グラフィック2024.09.11

100周年を迎える「小学一年生」に学ぶ! 子どもたちを魅了し続ける工夫と進化

Vol.231
株式会社 小学館 第一児童学習局 学習雑誌編集室 「小学一年生」編集長
Shuichi Akashi
明石 修一

小学館の学年誌「小学一年生」が、2025年に創刊100周年を迎えます。長い歴史の中で、高品質で実用的な付録や、子どもたちが楽しみながら学べる誌面づくりを一貫して守り続けてきた「小学一年生」。子どもたちの好奇心を引き出すだけでなく、親子一緒になって楽しめる内容で、保護者の心もしっかりとつかんできました。なぜ『小学一年生』はこれほどまでに愛され続けるのでしょうか? その魅力的なコンテンツを生み出す工夫や時代に合わせた進化、今後の展望などについて、「小学一年生」編集長の明石修一さんにじっくりとお話を伺いました。

「小学一年生」が大切にする編集理念と進化する役割

創刊から続く編集理念やミッションについてお聞かせください。

学年誌の始まりは、1922年(大正11年)に創刊された「小學五年生」です。当時は、中学校や女学校の受験率が高く、多くの子ども向け受験雑誌が他社からも次々と創刊されていました。そのような状況の中で、「学年ごとに年齢に応じた学習を提供する雑誌が必要だ」という当時の社長の考えに基づき、学年誌の一環として1925年(大正14年)「セウガク一年生」が誕生しました。
もちろん、受験に必要な科目を網羅して勉強することも大切ですが、子どもたちが学ぶことに積極的に向き合うためには、まず興味関心が学びの対象に向かう必要があります。好奇心は学びの種であり、その種を育てることで子どもたちの興味や関心が広がります。この理念のもと、学年誌は子どもたちの好奇心を育むことを目指し、今日まで続いています。

「セウガク一年生」創刊号(画像提供:小学館)

勉強は社会で生きていくために必要ですが、その前段階として「見たい、知りたい」という好奇心が重要です。この好奇心を誰かに伝えたいという気持ちや体験を通じて学びを深めることで、さらに知りたくなるという循環が生まれます。そうすることで視野が広がり見聞も深まっていきます。こうしたプロセスを通じて、人間力が自然と形成されると考えています。
勉強には、「勉(つと)め強(し)いる」という側面もありますが、それよりも、子どもたちが自ら学びたいという気持ちを掘り起こし、育てることを大切にしています。この編集方針は今も変わりません。
また、最近では「非認知能力」という言葉が注目されています。これは、情緒や社会性、探究心や好奇心など、数値化されない能力のことで、子どもたちが将来社会で活躍するために非常に重要だとされています。これらの能力は、「小学一年生」が創刊当初から大切にしてきたものなので、今後も子どもたちに向けてメッセージを発信し続けたいと考えています。

創刊から変わらない理念がある一方で、時代に合わせた変化もあると思います。現在の「小学一年生」の特徴について教えていただけますか?

現在、私たちが特に大切にしているのは、体験の重要性です。インターネットが登場し、デジタル技術が広まり、情報を迅速かつ手軽に集められるようになりました。そのため、勉強においてもスピード感が求められ、答えをすぐに得られる学習方法が広がっています。こうした効率的な学習方法は未来の学びの形として期待され、実際に学校でも導入が進んでいますが、その一方で、学びのプロセスが抜け落ちてしまうケースが増えているのも事実です。
なぜその答えにたどり着くのかを理解するためには、読書や体験を通じたプロセスの学習を大切にしなければならないと考えています。

プロセスの学習を実現するために、「小学一年生」ではどんな仕掛けを取り入れていますか?

例えば、2023年11月号ではセブン-イレブンさんとコラボレーションして、「おしゃべりハイテクおかいものレジ」を付録にしました。ペーパークラフトで作られたレジは、スキャナー部分が本物そっくりの樹脂製で、商品をスキャンすると音声で商品名と価格が読み上げられる仕組みになっています。

おしゃべりハイテクおかいものレジ(画像提供:小学館)

子どもたちにとって身近なコンビニエンスストアでの買い物体験を通じて、価格計算や商品配置などの社会学習ができるだけでなく、お仕事体験も可能です。また、誌面ではコンビニエンスストアの仕組みや働く人々の仕事、お店づくりの工夫などを特集して紹介し、体験学習から関連学習へとつなげています。付録と誌面をうまく連動させることで、五感を使った学びを深めることを目指しています。
自発的に楽しみながら学んだことは、なかなか忘れないものです。これまで学年誌が培ってきた付録の文化を基に、企業様とコラボした付録や企画を広げ、リアルな体験を提供したいと考えています。

子どもの心をつかむ付録づくりの工夫と発想の原点

現代の子どもたちの心理を汲み取るために、どのようなことをされていますか?

子どもたちが何に興味を持っていて、遊んでいるときにどんなことでスイッチが入り、どのように楽しんでいるのかを常に観察するようにしていますね。コンテンツづくりでは、私たちが子どもたちよりも高い目線でいると、子どもたちは反応してくれません。「やらせてやろう」や「教えてやろう」といった上から目線では、子どもたちに響くものはできないんです。ですので、自分たちも遊んでみたくなるようなものを考え、子どもと一緒に遊んで楽しめるかどうかを重視しています。
付録にしても、大人の感覚で機能を盛り込みすぎると、子どもたちが「難しそう」と感じて手に取らなくなります。まずは、ぱっと見て「やってみたい」「遊んでみたい」と思ってもらえることが重要です。付録の開発だけでなく、表紙や誌面のデザインも、直感的に内容が伝わるよう視覚的な工夫を凝らしています。
また、最近ではSNSを活用した発信にも注力しています。親子でつくった付録をSNSでシェアしてもらうことで、多くの人の興味を引き、広がりを持たせることができます。時代に合わせた新しい発信方法を通じて、「面白そう」と感じてもらえる体験型の付録づくりに日々工夫を重ねています。

付録の企画会議では、編集スタッフのみなさんが童心に帰って楽しんでいる光景が目に浮かびます。

そうですね。付録の企画会議では、紙資料を使って話し合うこともありますが、実物を持ち込んで皆でいじりながらワイワイ話す時間が一番楽しいです。現在、編集部には6人のスタッフがいて、付録に関しては全員でアイデアを出し合っています。自然と1人あたり5〜10個のアイデアが集まりますね。
ただ、必ずしも会議の場で決めるわけではありません。面白いアイデアが思い浮かんだら、すぐに編集部に持ち寄って、その場で決定することもあります。さらに良いアイデアが出てくれば、既に決まっている企画を変更することも。そういう意味では、インスピレーションや物との出会いを大切にしながら、企画を進めています。
一例をあげると、「どこでも指ピアノ」という付録は、編集部スタッフのひらめきから生まれたものです。「どこでもピアノが弾けたら面白いんじゃない?」という発想から、「指を鍵盤にしたらどうか」というアイデアにつながりました。こうして、指をスイッチにして、どこでも音が出る仕組みを考えたんです。この付録は非常に人気があり、その後何度もリバイバルされ商品化もされました。

楽しく学び、自主性やコミュニケーション力も育む

人気の付録といえば、毎年、4月号の付録は特に豪華です。その文化はいつ頃から生まれたのでしょうか。

これは、戦後から続く伝統です。4月号は毎年、新しく小学1年生になる子どもたちのわくわくした気持ちに応えると同時に、入学前に抱く不安にも対応できるような内容にしています。例えば「小学校大探検」といった特集で、小学校の環境や先生とのコミュニケーション、友だちづくりについて詳しく紹介するなどです。こうして4月号でたくさんの読者に「小学一年生」を知ってもらい、小学校に向けてのわくわくした気持ちを膨らませ、楽しい小学校生活を送るための後押しができればと考えています。そのため、4月号の付録は「入学おめでとう」というテーマで豪華にし、多くの読者に楽しんでもらえるよう工夫しているんです。

「小学一年生」2024年4月号(画像提供:小学館)

この10年ほどは、目覚まし時計を付録にしています。幼稚園や保育園では親が起こしてくれますが、小学1年生になると自分で起きて学校に行く必要があります。そこで、子どもたちが自分で起きられるようにと、目覚まし時計を付録にしているというわけです。2024年4月号の付録の目覚まし時計は「キャプテンピカチュウ おしゃべりめざましどけい」でした。
この時計は、時間になるとキャプテンピカチュウが声を出して起こしてくれ、きちんと起きたらほめてくれる仕組みです。大好きなキャラクターが応援してくれることで、子どもたちの自主性が育まれるよう設計されています。さらに、小学校生活では時間割があるため、時間管理が重要です。この目覚まし時計を通じて時間感覚を養うと同時に、誌面でも時計の読み方や時間の使い方を学べる特集を組んでいます。

「小学一年生」の付録の魅力を一言で表すとすれば、何ですか?

「遊んで、楽しんで、学べる!」でしょうか。組み立て付録の場合は、完成したときに「面白い」「楽しい」と感じてもらえるよう工夫しています。あまり勉強を前面に出しすぎると飽きてしまいますからね。
付録を組み立てる過程では、失敗することも大切だと考えています。現代では「失敗しないこと」が重視されがちですが、失敗後に原因を分析し、自分でリカバーする力を付録を通じて学んでほしいですね。
「もっと簡単につくれるように」「すぐ遊べる付録がいい」という声をいただくこともありますが、ひと手間ふた手間かけて、親子で一緒に取り組んでほしいと考えています。上手にできたらほめて、うまくいかなかったときは叱るのではなく、なぜうまくいかなかったのかを一緒に考える機会にしてもらえればうれしいです。

「小学一年生」は子育て相談室など、保護者向けの内容も充実しています。保護者の心をつかむために大切にしていることはありますか?

アンケートを取ると、近年は「コミュニケーション力」というキーワードがますます重要視されていることがわかりました。動画やゲームなど一人で遊ぶ時間が増えたことで、保護者の方々は、子どもが小学校入学後に友だちや先生と円滑にコミュニケーションを取れるかどうか、不安を感じているようです。「小学一年生」で学んだことを友だちに話したり、付録で一緒に遊んだりすることで、子どもたちのコミュニケーション力が育まれることに対する期待も高まっていると感じます。
多くの保護者の方は、「小学一年生」をドリルとして使うのではなく、お子さんの好奇心や興味関心を広げ、人間性を豊かに育てるためのツールと考えているのではないでしょうか。そのため、いかにお子さんが前向きに楽しく学びに向き合えるかを常に意識しながらコンテンツづくりに取り組んでいます。

未来を見据えた「小学一年生」の進化と挑戦

「小学一年生」の未来に向けて、どのようなビジョンをお持ちですか?

100周年を迎えるにあたり、これまでの歴史と伝統を大切にしつつ、これからの「小学一年生」の方向性も考えていく必要があります。例えば、非認知能力やプログラミング学習、コミュニケーション能力といった要素を、本や付録の中にしっかりと採り入れていきたいと考えています。
最近、クリエイターの方々との会話で「価値の再定義」という言葉が印象に残りました。古いものを単に過去のものとして扱うのではなく、新たな形で解釈し直すことで、新しい価値として再び生まれ変わるという考え方です。これは、今の「小学一年生」にも当てはまると思います。例えば、組み立て付録には、プログラミング学習に通じる要素が多く含まれています。手順通りに組み立てたり、折り方の指示に従ったりする過程は、プログラミングの命令と実行のプロセスに共通します。
雑誌はオールドメディアと言われがちですが、今だからこそ必要な価値があると感じています。AIが発展し、洗練された文章やレポートが簡単に生成される時代において、私たちが目指すのは、子どもたちが自ら調べ、読んで理解し、真実を見極める力を養うことです。これには読解力や探究心が不可欠です。私たちは、これらの力を子どもたちに育んでもらうために、「小学一年生」を通じて、これからも前向きに発信し続けたいと思っています。
さらに、もう一つ取り組もうと考えているのは、「小学一年生」というブランドを子どもたちだけのものにとどめず、もっと大人や社会全体に向けて広げていくことです。「キャンプ1年生」や「サッカー1年生」など、書籍やイベントを通じて、大人たちが新しいことを学ぶきっかけを提供していきたいですね。「小学一年生」をさらに発展させて、さまざまなことに興味を持ってチャレンジする方々を応援し、より豊かで楽しい社会をつくりたいと考えています。

取材日:2024年6月14日 ライター・スチール:小泉 真治

株式会社 小学館

  • 代表者名:相賀 信宏
  • 設立年月:1922(大正11)年8月8日
  • 事業内容:雑誌・書籍・コミックの出版および関連するデジタル、映像、キャラクター事業など
  • 所在地:〒101-8001 東京都千代田区一ツ橋2-3-1
  • URL:https://www.shogakukan.co.jp

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