町をオモイ、自分を見つめ直し、オモイが広がる「マチオモイ帖」
- Vol.124
- aozora代表 「マチオモイ帖」制作委員会メンバー 清水柾行さん
オモイのある町を、個人の視点で表現する「マチオモイ帖」 自分を育んできた大切なものに向き合い「新たなスタート」に
さっそくですが、「マチオモイ帖」について、教えてください。
一言で伝えることが難しいものなのですが、「マチオモイ帖」とは、自分にとってオモイのある町、大切な町を、個人の視点で表現した小冊子、または映像です。小冊子ならばA4サイズ以内、映像ならば2分以内という制限はありますが、その中であれば、表現は自由です。ガイドブックにはない、オリジナルな視点で町を紹介しています。
取り上げる町に名所や名物がなくてもいいのですか?
もちろん、大歓迎ですよ。名所なんて必要ありません。「作ってみませんか?」と声をかけると、多くの人が「自分が住んでいる町は普通の住宅街で、特別なものは何もないからできない」と言うのですが、周りの人に紹介する価値があるかどうかは問題ではなく、自分にとって価値があることが大事なんです。例えば、毎日通った通学路、名もない文房具屋、たまり場になっていた空き地……。誰も知らないし、紹介する必要もないけど、自分にとってオモイがあり、価値がある「町」を、ぜひ、取り上げて作っていただきたいと思います。
自分が育ってきた、暮らしてきた、バックグラウンドを振り返るようなものでしょうか?
はい。「マチオモイ帖」を制作すると、自分を作ってきたもの、育んできたものに向き合う時間が生まれ、記憶の彼方に忘れていた大切なものに気づきます。完成してそこで終わりではなく、新たなスタートになるのです。「マチオモイ帖」は、参加したクリエイターから「作って良かった!」と言われることがとても多いんですよ。
震災がきっかけで考えた「クリエイターが社会に対してできること」 足元を見直すタイミングで、オモイが広がる
「マチオモイ帖」が始まった、きっかけは?
東日本大震災がきっかけで、「クリエイターが社会に対してできることはなんだろう?」と考える機運が高まっていました。ちょうどそんな時期であった2011年5月に、現在は制作委員会のメンバーでもあるコピーライターの村上美香さんという女性が、生まれ育った広島県の因島の重井町を紹介する「しげい帖」を作ったのがはじまりでした。それは、あくまでも、村上さん個人の視点で作られたものでしたが、冊子になって、自分の町の意外な魅力に周りが気づき、お祭りなどの町のイベントで配られたり、「しげい帖」に載った場所に観光客が訪れたり、ちょっとザワザワする波紋が、町に広がったそうです。
そして、2011年6月に、私が企画した「クリエイターが社会にできること」を提案する展覧会に、村上さんのグループも参加し、「地域の課題」に対するひとつの提案として、「しげい帖」のように、それぞれの町を取り上げた小冊子を作ってみようということになったんです。その企画展では関西を中心に34帖が集まりました。
34帖の反応は?
震災があって、これまでの考え方に変化があった時期でした。「足元を見直したい」「自分のつながりを考え直したい……。」そんな考え方にピッタリとはまり、「マチオモイ帖」を展示した一角は、熱心にそれを読む人で、すごくホットな空気がありました。これを全国的に広げたら、もっと面白いことになるのではないかと思い、全国にあるクリエイターの支援団体などに声をかけたところ、2012年には、340帖が集まりました。東京と大阪で展覧会を開催し、おかげさまで大盛況でした。
震災があった折りもおり、タイミング的にも求められていたということなのでしょうか?
ガイドブックなどで紹介されたものに人が集まるとか、目新しいものではなく、足元を見つめ直して価値を再発見することが腑に落ちるタイミングだったことは確かです。自分にとって、大切なことを見直し、伝えて、それをきっかけにたくさんの人との会話が生まれ、改めて価値に気づく、そんなつながりが求められた時期だったと思います。
展覧会では、表彰のような仕組みはあるのですか?
「マチオモイ帖」は、表現を競うものではなく、オモイを伝える展覧会なので、表彰や評価はありません。最低限のルールさえクリアしていれば、すべての「マチオモイ帖」を展示しています。
自分と関わりのある町の知らない姿を知ることができること、 共感するオモイとの出会いがあることが魅力。
その後も、2013年、2014年と拡大を続けていますね。
2013年は、各地域が主催して展覧会を開催しました。すると、近隣の町、地元のものが集中して集まるんですよね。地元色にあふれた展覧会となりました。同じ町でも、違う人が見れば、それぞれ違っていることに気づいたり、知っているつもりでも、知らないことがあったり、近い町が集まる展覧会ならではの反応がありました。
地域的な展覧会を開くと、今度は反動のように「他の地域の『マチオモイ帖』も見たい!」となります(笑)。それで、昨年、2014年は東京と大阪で全国的な展覧会を開催し、800帖も集って、大変、盛況でした。
展覧会に足を運ぶ人は、どこに魅力を感じているのでしょうか?
まず、ガイドブックにはない町の魅力を知ることができる点。それから、住んだことがある町、何度も行ったことがある町、親戚が住んでいる町など、自分と関わりのある、知っている町についての自分の知らない姿を知ることができる点に魅力を感じてくださっていると思います。 加えて、知らない町の「マチオモイ帖」の中に、作者の原風景や大切にしているもの中に自分のそれと同じものを見つけて、オモイに共感するという出会いを求めて来てくださる方も多いと感じています。 ただ、「マチオモイ帖」は、一度に何冊も読めないんですよ。行間に込められたオモイのイメージを想像しながら読むのは大変な作業なので(笑)。そんなこともあってか、会期中に何度も通ってくださるリピーターの方も、すごく多いです。
「町おこし」が各地で盛んですが、「マチオモイ帖」との違いは?
「町おこし」は、スキルがある人とその町を愛する人が組んでやると、うまくいくように思います。 「マチオモイ帖」は、その前段階です。町を好きになる人を増やして「町おこし」がうまくいくように、土を耕している感じです。
「マチオモイ帖」のコンセプトに共感して、コラボレーションなどの広がりも出てきていると伺いましたが。
ゆうちょ銀行とのコラボレーションで、「マチオモイ帖」の中から地域の特性が出たビジュアルを使った「ゆうちょマチオモイカレンダー」を4年前から制作しています。今年は62万部も作られているんですよ。 また、京都府木津川市に「マチオモイ部」が発足しました。木津川市長は「歴史的建造物も大事だけど、それを守ってきた人達も含めて資産としたい」という考えの持ち主で、町に愛着を持って市民と行政が一体となり、木津川市の魅力を発信したいというオモイから創設されました。
自分のオモイに向き合い、ストレートに表現する貴重な機会 「伝える技術」を活かして、自分だけの「マチオモイ帖」を作ろう!
お話を伺っていると、「マチオモイ帖」は、普段、クライアントやその先にいるユーザーに向けて作っているクリエイターが、自分の原点に立ち返りオモイをストレートに表現できる貴重な機会だと感じました。
クリエイターは、商品やサービスを企画したクライアントのオモイを代弁するデザイン、文章、ムービーなどを作ることを得意として仕事をしていますが、自分のオモイに向き合うことはありませんよね。職業柄、こんな自分だけのオモイをひとりよがりに書いて伝わるのか?と心配になりがちですが、伝える技術があるので意外と伝わるんですよ(笑)。培ってきた伝える技術を、たまには自分のオモイを伝えることに使ってみて欲しいです。
これから「マチオモイ帖」を作りたいと考えているクリエイターにメッセージをお願いします。
「マチオモイ」は誰にでもあるもので、「マチオモイ帖」はオモイを載せるプラットフォームです。見えないものに、形を与えて「作ること」ができるクリエイターが社会に対してできることのひとつが、自分の視点や表現で町の新たな価値を提示し、伝えていくこと。自分自身のストレートな気持ちを表現して欲しいです。
ありがとうございました。 クリエイターのみなさん。あなたにとって大切な町のこと「マチオモイ帖」で、紹介してみませんか?
取材日:2015年10月29日 ライター:植松織江
わたしのマチオモイ帖
- URL: http://machiomoi.net/
- 「my home town わたしのマチオモイ帖」2016 作品募集中! 事前エントリー受付期間: 2015年10月1日(木)~2016年1月20日(水) ※作品の提出期間は2016年2月5日(金)~2月19日(金)です。