モノよりコト消費の今、悪の秘密結社が求められる理由
ヒーローショーの悪役に特化したイベント総合事業を手掛ける悪の秘密結社。社名のインパクトからSNSで話題となり、会社の顔である悪役・ヤバイ仮面は悪役でありながら人気を博しています。モノよりコト消費が重要視されている今、数々のイベントを企画してきた副社長の笹井浩生さんに、悪役にこだわる理由や、ヒーローショーの反響などについて訊きました。
きっかけはご当地ヒーローに「悪」がいなかったから
なぜ悪役専門の会社を立ち上げようと思ったのでしょうか。
まず私個人の経緯を説明しますと、はじめはTVヒーローのスーツアクターをやっておりました。とても厳しい現場で、自分にはヒーローは重すぎると感じたのです。ヒーロは減点方式なのでちょっとつまずいただけでも評価が下がってしまいます。怪人の方が自分には合っていると感じていました。その後、自分で会社を立ち上げるにあたり、当時存在していたご当地ヒーローの団体を洗い出してマトリックスを組み、戦略を考えました。その時でもうすでに200団体くらいあって、キャラクターは500体以上いたでしょうか。休憩するためその図を裏返したら、裏面、つまり悪役側には何も書かれていないことに気がついたのです。誰もやっていない、ならば悪者に特化したほうが活路が見出しやすいのではないか。そこで社名を意図的に「株式会社悪の秘密結社」にしました。悪役以外はできない社名にして、「退路を断つ」という気持ちを含めました。結果的には社名のインパクトで興味を引くことができました。なぜこの社名になったのかを説明するうちに事業内容を自然に説明できる動線が組めました。
悪役は主役の大義名分を引き出せる
「悪の秘密結社」がプロデュースするヒーローショーについて教えてください。
まず大前提として、我々が提供しているヒーローショーはTVヒーローのショーとは異なります。TVヒーローのショーはTVで放映したストーリーを切り取ってショーの現場に持っていきます。これはTVヒーローの「世界観」を現場に持ってくるやり方です。一方、我々がやっているヒーローショーはイベントの趣旨に合った内容を組み立てることが第一です。地産地消フェアをやってと言われたら地産地消にかかわる内容にします。つまり、「世界観を売る」のです。TVヒーローショーとはまったくの別物ですね。
ショーの主旨に沿って臨機応変に対応しているのですね。
はい。何でもやりますよ。たくさんのゆるキャラがいますが、ほとんど何もしていないというのがもったいなくて。だから悪役の力で既存のキャラクターを有効活用しましょう、という切り口で営業しています。ご当地ヒーローの場合は「悪側から見たらヒーローはこうあるべきだ」ということをお伝えしていますね。
それから、最近はイベント担当者から「このショーを通じて何が生まれるのか?」ということを聞かれることが多くなりました。我々が提供するショーやイベントはこの部分がはっきりしています。だから担当者も上長に報告しやすいですし、お客さんも理解しやすいのです。ちなみにショーの安全面も弊社が保証しているので、ヒーローの保険も我々が管理していますし、ヒーローがモノを壊したら、我々が保証するのです。
ヒーローショーのシナリオはどのように書かれているのでしょうか。
20分くらいのシナリオで、シンプルなものは3時間半くらいで書いています。要望が多かったり、キャラクターが複数登場するものは時間がかかりますね。TVヒーローなら色で目立たせるキャラクターがわかりやすいのですが、我々の場合はご当地ヒーローを5人呼んだら全員平等に見せ場をつくらなければなりません。逆に言うとそれが我々の得意とするところですね。
また、ショーの時間を使ってモノを売るシナリオを求められることもあります。フットマッサージ器を宣伝してくれと言われたときは大変でした。我々は怪人なのでブーツは体の一部、脱げないのです。そこでご当地ヒーローで靴を脱げるキャラクターを探し、ヒーローショーの中で靴を脱ぐシナリオを考える。それでしっかりとフットマッサージ器を売りましたよ。販促をしてほしいと言われたなら販促を徹底的にやりますね。
悪に徹することでどんなメリットがあるのでしょうか。
我々は悪なので大義名分を立やすいのです。例えばご当地ヒーローやゆるキャラが自分の町のお米をPRするなら、悪である我々はパンを食べます。するとヒーローは「待った!」がかけられるのです。これを引き出すのが我々の仕事ですね。
悪役だけど悪目立ちはしない理由
「ヤバイ仮面」のお客さんの反応はいかがですか?
よいと思います。「ヤバイ仮面」は日本で一番お金がかかっているのではないでしょうか。「ヤバイ仮面」はコンテンツ、つまりストーリーはありませんが、会社の成長がキャラクターの成長になっているので、そこが受け入れられていると感じています。ヤバイ仮面が終わるときは会社が潰れる時です(苦笑)。そんなところも面白いと思っていただいているみたいですね。
メインターゲットの子供からの人気はいかがですか? これだけクオリティが高いと、悪役の方が人気になることもあるのではないでしょうか。
お子さんのファンはほんの一部ですね。基本は大人が、悪役の意図を理解した上で応援してくださっています。女性比率が多く97%くらいでしょうか。悪役だけど頑張っている姿を応援したいと思っていただいているようです。保育園に行くこともあるのですが、数名の園児がヤバイ仮面を見て「いい出来だ」って言ったのにはびっくりしました。今は良いコンテンツがあふれているので、皆さん目が肥えてますね。
悪役に特化した事業を続けるためにしていることはありますか。
我々は悪であっても悪目立ちすることは避けるように心がけています。不良が良いことをすると良い人に思われるのと一緒ですね。悪が普通のことをするととてもいいやつと言われるのです。なので、相手になるキャラクターがいないときは普通でいることに徹していますね。徹底的にお客さんのためのショーにする。それが今のところはうまくいっているのかなと感じます。
悪役は”物騒な隙間産業”
悪の秘密結社がウケた理由はどこにあるとお考えですか。
ヒーロービジネスを10段階で分けると、ご当地ヒーローは1段階目、TVヒーローは10段階目になります。現在、その間のコンテンツがありません。クライアントは少ない予算で10段階目に近いコンテンツが欲しいと思っています。我々は年間200件近くヒーローショーの現場に立ち、そこで得たノウハウを活かして、限りなく10段階目に近いコンテンツを提案することができます。これは1段階目と10段階目のコンテンツに携わってきた我々にしか出来ないことと信じていて、その結果、中庸にある提案が可能になってきています。我々はこれからも徹底的に隙間しか狙いません。悪役に特化していることから、周りからは「物騒な隙間産業」と言われています。(笑)
ご当地ヒーローのコンサルティングも行っているとのことですが、実例とその内容を教えてください。
ひとつは「山代ガス株式会社営業部ヒーロー課 ヤマシロン」の監修を担当しました。先方のご要望で食育などのテーマにも取り組んでいます。最近では福岡の薬育のヒーローもプロデュースしていますね。それから福岡県北九州市のローカルヒーロー・キタキュウマンのヒーローショーの協力しています。ショーの制作から提供、実演などをやってきました。
我々がコンサルティングをする上でまずお伝えするのは、基礎中の基礎である「ヒーロー」というコンテンツを守ること、キャラクター性を守るということです。例えばヒーロースーツを「物」として扱い、SNS等に掲載してもいい設定とするのか、それとも「SF要素」なので、裏方が一切見えない運用方法にするのかなど、細部まで取り決めを行います。
悪の秘密結社を立ち上げて4年目に入ったとのことですが、今までやってきてなかで変わったこと、変わらないことはありますか。
イベントの主旨と、返ってくる結果はシビアになってきたと感じます。どこの商業施設さんも、「お客さんに何を持って帰ってもらうのか」をとても気にされるのです。逆に変わらないところは、ヒーローショーが提供する内容ですね。今後変えていかなければならないところでもありますし、今後変わっていくとは思いますが。
変わらないというのは、お子さんが喜ぶ内容が変わらないということでしょうか。
鉄板ネタはありますね。勧善懲悪で起承転結がある話が好まれますし、そこは守らなければならない伝統だと思います。ですがやはり対面にある施設さんや保護者の方々が受ける感情に応じて変えていくことも大切だと思います。
ご当地キャラクターの今後と悪の秘密結社の野望
ゆるキャラやご当地ヒーローが定着し10年ほど経ちましたが、今後はどうなっていくと考えていますか。
継続できるか否かが分かれると思います。どこの団体も「くまモンみたいになりたい」と考えるでしょうが、初期投資費用が違いますからね。くまモンの初年度投資は8千万円と聞きます。弊社は私の生命保険を解約した100万で起業し、初年度で1千万投資しました。それでもくまモンには到底及びませんし、すべての団体ができることではありません。弊社のヤバイ仮面のような、会社の成長とキャラクターの成長がシンクロした事例は特殊な部類だと思います。
予算はもっと効果的に使うべきだと思うのです。もし今後もキャラクターを存続させていくなら、媒体や作品を持ったほうがいいと考えます。作品を持っていない会社が言うのもなんですけど(苦笑)。また、戦略立ても必要になると思います。それぞれのキャラクターが何を目的に作ったものなのかをもう一度見直して、今後どう使っていくのかを考えることが必要ですし、それに対しての予算を投下すべきだと思いますね。
そのような中で、悪の秘密結社はご当地ヒーローやゆるキャラとどう付き合っていくのでしょうか。
これまでのゆるキャラの「定義以上」のキャラクターの人気が伸び、未来が作れないキャラクターが休止となっている昨今では「ゆるキャラ」という枠が希薄化し、継続するものと終わるものがどんどんできるのではないかと思います。ポジティブに考えると枠がなくなればその先にいけると思うのです。「ゆるキャラではなくてコンテンツにしましょう」とご提案していけますから。また、ご当地ヒーローに関しては、前述の1と10の隙間のコンテンツをサービスとして提供し、なおかつ業務を取り扱わせていただくという動きになるのかなと思います。実際に動き始めているコンテンツもありますので、楽しみにしていてください。
上場を目指してらっしゃるとお聞きしました。悪の秘密結社が上場するなんて、ワクワクしますね。
今のご時世はIT企業が強いですが、我々はヒーローとスタッフが現場に立つ労働集約型の事業ですが、ロボットでは表現できない「わびさび」を持ち、絶対に無くならない仕事だと信じています。ヒーローそれぞれの色があって、ポーズがあって、生で見たその瞬間がカッコいいと思う人がいるわけですからね。また、上場するために売り上げを立てることは大切ですが、経営理念・戦略・実践を実直に行い続ける「継続」こそ最も重要だと思っています。
最後に、一言お願いします。
これまでのヒーローショーやヒーローコンサルティングの経験から、ご当地ヒーローやゆるキャラが抱えている理想とギャップを理解しています。我々は悪役の立場から、それをしっかりとお客様に伝えていけたらと思っています。ヒーローファーストであること。これが悪の秘密結社の”世界征服”の一番確かな足取りだと思うのです。
取材日:2019年3月14日 ライター:みかめ ゆきよみ