第5回FFF-S最優秀賞で「将来の選択肢が一つ増えた」

Vol.215
学生映画監督
Hanna Okubo
大久保 帆夏

未来の映画監督や映像クリエイターを発掘、応援する「フェローズフィルムフェスティバル学生部門(以下、FFF-S)」は、クリエイティブの世界で活躍したい学生を後押しするコンペティションです。国内の学生を対象に4分間のショートムービーを募集し、樋口真嗣さんや清水崇さんなど、現役で活躍する映画監督やプロデューサーが賞を選定します。

第5回目となる「FFF-S 2022」の受賞作品が、2023年1月に発表されました。最優秀作品には、賞金50万円のほかに、BSデジタル放送のテレビ番組にて全国放送の権利が与えられます。 また、本大会より、新たに「ソニーミュージック賞」が登場。受賞者には、ソニーミュージックに所属するアーティストのMV監督権が贈られました。
クオリティの高い103の応募作品の中から最優秀賞に選ばれたのは、当時大学1年生の大久保 帆夏(おおくぼ はんな)さんが監督を務めた『「よっ。」』。授賞の際に「元々この作品は、大学の課題として作られた物でした」と話した大久保さんに、FFF-S 2022に応募したきっかけや、作品に込める思いを伺いました。

人生初めてのコンペが「FFF-S 2022」

まずは、最優秀賞の受賞おめでとうございます! 受賞発表の際にご自身の名前が呼ばれたときは、どんな気持ちでしたか?

まずは、シンプルにびっくりしました。自分の信じてきた「かっこいい」が、自分以外の人にも「かっこいい」と思ってもらえるんだなって。

FFF-Sに応募した作品は、元々は大学の課題のために作成したものとお聞きしました。「課題作品をコンペに応募しよう」と思ったのはどうしてですか?

信頼している大学の先生に、作品を見ていただく機会があって。そのときに、今後の活動についても相談したんです。その際に「君の作品は、国内外を問わずコンペに出したほうがいい」とアドバイスをくれたんですよね。その言葉を受けてすぐに、直近の課題の締切に近いコンペを探して、見つけたのがFFF-Sでした。

大久保さんにとっては、人生で初めてのコンペ応募だそうですね。コンペによって応募条件や審査方法は違いますが、FFF-Sに決めた理由はなんでしょうか?

当時見つけたコンペの中では、FFF-Sが一番しっかりしていたんです。応募作品がどのような流れで審査されるのか、どこで放映されるのか、すべて開示されていたので。
審査員の顔ぶれに、有名な作品を手がけている方々がいたのも信頼度が高まりました。あとは、作品の著作権が、作った側に帰属されるのも安心できました。

FFF-Sでは、一次審査に通過した8作品と、特別招待の5作品が、渋谷ユーロライブで上映されました。ご自身の作品を映画館のスクリーンで見たとき、どう思いましたか?

たくさんの人に見てもらえることが、本当にうれしかったです。家族はもちろん、小学校時代の友達や、中学校の恩師まで劇場に来てくれました。みんなの反応が気になって、上映中はスクリーンではなく、客席のほうを見てしまいました。

最優秀賞の受賞に対して、ご自身で手応えはありましたか?

「いけそう!」とはまったく思っていなかったけど、自分の作品を信じてはいました。自分が信じているものが、誰かの心にも刺さってくれたら……という願いはありましたね。

授賞式の後には、審査員や、ほかの受賞者の方も参加する懇親会があったそうですね。

別の大学の人たちと話す機会はあまりないので、新鮮で楽しかったですね。また、懇親会にいる大人の方たちが、自分を「学生さん」ではなく「クリエイターの1人」として話しかけてくれることに、とても感動しました。

作品に込める「弱さを抱えていても、生きていい」の思い

大久保さんが「一生をかけて欲しかった言葉を、審査員の方にもらえた」と授賞式でお話ししていたのが、とても印象的でした。

審査員を務める俳優の広山 詞葉(ひろやま ことは)さんに、「作品を観て、弱くてもいいやと思えました。いろいろな人の人生を救う作品を、これからも作っていくんじゃないかな」と言ってもらえたんです。その言葉を聞いたときは、本当に生きていてよかった……! と思えました。

「人の人生を救う作品を作ること」が、大久保さんの創作活動の軸なのでしょうか?

自分の作品を見た人が、「弱さを抱えていても、それでも生きていていい」と感じてくれたらいいな、とは思っています。創作活動を始めた理由に、自分の生きづらさが関係しているんです。自分の苦しい経験を映像にしてみたら、それを見た人が「かっこいい」と言ってくれて。自分の弱さが武器になるんだと、そこで初めて気づいたんですよね。
作品にこうして評価をいただき、誰かに作品を届けられることが、「弱さを抱えて生きてもいい」という証明になるんじゃないか……と思っているんです。

作中に「世の中強い人間より弱い人間のほうが多いわけだし、お前は自分の中からなくしたいものでも、それに救われる人間もいるんじゃないの?」というセリフがありました。ご自身の体験が、このセリフにつながっているんでしょうか。 

そうです。誰しも、弱い部分はありますよね。その弱さにもがいて、他人や自分を傷つけてしまうのは悲しいし、悔しい。その気持ちは、主人公の「悔しい。悔しい。悔しいので、絶対に死んでたまるかと思ったのだ」というセリフにも反映されています。

 

 

実写映画の撮影も、初めての挑戦

大久保さんは、元々はクレイアニメなどを手がけていたんですよね。実写作品に挑戦するのは初めてだったそうですが、ご苦労はありませんでしたか?

キャストのアポ取りや、機材の準備など、未経験のことはたくさんありました。撮影で道路を使うなら、警察に届けも出さなくてはいけませんし。そもそも、ロケ地の確保自体が難しかったんです。公園やグラウンド、駅など、希望した場所はほとんど撮影NGでした。

実写作品ならではの大変さがあったんですね。

そうですね。兄の同級生のご両親が営む商店に撮影許可をいただいて、当時のできる範囲で撮影を進めました。作品の最後に出てくる80歳になった主人公役は、私の祖父にお願いしたんですよ。撮影場所も、祖父の自宅を借りました。
主人公と、主人公の幼馴染も、大学と中学時代の友達に出演をお願いしました。実は、友達をイメージして、先に脚本を書いたんです。「出演許可を取る前に、脚本ができてしまった!」と焦ったので、キャストとして作品に出てくれて本当に感謝しています。

大学の課題として作ったものは、3分間の作品だったそうですね。FFF-Sの募集は4分間のショートムービーでしたが、募集要項に合わせて修正したんですか?

そうです。10月2日に撮影をして、10月18日に大学に課題として作品を提出しました。FFF-Sの募集締め切りは同じ月の10月31日だったので、徹夜で4分の作品に直しました。

FFF-Sに応募して、将来の選択肢が増えた

FFF-Sに応募する前と後で、大久保さんの中で変化はありましたか?

元々は、将来的に「実写を撮ろう」とは、全く考えていなかったんです。自分が誰かに演技指導をするイメージもないくらいでした。今回、FFF-Sで実写作品を評価していただいたことで、将来の選択肢に「実写を撮る」が入ってきたのは、自分の中で大きな変化でした。
コンペでの評価は、今後のお仕事につながっていくかもしれないから。自分では気づいていなかった可能性を、人に見つけてもらえることはあるんだと思いました。

自分の作品に、あまり自信が持てない方もいるかと思います。大久保さんは、完成した作品に対して「もっとこうすればよかった」と後悔することはありますか?

「あそこのロケーションは、もっと別の場所がよかったかもしれない」など、作品を見返して気づく場合はあります。でも、それは次回にいかすだけで、後悔にはならないです。いろいろ思うところはあっても、完成したものが、そのときの自分に作れる最高傑作だから。

後悔するのではなく、次の作品に意識を向けるんですね。ちなみに、最優秀賞の賞金でカメラを購入したとお聞きしました! そのカメラで撮りたいものは決まっていますか?

次回は、またクレイアニメに挑戦しようと思っています。大学の課題に取り組む時間が長いことに加え、通学で片道2時間半かかっているので、アルバイトをする時間がなくて。作品づくりのためのカメラを賞金で買えたことは、とても助かりました。

在学中だと、学業以外の時間を作るのも大変ですよね。それでも今回、大久保さんはFFF-Sに応募してくださいました。振り返ってみて、応募のメリットはなんだと思いますか?

やっぱり、多くの人の目に触れるのはメリットだと思います。大学の中だけで活動していると、学内の人に見てもらって、そこで完結してしまうかもしれないし。今はインターネットで作品を公開できるけど、マーケティングを上手にやらないと、意外と広がらないですよね。
FFF-Sによって、自分の作品が大々的に発表されたことは、とてもありがたかったです。

応募を迷っている方の中には、人の目に触れることが不安な方もいるかもしれません。そんな方たちに、なにかアドバイスをいただけませんか?

自分の中の「かっこいい」から出ないのは、とても居心地がいいと思うんです。誰からも否定されないし、笑われない。でも、そこから出ることで、人生が変わる可能性はある。
自分が信じていたものと、世間のズレを感じるのは、すごくショックですよね。でも、100人中、100人に刺さらなくてもいいと思うんです。100人中、1人の心に届けばいい。たった1人に言葉をもらえるだけで、「生きていてよかった!」と思えるんじゃないかな。

「100人中、たった1人に届けばいい」という言葉は、あと一歩を踏み出せない方に勇気を与えてくれるのではないかと思います。

もし外の世界に踏み出して、やっぱり合わないと思ったら、自分の世界に戻ってもいいんですから。旅行みたいな気分で、外の世界に行ってみてもいいと思います。

取材日:2023年3月31日 ライター:くまの なな


 

第6回フェローズフィルムフェスティバル学生部門 作品応募情報発表!

今年で6回目を迎えるフェローズフィルムフェスティバル学生部門の開催概要・作品応募情報を公式ホームページにて公開いたしました。4分の短編映画を募集いたします。ジャンルは不問です。
学生クリエイターの皆さまのチャレンジをお待ちしております!

詳細はこちら→https://www.fellow-s.co.jp/fff-s/

プロフィール
学生映画監督
大久保 帆夏
多摩美術大学 情報デザイン学科メディア芸術コース 在学中。
大学1年次に短編映画「よっ。」で第5回フェローズフィルムフェスティバル学生部門 最優秀賞を受賞。
ホームページ(Webポートフォリオ):https://www.okebono.com
Twitter:https://twitter.com/HannaOkebono

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