映画センター~「配給会社」という立場で、映画文化を守り、育て、広める

Vol.77
映画センター全国連絡会議 議長 株式会社京都映画センター 代表取締役 竹内守さん
映画館ではなく、ホールや公民館、学校、イベント会場などで映画を見た経験はありますか。

上映される作品は、社会派ドキュメンタリーや過去の名作、子ども向けアニメ…。主催は自治体や自治会、●●実行委員会などさまざまだが、これらの映画がどのような仕組みで上映されているかご存知だろうか? そんな場合かなりの確率で、チラシにもパンフレットにもまず名前が出てこない、各地のという配給会社の存在があるのだ。
映画センター全国連絡会議は、各地の映画センターを束ねる組織。議長の竹内守さんは、京大生時代に映画の世界にのめり込み、老舗の映画センターである株式会社京都映画センターに入社した。現在は同社の社長と同時に全国連絡会議の議長を務めている。
「配給会社」という、我々が普段、あまり意識することのない存在。どのようなビジネスを展開しているのか、竹内さんにお話を伺った。

映画館がないのなら、映画を届けよう

映画センター全国連絡会議とは、どのような組織なのでしょうか?

【竹内さんのお話】
映画センター全国連絡会議は、1972年、大都市の映画配給会社8センターが集まって設立されました。当時は、映画の全盛期から10年ほどが過ぎ、地方都市の映画館が次々に閉館している頃でした。その結果、映画を観たくても観られない人たちが日本中に現れ始めたのです。
そこで、映画センターは「映画館がないのなら、自分たちが出かけていって映画を届けよう」と考えました。しかし、我々がホールを借りて地域の人々を集めようとしてもうまくいきません。そこで、地域それぞれに映画が好きな人を集めて実行委員会をつくってもらい、上映会の開催を呼びかけていく方法を採ったのです。この“自主上映”というビジネスが、センターの一番の柱です。

全国各地に映画センターがあるのですね。なぜ、そのような方式にしたのですか?

【竹内さんのお話】
映画センターは、配給を前提とすることで、自主製作で映画をつくろうとするプロダクションの支援も行います。映画づくりには、たとえ自主製作であってもかなりの費用がかかります。センターが映画を上映し、その売上から製作費を回収するわけですが、ひとつの配給会社が全国を網羅する場合、映画がヒットすれば利益が大きい一方、外してしまった場合のリスクも大きい。そのリスクを分散するために、各都道府県にセンターを設けるかたちにしました。現在は32都道府県にセンターがあり、最終的には全47都道府県での設立をめざしています。

単に映画を配給するだけでなく、製作段階からかかわっているのですね。どのような経緯があったのでしょうか?

【竹内さんのお話】
かつて日本のメジャー映画会社は、映画の製作・配給・興行を一貫して行っていました。しかし、メジャーでは社会問題をとり上げた作品などはなかなか扱いません。それなら、いっそのこと映画を自主製作・自主上映しようという動きが60年代後半から盛んになってきました。
また、70年前後の映画不況時に、メジャー各社は金がかかりリスクも高い製作部門を切り離し、配給と興行だけを扱うようになりました。それ以降、日本の映画製作は独立プロダクションが中心になりました。
なにしろ、映画をつくりたい人はたくさんいるのでコンテンツには困らないのですが、それを上映し、製作費を回収する方法がありません。メジャー系列に属さない独立系映画館で自主上映して製作費を回収しようとしても、もちろん回収しきれません。そこで、センターが協力して上映機会を増やし、さらに映画を再生産してもらおうという流れをつくったのです。

センターならではの切り口で映画を届ける

メジャーでは製作・配給しにくいけれど、優れている作品を世に出し、そして新作にもつなげる仕組みですね。もし、センターがなくなれば、廃業に追い込まれてしまうプロダクションもきっと出てきますね。
ところで、関西のあるセンターでは、日本では今年(2011年)公開されたばかりの『英国王のスピーチ』をすでに上映しています。話題の新作映画ですが、こういった作品も上映するのですか?

【竹内さんのお話】
最近では、メジャー作品であっても条件が合えば、映画センターで扱うことも増えてきました。とにかく映画が好きなので、心が打たれる作品であれば、どんな映画でも広く地域の方に見てもらいたいと思っています。
『英国王のスピーチ』は、もともと配給会社のGAGA(ギャガ)が配給する映画です。連絡会議が窓口となり、限られた期間、関西以西で上映する権利を同社から買い取りました。

アカデミー賞まで受賞した作品の上映権を、その年のうちに売ってくれるとは驚きですね。

【竹内さんのお話】
GAGAとは2007年のマイケル・ムーア監督の作品『シッコ』からおつき合いが始まりました。この映画は、アメリカの医療制度をテーマにしていますが、当時、日本でも後期高齢者医療制度が始まり、医療制度への関心が高まりました。そこで、連絡会議にも「『シッコ』を上映してくれないか」という要望がさまざまな団体から数多く寄せられ、GAGAに相談を持ちかけたのです。
残念ながら『シッコ』はロードショーでは、それほどヒットしませんでした。そんな背景もあってか、GAGAは「使えるものなら使ってください」と上映権を売ってくれたのですが、センターで上映したところ、思った以上に反響があったのです。これをきっかけに、GAGAもセンターの理念を理解してくれたのではないでしょうか。
また、試写会を見て上映を決める作品もあります。近年では『おくりびと』がそうですね。たしか秋の公開で、その年の10月後半には、翌年2月から映画センターでも扱えるように契約していたのですが、アカデミー賞をとって大ヒット、ロングラン公開になり、映画館と映画センターが同時に上映する前代未聞の出来事になってしまいました(笑)

それは先見の明があったのですね。上映する映画は「テーマがはっきりしている」という観点で選んでいるのですか?

【竹内さんのお話】
そういうわけではありません。たとえば、我々も上映した『ふたたび』という作品があります。らい予防法が廃止され、かつてジャズのトランペッターだったハンセン病の元患者の男が社会復帰する話ですが、興行用の宣伝ではハンセン病のことにはあまり触れずに、あくまでジャズバンドを復活させようとする話として紹介されています。 一方、センターではこの映画をハンセン病の問題としてとり上げます。テーマの切り口をどう見せるかが、僕らにとって作品を売るということ。だから最初にテーマありきの映画にはあまり関心がありません。興行用の宣伝と、センター用の宣伝の角度は似ているようで違うので、映画の中からいかにセンターらしさを探し出すかというところがすごく面白いですね。

映画文化を守るために

1年間に、どれくらいの上映会を開いているのですか?

【竹内さんのお話】
地域によってかなり違いますが、大阪や京都では年間延べ300回は開催しています。でも、以前と比べると数は減っています。「自分たちが上映会を主催して、みんなに見てもらいたい」と思う人たちも、時代の変化とともに少なくなってきたようです。
いま、地方の観客は60歳以上の方、それも女性が多いですね。この方たちは映画全盛期に青春時代を送っていますので、DVDより映画館に親しみがあるのでしょう。圧倒的に多い観客層なので、ここにターゲットを絞って上映を計画することもあります。
でも、観る目は厳しいですよ。アンケートを書いていただくのですが、非常に的確な批評が寄せられます。手ごわい相手ですが、「映画文化に参加してもらえる層」と言えますね。

ところで、今はわざわざ映画館まで行かなくてもDVDやインターネット、オンデマンドで映画を見られることも多くなりました。各センターの状況はいかがでしょうか。

【竹内さんのお話】
やはり、非常に厳しいと言わざるをえません。従来のアナログ放送やVHSの画質ではまだまだと思っていましたが、デジタル放送については、言ってみれば「これで間に合うな、わざわざ映画館に行かなくてもいいな」と思ってしまう人がいっぱいいるだろうなと。
さきほど上映会には高齢の方が多いとお話ししましたが、一番心配なのは、この世代がいなくなった時。今の若い世代が高齢になったら、上映会に来てくれるかというと、そうはならないでしょう。そもそも、映画館に足を運ぶという習慣自体が存亡の危機にあるかもしれません。
でも、たとえば、我々は「どこその映画館で見たこの映画」という覚え方をどこかでしていると思いませんか? 初デートはあの映画館だったとか、映画がデートとミスマッチだったとか(笑)。映画を見に出かけるという行為には、特別なところがあるのかもしれません。ですから、工夫次第で、僕らが必要とされる部分はまだまだあるのではと思っています。

各センターはどのくらいの規模で活動しているのですか?

【竹内さんのお話】
現在、各センターは、2人程度で運営しているところが大半です。京都で6人、大阪でも7人という規模です。でも、実は配給会社としては多い方なのですよ。全国で合わせれば100人はいますから。たとえば、あるメジャーでは名古屋から九州までの配給をたった3人でやっているそうです。なぜか。担当者が映画館に足を運んで「この映画を上映してよ」と言わなくても、ほぼ自動的に東京から流れてくるからです。配給に人をこんなに割いているのは、非効率な映画センターくらいですよ(笑)。でも、我々が上映するホールなどは普段は映画以外のイベントをやっているので、「何日は映画をやりますよ」と宣伝しなければならず、やはり手間がかかるのです。

映画センター全国連絡会議 議長 株式会社京都映画センター 代表取締役 竹内守さん

【インタビュー対象者】
映画センター全国連絡会議 議長
株式会社京都映画センター 代表取締役
竹内守さん

最近では、どんな作品の上映を計画していますか?

【竹内さんのお話】
今年8月から、99歳の新藤兼人監督の引退作品『一枚のハガキ』の公開が始まりました。製作した近代映画協会は昔からお付き合いしていた独立プロダクションのさきがけででもあり、ぜひセンターでも上映したいと思います。やはり、年配のお客さんに来てもらうことに期待しようと思いますが(笑)、どうしたら若い方にも見に来てもらえるかを考えなければなりませんね。

2011年8月30日

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