WEB・モバイル2007.07.20

円谷ステーション/エイプリルフール企画「m-78」―そこに、プロフェッショナルのアマチュアリズムを見た

vol.27
サイバーエデン株式会社 コンテンツ事業部課長 株式会社円谷プロダクション 営業本部営業部係長 円谷洋平さん、猪狩友宏さん
円谷洋平さん

円谷洋平さん
サイバーエデン株式会社
コンテンツ事業部課長
http://eden.co.jp/

猪狩友宏さん

猪狩友宏さん
株式会社円谷プロダクション
営業本部営業部係長
http://m-78.jp/

4月1日――エイプリルフール。毎年、欧米では大の大人が、あの大企業が、あの有名人が、本気で知恵をめぐらせて世の中を「あ!」と言わせる大嘘にチャレンジしている。この風習はちょっと、日本にはなじまないなあと思ってました。これまでは。 ところが、です。ちょっと様子が変わってきたなあと思わされるのは、やはりWEB。ネットという表現媒体上では、日本人もかなりいい感じで、素敵な嘘を披露しているようです。そんな中、昨年、今年と、気づいた人、気づいている人たちの間で、静かに、熱く、絶賛されているエイプリルフールねたがあります。それが、円谷プロダクション公式サイト/円谷ステーション(http://m-78.jp/)上が4月1日限定で架空のSNSになり変わる「m-78(エムナナハチ)」企画。ただ一言、「すごい」。ウルトラシリーズゆかりの(もちろん、ウルトラの兄弟含む)、約100のキャラクターたちがアカウントを持つSNSでどんな交流があり、どんな日記が公開されているかが、この日だけ閲覧できるのですが、よくぞまあここまでつくりこんだものだという出来栄えです。 仕掛け人は円谷プロダクションと、WEB制作会社/サイバーエデン。今回は両社の担当者にお話を伺ってまいりました。

円谷ステーションWEBの企画・運営についてのミーティングは、年に1度だけ、年末に、飲みながら(笑)

円谷洋平さんは、お名前から察せられるとおりウルトラマンの生みの親「円谷英二さん」に関係するお家の方。WEBの世界に魅力を見出し、高校卒業後、サイバーエデン株式会社に入社した。

円谷さん

ウルトラシリーズも円谷プロダクションさんも大好きですが、就職したいという気持ちはありませんでした。他の円谷家の方が映像制作をされているので、僕は違うことをやろうかなあ、と。それに、自分に映像制作の才能がある気もしませんでしたし。ただ、小さいころからまわりにウルトラマンが自然とある環境で育ってきたので、ウルトラマンというコンテンツをよく理解しているつもりではいました。僕は創造はできませんが、展開はできると思ったので、自分の得意分野であるWEB上で、ウルトラマンを扱いたいと思ったのかもしれません。

円谷プロダクション公式サイトを制作・運営するサイバーエデンが、エイプリルフール企画を立てて、仕掛けているのですね。

そうです。もちろん、円谷プロダクションさんの了解は得ていますし、チェックも受けている。その担当が、猪狩(いがり)さんです。会社としてのリスクを考え、判断しつつ、僕たちのやりたいことを支持してくれている、「なくてはならない人」です。

猪狩さん

<猪狩さんのお話>

円谷ステーションWEBの企画・運営についてのミーティングは、年に1度だけ、年末に、飲みながら(笑)やるのが恒例。エイプリルフール企画も、そこで話し合われます。実は、今年の企画は当初、YouTubeのような動画配信でいこうということになりかけて、「本当にそうなったら、いろいろ大変だなあ」と心配してました。2月くらいにサイバーエデンさん側が、「挫折!」と報告してきて、2度目のSNSになった。正直ほっとしました(笑)。

で、この企画は、ファンの間ではかなり話題になっていますよね。

昨年は、アクセスが通常の30倍になったところでサーバがダウンしました(笑)。今年は、対策として専用サーバを確保してアップしたので、トラブルなしで切り抜けた。結局、1日で500万アクセスを記録しました。通常の平日は1日約1万アクセスですから、ほぼ500倍ということですね。

エイプリルフールって、個人のお祭り。この企画も、「個人サイトの面白さを、まねてみよう」という考えでつくっているわけです。

閲覧者は、この日だけウルトラマンメビウスのアカウントを借りることができる。だから閲覧できる。そういう演出でログインしたSNS内には、ほんとうに見事に、ウルトラマンシリーズの登場者たちが賑やかにネットコミュニティしている。

m-78のトップページ

m-78のトップページ
ウルトラの父からのメッセージ

ところで、この、100にものぼるキャラクターの日記や書き込み。何人くらいで書いているんですか?

今年は僕が、ほぼ一人で書きました(笑)。3月に約1ヵ月かけて。厳密に言うと、最終週の1週間でほとんど書き上げました。作業量的には、もちろんかなりのものですが、キャラクターになりかわって書き込むのは、それほど苦にはなりません。仕事だからということもありますが、やっぱりウルトラマンシリーズには思い入れがありますし、「このキャラクターはどんなことを考え、どんな言動をするのだろう」と考えるのは、ほんと楽しいですから。

 
ツンデレ星人ザムシャー

ツンデレ星人ザムシャー

内容としては、どんなところが自慢?

それはもう、すべてです。あえて言うなら、今年は、前日の3月31日が『ウルトラマンメビウス』の最終回だったので、4月1日にはメビウスが光の国に帰って、自宅から書き込んでいるという演出にしたところですかね。実は、この日記は、1日の間にも何度か書き込みが追加されたので、最後まで、全部読めた人はあまりいないはずです。

管理者から警告を受けたキャラクターもいるようですね。

コミュニティに「地球を滅ぼす」と犯行予告した、マグマ星人ですね。彼が警告を受けたことは、SNS内のニュースでも報道されました(笑)。

<猪狩さんのお話>

この企画で私が留意したのは、キャラクターの言動がシリーズの設定を逸脱しすぎないことと、他社さんの版権を侵害しないことでした。逆に言えば、そこが守られていればあとはフリーなので、まあ、円谷さんのやりたい放題にすべてを賭けたということになります(笑)。

この見事なつくりこみは、どれくらいの予算で、どれくらいの人数で?という素朴な疑問には、驚くべき回答が用意されていた(笑)。

制作予算は?制作体制は?

特別組んでいません。あえて言うなら、円谷ステーションの年間予算の中でやっています。スタッフは僕の他に、デザイナーとプログラマー、そしてサーバ管理者の計4人。コンテンツがどうできているかというと、プログラマーが、そのまま使えるレベルのSNSプログラムを組み上げていて、その管理画面からすべてを書き込んでいます。

メフィラス星人

メフィラス星人

このつくりこみを、予算なしでということは、ほぼボランティアということ?

僕たちのやる気が支えているのは確かですね。作業自体も、通常の予算のある通常業務の合間ににコツコツと組み上げています。

プロフェッショナルの皆さんが、アマチュアリズムで組み上げている。

その通りだと思います。エイプリルフールって、個人のお祭りだと思います。この企画も、要は、「個人サイトの面白さを、まねてみよう」という考えでつくっているわけです。お金儲けではないし、楽しんでもらえればいいし、あえて言うなら、つくっている僕たちが一番楽しいし(笑)。

そうか、そういう精神なのか。たぶん、円谷さんのようなそういうスピリットが、これまであまり日本に定着しなかったエイプリルフールを、ネット上に定着させて、育てているんだと思います。

そう言ってもらえると、うれしいですね。そうありたいと思います。

「来年は帰って来られるか微妙だ」というメッセージを発して終わったようですが、来年はないかもしれない?

正直、スタッフの負荷が大きいので、どうしようかと悩むばかりです(笑)。かといって、制作予算確保のためにスポンサーをとったりすると、企画の精神からはずれてしまうとも思うので。

<猪狩さんのお話>

4月1日が、一昨年は土曜日で、今年は日曜日。特に一昨年のサーバダウンなどは、週末のせいでかなり救われています。でも、来年は平日ですからね。もしやるとなったらと考えると、正直、はらはらします(笑)。

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