Samon inc.が描く、デザインやアートの可能性が拡がった未来
風の吹き方や生き物の動きなどの影響で、その時々ごとに違う形が生まれる「砂紋」のように、状況に呼応したデザインを生み出していく――。武蔵野美術大学で出会った2人のデザイナー、堀岡昌平(ほりおか しょうへい)さんと柴久喜航(しばくき こう)さんが、クリエイティブチーム「Samon」を結成したのは2018年のこと。
そして2020年、チームは法人化による「Samon inc.」としての新たなスタートを切りました。受託のデザイン事業の枠を超えて、新たな才能を世に送り出すための新規事業を展開しています。共同代表の2人は、デザインの可能性をどのように捉えているのでしょうか。
平面から空間まで、2人なら足りない部分は補い合える
堀岡さんと柴久喜さんが出会ったきっかけを教えてください。
2人とも、武蔵野美術大学の建築学科出身なんです。
同じゼミに所属したことがきっかけで親しくなりました。当時堀岡は大学近くで一人暮らしをしていて、僕は千葉の実家から通っていたんですが、家に帰れないときは彼の部屋に入り浸っていました(笑)。その後はルームシェアをしていた時期もあります。
大学時代から長い時間を一緒に過ごされているんですね。卒業後はどのようなキャリアを?
僕は内装の大手企業へ就職しました。1年半ほど現場で働き、見積もりなどの実務や業者さんとのやり取りを経験した後、よりインテリアデザインに近い世界で働きたいと考え、内装のデザイン事務所へ転職しました。
自分の思うデザインを形にするために、最初の会社では仕事の全体像を学び、2社目ではデザインを突き詰める経験をして、前々から考えていた独立に踏み出したという形です。
僕はサイン業界へ進みました。駅の看板や商業施設のマップなどを作る会社です。公共施設では見やすさを基本としたユニバーサルデザインに配慮し、商業施設では空間ありきのお洒落なデザインが求められる。そんなふうに建物のコンセプトを踏まえて提案していく仕事を経験しました。
ただ、会社にいると業界の仕事の流れは学べるものの、事業全体のお金の流れはなかなか見えません。与えられる要件だけではなく、本当に自分のやりたいようにやろうと思うなら独立すべきではないか。そう考えるようになって、フリーランスへ転身しました。
それぞれ「インテリア」「グラフィック」という異なる領域で力をつけ、独立して自身の道を追求していたのだと思いますが、なぜあえて同じチームでやろうと考えたのですか?
僕は1人では内装しかできませんが、ゆくゆくはより幅広く、ディレクター的な仕事もしたいと考えていました。グラフィックができる柴久喜と一緒なら2Dと3Dを同時に手掛けられるし、内装以外にもさまざまな仕事ができると思ったんです。
動機は僕も同じです。堀岡は斬新なアイデアを出してコンセプトにまとめあげる力があるし、僕は完成度を高めるために1つのアイデアを突き詰めていくことが好き。互いに長所があり、足りない部分を補い合える相手なのだと思っています。
Samon inc.ではデザイン事業を「toB」(企業向け)と位置付け、さまざまなクライアントを獲得しています。この事業におけるこだわりや強みについてお聞かせください。
強みは、分かりやすく言えば「平面から空間までシームレスに請け負える」ということ。まさにこの2人でやっている意味ですね。加えて、ただかっこいいデザインを提案するだけではなく、「なぜこのデザインが必要なのか」というコンセプトを打ち立て、それに準じたものを作っていくことにこだわっています。
新しいトレンドを取り入れていくスピード感も僕たちの強みだと思っています。自社だけではなく、新進気鋭の数多くのデザイナーさんやアーティストさんとも連携して、自社で事業を生み出していく考え方は僕たちならではのものだと。
「クリエイターの想い」をストーリーとともに伝えるポスター事業を開始
「toC」(一般消費者向け)と位置付けている企画事業ですね。コーポレートサイトでは、「フリーのデザイナーの発信場所作り」など、新たな事業へ取り組んでいく方向性を打ち出されています。
自社サービスの開発へ本格的に動き出すため、この2020年の3月にSamonを法人化しました。その第一弾となるサービスを発表する予定です。
「Postarte(ポスタルテ)」というポスター販売事業です。ポスターって、ペライチ(一枚紙)で購入することが多いと思うんですね。それを部屋に飾ろうと思っても、まずはフレームを買わなきゃいけないし、フレームが絵や空間と合わないこともある。せっかくポスターを買ったのにその後が大変。
それに対して僕たちは、新進気鋭のクリエイターさんに描き下ろしていただいた作品をポスターにし、額装し、額をかけるためのピンまで入ったオールインワンのキットを個人のお客さまへ届ける。気に入った絵を購入してから飾って楽しむまでの体験を提供することで、クリエイション(アートやデザインなどの制作物の総称)に興味を持つ人を増やしていきたいと考えています。
Postarte https://postarte.net/
アーティストやデザイナーにとっては、クライアントワークだけでは実現できない新たなチャレンジの場となりますね。
はい。普段の仕事とは違う表現にも挑んでもらえると思います。どんな作品にするのかはアーティストさんとしっかり話し合い、普段の仕事では使わないような用紙を選んでもらったり、特殊加工を施したりと、細部までこだわってもらいました。
印刷方法以外にも作品の価値を担保するエディション(限定生産数)も決めています。リアルだからこそ感じられる、とっておきのクリエイション購入の体験を届けていきます。
作品以外の面では、制作していただいたクリエイターさんにはインタビューもしていて、制作背景や個人の考え方といったストーリーをZine(小冊子)にして、ポスターと一緒にお届けしていく予定です。
購入してくれた方には「このポスターは、作者がこんな思いで描いたんだよ」と、ストーリーとともに人に伝えてもらえたらいいなと思っています。
デザインは、社会を回すため、発展させていくために欠かせないもの
この新規事業にはどのような思いを込めているのでしょうか。
日本人は古来より掛け軸を飾るなどの習慣を持ち、クリエイションに近いところで生きてきたと思います。でも、今では家にイラストや写真やポスターなどを飾る人も少なく、クリエイションとの接点が減っているように感じます。「クリエイションが家にあることで気持ち良く暮らせる」という価値を再提案して、もっともっとクリエイションを身近にしていきたいんです。
僕たちの企業理念は「デザインの未来を拡げる」です。最近では少しずつ重要性が認識されつつありますが、僕たちは「デザインはあってもなくてもいいよね」ではなく、「デザインがあると楽しい!」と認識される世の中にしていきたいと思っています。
ポスター販売事業は一つのきっかけに過ぎません。ゆくゆくは、子供たちがデザインを学べるようにしたり、経営者がビジネスのためのデザインを学べるようにしたりと、さまざまな場を作っていきたいと考えています。
そのためには今後、企業としても規模を拡大していくことになりそうですね。
そうですね。少しずつ仲間を増やしていきたいと思っています。僕たちの理念に共感して、一緒に面白がってくれる仲間を増やしたい。僕は、クライアントに細かく仕様を指定されたチラシを作るだけの仕事にも新たなデザインの余地はあると思っているんです。どんな仕事でもポジティブに捉えて、デザインの価値を付加していける会社にしたいです。
堀岡さんと柴久喜さんは、デザインへの考えを深めたり視野を広げたりするために、どのようなことを大切にしていますか?
自分が興味のある記事を集めてくれるアプリでデザイン業界の情報を毎日チェックしています。加えて、新しい建物やショップができたらなるべく足を運ぶようにしていますね。そうした新しい場所で感じる「最新の匂い」が大切だと思っています。
僕の場合は「人と会うこと」ですね。単純に「飲むのが好き」というのもありますが(笑)。個人としての作家性も大事ですが、僕は何よりもチーム作りが楽しいんです。今後もいろいろな人と一緒にものづくりがしたいし、全く違うジャンルの人とも関わりたいと考えています。
お二人にとって「デザイン」とは?
僕はよくアートとデザインを対比して考えています。アートは、キャンバスと自分だけという状況で自分の中の何かと向き合う「自己啓発的」な側面が大きいと思うんですね。対してデザインは、より自分の外部と向き合っていく必要があるのではないかと。身の回りを変え、広く言えば社会を改善していくものだと思っています。
同感です。デザインは社会活動の一環だと思います。社会を動かすため、発展させていくために欠かせないものとして、今後もデザインの重要性は高まっていくのではないでしょうか。
取材日:10月7日 ライター:多田 慎介
Samon株式会社
- 代表者名:代表取締役 インテリアデザイナー 堀岡 昌平(ほりおか・しょうへい) 代表取締役:グラフィックデザイナー 柴久喜 航(しばくき・こう)
- 設立年月:2020年3月
- 資本金:300万円
- 事業内容:デザイン事業、アート/クリエイティブに関わる各種企画開発
- 所在地:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-1-24-304
- URL:https://samon-inc.com/ 「Postarte」Webサイト https://postarte.net/
- お問い合わせ先:上記HPの「お問い合わせ」より