コクヨのえほん ~大人気の工作絵本・仕掛け人に聞く~
- Vol.106
- コクヨS&T株式会社 事業戦略部創育A&C VU VU長
- 北野嘉久さん
社内ベンチャー制度が参入のキッカケ 子どものメディアである「絵本」に新しい価値を提供したい
文房具メーカーであるコクヨが絵本に参入したキッカケは?
社内ベンチャー制度に「絵本」をテーマにしたビジネスでエントリーしたことがキッカケです。私はもともと文房具の開発やマーケティング業務をしていたのですが、企画だけではなく販売するところまで自分たちでやってみたいと考え、社内ベンチャー制度に手を挙げました。
「企画から販売するまで」を、なぜ絵本でやってみたいと思ったのでしょうか?
私は小さい頃にあまり絵本を読んでもらった記憶がないんですけど(笑)たまたま、イベントで「100万回生きたねこ」を読んだら、不覚にも泣いてしまったんですよ。素晴らしい絵本は、子どもも大人も一緒になって感動したり笑ったりできると気付き、子どものメディアである絵本に新しい価値を提供したい、絵本にチャレンジしたいと思いました。
最初の出版は返品率8割! 初の出版事業で驚きの連続
記念すべき最初の出版は?
2007年に「おえかきブック」を発売しました。小さな頃の写真は残るけど、おえかきは残らないことが多いので、おえかきを写真集のようにして残していこうというコンセプトです。子どもが描きやすい紙にこだわり、残すことを考えて装丁も丈夫にして、描く道具である色鉛筆も太くて描きやすいものをオリジナルカラーで作って付属させて…と、気合い十分で作りました。シリーズあわせて8作品出版したのでですが、いきなり返品が8割もあったんですよ(笑)。
返品8割!売れなかった、ということですか?
はい、まったく売れませんでした(笑)。コクヨとして本を出版するのは初めてだったので、Webや本でいろいろと調べて、普通の出版社と同じように本の取次会社を通して流通させて…とやっていたのですが、8割返品されてしまっていきなり大赤字です。文具のマーケティングと同じように広告も打ってみたのですが、マス広告が効く商材ではないので、全然効果がないんですよね。何もかも「やってみて初めて気づく」の繰り返しでした。
初めての経験で驚きの連続だったわけですね。
自分たちだけではなくて、会社にも驚かれました。文具の流通は、本の取次会社に相当する卸業者の買い取りで返品はないため、会社として今まで売上げの赤字を見たことがなかったんです。当然なのですが、かなり搾られました(笑)。ただ、「ユーザーが参加することで完成する」タイプの絵本は、これまでの絵本にはない発想だと評価されていましたし、作家さんもおもしろがって参加してくれました。そこで、普通の本と同じことをしていてはダメだと、方針の転換をしたのです。
出版から文具の流通に乗せて売上アップ 「かおノート」が70万部越えの大ヒット
どんな方針転換を?
これまで本の流通に乗せていましたが、コクヨの資産を活かして文具・雑貨の流通に乗せたのです。「おはなし絵本」ではなくて「工作絵本」なので、文具店や雑貨店でも違和感がなかったことが幸いしましたね。徐々に本と文具が一緒に販売されているような店舗でも売れ始めました。本、文具、雑貨が一緒に販売されているセレクトショップのような店舗も増えてきていた時期で、そこでも売上が伸びました。
シール絵本の「かおノート」は、雑貨店や文具店など、いろいろなお店で見かけますよね。
「かおノート」は、2008年に初版を発行したベストセラーシリーズです。著者の「tupera tupera」は、今ではNHKの教育番組のアートディレクションを務めるような人気作家になりましたが、当時はまだ新人絵本作家でした。安いシールブックを出したいと相談に行ったら「顔をモチーフにしたら?」と提案してくれたのです。おかげさまで、シリーズ2冊の合計で累計70万部のヒットになりました。
「かおノート」は、我が家にもあります(笑)。クリスマスプレゼントの交換会でもらったのがキッカケで、2冊揃えました。
ありがとうございます。20〜30代のお母さんがパーソナルギフトに買ってくれることが多いんですよ。
「大人の本気」を見せた「おしゃれノート」 世界初の技術を取り入れたきせかえシールブック
女の子には「おしゃれノート」も人気ですよね。
自分の子どもが2人とも女の子で、マグネットのきせかえブックが大好きだったんです。それを見て、大人が本気できせかえブックを作ったら面白いのでは?と考え、イラストレーターの渡辺直樹さんに相談したら「ぜひやりたい!」とおもしろがってくれて実現しました。こちらもシリーズ4冊で40万部以上売れています。
どのあたりに「大人の本気」があるのでしょうか?
「服には表情がある」との渡辺さんの提案で、女の子は服が生き生きと見えるポージングになっています。また、シールの紙は収縮するので、通常、カットラインが印刷と多少ずれてもいいように、縁取り(塗り足し)を付けるのですが、「おしゃれノート」のシールは縁取り(塗り足し)がないカッティングで、世界初の技術なんです。この本のために技術開発をしました!
確かに子ども用の本ですが、「大人の本気」ですね!
「おしゃれノート」が売れて、他にも同じような本がたくさん出版されました。おかげで本屋にも「きせかえシールブック」コーナーができて、さらに売れましたね。競合が増えたことで、シールのカッティングなど、「おしゃれノート」ならではのクオリティが評価される追い風になったと思っています。
働いてお金を得る先の志が大切 表現を楽しむ文化を作りたい
今後は、どのような本を出版していきたいですか?
乗り物や紙飛行機などの立体ぬりえシリーズもヒットしたので、「工作絵本」の分野ではそれなりに地位を築けたのかな、と思っています。会社にこってり搾られた累積赤字も、ようやく今年解消されそうです(笑)。昨年発売した2色を1本の芯におさめた「ミックス色鉛筆」も好評ですし、「透明クレヨン」も発売され、工作絵本はもちろん、親子のコミュニケーションや創造力育成の役に立つ商品も発売していきたいと思っています。現在スタッフは6人で、営業から制作まですべてやっているので、もう少し人員を増やして開発力を強化していきたいですね。
次なる展開のために、どのような人と働きたいですか?
コクヨは来年110周年を迎える老舗メーカーですが、時代によって扱う商材を変える柔軟性と、新規事業にチャレンジさせてくれる懐の深さがある会社です。ここで働いてお金を得ることは手段であり、その先の目的が大切だと思います。子どもの頃から表現を楽しむ文化を作りたいので、この志が同じ人と働きたいと思っています。
取材日:2014年5月28日 ライター:植松
[オススメ商品のご紹介]
★ミックス色鉛筆 http://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/ehon/artscrafts/post-102.html#more 色鉛筆は、色を重ねることでより豊かで深い色彩を表現することができることをご存知ですか?絵本作家、イラストレーターの多くは、複数の色を重ねることで自分の表現したい色を創り出しています。
このミックス色鉛筆は、絵本作家が厳選した2つの色を1本の芯に収めた混色芯を採用した新しい色鉛筆。誰でも手軽に美しい色の重なりを楽しむことが出来ます。また、通常の色鉛筆よりも、太く柔らかな芯と太い軸を採用していますので、お子様にも持ちやすく、なめらかに描くことができます。
混色芯の色の組み合わせは、絵本作家はたこうしろう先生に監修いただきました。きれいでやわらかい色彩を目指し、何度も何度も最適な組み合わせを模索し、丁寧に仕上げました。
ミックス色鉛筆10本 発売年月 2012年8月 仕様 2色混色色鉛筆10本、太軸用鉛筆けずり1個 希望小売価格 1,200円+税 JAN 4901480276878
ミックス色鉛筆20本 発売年月 2012年8月 仕様 2色混色色鉛筆20本、太軸用鉛筆けずり1個 希望小売価格 2,400円+税 JAN 4901480276885