新たな戦略でチャンネル登録者数が3倍に!千葉ジェッツのYouTube施策。MIXIデザイン本部に聞く、成功の秘訣とは?
今や、スポーツチームが独自にSNSアカウントを運営し、ファンへの情報発信やファンとの交流を行うのが当たり前になっています。とはいえ、目指すような成果がなかなか上げられずに悩むチームが多いのもまた、事実。
そのような中、B1リーグに所属するプロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」は、約3年でYouTubeの登録者数をおよそ3倍にまで伸ばし、試合会場へ足を運ぶファンを増やすことに成功しています。同チームのYouTubeを千葉ジェッツ広報と協力して企画・運営している株式会社MIXIの折原綾平さん、沖浦雅俊さんにSNSを活用したマーケティング成功の秘訣などについて、お話をうかがいました。
試合に足を運びたくなる人を増やすことに注力した結果、登録者は16万人を突破
左:折原綾平さん 右:沖浦雅俊さん
貴社は、YouTubeを用いて千葉ジェッツのSNSマーケティングを支援されています。さまざまなSNSチャネルがある中で、YouTubeの特性や優位性はどのようなところだと考えていますか?
折原さん:われわれは、マーケティングを戦略的に推進しているというより、ブースター(※1)の皆様とのエンゲージメント(※2)を強化することに重点を置いています。そのために有効なのがYouTubeだと思っています。
沖浦さん:チームのYouTubeチャンネルで登録者にアンケートを取ったところ、TikTok、LINE、Instagram、X、YouTubeのうち、1コンテンツあたりの視聴時間が最も長いのがYouTubeとの結果が出ました。
折原さん:単純接触の時間が長ければ長いほど、その分、チームや選手を好きになってもらいやすい。それが、徐々にエンゲージメントの強化につながっていきます。
※1.ブースター:バスケットボールのファンを表す名称
※2.エンゲージメント:企業と顧客との親密度や信頼関係を表す
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YouTubeチャンネルの登録者数が、約3年でおよそ3倍にも増えたそうですが、当初からこれほどの増加は見込んでいたのですか?
折原さん:YouTubeはチャンネルの登録者数で語られがちですが、実はわれわれはあまりそこに目標を置いていません。チャンネル登録者数はBリーグNo.1を獲りたい!という気持ちはあったものの、真の目的はそこにはありませんでした。
当社が千葉ジェッツの広報と協力しながら、本格的にチームのYouTubeの企画・運営に携わり始めた2021年当時、1万人規模のホームアリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」を2024年に竣工する計画が決まっていたんです。だから、チームや選手のブースターを増やして、アリーナへ足を運んでもらうことをゴールに設定しました。
登録者数はあくまでデザートみたいなもので、メインではなかった。視聴者の動画の滞在時間が増えること、「いいね」やコメントなどエンゲージメントを表す指標の数が増えることに重きを置いていたのです。それで結果的に、登録者数も増えたのはとてもうれしいことでしたね。
2024年12月22日時点での登録者数は、162,974人
“サプライズ”を軸に、ショート動画で新規のファン層を獲得
エンゲージメント強化を推進するために、どのような工夫をしたのですか?
折原さん:「チームのことをまだ知らない人に、知ってもらうこと」を目的に、ショート動画を積極的に取り入れることにしました。既存のファン層に対してのアプローチも大切ですが、新規ファンを獲得しなければ、長い目で見て盛り上がっていくことはできませんから。ショート動画はレコメンドが自動再生される仕様なので、チャンネル登録をしていない人にも届けることができる。新規層を獲得するのにぴったりのフォーマットです。
沖浦さん:選手はYouTuberでもなければタレントでもありません。それに、激しい練習の前後に撮影に協力してもらうので、こちらが意図した企画を、長い時間をかけてしっかりと撮るのは難しい。選手の負担を減らしながらインパクトのあるコンテンツを生み出せるのも、ショート動画を取り入れた理由の1つですね。
©CHIBAJETS FUNABASHI
新規層を獲得する上で、ショート動画作りのポイントとしたのは、どのような点ですか?
折原さん:正直バスケットボールにそこまで詳しくなくても、選手のキャラクターを好きになってもらったり、スーパープレーを楽しんでもらったりできればOKだと思っていました。だから、まずはインフルエンサーやYouTuberとのコラボを数多く企画して、動画を作っていきました。
沖浦さん:鉄棒を使った無重力ダンスと言われるパフォーマンスで人気のユニット「エアフットワークス」や、「バスケあるある」でバズっているYouTuberの「スクワッド」など、強みを持っている相手に依頼してコラボさせてもらって、それがうまいことハマりましたね。最近では、令和の時代にあえて昭和風のトーンで動画を作る「フィルムエストTV」にチームの紹介動画を制作してもらい、それも好評でした。
©フィルムエストTV
折原さん:また、600万回以上再生されているチャンネルで一番伸びている動画は、バスケットボールとあまり関係のない内容ですが、その絶妙な組み合わせがうまくはまって千葉ジェッツを知らなかった人へ動画を届けることに成功したわけです。
コラボ相手を考える時に意識しているのは、「こことコラボするの?」と視聴者が驚くような組み合わせ。MIXIは意思決定の1つの軸として、「ユーザー サプライズ ファースト」を掲げています。見る人の想像を超えるような驚きを与えることを、大きな指針にしているんです。怒られてもいいからサプライズを狙う。そのくらいの気持ちでいつもコンテンツを企画しています。
世界一大事なサムネイルの極意。カギになるのは「視認性」と「明るさ」
動画の表紙とも言える「サムネイル」をブラッシュアップするために、社内で「サムネ道場」なるものを開いたと聞きました。
折原さん:言い過ぎかもしれませんが、「世界で一番大事!」と言えるくらい、動画のクリック率を上げるためにサムネは重要です。それまでは制作するディレクターごとにクオリティがバラバラで、統一感がないし、わかりやすさも十分ではありませんでした。それで、すでに公開されている動画をサンプルにして、どうしたらこのサムネをブラッシュアップできるか、みんなでアイデアを出して実際に一人一人作り直してみるワークショップを行いました。
沖浦さん:テレビ番組の制作を経験したディレクターが多いのですが、テレビにはサムネがないですから、重要性をあまり認識していなくて。サムネ用にわざわざ写真を撮るとか、写真の色補正をするとか、そういった習慣もなかったんです。
折原さん:ヒキの強いサムネに共通するのは、当たり前ですが「視認性の高さ」と「明るさ」。この当たり前が体に染み込んでからが本番なんです。読みやすさを重視してフォントを選ぶとか、インパクトを重視して写真を選んだり、調整したり、複数の素材を組み合わせるとか。基本的なことができてから、表現にはいることが、サムネ作りのポイントです。
選手のジャンプ力のすごさを伝える動画を、例に挙げてみましょう。
公開済みのものは「驚異の跳躍力」という文字と、ジャンプする選手の写真で構成されています。サムネ道場で出たブラッシュアップ案は、電話ボックスや小学生など高さを比較する対象や、ほかの選手が跳躍力に驚いている表情を動画に入れ込むものでした。そうやって、できる限りその動画で一番伝えたいことが伝わる。ちょっと観てみたくなる工夫を落とし込んだサムネを作ることに力を入れました。
沖浦さん:その結果、それ以降の動画クリック率が4.2ポイントも上がったんです。ほかにも、人気のあるTikTokerを招いて勉強会をしたり、コラボ相手の撮影ノウハウから学んだりして、ショート動画制作のレベルを上げていきました。
SNSは、Bリーグ全体の底上げに欠かせないマーケティングツール
さまざまな施策を実施した結果、YouTubeの登録者数は増えましたし、実際に新規のファン層が獲得できたということですよね。
折原さん:そうですね。登録者を分析してみたところ、これまでは男性比率が多かったのが、女性ファンが増えたことがわかりました。それに、30~40代が中心だった視聴者層も10代、20代にも広まって、全世代バランス良く見てくれるようになりました。
沖浦さん:プレー中のかっこいい姿だけではなく、オフの姿も見せていくことを大切にしていて。それで、選手のキャラクターを知ったり、ギャップを感じたりして、どんどん好きになる人が増えているようです。アンケートでも「YouTubeを見たことで選手を好きになる」という回答が多かったですね。
今年からチームに加入した高校3年生の瀬川琉久選手も、「YouTubeを見てチームの雰囲気が気に入ったことは、入団したいと思ったきっかけの1つだった」と話してくれて。高校のスター選手にも見られているんだと、うれしくなりました。
女性や若い層に刺さるのは、やはり企画のおもしろさゆえでしょうか?
折原さん:われわれは、あえて女性や若い人にウケるものを作ろうとはしていなくて。われわれの世代が若い人向けの企画を作るのは簡単ではありません。だって若くないんですから。分析を丁寧に行って、経験でアウトプットする。それをまわりに広げていく。そんな感じです。YouTubeだけでなくSNSで失敗するのは、ターゲットではない層の人間が、ターゲットに刺さるものを無理に作ろうとするからだと思います。そうではなく、とにかく旬なトピックや人、相性が良いコラボ相手やコンテンツを選ぶセンスとコンテンツのクオリティを上げていくことが大切です。
YouTubeチャンネルが盛り上がることを、選手も喜んでいますか?
折原さん:選手自身も、個人のSNSアカウントのフォロワー数が増えたり、会場で声をかけられる機会が多くなったりと、YouTubeの影響が大きくなっていることを実感しているようです。それによって、YouTubeを運営する意味・目的を選手が理解してくれて、より積極的に撮影に協力してくれるようにもなりました。
沖浦さん:先日は、選手から「ジーパン買いに行くけど、ついてくる?」と声をかけてもらい、ショッピングに同行する動画を撮りました。当初はどんな企画をやりたいかについてアンケートを取っても、なかなか答えてもらえない日々もありましたから、こんな風に選手側からYouTubeの撮影ネタを提案してもらえるなんて、ものすごい変化です。
千葉ジェッツの成功例を見て、真似をするチームもいるのではないですか?
折原さん:大きな声では言えませんが、そうですね。でも、それでいいと思っています。われわれは追いつかれないように、新しいものを追求していくだけ。それが楽しいんです。それに、1つのチームのYouTubeが盛り上がったからと言って、Bリーグ全体への影響は小さい。Bリーグ人気を底上げするためには、全チームのYouTubeが盛り上がっていかなければいけないと思っています。
子どもが公園でやるスポーツと言えば野球やサッカーがほとんどですが、この間、近所でBリーグの「とあるチーム」のTシャツを着てバスケをする子どもを見たんです。もっともっと増えてくれたらいいなぁってシンプルに思いました。子どもたちにもおもしろさをダイレクトに伝えられるツールが、YouTubeやSNSですよね。若い層への訴求のしやすさを、より生かしていきたいと思います。
YouTubeを始めとして、これからのスポーツ界ではSNSが果たす役割は大きそうですね。
沖浦さん:今年1月に、Bリーグのオールスターが千葉ジェッツのホームで開催されたんです。ファン投票で出場の可否が決まるのですが、千葉ジェッツには地元船橋出身の選手が2名。投票期間中、当落線上を彷徨っていました。我々としても、何とか力になりたいと思い「選手をオールスターに連れて行こう」というメッセージ性のある動画を公開。たくさんのファンから「俺らに任せろ!」などのコメントが届き、投票というアクションをして頂いた結果、晴れて2選手はオールスターに出場することができました。
折原さん:そう。そんな風にファンと双方にコミュニケーションが取れて、一体感を生みやすいのがYouTubeの良いところ。普段から、ファンに喜んでもらうことを意識した動画を作っているから、きちんとエンゲージメントが醸成されていて、だからこそ何かあった時に「みんなで応援しよう!」と呼びかけると、それに応えてくれるんです。
こちらの利益や目先のことだけを考えて動画作りをしていたら、視聴者にはわかってしまいます。たっぷりと時間を使って、しっかりコミットしているかどうか。それがSNSマーケティングをしていく上で、最も重要なことなのではないかと思います。
沖浦さん:僕らは今、YouTubeに力を入れていますが、YouTubeにこだわっているわけではありません。ファンに何をどう届けるかを考えたうえで、現状ベストなのがYouTubeというだけです。
折原さん:今後はリアルイベントも含めてファンの皆さんが参加したくなる体験を作り続けていきたいですね。
取材日:2025年1月22日 ライター:佐藤葉月
株式会社MIXI
- 代表者名:木村 弘毅
- 設立:1999年6月3日
- 事業内容:スポーツ事業/ライフスタイル事業/デジタルエンターテインメント事業/投資事業
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