大事なことは心を込めること。沖縄の小さな映画製作会社の、映画への思い

沖縄
株式会社ククルビジョン 代表
Takako Miyahira
宮平 貴子

2009年、沖縄出身の映画監督、宮平貴子(みやひら たかこ)さんが手掛けた作品『アンを探して』が、シンガポールの新人映画祭「アジアンフェスティバル・オブ・ファーストフィルム」で、最優秀作品賞と最優秀監督賞の二冠に輝いたというニュースが沖縄県内を駆け巡りました。それから2年後、宮平監督は沖縄の文化を世界に発信すべく、映画製作会社「ククルビジョン」を設立。

自身の映画製作だけでなくプロデュースや子どものための映画祭運営など、映画に関する事業を幅広く展開しています。社名の「ククル」とは、沖縄の言葉で「心」の意味。心を込めて映画製作に取り組む代表の宮平さんに思いを伺いました。

映画を通して沖縄の魅力を発信したい

映画の世界へ入ったきっかけを教えてください。

友人と短編映画を作っていた大学生の頃、カナダのクロード・ガ二オンという映画監督が、沖縄ロケのためにスタッフを募集するという情報を聞きつけました。またとない機会だと応募したら、撮影助手を担当できて、そのご縁から、監督にカナダでの映画製作に誘っていただき、助監督などを経験しました。そして2009年にカナダオールロケで長編映画『アンを探して』で監督を務めました。

その作品で映画監督として高い評価を得られた後、なぜ会社を設立されたのですか?

その映画のキャンペーンで、ガ二オン監督と沖縄を訪れたときに、インスピレーションを受けた監督が、沖縄を舞台にした映画『カラカラ』を新しく企画され、「ぜひ私がプロデュースしたい!」と思いました。

しばらくカナダに住んでいたので、私自身にも改めて沖縄の魅力が見えてきていて、沖縄を世界に発信するチャンスだと思ったんです。ちょうどその頃、コンテンツファンドという県の事業が立ち上がり、沖縄を海外へPRするためのコンテンツを募集していました。それに応募するには沖縄の企業であることが条件だったので、一念発起して起業し、映画製作に取り組みました。

カナダで暮らして、改めて見えてきた沖縄の魅力とはどのようなものですか?

「魅力」というより「沖縄らしさ」かもしれません。ケベック州に住んでいたのですが、現地の人の地元に対する思いが沖縄に似ていたんです。ケベックの人は、トロントやモントリオールなどカナダの主要都市とは異なる文化にとても誇りを持っています。80年代に独立選挙が行われたり、自分たちを「カナダ人」ではなく「ケベック人」と呼んだりするほどです。

沖縄も本土とは異なる文化を持っていますし、沖縄の人が自分たちを「うちなーんちゅ」と呼んで区別しているところなども似ていると感じました。ケベックの人が文化面でも世界に通用する作品を発信しているように、沖縄にも世界に通用する独自の文化があり、それを弊社が作る映画で表現できると思いました。

「どこで」ではなく「どんな」映画を作るかが大切

現在の事業内容を詳しく教えてください。

映画に限らず映像作品全般の制作やプロデュースです。プロデュース業に関しては、最初の作品であるガ二オン監督の『カラカラ』が、モントリオール世界映画祭で「世界に開かれた視点賞」と「観客賞」をダブル受賞できました。以降沖縄が舞台のドキュメンタリー作品『カタブイ』や『百日告別』という台湾映画も、アジアを中心に高い評価をいただきました。

プロデュースする映画はどのように見つけているのですか?

プロデュースしたいと思う監督や作品との出会いは、縁によるものも大きいです。『カタブイ 』という作品の監督は、『カラカラ』の助監督だった方です。『百日告別』も、沖縄国際映画祭のワークショップで出会ったプロデューサーさんとのご縁がありました。

製作費はどのようにして集められていますか?

沖縄県の行政の支援や一般の出資者や協賛を募って、なんとか作っているような状況です。2015年の『わたしの宝もの』という短編映画は、沖縄コンベンションビューローが主催していた「フィルムツーリズム推進事業」に応募して作ることができた作品です。通らなければ、初監督から年数も経っているし、しばらく「映画監督」と名乗るのを止めようと思ってましたが、無事公募を勝ち抜いてメガホンをとれたのでホッとしました。作品は京都のこども映画祭で短編グランプリを撮ったほか、ドイツや韓国台湾のこども映画祭でも上映されました。ククルビジョンのサイトからも見ることができますので御覧ください。

映画製作で最も大変だと思うことを教えてください。

全てが大変なんですが(笑)。特に困難な点は、映画制作の本拠地は東京のため、地方にあたる沖縄だとどうしても人脈や情報などが薄くなってしまい、お金も人もなかなか集まらないことです。また頼りの綱だった行政のコンテンツサポート事業等も、後年は本土企業主体の映画が採択されることが増え、同時に採択された作品の辞退なども多かったことから終了したようです。また、短編映画の一般公募もなくなり残念ではあります。最近では新型コロナウイルスの影響もあり、ますます映画制作が困難になっています。

そのような状況下において、東京に拠点を移そうとは思われませんか?

映画界全体が大変な今、拠点を移しても状況は変わらない気がしますし、正直、会社を続けるのは難しいかもしれないと暗い気持ちになることもあります。しかしこんなときこそ、「ククルビジョンだからこそ作れるもの」を考え抜いて、企画に磨きをかけていきたいです。映画は脚本がなければ始まりませんし、脚本は紙とペンがあればできる作業ですから。また最近では、依頼で子ども向けの教育動画、平和学習動画、一般の方への脚本指導など、業務の幅を広げ、さまざまな「伝えたい」を具現化するお手伝いをしています。

沖縄こども映画祭「KIFFO」で子どもの心を育む

御社では「KIFFO(キフォー)」という子ども向けの映画祭を運営されているとホームページで拝見しました。これはどのようなイベントですか?

「KIFFO」は「こども国際映画祭in沖縄」の略称で、2014年から始まりました。私は学生時代にある映画祭のボランティアに参加したことで映画の面白さを知り、映画好きな仲間と知り合い、映画を作るようになりましたので、そのような機会が子どもの頃にあったらすてきだと思い、この映画祭を立ち上げました。

また海外では、大人向けの映画祭と同時期に子ども向けの映画祭も開催されていることがあります。ベルリン映画祭にもジェネレーション部門というのがあり、子どもが審査したり、監督に直接質問したりする光景を目の当たりにしました。大人が思ってる以上に、子どもは映画を通していろいろなことを感じているし、理解しています。だからこそ、文化の違う国の映画を見ることで世界を感じて、学んでほしい。その環境を作るために弊社は何ができるか考えた結果が「KIFFO」だったんです。普段とは違う環境を知ることで、異なる文化を身近に感じて、リスペクトできるようになるはずです。きっと偏見や差別も生まれにくくなりますよね。

本当にそうだと思います。ちなみに「KIFFO」は子どもが運営スタッフとして働いているんですか?

第1回目は100人の子どもたちがボランティアで手伝ってくれました。第2回目からは、「子どもの自主性を尊重できるか」について自分も学びたいと思い、大人向けの勉強会を開催して、どうしたらいいか、を常に模索しています。

今年(2020年度)の開催は予定されていますか?

厳しいかもしれませんが、映画祭という文化を沖縄に根付かせるためにも、続けていくことが大事だと思っています。今は、皆で集まることはできなくても、映画を見てオンラインで意見交換をするなど、子どもたちと交流を続けています。

「作りたいもの」ではなく、「見たい」映画を作ろう

今後の目標を教えてください。

インディペンデント系の映画製作会社は、コロナの影響を受け大変厳しい状況にあります。しかし逆に、よい企画を練れるチャンスと捉えています。より自分と向き合って、良質な物語を作りたい。また、映画館でなくても発信はできるので、Webなどを使いながらでも伝えていきたいですね。

実は今と近い状況が、弊社を立ち上げたばかりの頃にありました。弊社の設立日は、東日本大震災が起きた4日後だったんです。私たちのような小さな会社が作る映画は何の役にも立たないのではないかと悩みました。しかし映画の力は、何かを大きく変えるためだけではないとも思いました。どのような、ささいな日常にも大事なことがあり、物語があり、そこにスポットライトを当てて映画に昇華するのが、私たちにできることだという考えに至ったんです。社名の「ククルビジョン」にあるように「ククル」、つまり心を込めて映画を作ることを、これからも大切にしていきたいです。

最後に、映画制作を志す方へアドバイスをお願いします。

プロデューサーとしても監督としても映画を作るうえで大事にしていることは「自分が見たい映画を作ること」です。見せたいものと見たいものは、似ているようで違うと思っています。作りたいものを作ろうとすると、自己満足の作品になりがちです。しかし「見たいもの」を作るのであれば、当然比較対象となるその他の動画も見えてきて、客観的に厳しい目で評価できますし、作品と自分の間にいい距離感ができると思います。

取材日:2020年9月7日 ライター:仲濱 淳

株式会社ククルビジョン

  • 代表者名:代表 宮平 貴子
  • 設立年月:2011年3月
  • 資本金:750万円
  • 事業内容:映画・映像作品の企画・監督・製作、周年祭の映像制作、脚本指導
  • 所在地:〒900-0021 沖縄県那覇市泉崎2-4-20比嘉アパート301
  • URL:https://kukuruvision.com/
  • 電話番号:098-996-1456
  • お問い合わせ先:上記ホームページの「Contact Us」より

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