建築模型の価値とは?天王洲で寺田倉庫が描く建築文化とアート発信のロードマップ
建築家が設計過程で作成する「建築模型」をご存知ですか? 驚くほど精巧に作られた建築模型は、建築家のクリエイティブなアイデアがたくさん詰まっています。ひょっとするとみただけで、クリエイターのインスピレーションになるかもしれません。そんな建築模型が一堂に会し、展示されているのが「建築倉庫ミュージアム」。運営するのは、天王洲でさまざまなアート事業を展開している寺田倉庫です。
そこで今回は、建築倉庫ミュージアム副館長の近藤以久恵さんに、ミュージアムのコンセプトや建築模型の魅力、さらに「文化を創業する文創企業」としての寺田倉庫の取り組みについて、お話を伺いました。クリエイティブのヒントがいっぱいです!
これまで保管されてこなかった建築模型を展示。建築家の思考プロセスに触れられる!
建築倉庫ミュージアムには何が展示されているのでしょうか?
建築家からお預かりした建築模型を展示しています。建築模型とは、建築家が施主にプレゼンテーションしたり、設計過程で検証したりするために作る模型のことです。広く一般の方の目に触れることはほとんどありませんでしたが、建築家の思考プロセスや、建物のコンセプトの根幹を伺い知ることができる貴重な資料です。
私もじっくり建築模型を見るのは初めてでしたが、一つ一つの模型の完成度が高いので、驚きました! 素晴らしい芸術作品だと感じましたが、なぜこのような建築模型を集めたミュージアムを立ち上げたのでしょうか?
日本では、これまで保管場所が十分にないということもあり、建築模型がアーカイブされず、捨てられてしまうことも多くありました。
海外では、建築模型の文化的価値が評価され、美術館では建築模型も他のアート作品と同等の存在として展示されております。例えば世界的な建築家である丹下健三さんの建築模型は、ハーバード大学に保管されています。
日本の建築は世界的にも評価が高いのですが、その足跡を示す大切な資産である建築模型が捨てられているのは、大きな損失です。そこで寺田倉庫に保管する場所を作ろうと、建築模型を保管するサービスをスタートしました。多くの建築模型が保管されるようになり、模型から建築文化に出会ってほしい、感じてほしいとの思いから、建築模型保管庫そのものをミュージアムとして2016年に開館しました。
どんな人が来館していますか?
やはり、建築家や建築を専攻している学生など、建築に関わりのある人が多いですね。また、日本の建築は世界的に注目を浴びているので、海外からの来館者も多いです。中には、このミュージアムに来ることを目的に来日されている方もいらっしゃるんですよ。
隈研吾さんなど著名な建築家の模型や、全国各地のランドマークになっているような建築物の模型も展示されているので、実際に行ったり見たりしたことがある建築物に出会えます。
本展示で改めて見ると、建築を計画していたときのコンセプトがわかり、現状と比較ができます。今まで建築と関わりが少なかった一般の方にも分かりやすいと好評です。 建築模型は作る人や目的によって個性があり、一つ一つ違います。その個性を見つけることができるのは、模型が一堂に会して比較できるからこそ。
確かに、いろいろな建築模型を一度にたくさん見ると、発見がありますね!
見る側だけでなく、模型をつくる側の建築家の方にも賛同いただいています。情熱を込めて作っているのに、今まで関係者以外には見てもらう機会がなかった模型を、より広く多くの人に見てもらえる。建築家の皆さまも建築文化の普及や発展に貢献できることに、喜びを感じています。
時が経つほど価値が増す建築模型。建築文化に触れるきっかけに!
現代は、建築界でもVR技術などデジタル技術の活用が進んでいますよね。一見、アナログに感じる建築模型にはどのような価値があるのでしょうか?
デジタル上ではなく、実際に作ってみることで分かることはたくさんあります。例えば、建物の構造の安全性を検討する際、デジタル上で直ちに解析計算することが可能です。
でもリアルな模型を作ることで改めて確かめ、考え直すことがあります。また、建築は一人でつくりあげるものではありませんので、共につくるメンバーと模型を囲み、ディスカッションすることで気づくことがあります。そうした創造のプロセスにこそ発見や楽しみがあります。
ただ、施主へのプレゼンテーションで模型を作ることは、確かに減ってきていますね。だからこそ、模型を残していきたいです。建築倉庫ミュージアムには1980年代からの模型がありますが、時間が経てば経つほど、アーカイブとして価値が増していくものです。保管して展示するミュージアムができたタイミングは、まさに好機であったと思っています。
建築模型の展示と並行して、定期的にさまざまなテーマで企画展も行っていますね。
もっと多くの人に関心を持ってほしいとの思いから、建築文化への入口になるような企画展を2018年4月から始めました。建築文化とは縁遠かった人たちにも来館してほしい。そんなきっかけになるような、さまざまな切り口の展示を企画しています。
もともとの建築を生かした街づくりで、天王洲をアート発信の街に
寺田倉庫は、建築倉庫ミュージアムだけでなく、天王洲の街で数多くのアートギャラリーやアートイベントを展開していますよね。アート事業に力を入れている理由は?
当社はお客さまから荷物をお預かりして、倉庫で保管するサービスが基幹事業です。1950年に創業、国の指定倉庫としてお⽶の保管事業を行い、1975年にはアート作品の保管サービスをスタートしました。そこから、お客さまのニーズに合わせて輸送、展示、梱包、修復など、アート作品にまつわる一連の流れをサポートしてきました。
当社事業の大きな柱のひとつにワインの保管サービスがあります。ワインもアートも、時を重ねるほど価値が高まるものです。その反面、これらはデリケートなので、長期間の保管にはリスクがあります。しかし当社にはそれに耐えられる保管の技術があります。そうした強みを生かし、単にモノをお預かりするだけでなく、お預かりしたものを最適な状態で保存・保管し、価値を高めていく事業として、アート事業に力を入れてきました。
同時に寺田倉庫の拠点である天王洲をアートの発信地とすることは、アートと街の付加価値を高めることに繋がります。これこそ当社の企業理念である「文化を創造する=文創企業」の体現です。
確かに天王洲は、2000年頃からどんどん街が変わっていますね。
創業当初の既存倉庫や建物を生かしながらリノベーションを重ねることで魅力ある空間をつくり出し、時間をかけて街づくりをしてきました。通りを歩いていただくと、壁画やアート作品もみられ、街全体でアートを体感していただけるはずです。
最近はアート関連のイベントも多いので、本当に「アートの街」のイメージが強くなりました。
当社は、現代アートのギャラリーが集結している「TERRADA ART COMPLEX」やアーティストを支援するとともに、アートに気軽に触れる機会を提供する「T-ART HALL」を運営しています。また、複数のイベントスペースも展開しているので、さまざまな展示会が開催され、いつ天王洲に来ても多くのアートに触れることができます。
それぞれのスペースは、もともと倉庫だったことを生かした空間作りがされているので、建築そのものとしても楽しむこともできます。
天王洲から建築文化の価値を伝え、新しい才能と出会う場に
家族向けのイベントも多く、天王洲は誰もが気軽に楽しめる街ですね! 建築倉庫ミュージアムは今後どのような展開を考えていますか?
建築模型には、見れば直感的に感じ取れる分かりやすさがあり、また見る方の想像力を駆り立てる魅力があります。そして、建築家の思考プロセスやコンセプトが凝縮された作品としての強さがあります。模型を軸として建築文化の価値を伝えていきたいです。
また「それは建築とどんな関係があるの?」と驚いてしまうような、異分野ともコラボレーションしていきたいですね。そして異分野に興味のある人が来館していただけて、建築の素晴らしさに出会ってもらえたらうれしいです。異分野とコラボすることで、建築の新しい可能性を見つけられると期待しています。
今後も楽しみにしています! では最後に、若いクリエイターにメッセージをお願いします。
天王洲はアートに触れるだけではなく、新しい才能と出会い育む場でもあります。例えば建築倉庫ミュージアムの企画展示は、20代の若手クリエイターとチームを組み、彼らに空間デザイン、グラフィックデザイン、映像制作など、さまざまなところで活躍していただいています。
天王洲でクリエイティブな刺激を受けるだけでなく、ぜひプロジェクトメンバーにもなってほしいですね。もちろん作品の保管庫としても、活用していただければと思います。ITを活用したサービスを次々とリリースし、どんどん使い勝手が良くなっていますので、ぜひチェックしてください。
当社とクリエイターの接点は、まだまだたくさんあると思います。ぜひ積極的に天王洲に足を運んでくださいね。
取材日:2020年3月17日 ライター:植松 織江
寺田倉庫株式会社(英文社名:Warehouse TERRADA)
- 設立年月:1950年10月
- 所在地:
本社 〒140-0002 東京都品川区東品川2-6-10
建築倉庫ミュージアム 〒140-0002東京都品川区東品川 2-6-10 - URL:https://archi-depot.com/(建築倉庫ミュージアム)
- お問い合わせ先:info.archi-depot@terrada.co.jp(建築倉庫ミュージアム)