2012年の注目ワード 「ゲーミフィケーション」とは?
- Vol.80
- 株式会社ゆめみ 代表取締役 深田浩嗣さん
業界や分野を問わず、様々なシーンで活用
深田さんとゲーミフィケーションとの出会いは?
(深田さん)2010年9月にサンフランシスコで開催された「TechCrunch Disrupt」のカンファレンスです。ここでは創業間もないスタートアップ企業が自社の新しいサービスをプレゼンし、優劣を競うイベントがあります。いったいどんな企業やプロダクトがプレゼンを行うのか、これから話題になりそうな分野は何かなど、情報収集のために参加しました。 ここで注目した企業のひとつが「バッジビル社」でした。webサイトに「ゲーミフィケーション」を用いて、ユーザーとの対話性を高めることを可能するツールをプレゼンしていました。ユーザーの行動をトラッキングし、特定の行動でバッジやポイントを付与、ランキングをソーシャルメディアで公開して他のユーザーと競争する「webサイトのゲーム化」ですね。 弊社ではB to B ビジネスが大半を占めるんですが、クライアントは to C に興味を持つことも多いんです。2010年は、弊社でソーシャルゲーム事業を立ち上げた頃でした。バッジビル社の事例や、ソーシャルゲーム市場の伸びを通して、それだけ多くの人がハマる仕組みを読み解きたいと思いました。そして、弊社が持つソーシャルゲームのノウハウをゲーム以外の分野に活用することに、大きな拡がりとビジネスチャンスを感じました。
ゲーミフィケーションに感じたことは?
その頃は米国内でも「ゲーミフィケーション」という言葉はまだ目新しく、弊社が早く取り組むことは大きなチャンスだと思いました。ゲーミフィケーションは単体でも効果的ですが、さらに飛躍的に影響力をつけるためにソーシャルグラフの活用の仕方がポイントだと思います。最近ソーシャルメディアに大きな注目が集まっていますが、これといったビジネス的な成功モデルはまだなく、みんなが模索している状態です。 その中でソーシャルゲームはソーシャルグラフの使い方が上手く、ユーザー同士のやりとりを発生させる形でゲームの継続をコントロールしており、課金ビジネスとしても成功しています。日本ではソーシャルゲームの成功が、ソーシャル要素を組み合わせた爆発的な成功事例として、ゲーミフィケーションの可能性としても他国にはない独自の成功事例として注目され、ソーシャル要素の活用の仕方が他の分野にも応用されていくのではないでしょうか。ソーシャルゲームの要素は日々研究されていますが、データの蓄積と比例して、よりソーシャルグラフのうまい使い方として咀嚼され、誰もが取り入れる理論となっていくのではないかと考えています。
今年の9月に、著書である『ソーシャルゲームはなぜハマるのか ゲーミフィケーションが変える顧客満足』を出してからの変化は?
ますます注目が高まっています。最近のカンファレンスでも、ゲーミフィケーションを取り入れたプレゼンが増えました。日本でもちょうど2010年の秋頃から話題になってきました。私がブログgamification.jpで情報発信していることもあり、講演の依頼も増えています。 ゲーミフィケーションは、情報感度の高い人達との会話によく出てくるテーマになったように感じます。若いソーシャルアントレプレナーも注目しているようです。企業のマーケティング、web販促、ソーシャルゲームなど、話題になるシーンは本当に様々ですね。 米国でのサミットをみていると、企業内でのゲーミフィケーションの利用は、マーケティングと従業員満足度向上で半々だったりするんですよ。「従業員のモチベーションをいかに維持するか」という意味で、ゲーミフィケーションは合うと思います。 医療や教育など、分野を問わないのも興味深いですね。多種多様な業界の人達が一様に「ゲーミフィケーションは私達の分野に合うと思うんです」とおっしゃいます。
行為を楽しくする仕掛け」で「人間をどう動機づけるか
深田さんが考えるゲーミフィケーションの醍醐味とは?
ゲーミフィケーションの醍醐味とは、応用範囲の広さではないでしょうか?「人間をどう動機づけ行動させるか」がゲーミフィケーションの肝なので、適応できるジャンルは限定されません。人をモチベートさせる領域であれば、なんでも当てはまります。逆に該当しない領域の方が少ないんじゃないでしょうか。もともとゲーミフィケーションは人間の行動心理学とも深く関係しているので、とても応用範囲が広いと思います。ゲーミフィケーションは、「行為を楽しくする仕掛け」も合わせ持っているので、私達の社会すべてに応用できる考え方なんですね。ビジネスチャンスだけでなく、世の中に与える影響は大きいと期待しています。
ソーシャルメディアやゲーミフィケーションが今後直面する課題をどうとらえていますか?
ソーシャルメディアはプラットフォームですし、ゲーミフィケーションは考え方であり、両方ともあくまでも道具です。なので、正しい使い方、失敗を減らす方法を模索していくのが弊社の立ち位置だと思っています。お客様にはマーケティングの観点から、ゲーミフィケーションを活用した方法論をご提案しています。 先日リリースしたばかりの弊社案件では、株式会社エモーチオの「bestmania」が掲げた1年で50万投稿の目標を2ヶ月半で達成しました。これにはゲーミフィケーション要素の実装が大きく役立ったと思います。ユーザー投稿系のサイトはゲーミフィケーションと相性がよいと感じました。他には教育、EC、メーカーの販促など、いろいろご相談は増えていますね。 一方で最近ゲーミフィケーション=ソーシャルゲームという誤解や、概念を正しく理解しないまま言葉だけが独り歩きしている感があるので、そこは啓発していく必要があるのかなと感じています。
ところで深田さんもソーシャルゲームにはまっていますか?
事業を始める前は、正直なぜこれにお金を払うのかわかりませんでした。とはいえ事業としてやると決めたからには、夢中になるまでやってみようと。そしていろいろ試していたらばっちりはまりました(笑) 中でも野球選手育成ゲームはひと月くらいやりました。途中、初めてお金を使う瞬間というのがあるんです。時間をかけて達成することが、お金を払えば今この瞬間にできる。そう気付くと100円くらいならいいんじゃないかと(笑) 時間を買うような感覚ですね。1回お金を使うとハードルが下がって、珈琲1杯くらいなら、飲み会1回くらいならとどんどん増えていくんです。ひと月数千円は使ったでしょうか(笑) たぶん中堅レベルまでは行きましたね。
サービスに触れる利用者の心理を理解してクリエイトする
今後、ゲーミフィケーションに期待することは?
期待というより、3~5年くらい経てば、マーケティング利用としてゲーミフィケーションの考え方は当たり前になっていると思います。個人的にはビジネスだけでなく、ノンビジネス領域に普及することで、世の中により楽しめるサービスが増えるといいなと思っています。 中でも教育分野に注目しています。特に学校教育はもっと楽しくできる余地が大きいのではないでしょうか。ゲーミフィケーションフレームワークの活用で、楽しみながら学べたり、学ぶスピードが上がったり、学ぶ楽しさに気付いたりする子供が増えると思います。 実はそれは会社の中でも同じなんですね。自分の仕事の目的を理解できて、自分の行動に対するフィードバックが得られ、達成感・有能感を感じられる。そうなったら従業員は、自然に働くモチベーションを維持できるので、企業の成長につながります。 いろんな領域で人々の動機づけが活性化されたら、もっとわくわくする世の中になるんじゃないかと思うんです。
クリエイターへのメッセージをお願いいたします。
当たり前のことですが、サービスはどれだけ利用者の目線で発想して、クリエイトできるかが大事ですよね。でも「利用者の心理」を理解しないまま、サービスを開発することも意外に多いんです。作り手がいいと思うもの=利用者にとっていいものではないケースも多々あります。弊社はエンジニアが多いせいか、結構ギャップがあるので(笑)、特に気をつけています。 特にサービスに最初に触れる入口(気持ちやシーン)を間違うと、全体が大きくぶれてしまいます。そこを誤らないことが、大切なことのひとつです。クリエイターのみなさんが作ったものを、どんな人がどのように使うのか、それを考える際にゲーミフィケーションフレームワークはひとつの強力なツールになると思います。
取材日:2011年12月22日 取材・文/ぱうだー