ドラマ『憑きそい』撮影の舞台裏に迫る・後編 世界で活躍するトップクリエイターの提言
“インスタ最恐”とSNSで話題になったホラーコミックを原作としたFODオリジナルドラマ『憑きそい』。作者が遭遇する身の回りの恐怖体験をリアルに描いた漫画作品集が、1話約12分の全9話で映像化されたショートドラマ作品です。
『憑きそい』の製作には、注目の若手や海外の第一線で活躍する数々のクリエイターが参加しています。また、海外の映像製作で多用される「現場編集」という手法を取り入れるなど、新たな取り組みへの挑戦も行われています。
後編の本記事では、キャラクタースーパーバイザー(ヘアメイク)を担当する橋本申二さん、カメラマンの清川耕史さんのインタビューをお届けします。作品にかける思いや新たなチャレンジを伺ううちに、世界を舞台に活躍するトップクリエイターとしての矜持が浮き彫りになりました。
【Interview 1】キャラクタースーパーバイザー 橋本申二さん
ランドスケープとして捉えるキャラクターづくり
ホラー作品の撮影にあたって橋本さんのチャレンジを教えてください。
単に「幽霊を見たから怖い」という域を超えて、人間の嫌な部分や奥底に潜むマイナスの感情といった、人間の本質を浮き彫りにするヒューマンドラマになれば面白いと思っています。1作品約12分という短いドラマで人間の本質や機微を表現するのが、一つのチャレンジですね。
そのために、キャラクターの見せ方にはこだわっています。私は、キャラクターのつくり方をランドスケープ(景観や風景)として捉えています。まず舞台となる撮影場所があり、美術や衣装があり、エキストラがいて役者がいて、最後に主役が中心に据えられる。主役のキャラクターから全体をつくるのではなく、撮影する空間の中にどう主役を配置していくかを考えるんですね。その上で、シーンやカットごとに主役の髪型を変えたり、メイクの仕上がりをあえて一段上げたりします。今回の作品でも、9作品それぞれにギミックを凝らすのはもちろん、作品ごとに登場人物の表情が変化していくような見せ方をしたいと考えています。
キャラクタースーパーバイザーとはどういった役割なのですか?
監督とキャストの間に入り、映像の中で人物像がどう見えるか、脚本から人物像をどう読み取るかなど、効果的なキャラクターづくりを一緒になって考えていくポジションです。一般的にゲームやアニメーションの製作ではよく耳にする役割ですが、2.5次元の世界観の中はもちろんですが、ヒューマンドラマを大切にする世界三大映画祭で上映されるような作品にこそ私が必要だと考えました。
ヘアメイクはこれからもしていきますが、ヘアメイクという名前のポジションは後進に譲り、さまざまな監督の相談に応えながら、より多くの作品に関われるポジションとして、新たな立ち位置をつくりたいと思っています。さらに、映画やドラマ界にキャラクタースーパーバイザーという役割を浸透させるのが、私にとっての新しいチャレンジです。
海外では、一人のアーティストとして扱われる
橋本さんは、世界三大映画祭の参加作品も多く手がけられています。国際舞台で感じたことをお聞かせください。
私が参加したアッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』は、主に日本で撮影が行われました。驚いたのは、彼が助監督もカメラマンも帯同させず、たった一人で来日したこと。通訳も日本在住の方を起用してアグレッシブに撮影を進める彼を見て、私も「もっとチャレンジしていいんだ」と痛感させられました。さらに、チャンスがあればできるだけ多くの海外作品に携わりたいと思ったんです。活躍の舞台を世界に広げられたきっかけの一つは、キアロスタミ監督に学んだチャレンジの姿勢かもしれません。
フランスをはじめ海外で仕事をしていると、私たちはヘアメイクさんではなく、一人のアーティストとして扱ってもらえます。カンヌ国際映画祭などでは、さまざまなアーティストから「あなたはどの作品に参加したの?」と声をかけられますし、ジャ・ジャンクー監督が「キアロスタミの作品を手掛けたヘアメイクが日本にいるそうだ」と、わざわざ私を探して、オファーにつながったこともあります。ある時はカンヌ映画祭で自分の映画を見終わった、ジェレミー・トーマスさんから「ヘアメイクがとてもよかった。」とメッセージをいただいたことも嬉しかったです。
日本はマーケットが日本だけで成熟しているため、映像製作の仕事は国内だけで回りますが、やはりガラパゴス化している感は否めません。加えて今の時代は、デジタルの普及で脚本から撮影や編集、公開まで自分でできるようになりました。世界との距離が一気に縮まっている今、映画製作を理解し技術パートとして海外でもしっかりと仕事ができるクリエイターが求められていると思います。
クリエイターの可能性は作品が語ってくれる
海外で活躍を志すクリエイターにアドバイスをお願いします。
一番大事なのは、作品です。その人に何ができるのか、どういう可能性が見えるのか、作品が語ってくれますから。いい作品を海外に持っていき「この作品は僕が作りました」といえば、言葉は違えど映画という共通言語できちんと伝わります。作品を見た監督やプロデューサーからオファーをいただけるようになり、作品のファンがアシスタントになっていく。私たちはアーティストですから、フォトグラファーや画家がギャラリーで個展を開くのと同じで、スクリーンが個展の場なのです。
クリエイターとして一番面白い部分であり、かつ大切なことは、自分の作品が映画館という発表の場にあり、見た人たちがどういう反応してくれるかです。作品への反応が次の仕事のオファーにつながるわけですから、自分の好きな作品や自分の未来につながる作品で仕事をした方がいいですよね。
そのためにはどうすればよいのでしょうか?
今からどういう道筋をたどって、何年後にどの位置にいたいのか、自分をしっかりとマネジメントできる自己プロデュース能力が必要です。短編の国際映画祭から大きな規模の映画祭まで、今は世界中で開催されていますから、チャンスはたくさんあります。そしてチャンスをつかんだ際、自分をどうプレゼンテーションしたいのか、普段から目標を高く設定しておくべきでしょう。
私は常に、そうした目標値の高い方々と仕事をしたいと思っています。アーティストとして、自分がしてきた仕事とできあがった作品にプライドを持ち、新しいチャレンジを続けていきたいと思います。
橋本申二(キャラクタースーパーバイザー)
ヘアメイク事務所 atelier ism® 代表
「ライク・サムワン・橋本申二イン・ラブ」「山河ノスタルジア」「寝ても覚めても」「日本のシドニー」他
【Interview 2】カメラマン 清川耕史さん
どこにいても仕事に打ち込める環境が整ってきた
清川さんは、2013年にアメリカでのキャリアをスタートされています。この10年間で感じた変化をお聞かせください。
日本で、多くのCMやミュージックビデオなどを手がけてきましたが、アメリカで仕事をえるためには、アメリカで作品をつくって評価されなければなりません。渡米後は同じ志をもつ人たちと一緒に学生映画の製作からスタートしました。現在はプロジェクトにあわせて、約2週間ごとに日本とアメリカを行ったり来たりしています。
渡米当時は、まだオンラインミーティングが一般的でなく、打ち合わせをするにも現地まで行って参加しなければならないため、日本とアメリカで仕事を両立させるのは困難でした。しかし、今はツールもたくさんありますし、場所に関係なく仕事ができるようになりました。仕事をとりまく環境が一変しましたね。動画配信サービスの普及もその変化の一つです。
作品が世界に配信できるようになり、クリエイターは自身の作品が海外でどう評価されるかも考えなければいけない時代になりました。日本から見た海外の映像文化と、実際の海外の映像文化は違いますし、視聴者の趣向も異なります。日本と海外のギャップを埋められるよう、今回の作品でも気がついた部分があれば提案しながら、少しでも力になれればと思います。
日本と海外、両方のご経験を作品づくりに生かしたいとお考えなのですね。
はい。コロナ禍を経て偶然にも日本と海外で仕事ができるようになったのは、非常にラッキーでした。日本の景色を撮影するにしても、日本に長く滞在して撮るのと、海外から帰ってきたばかりの目で撮るのとでは違ってきて、同じ景色でも新鮮に感じるんですよね。10年前に渡米したときは苦労しましたが、日本と海外、両方の感覚を持って仕事ができるのは、今になって思えば大きなメリットだと感じています。文化の違いを楽しみながら作品づくりに取り組んでいます。
失敗を恐れず、チャレンジする作品づくりを
どういった文化の違いがあるのですか?
アメリカでは、作品が認められなければ、プロとしての仕事は入ってきません。自分の思うようにつくった作品が当たるか当たらないか、評価されたかされないかだけの、シンプルな考え方です。多くのクリエイターが自信を持って、楽しみながら作品をつくっています。チャンスをつかむのはほんの一握りの人だけで、小さな映画祭に出品しただけで終わってしまう人もほとんどです。それでも、クリエイターはみんな熱量があり、撮影には地域の人たちも協力的です。映像文化が認められていて、それだけみんな映画が好きなのですね。
日本はまず助手から入り、次第にチャンスをもらって成功していくパターンが多いです。「こうあるべきだ」「こう撮らなければいけない」と教えられて育ち、続けていればある程度のところまでは到達できる。日本のいい部分だと思いますが、“ある程度”を超えられないケースが多いと私は感じています。
たとえば、アメリカの大手動画配信サービスが日本でも浸透してきて、アメリカのトーンをまねた日本の映像作品が増えてきました。どれも上手である反面、大体同じようなトーンになっている感が否めません。もっと自由に失敗しながら日本独自のトーンをつくっていけばいいのですが、ビジネスなので失敗できない状況があるのも事実です。決してアメリカがよくて日本が駄目というわけではなく、日本でもチャレンジする作品づくりが増えれば、海外で評価されやすくなるのではないかと思います。
日本と海外、両方の経験から発信を続けたい
ドラマ『憑きそい』の撮影に対するチャレンジを教えてください。
今回の作品では、監督4人のスタンスがそれぞれに違い、どの撮影も楽しみながら臨めました。その分気をつけたのは、9話すべてが同じトーンにならないように撮ること。カラーコレクション(映像の色彩を補正する作業)の際にも少しずつ変化を加えて、ショートフィルムであることも鑑みながら流れをつくりたいと思っています。
一方で今回は全体の統一感を重視したいという監督の製作意図があり、カメラマンは9話すべて私が担当しました。ですので、全体のバランスを取ることも大切です。少しずつトーンを変えて、9話の中でいかに起伏をつくれるかが、私にとって今回のチャレンジの一つです。映像のトーンに注目して9話の違いを見ていただけると、また違った面白さがあるかもしれません。
今回の作品で、日本と海外の両方の視点から取り組んだことはありますか?
日本の映像製作は、演出部が企画や撮り方を決めて撮影部や照明部に作業を振り分けていきます。各部署を信用して「あとは任せた」というやり方ですね。一方アメリカでは、部署の間で討論したり意見交換したりする機会が、もっと多いと感じています。言葉がなくても意思疎通できる、いわば“阿吽の呼吸”で進められるのは日本のいいところですが、自分の意見をきちんと言語化する大切さもアメリカで学びました。
そこで今回の作品では、事前にシューティングプランを作成して、自分の考えをスタッフと共有するようにしました。現場で撮影の順番や表現の変更が入ることも多いですから、あらかじめ「コントラストを変えたい」「モノトーンのバージョンもほしい」といったプランをあらかじめ伝えておくんです。もちろん、自分の意見を通すことが目的ではなく、プランに対する各スタッフの意見を聞いてコミュニケーションを図るためです。その意味では、スタッフ間で活発に意見交換できる雰囲気づくりも今回の現場はチャレンジでしたね。
また、アメリカはどんな映画の製作現場でも、一日あたり12時間以上の労働をしてはいけないと厳格に決まっています。それは学生映画であっても同じです。しかし、日本は長時間労働の現場もまだ多く見られます。日本で仕事をするときは日本の慣習にあわせながらも、日本と海外の両方を経験した立場として、働き方の違いについても段階的に発信していきたいと考えています。
チャンスがあれば、とにかく行ってみる
海外での活躍を目指すクリエイターにメッセージをお願いします。
とにかくチャンスがあれば、まず行ってみることです。もちろん、はじめから仕事はありません。それでも、才能や実績がなければ誰も振り向いてくれない厳しさは、一度早めに味わっておくといいですね。厳しさを味わって日本に帰ってくると、作品づくりの姿勢に変化が生まれます。海外に向けた作品をつくるときにも、海外の現場を肌で感じた経験があると、変に構えずに製作と向き合えるのではないでしょうか。
クリエイティブを取り巻く環境は2、3年ごとにどんどん変わります。今は動画配信サービスで作品が海外に認められれば、それを足がかりにできます。時代の変化にあわせて、ツールやサービスを先んじて取り入れるといいですね。
たとえば、アメリカの映像製作業界では「IMDb」というオンラインデータベースがスタンダードになっています。ここには映像コンテンツなどに関連したあらゆる情報が集まっていて、個人の経歴や作品の概要、評価などが閲覧でき、みんなIMDbを見て仕事のオファーを決めます。要は、各クリエイターの仕事のレジュメとして使われているんですね。アメリカのビザを取得する際に申請資料として使えるくらい、フィルム業界の誰もが認知しているサイトです。日本ではまだあまり知られていませんが、こうしたツールをうまく活用して、海外へ活躍の場を広げてほしいと思います。
清川 耕史(カメラマン)
日本大学芸術学部映画学科卒業後、カナダのバンクーバーで撮影助手のキャリアをスタートさせる。帰国後、CXドキュメンタリー番組”ザ・ノンフィクション” でカメラマンデビュー。多くのCMやMVの撮影に携わったのち、2013年からはNYにも拠点を置き、現在は、LA、NY、東京で活動中。
取材日:2023年5月17日・6月8日 ライター、スチール撮影:小泉 真治
■配信:
2023年7月28日(金)第1〜3話配信開始(第1話無料)
2023年8月4日(金)第4〜6話配信開始
2023年8月11日(金)第7~9話配信開始
※配信日時は予告なく変更される場合がございます。予めご了承ください。
■地上波放送:2023年8月16日(水)フジテレビ放送スタート (関東ローカル)
8月16日(水)25時25分~25時55分 第1話・第2話
8月23日(水)25時25分~25時55分 第3話・第4話
8月30日(水)25時25分~25時55分 第5話・第6話
9月 6日(水)25時35分~26時05分 第7話・第8話
9月13日(水)25時45分~26時15分 第9話
■出演: 山田真歩
山崎樹範 円井わん 大水洋介(ラバーガール) 深尾あむ ほか
■原 作:「憑きそい」山森めぐみ著(扶桑社刊)
■スタッフ:
<脚本>藤本匡太(solo)/川原杏奈
<監督>曽根隼人(BABEL LABEL)/山口龍大朗(エクション)/坂部敬史(DREAMFLY)/小山巧(THREE CHORDS)
<プロデュース>下川猛(フジテレビ)
<プロデューサー>渡邉直哉(パロマプロモーション)/柳井宏輝(パロマプロモーション)/井上博貴/山口龍大朗(エクション)
制作プロダクション:パロマプロモーション
制作著作:フジテレビジョン
ストーリー
霊感が強い主人公のめぐみ(山田真歩)は趣味の占いをきっかけに様々な人々と出会い、恐怖体験に巻き込まれていく。ある日めぐみは駅のホームで笑う男と共に線路に飛び込む人を見てしまった。その瞬間の男の笑顔が頭から離れないー 丘の上に立つその家はいわくつきの物件だったー 子供の頃から怖かった実家、その階段から何か気配がー 蛇に取り憑かれた女子高生。消えた恋人はどこへ?彼氏の母親が怖すぎる。 思わず悲鳴を上げてしまう最恐のホラー体験を。
FOD 概要
「FOD」とはフジテレビが運営する公式の動画・電子書籍配信サービスです。「FODプレミアム」では、ドラマ・アニメ・バラエティ・映画など最新作から過去の名作まで80,000本以上の対象作品が月額976円(税込)で見放題。また、200誌以上の雑誌も特典で読み放題となります。さらに漫画など電子書籍も700,000冊以上の豊富なラインナップからお楽しみいただけます。会員登録不要の「FOD 見逃し無料」では、人気テレビ番組を放送後期間限定で配信。無料で気軽にご利用いただけます。テレビ局ならではのエンターテイメント体験を提供しています。