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ロングセラーを超えて未来へ!「うまい棒」のゆるくて楽しいクリエイティブの裏側

Vol.233
株式会社やおきん 営業企画部
Takahiro Ono
小野 貴裕

1979年の誕生以来、45年以上にわたり世代を超えて愛され続ける「うまい棒」。国民的駄菓子として定着し、2019年には11月11日を「うまい棒の日」として制定。SNSキャンペーンや総選挙など、ユニークな企画が話題を呼んでいます。その仕掛け人が、株式会社やおきんの小野貴裕さん。キャンペーンの展開やオフィシャルサイト、SNS運営などを通じて、うまい棒のブランディングに新しい風を吹き込んでいます。

今回は小野さんに、うまい棒の「味」や「デザイン」へのこだわり、進化し続けるキャラクターの裏話、SNSを活用したキャンペーン戦略などについてお話を伺いました。愛され続ける理由と今後の展望を探る中で、うまい棒の奥深い魅力が浮かび上がります。

子どもから大人へ。世代を超えて受け継がれる味の記憶

お菓子に限らず、40年以上も愛され続ける商品は少ないと思いますが、うまい棒がこれほど長く愛される秘訣は何でしょうか?

うまい棒は開発当初から、味の再現性に非常にこだわっていました。とくに大人が食べるようなチーズやサラミといったおつまみを子どもが「大人の真似をして食べてみたい」と感じられるような味にすることを目指したんです。

シーズニング(味付け)に細心の注意を払い、子どもたちが少し背伸びをして食べた経験が、やがて大人になった時に懐かしい思い出として蘇る。大人になってからは、お酒のおつまみとして楽しむこともできる。さらに、その体験を自分の子どもにも伝えたいと考える方も多く、こうしてファンが循環していくことで、長く愛され続けるロングセラー商品になったのではないかと思います。

私も幼い頃、本物のサラミを食べる前に、うまい棒で先にサラミ味を体験しました(笑)。新しい味の企画や開発はどのように行われていますか?

初期の頃は、その時代にあまり浸透していない味を取り入れることが多かったですね。例えば、めんたい味がその一例です。当時、九州の方では一般的でしたが、日本全体ではまだ明太子があまり知られていませんでした。開発担当者が九州に旅行した際に、この美味しさを全国に広めたいという思いで、めんたい味を取り入れたんです。他にも、チーズ味はチェダーチーズを加えるなどして、本格的な味にカスタマイズしていきました。

現在では、うまい棒には15種類の定番ラインナップがあります。うまい棒の味は、ローテーション制を採用していて、人気がふるわない味は「交代」することもあります。まるで野球の選手交代のようなもので、四番バッター的な人気の味もあれば、コアなファンの方々に支持されるニッチな味も用意して、バランスを取りながら進めています。

独特のゆるさがクセになる、うまい棒デザインの魅力

うまい棒といえば、パッケージデザインが特徴的です。懐かしさもありつつ、新しさも加わっているイメージがありますが、どのように進化してきたのでしょうか?

最初は中身が見える透明の袋でしたが、途中からアルミの袋に変更しました。これまでに60種類以上のパッケージが登場しており、デザインのタッチも時代と共に変わっています。例えば、キャラクターの目が大きくなったり、今風のタッチに変わったりしていますね。

パッケージのテーマは、その時代を反映したものが多く、当時の流行や、時代を象徴するようなモチーフを取り入れたデザインもありました。「とんかつソース味」のパッケージには宇宙飛行士が描かれていますが、これは小惑星の衝突から地球を救ったあのSF映画の影響を受けているとか、いないとか…(笑)。

最近では楽しさを維持しつつ、隠し要素を取り入れる工夫もしています。例えば、何十本かに一本だけ違うキャラクターが混ざっていたり、セリフが微妙に異なっていたり、細かな違いが隠されているんです。こういったレアなパッケージを探す楽しみもあります。

また、流行にそのまま便乗することはあまりせず、少し落ち着いてから取り入れることが多いですね。いわゆる流行が一周したタイミングを狙うことで、駄菓子ならではの独特なゆるさを表現しやすくなります。それがやおきんらしさとしてデザインに現れているのだと思います。

独特の雰囲気を出すために、駄菓子のデザインにはそういった手法が他にもあるのですか?

明確な手法があるわけではありませんが、例えばアミューズメント向けに開発した「メガフガシ」では、今風のカラフルさやメタリックな光沢を取り入れつつも、文字やデザインにはどこか昔っぽさを残すようにしました。イラストは普通に描くと駄菓子らしさがなくなるので、線を太めにしてラフなタッチで描くようにしています。包材にはアルミ素材を使い、光沢をそのまま活かしてピカピカした印象を出しています。

設定も駄菓子らしい遊び心があって。この「メガフガシ」では、恐竜がふ菓子を食べて進化するという、現代を舞台にしたストーリーになっていますが、もう時代設定が完全にめちゃくちゃですよね(笑)。でも、駄菓子の世界観では、こうした設定が逆に面白くて楽しさの一部でもあるんです。

自然発生的な情報共有が良質なクリエイティブを生む

「うまい棒総選挙」などSNSを活用したキャンペーンを多く展開されていますが、狙いや取り組みについてお聞かせください。

2019年に制定された11月11日の「うまい棒の日」を中心に、これまでさまざまなキャンペーンを展開してきました。例えば、2023年に実施した「うまい棒の日を守れ!地球防衛プロジェクト」では、SNSでも流行していた16タイプ診断を駄菓子風にアレンジしました。もともとある仕組みを、駄菓子の世界観に合わせてどう面白く見せるかという工夫ですね。また、SNSでは「いいね」やシェアの数を集計し、ポイントが貯まる仕組みを使って楽しんでもらえるようにしています。ちなみに、2024年は「第5回うまい棒川柳」を開催します。

こうしたキャンペーンの主な目的は、味の種類の認知度を広げることです。「こんな味もあるんだ!」とSNSで話題になり、多くの種類を知ってもらうことが狙いです。とくにスーパーやコンビニでは売れ筋トップ3の味しか扱っていないことが多いため、SNSを通じて他の味も広く知ってもらうことを意識していますね。

キャンペーンのプロジェクトはどのように進めていくのでしょうか? 具体的な流れを教えてください。

基本的には、私一人でいろいろなアイデアを考えて進めていますが、「うまい棒の日」などの大きなキャンペーンの時には、他部署からもプロジェクトメンバーを募集します。ノベルティやストーリーのアイデアを社内で募り、全社的に取り組むようにしています。

こうした取り組みを行う理由は、社内の盛り上がりがブランドの成功に直結するからです。社員が自社の商品を愛し、楽しんでいることが、やる気にもつながります。実際に自分が考えたアイデアが形になると、みんなのモチベーションも上がり、積極的に関わってくれるようになります。

社内でクリエイティブな発想を育むために、どのような取り組みをしていますか?

例えば、試食品を回したり、面白い商品を見かけたときに「こんなのがあったよ!」という軽い感じで社内チャットに共有するのが習慣になっています。誰かが気づいたことをみんなで共有することで、新しいアイデアに発展する場合が多く、自然とクリエイティブな風土ができています。これは、会社が指示してはじめたものではなく、いつの間にか自然に生まれた習慣です。

私たちの会社は、食に対して貪欲というか、こだわりを持つ社員が多いので、新しい情報を面白がって反応し、積極的に共有する文化が根付いているのだと思います。この自然な情報共有が、非常に良い形で機能しています。

新しい形で未来へ。SNSや体験で広がる駄菓子の世界

チームビルディングに苦労する組織が多い中、自然とそうした文化が醸成されているのは素晴らしいですね。40周年を迎えた際には、メインキャラクターに「うまえもん」という公式な名前をつけたと伺いました。その経緯についても教えてください。

実は、40周年まではこのキャラクターに正式な名前がありませんでした。「勝手に呼んでいいよ」というスタンスで、ファンの方々に「うまいボーイ」や「うまい坊や」といった様々な名前で呼ばれていたんです。駄菓子の自由な想像を楽しんでもらうため、キャラクターを固定化しないようにしていました。キャラクター設定としては「コスプレ好きの宇宙人」という背景があるのですが、名前にはあまりこだわらず、幅広い解釈ができるようにしていたんです。

ただ、40周年の際に妹キャラクター「うまみちゃん」を登場させることになり、兄であるキャラクターに名前がないと「〇〇の妹」と紹介できないという理由で、正式に「うまえもん」という名前をつけることになりました。

「うまみちゃん」の登場は、WebやSNSでのマーケティングにどのように関わっているのでしょうか?

うまみちゃんの登場には、世界観を拡張するという意図がありました。うまえもんはどうしても「うまい棒」のキャラクターなので、他の商品の紹介には向いていませんでした。そこで、やおきんの商品を幅広く紹介する役割として「うまみちゃん」が登場したんです。現在、うまみちゃんは専用のSNSアカウントを持っていて、駄菓子や新商品の紹介をしたり、関連するプレゼントキャンペーンを行ったりしています。

素朴な疑問ですが、うまえもんとうまみちゃんは兄妹なのに、見た目のテイストがずいぶん違うような…。

うまみちゃんも兄と同じく宇宙人という設定なので…。うまえもんの姿だって、これが本当に彼本来の姿かどうかはわかりません。擬態している可能性もありますからね(笑)。キャラクター設定は基本的に自由で、枠にはめないようにしています。この自由な発想は、SNSの運用にも反映されています。

例えば、2023年のエイプリルフールには「うまい棒グラッシーズ」というVRメガネ風の商品を発表しました。でも、実際にはメガネにうまい棒がくっついているだけという、非常に雑なコラージュでした。エイプリルフールの企業合戦が飽和状態だったため、あえて雑なクリエイティブを出すことでゆるさを演出し、結果的に「雑!」というリアクションをたくさんいただきました。これも楽しんでいただけた要因かと思います。

駄菓子屋が減少し、お客さんとの接点が少なくなっていますが、SNSがその代替になるのでしょうか?

そうですね。まず、ファンの方々を大切にしたいという思いがあり、SNSを活用したキャンペーンを積極的に展開しています。さらに、現在は全国の駄菓子屋さんを巡る「デジタルスタンプバッジ集め」のシステムづくりも進めています。これは駄菓子御朱印帳のようなもので、駄菓子屋を巡ってデジタルバッジを集めることで、駄菓子屋に訪れる楽しさを広げたいと考えています。スマホを活用し、現代の子どもたちに合わせた駄菓子の楽しみ方を提案していく予定です。

駄菓子屋と聞くと「懐かしい」というイメージが強いですが、当社としてはただ懐かしむだけではなく、今の子どもたちが楽しめる「新しい駄菓子屋」を目指しています。展示会ではビビッドな色やパステルカラーを使うなど、今の子どもたちが大人になったときに「昔こんな駄菓子屋があったよね」と思い出してもらえるような新しい形で、駄菓子の世界を広げていきたいと思っています。

今後さらに40年、50年と続くうまい棒の未来を見据えて、どのような展望をお持ちですか?

オンラインだけでは体験できない「実際にお菓子を食べながらの思い出づくり」が大切だと考えています。そのため、移動式の駄菓子屋や、親子で楽しめるミニ駄菓子フェスなど、リアルな体験を提供していきたいですね。

例えば、2024年の「柏の葉T-SITE 夏祭り」では「うまい棒 どでかぬりえ」というワークショップを開催しました。うまい棒オリジナルクーピーを使って、2メートル以上もある大きな塗り絵に挑戦するイベントです。こうしたイベントを通じて、子どもたちがうまい棒と楽しい時間を過ごし、その思い出が大人になっても懐かしく感じられるような体験を提供していきたいです。

駄菓子は単に食べるだけでなく、友達と一緒に食べたり、駄菓子屋で集まったりと、コミュニティーで楽しむものです。やおきんとして、そうした思い出に残る体験を提供し、駄菓子がつなぐ温かいコミュニケーションや笑顔を未来にも残していけるよう、新しい形で挑戦を続けていきたいと考えています。

取材日:2024年7月12日 ライター・スチール:小泉真治

株式会社やおきん

  • 代表者名:角谷昌彦
  • 創業:1960年4月
  • 会社設立:1981年9月
  • 事業内容:菓子、食料品企画・販売、玩具の販売
  • 所在地:
    ・本社 〒130-0003 東京都墨田区横川5-3-2
    ・八潮営業本部 〒340-0834 埼玉県八潮市大曽根1606-1
    URL:https://www.yaokin.com

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