海外人材を獲得し「コンテンツによる世界征服」 子どもたちの笑顔を作るゲーム業界でヒット作を生み続けるCC2代表、松山洋氏の情熱

Vol.211
株式会社サイバーコネクトツー 代表取締役
Matsuyama Hiroshi
松山 洋
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サイバーコネクトツー社内には、”社内ライブラリ”というゲーム、漫画、映像作品の貸出制度がある。

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漫画は約5000冊、映画やアニメを網羅したBlu-ray&DVD約9000本、ゲームソフト約2100本を、社内の有志で構成されたライブラリ委員会が管理する。

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サイバーコネクトツー社内では“ネタバレ”という言葉がNGワード。マンガも定期購読でチェックできる。エンタメを真っ先に見れる環境を整えている。

「.hack」シリーズや「NARUTO −ナルト− ナルティメット」シリーズなど、漫画やアニメの魅力を最大限に引き出した人気ゲームの開発を多数手がける株式会社サイバーコネクトツー(CC2)。趣味・特技は「仕事」と豪語する代表取締役の松山 洋さんは、ゲーム業界屈指のクリエイターとして広く知られています。福岡、東京、モントリオール(カナダ)を拠点に多くのヒット作品を生み続ける裏側にある思いとは。子どもたちの笑顔を作れるクリエイターが「一番えらいし、カッコいい」と背中を押す松山さんに、過去の経験やゲーム業界の現状などを伺いました。

世界展開を見据えて海外からも優秀なクリエイターを積極的に獲得

福岡本社、東京スタジオに続く開発拠点、カナダのモントリオールスタジオは2023年で設立7年目を迎ると聞きました。なぜ、日本のみならず海外に拠点を構えたのでしょうか?

ここ10年ほどでみられた、ゲーム業界の変化が背景にありました。年々、ゲームの開発規模は大きくなりつつあり、かつてのように日本で作った作品を国内だけで売り、海外では遅れてリリースして「プラスアルファで稼げればいい」程度という考え方が通用しなくなってきたのです。日本の売り上げのみに頼るのではなく、世界で同時に売るビジネスモデルに切り替えなければならない。そうした思いから、モントリオールスタジオを設立しようと計画しました。

実際に設立されるまでの具体的な流れも教えてください。

10年ほど前から外国人スタッフの採用を積極的に進めてきました。日本から世界へ展開するのであれば、やはり、海外の視点が必要だと考えたのです。アジア、アメリカ、ヨーロッパの各国を視察して回ったところ、海外でいくつかの都市がゲーム産業を支援していることを知りました。開発拠点を作ったモントリオールもその一つで、ゲーム業界での人材教育に対して行政が手厚く支援しているのは魅力でした。
また、企業側にメリットがあるのも現地での設立を決めた理由です。モントリオールでは、ゲーム業界に対して、クリエイターを雇うと、支払った年収の約33%を雇った企業へ還元する仕組みがあります。これはつまり、1000万円を支払う価値のあるクリエイターを700万円弱で雇えるということです。構想した10年前には日本の企業が1社も参入しておらず「じゃあ、自分たちが最初の一歩を」と考え、2017年夏にモントリオールスタジオをオープンしました。

日本と海外あわせて、現在スタッフの方は何人くらい働いているのでしょうか?

全体で300人弱です。福岡に200人ほどで、東京が50人ほど。モントリオールには30人ほどのスタッフがいます。日本国内では毎年、新卒採用や中途採用で人材を獲得していますが、外国人スタッフの場合は様々な事例があり、海外の現地スタッフはもちろん、各国で採用したスタッフに日本で働いてもらっているケースもあります。
比率としては、全体の20%ほどが外国人スタッフで、半数は日本語ができません。日本語ができないと「一緒に開発ができないし、コミュニケーションできないのでは?」と思われるかもしれませんが、ゲーム開発はプログラム言語さえ使えればよく、国籍や言語は関係ないのです。当初、そうした採用方針にスタッフから「コミュニケーションが取れない人では困る」という声もありましたが、とにかく「有無を言わさずやってみろ」と言って(笑)。現在は、日本やアメリカ、フランスなど、18カ国の人材がそれぞれの職場で働いていますが支障はなく、たがいに技術や文化を学び合っています。

世界中から人材が集まる環境で、松山さんはどのような役割を担っているのでしょう?

クリエイティブでは、ゲームの内容や方針などはすべて私が決めています。弊社では、スタッフから企画を募り表彰する「アイデアコンペ」を行っており、上位10個に絞った企画を精査し、実際の作品へ落とし込めるものかどうかを最終的に決めるのは、私の役割です。実際に制作へ取り掛かってからは、細かな部分は基本的に現場に任せていますが、ゲーム内のレイアウト、メインビジュアルのラフを切ることもあり、脚本などの執筆作業は自分でも担当します。

スタッフが仕事しやすい環境を作るため、現場の一人ひとりに対して「おせっかい」と言われるほどの対応

ワンフロアに集約される福岡本社開発室

松山さんの半生、仕事論などを綴った書籍「熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則」(星海社)では、漫画やアニメが好きだったことから、元々は漫画家を目指していたと明かされています。そこからなぜ、ゲーム業界へ飛び込んだのでしょうか?

大学時代の同期に誘われたからです。母校は漫画家やアニメーターを多数輩出している九州産業大学でしたが、私自身は商学部商学科に進学して、卒業後は建築物で使われるコンクリート二次製品メーカーに就職しました。当時、セガサターンやPlayStation(プレイステーション)が登場した頃に、ゲームメーカーの株式会社タイトーで働いていた同期から「ドット絵からポリゴンに切り替わり、ゲーム業界がリセットされる。今がチャンスだから、一緒に独立しよう」と言われたのです。
当初は、漫画家やアニメーターへの興味を抱いていたものの、ゲームにはなじみがなく同期の話を聞いても「ゲームかぁ…」と思う程度でした。それからゲーム業界のことを調べてみたら、CGの舞台でキャラクターが自由に動くと分かり、夢だった漫画やアニメも含めて「すべてを表現できる総合エンターテインメントだ」と気が付いたのです。「じゃあ、一生この世界に賭けよう」と思い、同期と共に前身のサイバーコネクトを立ち上げました。

その後、サイバーコネクトで大学時代の同期だった社長が蒸発するなどのトラブルを乗り越え、現在のサイバーコネクトツーを設立されました。先述の書籍では、社内で「ネタバレ」という言葉をNGにする、「絶望禁止」などのユニークなルールを設けているとありました。現在も新たなルールが誕生しているのでしょうか?

ルールというものは「今できていないから作る」ものです。時代と共に変化していくので、常に新しいものは生れていますね。毎朝、経営陣で30分間の「役員会」を行い、社内で起きている「よくないこと」を共有し、仕事だけではなく、スタッフのプライベートな悩みについても話し合います。そうした悩みを抱えているといい仕事はできませんし、現場の一人ひとりに対して「おせっかい」と言われるほどの対応をしている役員がいるのは弊社ぐらいでしょう。

子どもたちの夢を背負う職業だからこそ、SNSでの「批判禁止」もルールにあるそうですね。

社内スタッフのSNSは、すべて見ています。愚痴を書いているスタッフがいたらすぐに面談をして「どうした?」と声を掛けています。人間だから愚痴を言いたくなるのは仕方ないですが、「言えよ。聞くから」というスタンスで向き合うようにしています。

オリジナル企画の「.hack」シリーズを手がけたときには、協力いただいたクリエイターの方々を巻き込むなど、先述の書籍からは松山さんの人を動かす推進力も感じられました。元々、周囲に協力をあおぐなど、人を巻き込むことは得意だったのでしょうか?

いえ、本来は苦手です。ただ、必要だからやるのです。私の大好きな漫画の一つである「ジョジョの奇妙な冒険」の作中でジョルノ・ジョバァーナが「正しいと信じる夢がある」と語るように私自身にも夢があります。それを実現するためなら苦手かどうかは些末なことだと思っています。

また、プロジェクトを進めるという意味では直感も大切にしています。2021年10月発売の「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」は、2016年の原作の漫画が連載開始された直後に、これはいい作品だ!と直感して、企画書をゲームメーカーに持っていきました。のちに作品がアニメ化され、映画も大ヒットして社内のスタッフが「連載開始の時点で企画を立ち上げられて、尊敬します」と企画立ち上げからだいぶ時間が経って言ってくれました。正直「普段からもうちょっと尊敬してくれよ」とも思いました(笑)。

子どもたちを夢中にするべく「コンテンツによる世界征服」を目指して

近年、ゲーム業界ではオンライン化に伴うダウンロード販売の浸透、家庭用ゲーム機やスマートフォンなどのプラットフォームの選択肢増加など、様々な変化がありますが。その現状を、業界の当事者としてどう見ていますか?

オンライン化が急速に進んだここ5年ほどの変化は大きいですよね。パッケージ版とダウンロード版の割合の変化はまさしくその表れで、以前は、パッケージ版が9割、ダウンロード版が1割の比率でした。現在では売れ行きの比率は半々になりつつあります。こうしたことから、近い将来、パッケージ版はコレクターや友だちと貸し借りしたい子どもたちのためのものとなり、ダウンロード版の需要がますます高まるのではないかと見ています。我々、開発側としてはボタンを押せば世界に向けて販売できるようになったのはメリットですし、生かしていきたいです。

環境の変化もある中で、御社にとっての今後の展望も教えてください。

会社としての夢は一つで「コンテンツによる世界征服」と社内では言っています。自分たちがゼロから生み出した作品で、世界中の子どもたちを夢中にしたいのです。今は、国境を越えやすく売りやすいゲーム事業を軸としていますが、漫画、アニメにもより広く関わっていきたい気持ちもあります。ゲームでは対応言語を増やしている最中でもあります。ローカライズと言って、作品をリリースする国の言語に合わせる作業をしています。現在は、英語やフランス語、ドイツ語、イタリア語などを含む、16言語に達しました。ローカライズにより販売する国や地域を広げられますし、時間や労力、コストをかけて作ったゲームを1人でも多くの人へ届けるのは我々の使命と考えているので、今後も積極的に展開していきます。

最後に、先述の書籍で「“作ってるヤツ”が一番カッコ良くて、一番えらいんだよ!」と熱いメッセージを送っていた松山さんから、クリエイターに向けた一言をいただければと思います。

何かを作っている人間は、世界で一番「自分たちが効率が悪い」と思っている気がするのです。「時間と労力をかけて喜んでもらえるか分からない作品を作って…」と、ジメジメ考えてしまうかもしれませんが、ゲームをはじめ、エンターテインメントには夢がありますし人の欲望は無限です。例えば、人が弁当を食べられる数には限界がありますが、エンターテインメントは違う。面白いモノにふれたら「より面白いモノを」と求めてしまうのが常で、いくらでも楽しめるのです。それこそがエンターテインメントの強さで、そんな世界で子どもたちの笑顔を作れる人が一番えらいし、カッコいいのは当然です。僕だけは少なくともみなさんを褒めていきたいです。

取材日:2023年1月11日 ライター:カネコ シュウヘイ スチール:橋本 直也

 

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

 

株式会社サイバーコネクトツー

  • 代表者名:松山 洋
  • 設立年月:1996年2月
  • 資本金:4,000万円
  • 事業内容:家庭用ゲームソフト企画・開発
  • 所在地:
    【福岡本社】〒812-0011 福岡市博多区博多駅前1-5-1-10F
    【東京スタジオ】〒140-0014 東京都品川区大井1-47-1 NTビル6F
    【モントリオールスタジオ】H2T 3B3 カナダ ケベック州 モントリオール市 ガスペ通り 5455-4階
    (5455 Avenue de Gaspe, Montreal, Quebec, H2T 3B3 Canada)
  • URL:https://www.cc2.co.jp/

 

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多数のヒット作を生み出し、業界内外から注目されている福岡のゲーム開発会社サイバーコネクトツー。取引先から「サイバーさんは面倒くさい」と言われるほど、その妥協なき開発姿勢には定評があります。今回は代表の松山氏の著書でもある「熱狂する現場の作り方」の核心に迫ります。

~終了しました~

プロフィール
株式会社サイバーコネクトツー 代表取締役
松山 洋
1970年福岡市生まれ。九州産業大学商学部卒業後、コンクリート会社での営業職を経て、2001年にサイバーコネクトツーの代表取締役社長に就任。代表作に「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズ、「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル R」、「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」、「.hack」シリーズがある。

同社では、コンシューマーゲームの企画段階からキャラクターデザインや設定、サウンド、ゲームシステム、プログラムに至るまでの全工程を自社で行っており、こだわりのあるクオリティ高い作品には、世界中のファンに定評がある。また松山氏原作のゲーム業界お仕事マンガ「チェイサーゲーム」(KADOKAWA)は、2022年にテレビ東京で実写ドラマ化され話題に。

著書に「熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則」(星海社新書)などがある。趣味は「仕事」。特技は「仕事」。休みの日は「仕事」。

愛称は「ぴろし」。

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