まるでマルチプレイ。『モンスト』クエスト企画者に訊く円滑なチーム運用とこだわり

Vol.171
株式会社ミクシィ XFLAG
Takatoshiro Hayashi , Jumpei Ohnuma
林 孝年郎 氏 、大沼 純平

モンスターをひっぱって飛ばし敵を倒すシンプルさが好評を博し、リリースから6周年を迎えたスマホアプリ『モンスターストライク(以下『モンスト』)』。ステージの敵を倒して報酬を得る「クエスト」は、ノーマルだけでなく期間限定のイベントなども用意されており、様々な楽しみ方ができます。目まぐるしく変化するゲーム業界で、『モンスト』はどのような運用を行っているのか、またクエストのアイデアはどのように生まれるのか、クエスト制作担当の林孝年郎さん、大沼純平さんに訊きました。

畑違いからのステージ制作

まずはおふたりの経歴を教えてください。

林さん:ミクシィに入る前はイベントの運営をやっておりました。ミクシィに入ってからは『モンスト』のアニメの立ち上げに関わり、その後3DS版のディレクターをやらせていただき、開発が終わったタイミングでアプリ『モンスト』の企画に異動しました。QEというバランス調整を専門に行う部署に2年ほど在籍したのち、2018年7月からクエストを作ることになりました。そこからはクエスト制作をしつつ、QEをしつつ、企画もやりつつ……という形です。
大沼さん:

私は2018年の新卒でミクシィに入社しました。4月からモンストの国内企画の部署に配属され、主に新しい機能の企画、ディレクション、ガチャの運用を行いました。そして今年の4月からクエストを作る側になり、現在に至っています。

大沼さんはゲーム業界を目指してミクシィに入られたのですか?

大沼さん:

いえ。webサービスに携わることを希望してミクシィに入りました。

おふたりとも畑違いのところから『モンスト』に携わるようになったということですが、不安だったことはあるのでしょうか。

大沼さん:

ゲーム自体はそれなりにやってはいたのですが、実は『モンスト』をやっていなくて……。やらなきゃわからないということでプレイすることが最初の課題でした。今はドハマりしています(笑)。

林さん:

社内で一番くらいのやり込み度ですよ(笑) 私はゲームは元々遊ぶ側としてプレイしていたのですが、アニメはそもそも観ていなかったので、全くわからず、気が付いたら嵐に揉まれ、今度はゲームの方を……という感じです。

6年間で培ったノウハウとコミュニケーションで円滑に進むクエスト制作

『モンスト』におけるクエストについて、改めて教えてください。

大沼さん:

『モンスト』は手持ちのモンスターを編成し、「ひっぱる」「はじく」という動作で敵を攻撃し、ステージをクリアしていくゲームです。通常のクエストだけでなく、期間限定のイベントなど、さまざまなクエストが用意されています。マルチプレイにも対応しており、最大4人で遊ぶことも可能です。

林さん:

『モンスト』はゲームではありますが、ミクシィが「コミュニケーション屋さん」というところから始まっているので、大きく言えば遊び場というか、楽しくコミュニケーションする場を、クエストを通じて提供しているイメージです。

クエストにストーリーがないことも、コミュニケーションツールであることが大前提としてあるからでしょうか。

林さん:

そうですね。遊んでくださる方たちの中でストーリーができていくのがいいかなと思っています。

それではクエスト制作の流れについて教えてください。

林さん:

大まかなところでいうと、まず企画で半年くらい先まで「こんなステージを作ろう」ということを考え、そこにステージ制作者をアサインしていきます。同時にデザインのチームにイラストまわりを依頼し、新しいギミックについてはエンジニアさんとも連携して、イベント開始に向けて開発をしていきます。実際のステージの制作期間はリリースの1か月前から着手しています。

ひとつのクエストに半年の準備期間があるとはいえ、いくつかのイベントを並行していたらあっという間ではないでしょうか。

林さん:

あっという間ですね! 実際には2~3つのイベントが同時に動いています。年末年始は大変です。7月の「XFLAG PARK」というイベントの際には、イベント合わせのクエスト制作もあるのでてんてこ舞いでした。

チーム制作の流れについて詳しく教えてください。スムーズに進めるにあたりどのようなことをしているのでしょうか。

大沼さん:

ひとつは事前にクエストを作る人同士ですり合わせる場を用意しています。例えば同じタイミングで新しいクエストが4つあるならば、その期間にクエスト制作を担当する者が集まり、ギミックや使えるキャラクターなどがかぶらないよう、事前にすり合わせをしてからステージを作り始めています。

新しいキャラクターやギミックを1つ追加するごとにバランス調整が必要になってくると思うのですが、どのように調整しているのでしょうか。

林さん:

ステージを作る専門のチームと、ステージの難易度やクオリティをチェックするQEを専門で行うチームがあるので、分担して行っています。ステージがある程度組み上がったところでQEチームにいったん渡し、QEチームからのフィードバックを受けて調整しながら完成させていくという流れです。

企画の段階ではバランスは考えず、「こういうことをやりたい」ということを優先して進めるということでしょうか。

林さん:

はい。まずは制作者の判断で作りたいものを作り、調整はまたその先で進めていくということですね。

チーム制作がうまく回るよう工夫していることはあるのでしょうか。

林さん:

特別なことをしているつもりはありませんが、ステージを作るチームと、ギミックを作るエンジニアさんと、デザイナーさんの席が近くて、何かあればすぐ相談できる環境にあります。逆にデザイナーさんから相談を持ち掛けてくれることもありますし、コミュニケーションが密に取れるのがいいのかなと思います。

大沼さん:

フローが整備されているというのを感じます。やはり6年も運営しているサービスなので、作り方の流れがしっかりとできています。その中でデザイナーさん、エンジニアさん、企画が、スケジュールを把握し、やるべきことを判断しながらできるのがよいと思います。

各チームが近いという話をきいて、それもマルチプレイのようであるなと感じました。

林さん:

そうかもしれません。新しいイベントが始まった時は業務中でも「マルチやろう」ってプレイしはじめますからね!

大沼さん:

新しいガチャが来た時はフロア中が一斉に回しますね(笑)

林さん:

働いている人皆が『モンスト』好きというのは大きいと思います。

クエストのアイデアはどのようにして出しているのでしょうか。

大沼さん:

そうですね……ふとしたときに思うとしか(笑) 常に何かしら考えていますね。どのキャラクターを輝かせたいのかというところから考えることもありますし、新しいギミックを使ってみたいというところから考えることもあります。

林さん:

私も常に何か新しいネタがないかなと、業務時間外も考えていますね。今、「轟絶(ごうぜつ)」というのが『モンスト』では最高クラスの難易度のクエストになっているのですが、それをやらせてもらったときは新しい体験を提供できないかと1ヶ月くらい考えていました。おそらくステージ制作者は四六時中何かしら考えていると思います。

クエスト制作で印象深いエピソードはありますか?

林さん:

コラボイベントですね。元となる原作を知っている方が喜んでくれるように、原作を再現することを心がけています。アイデアがパッと浮かぶので、やりやすかったりしますね。

大沼さん:

今年の7月に「オラフラッグ」という『モンスト』のアプリ内のイベントがあったのですが、そこで作ったクエストが印象深いです。このイベントは『モンスト』が推奨するマルチプレイに焦点を当てたものでした。企画側としてはどうしたらマルチをするとより楽しめるようになるか、ということを考え、ボスを一撃で倒せるギミックをランダムで入れたのです。それが出た時にみんなで盛り上がれるようにしたかったのです。SNSには「30秒でクリアできた」という投稿もありました。人と会話するきっかけをクエストの中に盛り込めたと思っています。

「ユーザーサプライズファースト」にこだわり、みんなが楽しめるものを作る

クエスト制作について、それぞれのこだわりについて教えてください。

大沼さん:

「自分が楽しいと思う」ことですね。自分が楽しくないものは他の人も楽しめないと思います。プレイして楽しいと思うクエストは「じゃあなんで楽しいと思うんだろう?」というところの本質を考えて、それをうまく自分のクエストにも取り入れていく、ということを常に考えています。

林さん:

『モンスト』はマルチプレイでやるものだと思っています。高難易度クエストをみんなでやって、うまくいかなかったとしても笑い合えるような、そういうクエストになるよう意識しています。ミクシィは企業理念として、「ユーザーサプライズファースト」を掲げています。期待を超えて驚かせるという部分に向けてデザイナーもエンジニアも動いています。例えばコラボクエストの演出などを注目してみていただけると、しっかりこだわって作っているということが伝わると思っています。

改善したことや、改善したことで感じた手ごたえなどはあるでしょうか。

林さん:

一時期、高難度路線に進んでいると感じました。やり応えを提供しようと難易度の高いステージづくりに注力するあまり、ライトユーザーが離れてしまうのではないかと思ったのです。そこで初心に返り、難しいクエストを残しつつも、みんなで集まってワイワイと楽しみやすいクエストも増やしました。そうしたらやはりユーザーさんの反応がよかったと思います。

大沼さん:

あくまでも主観ですが、例えばボスを守る存在を倒さないとボスに攻撃できない、という遊びは、思うほど楽しくないんです。「マイナスをゼロにする」遊びよりも、ちょっと難しいけど工夫するとより多くのダメージをボスに与えられるといった「ゼロをプラスにする」遊びの方が個人的には面白いなと思いますし、ユーザーさんからも気持ちいいという声が寄せられたりするので、自分のクエストでは取り入れていきたいと思っています。また、リリースしたタイミングでユーザーさんの声を聞いて改善していけるのがアプリのゲームの強みですね。SNSでそれぞれのクエストがどのような評価をされているのかを見て、次のステージ作りに活かしていくというのは私自身も、他のメンバーもしていると思います。

モンストが長く楽しまれている理由について、制作者側としてどのようにお考えでしょうか?

林さん:

一番は「みんなで遊ぶ」というところがあって、みんながやっているから遊ぼうという連鎖が続いたおかげで長く楽しんでいただけていると思います。操作も単純で、誰でもやればなんとかなるし、逆に単純だけど演出が派手だったりとか、やりごたえあるクエストならそれなりに難しいものがあったりするので、さまざまな遊び方ができて満足感も提供できている。その結果、長く楽しんでいただいているのかなと思います。

大沼さん:

マルチプレイにお得な要素を入れたり、他のプレイヤーに話すきっかけを与えたり、面白いものを作ると同時に、人と一緒にやっていて楽しい要素を各所に取り込んできたのが長く続いている理由だと思います。

これからのモンストはどのように進化していくのか、教えてください。

林さん:

6年も続いているので、どうしても飽きが出てしまうと思います。それを越えられるような新しい体験や、新しい遊びを提供できるようにしたいなと。よりみんなでワイワイ楽しめるようなものを目指していけたらいいなと思っています。

大沼さん:

『モンスト』は6年間遊び自体はそれほど変わっていないんです。操作はもちろん、「運極」(同じモンスターを99体集めて合成させて作るもの。クエストで使うとクリア時の報酬が増える)を作るというモチベーションも大きくは変わっていません。なので、遊びの部分やモチベーションの部分に、新しいものを出していければいいなと思っています。

最後に、この記事を読んでいるクリエイターさんにメッセージをいただければと思います。

林さん:

自分で言うのもなんですが、モノづくりやクリエイティブのセンスはまったくないと思っていた人間ですが(笑)、そういう人間でもこの業界でなんとかやれています。何のためにモノを作るのかを突き詰めるのが大事なことだと思うので、モノを作る時はそこをじっくり考えていただくといいのかなと思います。

大沼さん:

『モンスト』をやり始めて好きになって、『モンスト』に関わる仕事が好きになり、それが仕事のモチベーションにもなっています。作るという行為だけでなく、作るものに対する愛着や、好きという気持ちを大事にしてほしいですね。

ありがとうございました。

取材日:2019年8月27日 ライター:みかめ ゆきよみ

モンスターストライク〈モンスト〉

● 公式配信時期 :2013年10月10日

● ジャンル :協力RPG

● 価格 :無料(アイテム課金あり)

● 必須環境 :iOS 8.0 以降/iPhone、iPad および iPod touch 対応/Android4.3.0以上

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