業界初のエンタメ特化型通翻訳サービス!「エンタリンガル」が世界をつなぐ新たな架け橋に

Vol.232
株式会社ポリゴン・ピクチュアズ
Christopher Takagi
高木 久理守

エンターテインメント業界に特化した通翻訳サービス「エンタリンガル -EnterlinguaL- 」。2024年5月にスタートし、CGアニメ制作を中心に、ミュージックビデオ作品のアワードイベント、クリエイティブ・リトリート、コンピュータグラフィックスに関する国際会議と展示会など、多様なエンターテインメントの現場で高品質な通訳・翻訳を提供しています。
エンタリンガルを運営する株式会社ポリゴン・ピクチュアズは、1983年創立の老舗デジタルアニメーションスタジオ。制作現場では、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ、マーベル・スタジオ、ルーカスフィルムなどの海外クライアントとの多言語コミュニケーションが日常的に行われています。この現場で培われた専門性と技術を結集して誕生したのが「エンタリンガル」です。
サービスを牽引する高木久理守さんは、通訳者としての豊富なキャリアを持ちながら、ラッパー「Meiso」としても活躍する異色の経歴の持ち主。チームのまとめ役としてメンバーを率いる彼に、エンタリンガル立ち上げの背景、独自の強みや成長と展望、そして通訳という仕事に対する矜持についても伺いました。

エンターテインメントを支える通翻訳のプロ集団

エンタリンガル誕生の背景について教えてください。

私は2017年にポリゴン・ピクチュアズに入社する以前から通訳として活動しており、入社後も日々、通訳業務に取り組んできました。そのなかで、改めて通訳の魅力に引き込まれ、どうすればさらにスキルを向上できるかを考えるようになりました。社内業務だけでなく、外部の現場を見学し、優れた通訳者の技術に触れることが大事だと感じるようになったんです。
外部の現場で学んでいくうちに、私たちのスキルも社外で十分通用するという自信がつきました。また、外部での経験を社内の通翻訳業務にも活かし、サービスレベルを向上させることができました。そこで、2019年から徐々に外部案件にも取り組むようになり、2024年5月には、これまでの経験と実績を踏まえて正式にサービスを公開しました。

当初からエンターテインメント領域にスポットを当てたサービスを想定していたのでしょうか。

私たちはCGアニメの制作スタジオなので、最初はやはりCGアニメ関連が中心だと考えていました。しかし、サービスを広く提供する段階で、エンターテインメント全体にシフトしようという流れになりました。エンタメに特化した通訳者がいることは知っていましたが、会社として専門的なサービスを提供している例は少なく、隠れたニーズや新たな切り口があるのではないかという思いでスタートしました。
実際にサービスをローンチすると、結果的にさまざまなご依頼があり、良い選択だったと今では感じています。最近では、大手ストリーミングサービスの実写撮影の現場で、通訳を担当しました。また、映画のリリースイベントや会見でも通訳の依頼をいただいています。

サービスのポイントや特徴を教えていただけますか?

エンターテインメントの現場では、通常の会議通訳とは異なり、あまり硬くならない雰囲気をつくって進行するように求められることが多いと感じています。例えば、映画のリリースイベントで通訳者の話し方が硬いと質問が出にくくなることがあります。逆に、場の空気を和らげる通訳ができると、作品の魅力を引き出すような質問が生まれやすくなります。こうした柔らかい雰囲気を自然と作り出せる通訳者が、私たちのチームには多く在籍しています。
また、制作の打ち合わせでキャラクターのアニメーションについてクリエイター同士が議論している際に、ドライで淡々とした通訳をしてしまうと、クリエイターの情熱や作品の楽しさが伝わらなくなってしまうでしょう。だからこそ、私たちは感情的な部分も上乗せして伝えたいという思いで通訳をしています。
そのうえで、緩急のつけ方、ここは訳さなくていい、ここは強めに伝えるべきだという判断も大切です。柔らかく伝えるべき場面と、強めに伝えるべき場面の使い分け、そして空気を読んで通訳が邪魔しないようにする立ち回りなどは、監督の指示をチームに伝えるスポーツ通訳と少し似ているところがあるかもしれませんね。こうした通訳の技術は、すべて現場の流れを見ながらフィーリングで掴んでいくもので、なかなか言語化しにくい部分でもあります。

エンタリンガルの強みは何だとお考えですか?

私たちの強みは、やはりCGアニメに関する深い知識です。メンバー全員が日々CGアニメに携わっており、短期間では得られないような専門知識と経験を持っています。また、単発の通訳にとどまらず、制作工程を通して長期的にクリエイターをサポートしていることも強みです。ポリゴン・ピクチュアズというチームの一員として、作品を共に育てるというメンタリティーを持っていることが他にはない特徴だと思います。

スペシャリスト集団を生かすチームビルディングの秘訣

CGアニメをはじめエンターテインメント業界に精通し、さらに長期的なサポートも提供できる点が、新しいアプローチであり、他にはない強みなのですね。エンタリンガルのチーム構成についても教えてください。

コアメンバーとしては、東京に約10名が在籍しています。私はハワイにいることが多く、さらにマレーシアに約5名います。このコアメンバーを中心に、ほかにもCGアニメの現場でしっかりと経験を積んできたスペシャリストのメンバーが約20名ほどいます。バックグラウンドとしては、メンバーの半分ほどが日本人で、残りがアメリカ人、マレーシア人、ニュージーランド人など、国際的な構成ですね。
中にはアニメのアーティストを志望して勉強している方や、実際にアーティストとしての技術を持っている方もいます。また、ミュージシャンやコメディアンといった別の分野でのタレント性を持っている方も在籍しており、それぞれが得意分野に対する専門的な知識を持っています。案件によっては各メンバーの得意分野を生かすことができるため、それがチームの強みにもつながっています。

普段、メンバーの個性をどうまとめているのか、チームビルディングのコツはありますか?

インターナショナルなチームなので、特定の文化や価値観で縛らず、リラックスした雰囲気を大切にして、全員が発言しやすい環境を整えることを意識していますね。また、メンバー同士の学びを共有する場やプチプレゼンの機会を設け、コミュニケーションを活性化させています。
私たちのグループは通翻訳の業務だけでなく、会社全体のコミュニケーションも活性化させる役割を担っています。定期的に「ドーナツイベント」を開催し、みんなでドーナツを食べながら気軽に雑談できる場を提供しています。リモートワークが増え、雑談の機会が減った今だからこそ、こうした場を大切にしています。

多面的なキャリアが導く通訳者としての進化

続いて、高木さんご自身についてもお伺いします。通訳や翻訳に興味を持ったきっかけは何ですか?

ハワイ大学在籍当時、通訳者になろうという意識はありませんでした。音楽や哲学、文学など様々な分野を学んでいましたが、日本語のクラスで漫画やラップの歌詞を翻訳する課題を経験し、それが非常に面白く、翻訳に興味を持つきっかけになりました。その後、ハワイ大学の通訳講習プログラムに参加したところ、適性があると感じました。やってみて「これは面白いぞ」と。
通訳は、当時流行していた数独や脳トレに似ていて、問題を瞬時に解決する反射神経や、脳をフル回転させていく感覚が求められるんです。脳が研ぎ澄まされ、集中力が高まるゾーンに入る感覚がとても気に入りました。そうやって夢中になっていくと、どんどん上手くなっていくんですよね。それが自分の性格に合っていると思いました。

2019年には同時通訳グランプリでグランプリを受賞されました。大会に参加された経緯をお聞かせください。

実は私自身、出場するまではこの大会の存在を知らなかったんです。前述のように、どうすればもっと通訳が上手くなれるのか模索している時期があって、さまざまな通訳現場を回りながら、自分が憧れる通訳者を探していました。飛び抜けたすごい人を見つけて弟子入りしたいという気持ちがあったんですね。
そしてあるとき“仙人”と形容してもいいほどの、ものすごい名人を見つけたんです。それは関根マイクさんという方で、私はすぐにファンになってしまい、後日彼のブックイベントに行ってサインをもらいました。少し話をして、通訳をしていると言ったら、「同時通訳グランプリに出てみなよ。君なら優勝できるよ」と励まされ、出たいという気持ちが強くなりました。
マイクさんは同時通訳グランプリのオーガナイザーでもあり、「これは通訳者の天下一武道会だ。四天王がいるから、彼らを倒して上がってこい」と言われて、とても面白そうだなと思って。それから大会に向けて特訓を重ね、運良く優勝することができました。マイクさんとの関係はその後も続き、今では頻繁に連絡を取り合う仲になっています。

グランプリ受賞の経験が、現在の仕事にどのように生かされていますか?

受賞によって、社内外での存在感が大きく高まりました。社内では、エンタリンガルを展開する際の後押しにもなり、社外でもスキルが認められたことで、信頼感を得ることができました。また、グランプリ受賞をアピールポイントとしてサービスに取り入れることもできましたし、実はその後、別のメンバーも同大会で2位を受賞したこともあって、「優勝レベルのメンバーがそろっている」という強い印象を持たれるようになりました。受賞は大きな転機になりましたね。

高木さんは、Meiso(メイソウ)名義でラップなどの音楽活動もされています。その経験が通翻訳に与える影響について教えてください。

「ラップの歌詞を書く」という経験が、言葉への興味や翻訳に対する関心を深めました。ラップは豊富なボキャブラリーが必要で、言葉を選び、使いこなすという点で翻訳と共通しています。とくに、何度も推敲しながら精度を高めていくプロセスは、翻訳にも役立っています。また、通訳は一度きりのライブパフォーマンスのようなもので、ラップで培った自信や立ち振る舞いが役立っています。
さらに、ラップには即興で歌詞を作り出し、その場で言葉を紡いでいく「フリースタイル」があります。対峙している相手や今の状況について、瞬間的に頭の中のイメージを言語化する感覚が、同時通訳と非常に似ているんですよね。そしてラップは、最後にどうインパクトのある言葉を持ってくるかで、同じ内容でも響き方がまったく変わってきます。内容をただ伝えるのではなく、より印象に残るように、より響くように工夫する部分に、ラップと通訳の共通点があると感じますね。

多彩なエンターテイメントシーンに広がるエンタリンガルの未来

エンタリンガルの今後の展開やビジョンを教えてください。

ローンチしてから現在まで順調に進んでいますが、まだ離陸したばかりの飛行機のような状態なので、まずは安定した軌道に乗せることが目標です。今後はさらに、音楽フェスや大規模なポップカルチャーイベント、eスポーツ大会など、さまざまなエンターテインメントの場にサービスを拡大できればと思っています。引き続きメンバーを大切にしつつ、さらに仲間を増やし、通翻訳に情熱を持つ人たちを迎え入れて、共に成長していけるようなチームにしていきたいですね。

最後に、世界で活躍したいクリエイターへのメッセージをお願いします。

世界での活躍を目指すなら、まずは自分自身が世界に飛び出すことが大切です。私自身も地元のハワイを出て、日本でさまざまな経験を積んだ過程で成長できたと感じています。海外で得た人脈や経験を持ち帰ることで、世界とのつながりが広がるはずです。
そして、海外展開を考えているクリエイターの方々には、ぜひ私たちのサービスを検討していただきたいです。国際的なコラボレーションや協業の際に、私たちが間に入ることで、どこの国とでもスムーズに連携できます。現在、英語圏でのサポートが中心ですが、他の言語にも対応できるよう拡充中です。ぜひ一緒に、日本の素晴らしいアートを世界に届けましょう。

 

取材日:2024年8月6日 ライター:小泉 真治

株式会社ポリゴン・ピクチュアズ

  • 代表者名:塩田 周三
  • 設立年月:1983年7月22日
  • 事業内容:映画、TVシリーズ、ゲーム、ライブ・展示会、WEB・スマートデバイスなど、各種メディア用コンテンツの企画・デザイン・映像制作・ライセンス
  • 所在地:〒106-0047 東京都港区南麻布3-20-1 Daiwa麻布テラス1階
  • URL:https://www.ppi.co.jp

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