クリエイティブの大転換はすでに始まっている!? タジクCEOが語る生成AI時代の新しい未来

Vol.220
taziku / 株式会社タジク CEO
Yoshihiro Tanaka
田中 義弘

近年、目覚ましい能力の向上により、さまざまな分野での活用が進められる生成AI技術。AIとクリエイターが協力して作品を生み出す「共創」への期待も高まる今、株式会社タジクでは、生成AIの活用による実験的なAIアニメプロジェクトをはじめ、多数のAI関連のプロジェクトに先駆けて参画しています。

CEOの田中義弘さんは、デザイン事務所勤務の後、株式会社アイデアクラウドを創業。株式売却を経て2021年にタジクを創業した経歴の持ち主。以来、様々な事業を手掛けながら、生成AI分野のフロントランナーとして走り続ける田中さんには、生成AIの未来がどう見えているのでしょうか。生成AIの可能性や展望をうかがいながら、AI時代のクリエイターはどう生き抜くべきか、ヒントを探っていきます。

衝撃的だったChatGPT-4との出会い。確信した新時代の幕開け

生成AI事業の立ち上げのきっかけを教えてください。

当時、私たちのチームはデザインは得意でしたが、手描きのイラストは苦手でした。しかし、AIの力で自らのアイデアを形にできるようになり、その可能性に感銘を受けたことは今でもはっきりと覚えています。

さらに衝撃的だったのは、ChatGPT-4との出会いです。調査リサーチ系の仕事など重要なタスクの一部を任せられ、自分の能力が拡張されていくような感覚でした。あるとき、障害でChatGPT-4が利用できなくなった際は、まるで私の能力の一部が欠けてしまったかのような気持ちにすらなったほどです。

誰もが生成AIにアクセスできるようになり、世界中の人たちが使いはじめたとき、人々のスキルや能力が一段階上がって、新しい時代が始まると確信しました。そこで生成AIに関する事業を起こそうと決心したんです。

生成AIを活用した事例として、2023年5月から株式会社K&KデザインとAIアニメプロジェクトに取り組まれていますね。

同プロジェクトでは、これまでいくつかの作品制作にチャレンジしてきました。その過程で、生成AIでアニメーションを制作しても、アニメスタジオの省力化には貢献できるものの、世の中にインパクトを与えられる作品づくりまでは難しいと感じるようになりました。AIアニメを世の中に出した結果、どういう価値が生まれるのか、創り手だからこそ感じる葛藤があったんです。

そこで新たな目標を立てました。現場の省力化には引き続き取り組みながら、私たちが目指すのは、AIが生成した作品に人間が創作したようなバックグラウンドやストーリーをもたせ、新しい価値を生み出すことです。

「新しい価値」とはどういうものですか?

イラストレーションでいえば、人が作成したアートは多くの場合、作品の背景や物語性まで意識されます。対して、AIが生み出したものにはそのような背景が欠けていると一般的には認識されていると思います。つまり、AIが描いた人物のイラストは、個性をもったキャラクターではなく、ただの絵であると認識されてしまいがちです。

ならば、AIでつくったものにキャラクター性を帯びさせて“息を吹き込む”のが、私たちのミッションだと考えました。キャラクター性があることで、“推し”といった感情や好みがユーザーに芽生えると思うんですね。AIが描いたバックグラウンドのない無機質なイラストレーションに、キャラクター性を帯びさせるにはどうしたらいいかを探り、答えを見つけるのが、AIアニメプロジェクトが考えるゴールの一つです。

その先に目指すのは、アニメーションやアニメ文化におけるDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の実現です。これまでは、版元や製作委員会といった大資本から供給されるのがアニメーションの一般的な流通の形でしたが、SNSの普及によって消費者に直接流通できる環境が整ってきました。ただ、アニメは一つの作品を生み出すのにも多額の製作費がかかるため、直接流通では規模が広がりにくいというのが実情です。

現状ではまだアニメーションの完全なAI化は難しいですが、生成AIで多くの作品を素早く生み出し、バックグラウンドやストーリーが加わって価値が生まれれば、いよいよ本格的なDtoCが実現できるのではないかと考えています。作品の延長線上にあるグッズ販売など、アニメキャラクタービジネスを含めた直接流通の可能性を模索しています。

生成AIによるアニメ制作の現在地とこれから

2023年7月には、AIアニメプロジェクトの企画第2弾としてAIを用いた実験的なアニメプロジェクト「メガノエリカ:ギガンティック・ジャーニー」をスタートされました。すべてのワークフローに関して生成AIを活用しているそうですが、具体的にはどういった活用をされているのですか?

コンセプトやストーリーは、ChatGPTで提案された多数のアイデアの中から、絵としても面白くなりそうな、巨大な女の子が活躍する物語を中心にシナリオを構築していきました。シナリオはChatGPTが提案したものをそのまま使うのではなく、パートナーであるK&Kデザインと協議しながら細部を詰めて決定しています。

メインビジュアルの制作では、とくに女の子のサイズを表現するための塗り分けのニュアンスが重要でした。女の子の塗りと背景の塗りを別々にアウトプットするのではなく、生成AIを使用して一度で完璧なビジュアルを出せるように工夫しました。

ティザームービーのアニメーションもすべてAIによるものです。生成したメインビジュアルをベースに、周囲の画像を生成して広げていきました。広大な画像を中央に向かってズームインすることで、疾走感のあるムービーに仕上げています。アニメ業界の人から見れば「これはアニメではない」と思われるかもしれませんし、つくり方からして違います。それでも、生成AIによるアニメであることを強調したかったので、あえて人間による作画を入れずにつくりました。

現在はデジタルクリエイティブスタジオ「SOPHIE.STUDIO(ソフィースタジオ)」も参加してAIアニメプロジェクトが進行しているそうですね。この座組では、どういう構想をされていますか?

まず、AIの技術監修といったBtoB事業を展開しつつ、自分たちのオリジナル作品をビジネスにしていきたいです。また、非常にチャレンジングですが、生成AIを象徴するキャラクターを生み出すのも目標の一つです。ボーカロイドなら「初音ミク」、ゲームエンジンなら「ユニティちゃん」のように、生成AIをキャラクター化して大きなムーブメントを起こせればと考えています。

そのためにも、まずは、AIでアニメの価値に一石を投じられるような提案を継続していきたいですね。「AIのアニメといえばこのプロジェクトだ」と誰からも認知してもらえるように、早期に取り組みを進めて結果を出すのが、最初のゴールです。

AI時代のクリエイターの生存戦略とは

アニメーション以外の分野で進めているAI関連のプロジェクトがあれば教えてください。

私たちは「DXAI(ディーエックスエーアイ)」というプロジェクトを推進中で、ここには3つの主要な事業が含まれています。第一に「DXAIコンサルティング」です。これは、AIの実務経験や専門知識を活用して、企業にコンサルティングサービスを提供するもので、すでにいくつかのプロジェクトが進行中です。

第二に「AIクリエイターの派遣」事業。市場でのAI人材の需要は高まる一方、AIの実務経験があるクリエイターは圧倒的に不足している状態です。このギャップを埋めるため、専門知識のあるクリエイターを企業に派遣するサービスを考えています。

そして第三に「AI人材のためのコミュニティ」の設立です。AI技術を学びたいクリエイター向けに、研修や勉強会を提供する場としてコミュニティの開設を計画しています。AI技術が広がる中で、新しい技術を習得することはクリエイターにとって必須と考えているため、コミュニティでの交流を通じて、クリエイターのキャリアの支援をしていきたいです。

生成AIの技術が普及する中で、クリエイターへの影響や働き方の変化については、どのようにお考えですか?

今後クリエイターに求められる最も重要な要素は「行動力」だと考えています。これまで多くのクリエイターは、高品質なアウトプットさえ提供すれば、それが営業ツールとなって次の仕事につながってきました。しかし、クライアントがAI技術に詳しくなり、自ら高品質なコンテンツを生成できるようになると、AIに対応できないクリエイターは淘汰されていくかもしれません。つまり、以前のように“仕事を待っているだけ”のスタイルは通用しなくなると思っています。

では、AIにまだできないのは何かというと「実際に動くこと」だと思うんですよね。クライアントとの実際のコミュニケーションや調整は、AIには難しいタスクです。したがって、これからはクリエイターが直接クライアントとやり取りするなど、ビジネスのフロントサイドに出ることが求められます。クリエイターにも行動力が非常に重要な意味をもつ時代になってくると思います。

変化はすでに始まっており、クリエイターは今、大きな転換点に立たされているといっても過言ではありません。多くの人々が使用するMicrosoft PowerPointや、Wordといったツールに生成AIが組み込まれれば、一気に変化が進行するでしょう(※)。

とくに、行政や国がAIの取り組みを積極的に進めており、国の方針としてのAI化が強く進められていることから、もはやこの流れは止められないと感じています。ビジネスとしては、転換前に体制を整えることが重要だと考えています。

(※)インタビュー後日の2023年9月21日(現地時間)、米Microsoftは「Microsoft 365」に生成AIを組み込んだ「Microsoft 365 Copilot」を2023年11月1日より一般公開すると発表。

AI時代の生存戦略として、クリエイターはどのような方向性でスキルや知識を向上させればいいでしょうか?

重要なのは「希少性の担保」です。たとえば、ただイラストレーターとしてのスキルだけをもつのではなく、他の分野との組み合わせをもつことで、自分の市場価値を向上させられます。イラストレーションとコーディングの両方をできる人は、仕事の幅が広がるでしょう。また、好きなことや得意なことを組み合わせてもいいかもしれません。料理が得意なデザイナーなら、料理関連のデザイン案件を獲得できる可能性が高まります。

さらに言えば、AIが普及する中で、生き残るクリエイターは大きく分けて二つの層だと考えています。一つは、AIが生成したものを最終的に仕上げる「フィニッシュワーク」を行う人たち。もう一つは、AIに何を生成させるかを考える側にいる「トップクリエイター」の人たちです。どちらにも振り切れずに中間層に留まるならば、スキルや経験の掛け合わせで自分の強みを強化して、希少性を高めていくしか生き残る道はないと思っています。

生成AIで社会の前進や発展に寄与したい

SDXLで生成したロボットの画像。CGやイラストレーションが苦手でもハイクオリティなCGアートが生成できる。

非常に興味深い視点ですね。AIの進化にともなって、サービスはどう変化していくのでしょうか。

世界の研究者や開発者が取り組んでいるのは「AGI(汎用人工知能)」です。現在の主なサービスは画像生成やテキスト生成といった特化型AIですが、将来的には、人間のように複数のタスクを統合して実行するAIが実現されるでしょう。

現在だと、たとえば企画書をつくる際に、原稿はChatGPTに頼み、挿絵は生成AIで作成し、レイアウトは人間が手掛けるといった業務分担が必要です。将来的にはこれらが統合され、一つのAIがすべてのタスクをこなす時代が来るかもしれません。「誰でもわかる平易な言葉で書かれたAIの調査資料を20ページのパワーポイントで作成して」と具体的な要望をAIに伝えるだけで、完璧な資料ができあがる。そうした統合性を備えるサービスが生まれてくるのではないでしょうか。

個人的には、普段からリサーチに多くの時間を割いているので、ネットの全情報を統合して答えてくれるようなサービスがあるとありがたいですね。

生成AIの活用によって目指す未来やビジョンを教えてください。

AIの出現により、小規模な起業がしやすくなると感じています。アイデアや行動力はあるが、プログラムやデザインのスキルがないといった人でも、AIを活用することで、人を雇うことなく事業のできる時代が訪れると思います。大規模な資金調達が難しい小さな市場でも、ピンポイントな課題を解決する事業がスピーディーかつ容易に起こせるでしょう。スピード感のある起業によって課題解決が進めば、世の中が良くなるスピードも上がるはずです。

クリエイター目線で見れば、イラストは得意でもプログラミングができないといった人でも、そのアイデアを形にする可能性が拓けると感じています。今までは、アイデアを形にするために多額の資金を必要としましたが、AIの活用により実現のハードルが大きく下がるでしょう。

まずはクリエイターでもある私自身が、少人数でクイックに起業するモデルをつくり、それを見た方が「自分でもできるかも」とビジネスを起こして世の中を良くしていく。こうした連鎖が続けば、わずかずつでもいい方向に世の中が前進するのではないかと期待しています。

最後に、これからの生成AI時代で活躍を目指すクリエイターにメッセージをお願いします。

考えすぎずに動くのが大切です。私もそうですが、クリエイターは自分と向き合う時間が多いため、いろいろ考えすぎると身動きが取れなくなってしまいがちです。加えて、先ほど起業のスピードが上がると言いましたが、世の中が変化するスピードはさらに速くなっています。あれこれロジックを組み立てている間に、世界は次のフェーズに移行してしまうので、じっくり考えても100%うまくいく方法を導き出せないと思うんです。

であれば、もう考えないで動いてしまった方が、うまくいく。動きながら考えるしかありません。私自身もそれで何とかなってきました。余計な思い込みを捨てて素直に行動する方が、いい結果を生む近道になるかもしれませんね。

取材日:2023年9月11日 ライター:小泉 真治

taziku / 株式会社タジク

  • 資本金:3,000,000円
  • 事業内容:クリエイティブ(グラフィック/WEB/映像)/ ブランディング / コンサルティング / AI / 生成AI / LLM活用 / メタバース / AR / WEB3 / NFT / 新規事業開発支援 / R&D支援
  • 所在地:本社所在地:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2-19-15 宮益坂ビルディング609
    サテライトオフィス:愛知県名古屋市内

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~終了しました~
開催レポートはこちら→https://tinyurl.com/myu4hpy3

プロフィール
taziku / 株式会社タジク CEO
田中 義弘
大学を卒業後、グラフィックデザイン事務所を経て、株式会社アイデアクラウドを設立。デザイン、AR・VRなどのテック事業などを立ち上げ、その後、DMM.comへ株式譲渡し代表取締役を退任。tazikuを創業。AI・生成AI・LLMなどの最先端技術を活用した表現・体験の創造を推進する。BtoB、BtoCの領域を超え、幅広い分野でAI活用を進め、クリエイターがより創造的活動に没頭できる社会を目指す。

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https://twitter.com/taziku_co

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