世界初!?ゲームの世界でロケハン、撮影。『FF14』の世界を親子で冒険のストーリー「光のお父さん」は映画的映画だった
2019年6月21日より全国の劇場で公開となる映画「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」は、ファイナルファンタジーXIV(FF14)をプレイする父と息子が織りなすストーリー。書籍、ドラマ化もされ、オンラインゲームとリアルな世界が交差する展開が大きな話題となったブログの映画化です。リアルな世界の「実写パート」の野口照夫監督と、オンラインゲームの世界の「ゲームパート」の山本清史監督に、映画の見どころや撮影秘話を伺いました!
ゲームユーザーの“オタク心”を刺激しつつ誰もが見て楽しめる映画に。
試写を拝見しましたが、FF14を一度もプレイしたことがない私でもとても楽しめる映画でした!ドラマでも大人気となった実話の映画化ですが、映画版ではどのターゲットを意識して制作されたのでしょうか?
ドラマ化の時は、深夜枠ということもあって、FF14ユーザーを明確に意識して作りました。今回の映画化では、ターゲットの幅を広げるために、わかりやすさを意識して作っています。年令や性別問わず、誰が見ても楽しめる映画になったと思います。
映画なので、オールターゲットに届くものにする、というのは大前提でありつつも、FF14ユーザーに刺さる映画にしよう、という気持ちは揺らがずにずっと持っていました。というのも、映画もゲームも娯楽ですが、ゲームは自宅で思い立った時にすぐできるのに対して、映画はわざわざ映画館に行かなければならない。すごくエネルギーが必要ですよね。つまり、面白いという確信がないと、なかなか映画館まで行くエネルギーが湧いてこない時代だと思うんです。その反面、「面白い」と刺さった人は、周囲の人を巻き込んでいってくれる。。このクチコミのエネルギーは年々大きくなっていると思うので、それに賭けたいと思いました。 FF14ユーザーに刺さるシーンを作って、ゲームユーザーを裏切らない。その代わり、予想は裏切るというか、予想を超えていくものを作り、「こういう映画を見たかった!」「周りに勧めたい!」と思ってもらって、ゲームユーザーにクチコミの核となってもらう。それが私と原作者のマイディーさんならできる、と不遜なものいいかもしれませんが信じていました。ゲームユーザーに、あらゆる人に勧めたいと思わせることを意識しました。
山本さんとマイディーさんは、FF14ユーザーを裏切らない、ということは最初から言ってましたね。何の説明もなくFFシリーズのプロデューサーの名前が叫ばれるシーンがあるのですが、知らない人には何のことやらわからない。出演者にも「これどういうこと?」って聞かれました(笑)。
私も普通の映画で育ってきた人間なので、そんなオタクが喜ぶようなことは入れないほうがわかりやすい、ってわかっているんですよ(笑)。でも、絶対に入れるべきだとマイディーさんと主張しました。オタクしかわからないようなことが入っていると、この映画が「自分ごと」になる。そうなった映画に対するエネルギーはすさまじいと思います。
全体のストーリーは、とても映画的ですよね。
映画って、ラストシーンのゴールに向かっていくものですよね。ゲーム好きな息子が、父と一緒に冒険してツインタニアを倒す、というゴールが見えているので、とても映画的なストーリーだと思います。
初めてマイディーさんのブログを読んだ時から、このストーリーは映画に向いているなと思いました。ドラマは1話完結形式の7話で、1話ごとにストーリーのヤマとゴールを作らなければならなかったので、1本の筋を通していく映画のほうが作りやすかったです。
ストーリーは、一言で言うと「ひとりの男の復活劇」なんですよね。信じて突き進んできた道に、ある日壁が立ちふさがる。前に進めなくなった時に、もうひとつの道があることを指し示し、復活へと導いたのが息子だった。私自身、このストーリーに胸を打たれました。父と息子の細かい感情の動きをていねいに描いて、この感動をシンプルに伝えることで、オールターゲットで響く映画になると思っています。
プレイ中のゲーム映像をそのまま映画に。ゲーム画面もキャラクターとして作り込む。
この映画では、実写パートとゲームパートに分かれていますが、ゲームパートの映像はゲームの映像をそのまま使っていると聞いて、驚きました。てっきりCGかと思うほど、美しくて繊細な映像ですよね。
少し専門的な話をすると、ゲームのムービーには2種類あって、あらかじめ高性能のマシンによって3DCGで作られたムービーをゲーム内で再生する「プリレンダリングムービー」と、プレイヤーが動かしているキャラクターが動いてムービーになる「リアルタイムレンダリングムービー」があります。ひと昔前は、ゲームのオープニングやイベントシーンで映画のようなムービーが流れたら、それはほぼ「プリレンダリングムービー」でした。ハードウエアであるゲーム機のスペックが低かったので、ゲーム内の表現は限られていて、「イベントシーンのムービーはすごいけど、実際の動きはしょぼいよね」というゲームが多かったんですよ。 ですが、今はゲーム機のスペックが跳ね上がったので、「リアルタイムレンダリングムービー」でも「ひと昔前のプリレンダリングムービー」と遜色ないクオリティの映像ができるようになりました。これを生かして、「リアルタイムレンダリングムービー」で映画を撮ってしまおう!というのがゲームパートのコンセプトです。
「リアルタイムレンダリングムービー」で商業ベースに乗る映画が作られたのは、たぶん初めてなのではないでしょうか。
映画の大画面で見ても、「CGなのでは?」と思わせるクオリティはすごいですよね。ゲーマーであるアキオ(息子)や仲間がプレイするキャラクターは人間らしい繊細な動きをして、初心者のお父さんがプレイするキャラクターは昔ながらのギクシャクしたゲームキャラクターの動きで、その対比も面白かったです。
そこは私もマイディーさんも、開発会社のスクウェア・エニックスも気を配ったところです。ゲームパートは、基本的にはアキオの脳内イメージを再現しているのですが、脳内では動くキャラクターはほぼ人間なんですよね。プレイヤーに操作されているのではなく、人として意思を持って動いているように見えることに気を使い、ゲームっぽい動きは削っています。一方で、お父さんは初心者らしい、ゲームならではの動きにしています。
ゲームパートの撮影に関してですが、まず撮影する場所が必要ですよね。さらに、キャラクターを動かす「キャラクターアクター」がいて、声優がいて…と、演出ポイントがいくつもあるように思うのですが。
撮影場所に関しては、実写と同じようにロケハンしましたよ。ゲームを楽しむ目的でプレイしていないので、誰も行かないような場所に行ってみたり、ひたすら滝の音を撮りに行ったり。普通の動きではないので、だいぶ怪しいんですが(笑)。 キャラクターの演技指導は、ゲームをプレイしてキャラクターを動かす役割のアクターに集まってもらって、口頭で指示を出しながら撮影しました。私自身もアクターが動かしているキャラクターを確認画面で見ながら指示するのですが、サーバーを通す分、ほんのわずかですがタイムラグがあるんですよね。「口の動きが遅い」と指示を出したら、アクターの画面ではキッチリ合っているんですよ。そんな細かな苦労もしながらでしたが、ドラマ版ではアクターは遠隔操作で、チャットで指示を出して撮影していたので、それに比べるとやりやすかったですね。
ゲーム画面を見ながらリアルな役者が演じる実写パートがありますよね。あのシーンは、先にゲームの映像を作って、それを実際に見ながら演技しているのですか?
そうです。ゲームのムービーを準備して、実際に画面に流しながら撮影しています。スケジュール的には、この準備が一番大変だったかもしれないですね。
ゲーム画面のクオリティは、役者さんの芝居に直結しますからね。さらに、画面も映画に映り込むので、ゲーム画面もキャラクターのひとつとして作り込まなくてはなりませんでした。例えば、お父さんは初心者なので素人ならではのゲーム画面、アキオはゲーマーなのでこなれた画面、というように。また、お父さんはプレステ、アキオはPCでプレイしているので、インターフェースが微妙に違うんですよ。例えば、アキオは予測変換が出ますが、お父さんは出ない、とか。そのへんの細かい演出も、FF14ユーザーには楽しんでもらえるのではないでしょうか。
「今すぐにできる」構造の映画。クリエイティブのヒントを得て、新たなチャレンジを!
見どころがいっぱいですね!FF14ユーザーはもちろん、ユーザーではない私も本当に楽しめる映画だったので、ぜひ多くの人に見てもらいたいと思います。では最後に、クリエイターに向けてメッセージをお願いします。
「みんなもやろう!」ですね。この映画のゲームパートは、特別なことは何もしていないので、誰でもできるのが特徴です。すでにゲームにある機能だけを使って撮影しているし、追加機材も必要ありません。特にWindows10には「ゲームバー」の機能があって、PCでのゲーム画面を動画で記録できます。FF14は曲もムービーもYouTubeやtwitch、ニコニコ動画でも公開できるので、チャレンジしてほしいですね。
他の人が作ったムービー見てみたいですね!クリエイターにとっては、この分野はブルーオーシャンだと思うんですよ。実写と組み合わせてもいいし、ゲーム画面だけでストーリーを作ってもいいし、いろいろな構成が考えられると思います。私のアタマの中には、すでにたくさんの原案があります(笑)。
私も「次はこうしようかな」とか、アイデアがいろいろと浮かびますね(笑)。権利関係で難しい局面が出てくるかもしれませんが、FF14はドラマ版の後で爆発的にユーザーが増えたし、映画化までされた前例ができたので、企画を考えて提案を持ち込めば、他のゲームでもOKが出る可能性がありますよね。
この映画で刺激を受けて、新しいチャレンジのキッカケになってほしいですね。ゲームの実写版とはまったく違うアプローチで、新しい魅力や発見がある映画だと思うので、ぜひ多くのクリエイターに観てほしいと思います。
取材日:5月23日 ライター:植松 織江
『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』
©『劇場版 FF14光のお父さん』 製作委員会
作品紹介欄
監督:野口照夫 監督(ゲームパート):山本清史
原作:マイディー『一撃確殺SS日記』/ファイナルファンタジーXIV(スクウェア・エニックス)
脚本:吹原幸太
製作総指揮:久保忠佳
出演:坂口健太郎 吉田鋼太郎 佐久間由衣 山本舞香 前原滉 今泉佑唯 野々村はなの 和田正人 山田純大/佐藤隆太 財前直見
声の出演:南條愛乃、寿美菜子、悠木碧
配給:ギャガ
©『劇場版 FF14光のお父さん』 製作委員会
野口照夫氏(監督)
1974年生まれ。東京都出身。映像制作会社で経験を積んだ後、フリーに転身。
インディーズ映画『演じ屋』(01)が大ヒットを記録し、2003年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭でゆうばり市民賞を受賞。TVドラマ版「ファイナルファンタジーXIV光のお父さん」の監督も務めた。主な監督作品に、『たとえ世界が終わっても』(07)、『秘愛』(13)、『薔薇とチューリップ』(19)など。
山本清史氏(ゲームパート監督)
1978年生まれ。東京都出身。2006年、井川遥、渡部篤郎主演「水霊 ミズチ」を監督。その後、「三国無双」シリーズ(コーエー)や「Dragon’s Dogma」(カプコン)のオープニングやカットシーンを演出した他、近年ではスマホゲームでシナリオディレクターを務め、ゲーム業界でも活躍。また「呪怨~終わりの始まり~」「呪怨 ザ・ファイナル」(共に15年)「貞子vs伽椰子」(16)のノベライズを出版するなど、小説家としても活躍している。TVドラマ版「ファイナルファンタジーXIV光のお父さん」の監督も務めた。CGではなく、プレイヤーたちをチャットで演出し、制作するスタイルが話題を呼んだ。