アートと社会の関係を考えるアートプロジェクト Relight Project
- Vol.123
- リライトプロジェクト 運営事務局 特定非営利活動法人インビジブルのマネージング・デレクター 林曉甫さん、菊池宏子さん
六本木のけやき坂を照らしていたパブリックアート「Counter Void(カウンター・ヴォイド)」。作者である宮島達男氏が、自らの手でその光を消したのは、東日本大震災直後の2011年3月13日のこと。その後長らく、被災者への鎮魂の意を示し続けてきました。 アートプロジェクト「Relight Project(リライトプロジェクト)」は、この「カウンター・ヴォイド」の「Relight(再点灯)」の議論をきっかけに、社会に問いかける装置としてアートを位置づけ、自ら考え行動していける「社会彫刻家※1」の育成を目指してスタートしました。アーティストが旗振り役となり、人々と作品を作るといった従来のアートプロジェクトとは一線を画すこのプロジェクトについて今年度より、リライトプロジェクトの運営事務局を担う特定非営利活動法人インビジブルのマネージング・デレクターである林曉甫(はやしあきお)さんと菊池宏子(きくちひろこ)さんに伺いました。
※1ドイツの美術家、ヨーゼフ・ボイスによって提唱された概念で、だれもが自らの創造性(Creativity)によって、社会の幸福に貢献できる。すなわち、だれもが自分で考え、自分で行動することで社会を彫刻し、より良い社会を創っていくべきという考え。アートと社会の関係性を考えるアートプロジェクト
リライトプロジェクトの運営事務局を、作品の作者である宮島達男さんではなく、インビジブルが担うことになった経緯を教えてください。
菊池さん:宮島さんを含むリライトプロジェクトメンバーの中で、人を巻き込む参加を主軸においた新しいカタチのアートプロジェクトについて議論を重ねてきました。多くの人に知ってもらうことの大切さも考えながら、アートと社会の関係を深く考え、それぞれの立場からかかわる仕組みを考えてきました。私たちインビジブルが大切にしている考え方が、プロジェクトの方向性にぴったり合致してきて、事務局を担うことになりました。その表れの一つが、「コミッティ」。他分野からリライトプロジェクトの根幹となる理念に賛同し、定期的に集まり“概念(invisible)を体現化する(visible)”チームです。
では、宮島達男さん自身のプロジェクトへの係わり方は?
菊池さん:宮島さん自身リライトプロジェクトのメンバーであり、一市民であり、そしてアーティストという専門家として関わっています。先日「カウンター・ヴォイド゙は嫁に出した娘のよう」と表現していましたが、生みの親ではあるけれども、今はリライトプロジェクトメンバーに「育てる」ことを託した感じですかね。
林さん:宮島さんは作品の作者ではありますが、リライトプロジェクトの運営については委ねられています。僕らは、彼が提唱する「Art in You※2」の概念を尊重した上で、社会彫刻という考え方をどうアップデート(更新)するのか、このプロジェクトにおいて社会彫刻の概念を育てることを任されたと思っています。
※2「Art in You」とは、アートは既に一人ひとりの心の中にあるものであり、作品鑑賞を通じて生まれる心の変化や反応こそ重要であり、作品そのものには価値はないという宮島達男の提唱する概念。
「リライトプロジェクト」におけるインビジブルの使命は何だと思いますか?
林さん:リライトプロジェクト自体を自分のプロジェクトとして話してくれる人を増やすことですね。「invisible to visible(見えないものを可視化する)」というのが、僕らの団体インビジブルのコンセプトです。アートを通して見えない何かに形を与えられたら、自分たちの役目を果たせるのではないかと思っています。
菊池さん:我々が運営を担うことで、いろいろな価値観がぶつかり合い、リライトプロジェクトが新たなカタチのアートの役割を示せたらいいと思っています。
「Relight Days」でアートと社会の関係を考える
具体的には、どんな計画かがあるのてですか?
林さん:まずは、来年3月に「Relight Days」というイベントを開催します。このイベントでは、実際に参加して、自分の心で何かを感じてもらたいのと同時に、アートと社会の関係について考えるキッカケを作りたいと考えています。
リライトプロジェクトにおける「コミッティ」とは、どんな組織なんですか?
菊池さん:再点灯にまつわるイベントが「Relight Days」ですが、詳細はこれからです。そして、その企画・運営を今「コミッティ」とともに模索中です。林が述べたように、「Art in You」のこと、そして社会彫刻といった概念が背景にあり、アートの役割を深く考える学びの環境をつくりながら、「Relight Days」という仕掛け(イベント)を使ってアートと社会の関係を考える問い、気づきの場を作りたいと思っています。今年度は、私がファシリテートする中で、小さくてもいいから、理念が、深まるような組織・チームを作っていきたいと思っています。とても時間のかかるプロセスですが、例えば来年度はそのファシリテーターが、現在のコミッティメンバーの誰かになるかもしれません。そうやって、彼らの心がコミットした中で、次の段階に入れるような仕組みを作っていかなければならないと思っています。
「コミッティ」には、どんな方が参加されているのですか?
菊池さん:「アートというものが社会とどう繋がっているのか」ということに関心がある多世代、多ジャンルの方々が集まりました。今ホームページには、彼らのプロフィールも掲載されています。目的は様々ですが、宮島さんの作品が好きな人、もっとアートと社会の関係について学びたいという人、社会に対する思いをカタチにしたい人など幅広く多様な人たちで構成されています。
これだけやる気のある方たちが集まって議論するとなると意見を集約するのは、たいへんな作業だと思いますが?
林さん:はい、大変です(笑)。しかし、「このプロジェクトをどのようにしていくか?」という議論をコミッティと継続しながら、プロジェクトの今後を考えていきたいと思っています。事務局である僕らの仕事は利用できる場所や運営予算の制約のなかで、主体的にプロジェクトに関わる意思を持つ人といかに多様な活動を生み出していくかということかもしれません。誰を対象にしたプログラムをやるのかという基本的なところからコミッティと考えていければと思います。
これから、このプロジェクトに参加するには、どのような参加方法がありますか?
菊池さん:プロジェクトを作っていく「コミッティ」については、すでに募集を締め切っていますが、イベントの運営ボランティアや、ワークショップやセッションの聴講など随時募集していきます。また、WEBサイト上では現在も「3.11が■ている。」のプロジェクトが展開されていて、こちらはどなたでも参加頂けますので、ぜひWEBサイトにアクセスしてみてください。
林さん:リライトプロジェクトでは、Facebookやメールマガジンなどで情報を発信していきますので、興味のある方はぜひ登録して頂ければと思っています。また、自分も何か関わりたいと言う方は、「私はこう関わりたい」と、ご連絡頂ければ嬉しいです。
今後のスケジュールについて教えてください。
林さん:生と死をプロジェクトのテーマに、5年ぶりとなる「カウンター・ヴォイド゙」の再点灯などを行う「Relight Days」を来年3月に開催します。それに向け、1月に3月のRelight Daysについてのアナウンスを行う予定です。
ありがとうございました。 プロジェクトの情報は、クリステでも随時お知らせしていきます。
取材日:2015年10月5日 インタヴュー:クリステ編集部