんのインバウンド観光客が訪れていましたが、新宿区や港区と比べれば免税消費額は少なく、ホテルの稼働率も低い。こうした現状を踏まえて、観光地としての渋谷のポテンシャルを発揮するにはどうすればいいのかをずっと考えていたんです。

私は、かつて電通でメディアの企画担当をしていたことがあり、テレビ番組を企画する視点で渋谷という街を眺めてみました。放送局ではレギュラー番組の編成の他に「24時間テレビ」のような特別番組のプロジェクトを動かしています。普段の渋谷の街並みがレギュラー番組だとすれば、特別番組を作る感覚で街中にコンテンツを立ち上げられるのではないか? そんな発想で、「ちがいを ちからに 変える街」という渋谷区のスローガンに基づき、2017年にDIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYAを立ち上げました。

日常とは異なる動機で渋谷を訪れる機会を作ったのですね。

はい。実際に開催してみると、多様な価値観を持った人たちが自己主張するだけでなく、今で言うところの「ソーシャルグッド」や「ソーシャルデザイン」についてたくさん意見をいただきました。この経験をもとに、社会のデザインを考え、アクションを起こし、実装していく場として、2018年からSIWを開催しています。

SIWを運営する一般社団法人渋谷未来デザインには、行政や企業、地元商店街など、街づくりを担うプレイヤーが集結しています。このチームはどのようにして生まれたのでしょうか。

渋谷未来デザインを立ち上げたのは2017年です。行政の外郭団体は縦割りのミッションの中で動くことが基本であり、観光協会も決められた役割をはみ出すことは難しい。そこで「未来」という何でもありのテーマに挑む団体を作り、一緒にアクションを起こす仲間を増やしていくことにしました。「類は友を呼ぶ」という言葉があるように、多様なバックグラウンドを持つ面白い人たちがどんどん集まってくれるようになりました。

表現を通じて新たな問いを投げかけるソーシャルデザイン

SIWは「ソーシャルデザイン」をテーマに掲げています。SIWにとってのソーシャルデザインとは何を意味するものなのか、その定義や狙いをお聞かせください。

ソーシャルデザインという言葉に込めたのは「変化」への思いです。

ただ何かを変えていくだけではありません。実現したいのは、誰もが思いもしなかったような、進化に近い変化です。思いもよらないコミュニティや、思いもよらないプロジェクトが生まれる変化のことを、私はソーシャルデザインと呼んでいます。

世の中のすでに顕在化している課題や目に見える課題は、解決策を見出せるので自治体の予算が付きますよね。たとえば「待機児童が多いのに保育施設が足りない」という顕在化した課題があれば、行政は予算を確保して保育所を増やそうとします。これは変化というよりは「改善」に近いでしょう。

SIWで生み出したい変化とは、そうした顕在化した課題への改善ではなく、まだ顕在化していない課題を乗り越えていくための方法につながるもの。「可能性」と表現してもいいのかもしれません。

新たな変化や可能性を考える上で、クリエイティブはどのような役割を担うのでしょうか。

クリエイティブには、人を楽しませながら、「デザイン的な心地よさ」と「アート的な問い」を同時に提供していく役割があると考えています。

そもそも、デザインとアートでは異なる職能が求められます。デザインには、誰かを心地よくするために表現を考え、人の心のストライクゾーンへボールを投げる意識が求められますよね。一方でアートには、表現を通じて新たな問いを投げかけることが求められます。ソーシャルデザインにおけるクリエイティブは、この両面を担う存在だと思うんです。

具体例を挙げると、SIW発の「もしもプロジェクト」(https://moshimo-project.jp/)という取り組みがあります。これは一言で言えば防災のためのプロジェクト。防災や減災とは、基本的にはまだ見ぬ悲惨な未来への備えですよね。何も備えていない状態だと顕在化して、やや面倒な課題になってしまい、防災訓練にあまり人が集まらなかったり、防災チェックシートが単なるノルマになってしまったりといったことが起こります。

確かに、重要だと認識しつつも、防災対策はつい後回しにしてしまいがちです。

そこでこのプロジェクトでは、クリエイティブな視点で防災を見つめ直し、あえて「防災」という言葉を一切使わないことにしました。

もしセンター街で飲んでいて、夜中に地震が発生したらどうする? 街中ががれきだらけになったときに、どうやって大切な人を探す? クリエイターがそうしたシチュエーションを提示することで、面倒な課題としてではなく、「もしも」をキーワードに参加者一人ひとりが災害発生時の対応をイメージできるようにしたんです。

合わせて開催した「もしもフェス」(https://moshimo-project.jp/fes2022/)というイベントでも、防災という言葉は一切使わず、障害物レースなどの催しを通じて災害時の疑似体験ができるようにしました。このように体験を通じて、時には楽しんでもらいながら、新たな問いを投げかけていくことがソーシャルデザインにおけるクリエイティブの役割です。

アイデアに賞金100万円を贈り、プロジェクト化を支援する

SIW2022では、「アワード」「カンファレンス」「渋谷アイデア会議」「エクスペリエンス」が主要なアクティビティとして紹介されています。各アクティビティの概要について教えてください。

「アワード」は、誰かの頭の中にある小さなアイデアを形にするための取り組みです。特徴は完成したプロジェクトではなく、アイデアを募集して審査すること。優勝したアイデアには社会実装費として賞金100万円を贈呈し、さらに私たちがプロジェクト化に向けて支援していきます。

「カンファレンス」は、みんなに考えるきっかけを与えたいと思って設けたもの。世の中の課題や最新トレンドを追いかけている研究者や企業関係者とともに未来を予測し、“Think to Action”をキーワードに、新たな解決策を議論します。

「渋谷アイデア会議」は今年から新たに始まる取り組みです。ワークショップやトークセッションなどさまざまな形を通じて、アイデアとアイデアを交換する場にしたいと考えています。

「エクスペリエンス」は、主に子どもを対象としたプログラム。小学生や中学生の子どもたちがテクノロジーや新たな体験によって、自分の可能性や夢を考える場です。「宮下公園のビーチコートを使ったスポーツプログラム」を実施したり、「お父さんが自分の娘の髪をヘアアレンジするワークショップ」を開催したり。テクノロジーやサイエンスの分野に限らず、多様な体験を提供しています。

こうした取り組みを通じてインプットや気づきにつなげるだけでなく、SIWからは実際に社会課題を解決していくための数多くのプロジェクトが生まれています。秘訣はどこにあるのでしょうか。

プロジェクトは、4段階あるピラミッドの3段階目に位置づけられるものだと考えています。
起点となるのは「ひらめきや好奇心」。ここから「アイデア」が生まれ、アイデアとアイデアが融合することで「プロジェクト」となり、プロジェクトを前進させていくことで「事業」になるという構造です。SIWにおける数々の取り組みは、このプロセスを後押ししていくためのものです。

プロジェクトの第一歩は「ワクワク」「ドキドキ」を人に伝えること

起点となる「ひらめきや好奇心」に気づくには、どうすればいいのでしょうか。

日常生活の中でのちょっとした気づきや、自分自身が育ってきた歴史の中に、ひらめきや好奇心の種があるはずです。誰しも「こんなことができたら面白いな」「これが実現したら困っている人を助けられそうだな」と考える瞬間があると思うんですよね。

そうしたひらめきや好奇心に揺り動かされるとき、人はワクワクします。そしてこれがアイデアになるとドキドキする。その「ワクワク」「ドキドキ」する気持ちを誰かに話し、アイデアに人が集まることでプロジェクトが生まれます。だから、まずは自分の考えていることを人に伝えることが第一歩です。

SIWでは、プロジェクトを前に進めていくための具体的なノウハウも提供しています。私自身の考えで言えば、プロジェクトの鍵を握るのは「企画書」。自らの思いや情熱を込めた企画書を作り、ロゴのイメージをドラフトアップするなどして、みんなが見たくなるものをアウトプットすることが大切です。それによってたくさんの人の意見や感性が加わり、どんどんプロジェクトが育っていきます。

アイデアをプロジェクトへ昇華させていくプロセスはとても重要なのですが、個人のネットワークの中だけではなかなか進展しないのも事実。だからこそSIWで新しい人と出会い、関係性を構築できる機会を生かして、アイデアを育てるきっかけを見つけてほしいと考えています。

金山さん自身が特に深く思い入れを持っているプロジェクトは?

私にとってはSIW自体がとても大切なプロジェクトであり、ここから実際に生まれた事業にはどれも思い入れがあります。その中であえて現在進行形の取り組みから紹介するとしたら、子どもたちを対象とした「みらいの図書室」(http://mirainotoshositsu.jp/)でしょうか。

「みらいの図書室」では、学校や放課後クラブ、塾などに居場所を見出せない子どもたちに向けて、フレンズ本町(渋谷区/児童青少年センター https://friends-shibuya.com/)という場所で、大人社会で使われているデザインツールなどを使ってクリエイティブ教室を開いています。

なぜ「みらいの図書室」のプロジェクトを始めたのですか?

私自身、小学生の子を持つ父親であることが着想の入り口でした。都心部では、小学校3年生くらいになると、塾に通う子とそうでない子で生活スタイルがいつの間にか変わっていきます。塾に行かない子どもは「中学受験しないの?」などとネガティブな捉え方をされることも。

だけど、学校で学ぶ国語・算数・理科・社会だけが大切な勉強なのでしょうか? 学校や塾に居場所がない子どもたちの中から、地球環境を本気で考えるグレタ・トゥーンベリのような人や、テクノロジーを駆使して新たなプロダクトを生み出すスティーブ・ジョブズのような人が現れるかもしれない。そうした新たな可能性を、公共のフリースクールで追いかけてみたいと考えています。これはまさに私自身が「ワクワク」「ドキドキ」していることなんですよね。

渋谷との関わりの濃淡は一切関係なし。クリエイティブの可能性を考える仲間を増やしたい

金山さんの言葉をきっかけにSIWへ興味を持つクリエイターも多いと思います。まだSIWに触れたことがないクリエイターに向けて、SIWへの関わり方や楽しみ方を教えてください。

ぜひアワードにエントリーしていただきたいですね。個人単位はもちろん、チームとして参加していただくこともできます。

SIW2022は11月8日〜13日の期間に開催されますが、アワードへのエントリーは2023年1月まで可能です。SIWでいろいろな人と出会い、新しい技術や考え方、価値観に触れてもらった上で、ワクワクやドキドキをぶつけていただけるとうれしいです。

日頃は渋谷区とあまり関わりがない人でも参加できるのでしょうか。

もちろんです。現在のSIWは渋谷区の課題解決を考えるイベントではなく、「渋谷という場所で未来を考える」イベント。日頃の渋谷との関わりの濃淡は一切関係ありません。プロジェクトを実装していく際にも渋谷に限らず、ありとあらゆる場所で進めていきたいと考えています。

アワードには多数の企業にも関わってもらっています。SIWとして選びきれなかったアイデアにも光が当たり、思ってもみなかった化学反応が起きるかもしれません。
私自身もまだまだやりたいことがたくさんあるものの、1人でできることは限られています。だから、もっともっと多くのクリエイターと出会いたい。SIWをきっかけにして、クリエイティブの可能性をともに考える仲間を増やしていきたいと思っています。

取材日:2022年9月27日(オンライン) ライター:多田 慎介

 

NOVUS Future Design Award

 

NOVUS(ノウス) Future Design Awardは、新しい発想や視点で社会を良い方向に導く企画、クリエイティブアクションを表彰するプロジェクトです。
応募資格はなく、誰でも自由に参加が可能です。ぜひご参加ください。

募集期間:2022年11月7日(月)~2023年2月6日(月)
一次審査:2023年2月20日(月)~3月3日(金) ※書類審査
最終審査:2023年3月中旬(予定) ※プレゼンテーション審査
審査方法:審査員による投票
表  彰:最優秀賞 100万円 / 部門賞10万円
各賞 副賞 アクシスコンサルティング コンパスシェア

※フェローズは、アワード審査パートナーとして参加しています。

SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022

 

日程:2022年11月8日(火)~11月13日(日)
入場料:無料
プロデューサー:金山淳吾(一般財団法人渋谷区観光協会代表理事) / 長田新子(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)
主催:一般社団法人渋谷未来デザイン
共催:渋谷区
特別パートナー:公益財団法人日本財団
企画制作:SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA実行委員会
問合せ:siw@fds.or.jp

※SIW2021の実施レポートとアーカイブ動画は、SIW公式サイトにてご覧いただけます。

プロフィール
一般社団法人 渋谷未来デザイン ジェネラルプロデューサー
金山 淳吾
SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022 エグゼクティブプロデューサー
一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事
一般社団法人渋谷未来デザイン ジェネラルプロデューサー
1978年生。電通、OORONG-SHA、ap bankでの事業開発プロデューサーを経てクリエイティブアトリエTNZQを設立。「クライアントは社会課題」というスタンスから様々なクリエイター、デザイナー、アーティストと企業との共創で社会課題解決型のクリエイティブプロジェクトを推進。2016年より一般財団法人渋谷区観光協会の代表理事として渋谷区の観光戦略・事業を牽引し、渋谷区をステージに様々なプロジェクトをプロデュース。2018年、一般社団法人渋谷未来デザインの設立メンバーとして参画。
<略歴>
2001年 広告会社電通にて衛星放送(BS/CS)の事業担当。
2010年 音楽業界へ転身し、アーティストプロモーション、映画開発、作家開発、音楽情報メディアの事業再生、環境事業開発、オーガニックレストランやオーガニックストアのプロデュースなどを担当。
2015年 クリエイティブアトリエTNZQを設立。
2016年 一般財団法人渋谷区観光協会代表理事に就任。
2018年 一般社団法人渋谷未来デザインを設立。
2020年 EVERY DAY IS THE DAY フェローとして参加。

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