自由なアイデアで若者が社会を変える! “NOVUS FUTURE DESIGN AWARD”受賞者が語る、未来へのワクワク感

Vol.216
一般社団法人渋谷未来デザイン
NOVUS FUTURE DESIGN AWARD 2022
吉浦璃子氏、川野里菜
(左)最優秀賞、U19賞:吉浦璃子さん、(右)Culture Design賞:川野里菜さん

2022年11月に開催された、「ソーシャルデザイン」をテーマとする国内最大級のイベント“SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA”(SIW)。まだ見ぬ未来への変化を考えるために企業や行政、多数のクリエイターが参加したSIWでは、新たなアイデアの種を募集し、社会への実装を目指すアワード“NOVUS FUTURE DESIGN AWARD”が目玉企画の一つとして実施されました。

本記事では、このアワードで最優秀賞およびU19賞を受賞した吉浦璃子さん(受賞アイデア:「未来創造部」)と、Culture Design賞を受賞した川野里菜さん(受賞アイデア:「都市の菓子化プロジェクト」)にインタビュー。お二人には、さまざまな領域のプロのコンサルタントに相談できるスポットコンサルティングサービスが提供され、アイデアの社会実装へ準備が進んでいるといいます。
それぞれの着想の背景や企画に込めた想い、そしてアイデアの具現化に向けた今後の展望を聞きました。

アイデアがあっても、「ただの高校生」「ただの若者」だと話を聞いてもらえなかった

お二人の普段の活動について教えてください。

吉浦さん:私は現在アメリカに留学中で、今年の秋から高校3年生になります。2022年1月にクラリコというNPO法人を立ち上げ、日本の小中学生が海外に目を向けるきっかけを作る活動をしてきました。最近では私自身の経験をもとにして、小中学生向けに留学や夢を持つことの意義を伝えるキャリア教育のため、出前授業を行う機会も増えています。
川野さん:私は武蔵野美術大学を卒業後、1年間の作家活動を経て、現在は都内にあるパティスリー「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」でインハウスデザイナーとして働いています。並行して、お菓子をテーマにした作品作りを個人で続け、展示などに参加しています。

なぜ今回の“NOVUS FUTURE DESIGN AWARD”へ応募したのでしょうか。

吉浦さん:アメリカの高校で日本には無かった色々な機会を経験したことで、「日本で起業に興味をもつ全国の高校生をつなげたい」と考えるようになりました。ですが、私はこれまで自分自身のアイデアを表現したりプレゼンしたりした経験が少なく、構想をどのように実現すればいいのかわかりませんでした。そんなときにSIWを知ったんです。「アイデアを表彰するだけではなく、実現に向けて一緒に伴走する」というコンセプトに触れ、応募を決めました。
川野さん:私の場合は、作品を見てくださったお客さまの言葉がきっかけでした。お菓子をテーマにした作品を展示する中で「実際に食べてみたい」「これは東京の新しいお土産になりそう」といった声をかけていただけるようになったんです。そこで、作品を実際のケーキとして作るためにモチーフにした有名な建物の運営元などへ問い合わせていったのですが、ほとんど相手にしてもらえず……。途方に暮れていたところでSIWのアワード募集を知り、アイデア実現につながるかもしれないと思って応募しました。
吉浦さん:状況はまったく異なるものの、川野さんの苦労にはとても共感します。肩書きのない「ただの高校生」「ただの若者」だと、話を聞いてもらうだけでも本当に大変ですよね。
川野さん:そうなんです。「まずはアイデアだけでも聞いてほしい」と思うのですが、その段階にたどり着くことさえできず、モヤモヤしていました。

街の風景がお菓子に変わる「ワクワク感」を共有したい

受賞されたアイデアについてぜひ詳しくお聞かせください。川野さんの「都市の菓子化プロジェクト」とは、どのような取り組みなのでしょうか。

川野さん:表参道に建つハイブランドストアのビルなど、東京にある特徴的な建物の味覚と視覚の共感覚を探し出し、お菓子で再現するプロジェクトです。ランドマークをお菓子にすることで街の話題性を高めたり、さまざまな可能性が考えられます。
このプロジェクトの目的は新たな視点や価値を社会に提案し、日常をより豊かにすることです。ただのアート作品として終わらせるのではなく、何か社会に活かせるのではないかと思い体験型の案を考えました。

ひと目見て「○○のビルだ!」と想起できるような工夫が凝らされていますね。

川野さん:青い外観が特徴のビルは大きなゼリーで、茶色のビルはフォンダンショコラでそれぞれ表現しました。特徴的なオブジェクトや、窓ガラスのてかり具合も再現してフェイクスイーツの試作品を作っています。
私はもともとお菓子が大好きで、街を歩いているとブロック塀がさくさくのクッキーに見えたり、雲がふわふわの綿あめに見えたりするんですよ。そうした「見立て」がアイデアの出発点でした。本当は食べられないはずの街の建物が、おいしそうなお菓子に変わったら……? そんなワクワク感を人と共有したくて、作品作りに反映させてきました。
目指しているのは新しい視点の提示です。私の作品を通じ、視点を切り替えて物事を見る楽しさを伝えていけたらいいなと考えています。
 
ガラスの艶はゼリーのシズル感に繋がり、壁面に入った白い装飾は記憶のどこかにあるデコレーションクリームを思い出させる。
もしかしたら表参道や渋谷などに沢山の人が集まるのは、建物が美味しいスイーツだからかもしれない。

 

起業家志望の中高生が全国から集まり、ともに学び合う「部活動」

吉浦さんが提案する「未来創造部」についてもお聞きしたいです。

吉浦さん:未来創造部は、起業やイノベーションに興味をもつ全国の中学生・高校生がオンラインで交流し、将来につながる有益な関係性を築いていく部活型のプラットフォームです。勉強やスポーツに取り組むのと同じように、起業についても社会に出る前の中高生の段階から学べるようにしたいと考えています。

具体的には、どのような枠組みを想定しているのですか?

吉浦さん:一つはディスカッションしたりアイデアを共有したりする「プラットフォームとしての場作り」です。部員として登録した生徒は思いついたアイデアを気軽に投稿でき、ほかの部員からコメントをもらいながら磨き上げていくことができます。
次に「交流会」。私が学ぶアメリカの高校ではビジネス関連のカリキュラムが充実していて、魅力的な授業も多いんです。そうしたプログラムを参考にしながら、ゲストスピーカーも招いて、互いに学び合える場をオンラインで設けたいと思っています。
そして「大会イベント」の開催も考えています。運動部や文化部が全国の舞台を目指すように、起業を目指す優秀な中高生が認知される場があってもいいと思いませんか?パブリックスピーキングやディベートなどの大会を開き、イノベーションにつながるスキルを高め合える場です。
ただ、現在アイデアを改善しているところなので、具体的な内容は変わるかもしれません。

なぜ吉浦さんはこれらの「場」を作りたいと考えたのでしょうか。

吉浦さん:私自身が起業に強く興味をもっていたからです。自分でNPO法人を立ち上げるなど、一定の経験を積むことはできましたが、起業家志望の全国の中高生とつながる機会はありません。起業に生かせるスキルを学びたいと考える中高生は全国にたくさんいるはず。高度な習い事ではなく「部活動」の形で、仲間と一緒に学び合える場を作りたいと思ったんです。

「美大では学べないことがある」「ワクワク感がビジネスにつながる」——互いのアイデアから得た刺激

“NOVUS FUTURE DESIGN AWARD”の最終審査会は緊張感に満ちた場だったと思います。プレゼンテーションを終えて、どんなことを感じましたか?

吉浦さん:自分の経験不足や知識不足を強く感じましたね。審査員の方々からスポンサーの獲得方法について質問された際には、とんちんかんな回答をしてしまいました。これまでのNPOでの活動にはそんなにお金がかからないので、マネタイズをちゃんと考えたことがなかったんです。高校生という立場に甘えず、大人としっかり議論できるだけの知識を身につけなければいけないと思いました。
川野さん:私も同じくです。ビジネス視点での質問には、しどろもどろになっていました。フリーで作家活動をしている際にもマネタイズのことはほとんど考えていなかったんですよね。審査員の方々には「ビジネスの知見がないので教えてください!」というスタンスでぶつかりました。

お互いのプレゼンテーションを聞いた感想は?

川野さん:未来創造部のアイデアを聞いて、「私も高校までの期間で起業やイノベーションを学びたかった」と強く思いました。美大出身者には、素晴らしい作品を生み出せるのに、それをビジネスへつなげることに苦労している人が少なくないと感じます。美大では作品や技術に関するアドバイスをたくさんもらえますが、バイヤーさんとのやり取りなどビジネスの実践は学べません。私も未来創造部に入部してみたいです。 
吉浦さん:私は都市の菓子化プロジェクトについてはじめて聞いたとき、とてもワクワクしました。私も小さい頃は自分で考えたお菓子を落書き帳に書いたり、お菓子の家を空想したりしていましたが、それをキャリアにつなげる発想はまったくありませんでした。「川野さんのようにワクワク感を維持したまま実践的なビジネスにつなげられるんだ」と、新しい可能性を見せていただいた気がしています。

「アイデアを伝えるって面白い!」——SIWはワクワク感が広がっていく場所

受賞を経て、今後はSIWを運営する一般社団法人渋谷未来デザインやパートナー企業とともに、アイデアの社会実装を目指す計画だと伺いました。現在はどのように進捗しているのでしょうか。

川野さん:私はこれからコンサルタントの方とお会いし、製品化に向けた具体的な相談をする予定です。これまでは実際の建物を菓子化する際の権利関係について調べたり、私の作品を実際にお菓子にできるのかなどを考えたりしてきました。今後は大量生産を見据えた原価計算など、具体的なポイントを押さえていきたいと思っています。
吉浦:私は先日コンサルタントの方とお会いし、私の考えをあらためてお話しした上で、いくつか提案をいただきました。その話し合いを踏まえて2回目の打ち合わせでは事業構想をまとめて提出する予定です。計画に応じて、各分野のプロフェッショナルの力をお借りしていきたいと考えています。

すでにさまざまな形でアイデアの実装が始まっているのですね。お二人の姿に感銘を受けて、SIWやNOVUS FUTURE DESIGN AWARDに興味をもつ人も増えるのではないでしょうか。お二人からぜひメッセージをお願いします。

川野さん:このアワードは一般的なコンペとは異なり、ただ競争するのではなく、「未来を良くしていきたい」という思いをもつ人が集まって手を取り合う場です。私はもともと人前で話すことが苦手でした。勇気を出して応募したことでアイデアを言葉にする大切さを学び、みんなで考える楽しさを知りました。この取り組みがさらに広がり、ともに未来を考える仲間が増えていってほしいと思っています。
吉浦さん:子どもの頃は誰でも、思いついたアイデアをどんどん口に出せるんですよね。成長するにしたがって現実的なことばかり考えるようになって、アイデアを素直に人に伝えられなくなる。SIWは、そんな壁を壊してくれる場だと思います。「アイデアを伝えるって面白い!」。そんなワクワク感が広がれば、日本をもっとクリエイティブで、楽しくて、魅力的な国にできるのではないでしょうか。

取材日:2023年5月29日 ライター:多田慎介

NOVUS FUTURE DESIGN AWARD 2022

最終選考会:2023年3月26日(日)
主催:一般社団法人渋谷未来デザイン
メインパートナー:アクシスコンサルティング株式会社
審査パートナー:株式会社フェローズ、JIBUN HAUS.株式会社、一般財団法人渋谷区観光協会、WEEKEND有限責任事業組合
審査部門:Culture Design, Woman’s Wellness、Play Diversity、U19、Good Aging
審査員(順不同):
澤邊芳明(株式会社ワントゥーテン代表取締役社長CEO)
吉柳さおり(ベクトルグループ 取締役副社長 兼 株式会社プラチナム 代表取締役)
東浦亮典(東急株式会社 執行役員 フューチャーデザインラボ管掌・沿線生活創造事業部長)
長田新子(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)
久保田夏彦(一般社団法人渋谷未来デザイン コンサルタント)
小池ひろよ(渋谷区観光協会 理事・事務局長)
金山淳吾(一般財団法人渋谷区観光協会代表理事)
牧野圭太(DE Inc. CEO Copywriter / Planner)
表彰: 最優秀賞100万円 / 副賞:アクシスコンサルティング「コンパスシェア」
   部門賞10万円 / 副賞:アクシスコンサルティング「コンパスシェア」

アワードの受賞チームには、さまざまな領域のプロのコンサルタントに1時間から相談できるスポットコンサルティングサービス「コンパスシェア※」を提供し、受賞アイデアの実装化をサポートします。

「コンパスシェア」について 「コンパスシェア」は、企業の経営や事業における課題を、さまざまな領域のプロのコンサルタントに1時間から相談できるサービスです。
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