グラフィック2014.01.15

アートを売買する文化を根付かせたい…クリエイターを後押しする「スタジオケーブ」代表の長永さん

Vol.101
株式会社クレア 代表取締役 長永敏さん
イラストレーターやフォトグラファーなど、クリエイターとして仕事を受注している人は多くいても、作品を個人で売買する文化は根付いていない日本。この文化に疑問を抱き、アートを売買する場となることを宣言しているギャラリーが「スタジオケーブ」です。このスタジオケーブのオーナーは、広告会社の株式会社クレアの代表取締役でもある長永 敏(ながえ さとし)さん。ギャラリーオープンの目的やアートへの想いをじっくり伺いました!

ギャラリー経営は長年の夢 日本にアートを売買する文化を根付かせたい

ギャラリー「スタジオケーブ」を作ったキッカケは?

広告会社を設立して23年になりますが、もともとはデザイナーで絵が好きだったこともあり、ギャラリーを持つのが長年の夢でした。自社ビルが手狭になり、建替えることになったときに、思い切って地下をギャラリーにしたのです。

「スタジオケーブ」ならではの特徴は?

本業は広告会社なので、ギャラリーで儲けようというつもりはなく、営利を目的としていないところでしょうか。日本にはアートを売買する文化が根付いていないため、アーティストも「売る」意識がまだまだ低いところがあり、そこに私は問題意識を持っています。ですから、ここで展示会を開くならば、安くても良いので必ず作品に値段をつけてほしい。日本にアートを「売る」「買う」文化を根付かせたいですね。

「売る」喜び、達成感は 受注仕事とは別の成長につながる

イラストレーターやフォトグラファーは多くいますが、作品を「売る」意識は低いかもしれませんね。

以前とはイラストレーターやフォトグラファーを取り巻く環境が変わってきています。バブルの頂点の頃、1点イラストを描けば50万円、100万円、という値がついた作家もいましたが、便利に使える素材辞典が出回るようになり、さらに現在はレンタルやフリーの素材がインターネット上にあふれている。そんな状況の中でイラストや写真を受注しても、1点あたりの金額は安くなり、ひたすら数をこなすだけになりがちです。そんな時代の中で、受注とは違う発表の場にしてほしい、そしてさらに「売る」達成感を得てほしいと思っています。

イラストレーターなどが個人的な展示会を開くことはよくありますが、「売る」目的だと違う視点での制作が必要になりますね。

アーティストであれば、多くの人に作品を見てもらいたいと思います。そこで、大金をつぎ込んで個展を開くわけですが、「良かったよ」とお褒めの言葉をもらって終わりになることが多いのではないでしょうか。そこから仕事につながることは少なく、もちろん「買う」ことにつながるのはもっと難しい。最初から「売る」ことを目指すならば、アートとしての完成度をどう高めていくか、個性をどう発揮していくか、工夫しなければなりません。

「売る」ためのハードルは高いですね。

見に来た人に作品に対してお金を出してもらえるか否かは、もっとも厳しい評価です。過酷なところはもちろんありますが、プロとして作風を磨くにはこれ以上の場はないでしょう。売る喜び、達成感は、受注仕事では得られない成長につながります。

書道家が30万円の売上 初の展示会でも10万円の売上達成!

展示会の様子

展示会の様子

これまではどんな方が利用されたのですか?

オープンのこけら落としでは、書道家が展示会を開きました。書道家本人がDMを出したり、いろいろな人に声をかけたりして集客し、書の1点1点に値段を付けて、トータルで30万円の売上がありました。また、イラストの得意なデザイナーが2人展を開いたこともあります。展示会を開くのは初めてとのことでしたが、それでも10万円ほどの売上になりました。

初めて自分の作品が売れると、うれしいでしょうね。

その程度の売上だと、もしかしたら額縁代にしかならないかもしれない。しかし、自分の作品をきちんと額装して展示し、評価されて買ってもらえたことで、とても喜んでいました。自信につながった、これからも描いていきたいと話してくれたので、私も非常にうれしかったです。彼らにとっては、初めての体験ですから。

アーティストが自由に使える場に いつも面白い絵が探せるギャラリーへ

作品

これまで「売る」ことを意識しないで作品をつくってきた人も多いと思います。「売る」ためのポイントは?

プロとして少しでもお金を得てきた経験があれば、発注元の要望に応える作品づくりをしてきたと思います。その応える先を個人のお客さまに置き換えて考えてみれば良いのです。見に来た人が「ここに飾りたい」「こんな風に使いたい」と具体的に思い浮かべることができれば購入につながるので、自分の作風と組み合わせながら、どう見せるか考えてほしいですね。例えば、トイレや玄関にちょっと飾れるCDケース程度の大きさのものが手頃な値段であれば、手に取りやすいと思います。

「売る」ことを目指す人にとって、今後はどのような場にしていきたいと考えていますか?

営利目的ではないので、画廊のようにアーティストを抱え込むことはしません。縛りはないので、自由に使ってほしいですね。本体が広告会社ということもあり、仕事を紹介してほしいと依頼されることもあるのですが、仕事のためのネットワークは自分で作るべきだと思います。作品を発表することで自分でつながりを作り、「売る」経験を経てステップアップできる場にしてほしいと思っています。たとえ売れなくても、運命を変える出会いがあるかもしれません。

ギャラリー「スタジオケーブ」としては、どのような場を目指しているのでしょうか?

ギャラリーとしては、中古のレコード屋のようになりたいと考えています。ふと立ち寄って探すと面白いレコードが見つかるように、何か面白い絵がないかなと思ったときふらりと来ると、いろいろな絵があって、気に入ったものがあれば額装して買っていく。特集として展示会も開かれ、お目当てを見に来たついでにもいろいろな絵が見られる、という気軽な雰囲気にしていきたいですね。

アーティストとしての第一歩を 一緒に考えながらサポート

【取材対象者】 株式会社クレア 代表取締役 長永 敏氏

【取材対象者】
株式会社クレア
代表取締役
長永 敏(ながえ さとし)氏

スタジオケーブで発表したり、売りたいと思っていても、なかなか自信がない人も多いと思います。

自信がなくても、今までの作品のストックがある人は、ぜひ相談に来てほしいですね。アートに流行はないので、以前に作った作品でも構いません。私自身は学芸員でも評論家でもありませんが、絵が好きでギャラリーまで作るくらいですから、「目」には多少の自信を持っています。「こんな絵ですけど、どうでしょう?」という段階の相談でも大歓迎です。そこから始まると思っていますから。

「売る」ことを意識し始めると、大きな変化がありそうですね。

クリエーターとして仕事はしていても、「アーティスト」と名乗るのは抵抗がある人もいるかもしれません。しかし、自由に作品を作って「アーティスト」として評価をしてもらう場はあった方が良い。そのアーティストとしての第一歩を相談してほしいです。今後もクリエイター、アーティストの味方として、一緒に考えていきたいと思っています。

取材日:2013年12月20日 ライター:植松

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