空間デザインの力で、人々の思いを形にしたい
沖縄を代表する観光施設「名護パイナップルパーク」のリニューアルをはじめ、ホテルや社屋などの大型案件から、ガーデンのデザインや個人経営の店舗、個人宅などの小規模案件まで、さまざまな施設の空間デザイン設計を手掛ける「株式会社コンセプション」。庭や照明、雑貨などを生かした細やかなデザインにも定評があり、空間をトータルで作り上げるプロフェッショナルです。多岐にわたるジャンルをデザインしながらも、全ての仕事の根幹には「お客さまの思いを形にする」というモットーがあると、代表取締役の平識伸二郎(へしき しんじろう)さんは言います。
デザイナーでありながらアメリカで接客業を極めた異色の経歴を持つ平識さんの細やかな気遣いに迫りました。
単身渡米し飲食店のマネージャーを経験した空間デザイナー
空間デザインの世界に興味を持ったのはいつ頃ですか?
幼少期まで遡ります。自宅の蛍光灯を付け替えて照明の色を変えてみたり、行灯(あんどん)のような小さな間接照明を作ってみたり、なぜか照明にこだわる子供でしたね。
早熟ですね! 本格的に勉強を始めたのはいつからですか?
沖縄の高校を卒業後、東京デザイナー学院に進学して建築の勉強を始めました。在学中に、青山に事務所を構えていた某有名建築家のもとでアルバイトしていたのですが、自分には建築の仕事は向いていないと感じ、進路を変更しました。
なぜ向いていないと感じたのですか?
スタッフがワンフロアに100人ほどいましたので、完全に分業制でした。私は全部1人でやりたいタイプなので、建築事務所のチームプレイは向いていないと思いました。さらに、その建築家の一声で、フロア全員の仕事がやり直しになってしまう過酷な状況も辛くて(笑)。それで卒業後は店舗設計を手掛ける会社に就職し、商業施設などの企画設計に携わりました。ちょうどバブル時代だったので幸運にも仕事がたくさんあり、私のような若造でもどんどん本格的な仕事を任され、実地で店舗デザインを学べました。
それから4,5年後に独立したのですが、体調を崩して、しばらく療養した時に人生を振り返り、「このままでいいのか?」と、自分探しのような心境になりまして(笑)。アメリカで店舗デザインの仕事をしたいと思い、退院後に単身渡米しました。しかし、いきなりできるはずもなく、飲食店のウェイターとして生計を立ててチャンスをうかがっていました。次第にマネージャーを任されるまでに認められて、新規レストランの立ち上げから運営まで担うプロデューサーのような仕事が出来るようになりました。
運営を行っていたとなるとデザインのお仕事から遠のいてしまったように感じますが?
そうなんです。さらに、当時まだ黎明期だったインターネットビジネスに興味を持ち、ITサービスを作る有限会社を立ち上げました。
経営は順調でしたが、家庭の事情があり、2001年に沖縄に戻ることに。改めてITサービスのベンチャー企業を作り、得意な飲食業に特化して、お店のWebサイト制作やインターネットを活用したコンサル業務を行いました。
徐々に今の業務に近付いてきたようですね。それからどのように「株式会社コンセプション」の設立に至ったのですか?
お付き合いのあった飲食店から「設計もできるなら、うちの店を作ってほしい」とお話をいただき、デザインの仕事に戻れたんです。「碧」や「ハンズ」といった沖縄の大手ステーキ店からお声がけいただいたのが始まりで、いまだにご依頼いただいています。
徐々に店舗設計のほうが大きな比重を占めていったので、ITサービスの業務を別会社に譲渡して、私は県内の商業施設の設計施工会社に所属してデザイン業に専念するようになります。そこで数年勤めた後、2011年に独立し、現在に至る株式会社コンセプションを立ち上げることになりました。
デザイナーはお客さまと作り手の思いを伝え合うための「翻訳者」
現在の事業を教えてください。
商業施設や飲食店、ホテル、個人宅などの空間デザイン設計です。庭や照明、家具のような限られた場所や物をデザインすることもあります。
飲食店に限らず多くのジャンルの空間デザインを手掛けられていますが、なぜそれが可能なのですか?
心掛けているのは、「お客さまの思いを形にする」ことです。そこがぶれなければ、どんなものにも対応できると思っています。弊社はお客さまの言葉にならない声やご要望を理解し、ビジュアルに落とし込み、正確に施工者へ伝え、実際に作り上げていく道筋を作るプロデューサーのような存在。お客さまと業者の間に立って、それぞれの思いを伝え合うお手伝いをする「翻訳業」と言えるかもしれません。
そのように仕事を遂行するうえで、大切にしていることはありますか?
まず、私たちの会社の役割をお客さまにしっかり理解していただくことです。お客さまの頭の中にやりたいことが明確にある場合より、「なんとなくやりたいことがあるのだけど、うまく形にできない、伝えらえない」といった方にこそ、「翻訳業」としての我々の仕事が生きてきます。
もう一つ、これは弊社の信条でもありますが、お客さまの「ワクワク」が「喜び」になるために、あらゆる手を尽くすことです。きっとお客さまは弊社にご依頼いただいたとき、どんなものができるかと「ワクワク」しているはずです。でもその「ワクワク」は、ちょっとした不安が生じるとすぐに消えてしまい、不満や怒りに変わってしまいます。完成まで「ワクワクした気持ち」を継続していただくために、どんなささいな不安にもすぐに気付き、解消することが大切です。
そのために何かしていることはありますか?
密にコミュニケーションをとることです。メールやライン、電話など、ちょっとした会話や文章の言葉尻や間に、お客さまの心の動きは表れるものです。それを感じたらすぐに「どうなされましたか?」と声をかけるようにしています。
直接顔を合わさないコミュニケーションでも、気付けるものですか?
できます。これにはアメリカでの接客業の経験が生きています。特に失敗経験から学ぶことが多かったように感じます。お客さまのわずかなしぐさや行動、会話などから相手の気持ちを想像することをさんざん鍛えられたからこそ、今の仕事が出来ていると思います。
他にも仕事で大切にされていることがあれば教えてください。
「センチュリーデザイン」、つまり「100年後も愛されるものを作る」努力をしています。
例えば、最近手掛けたものに「名護パイナップルパーク」という創業40年余の老舗観光施設がありました。今まで団体旅行者に人気でしたが、最近では沖縄の団体旅行自体が少なくなっており、将来に不安を感じられていました。そこで、社長の構想の中にあった増加しつつある個人旅行者にもっと訴求できる施設にしたいという思いを「形」にするために、巨大なパイナップルアートオブジェをモチーフに使いながら、沖縄っぽい南国感と異国情緒を併せ持つリゾート空間にデザインするなど、大きなリノベーションを施しました。さらに長く親しまれる場所になるはずだと、期待しています。
空間デザインの仕事で感じる、一番の喜びは何ですか?
お客さまの思いを「形」にできることが、やはり一番楽しいですね。また、デザインを通して全く知らなかった業界を学び、新しい知識を得られることも大きな喜びです。お客さまのおかげで、お金を頂きながら勉強できて、さらに自分を高められるんですから、こんなに楽しい仕事はないと思います。
ワクワクできる仕事を通して、人々の暮らしや地域をより魅力的に
今後の夢や展望を教えてください。
私たち自身もワクワクできるような仕事を継続していきたいと思っています。その一つが、空間デザインの力で、観光立県である沖縄をさらに魅力的な場所にリニューアルすることです。例えば街灯や普通のアパートの通路灯の色味を変えるだけでも夜景がより美しく印象的な観光地にできるはずです。いつか実現させたいですね。
もう一つは、毎日過ごす自宅を、誰もが手軽にリラックスできる空間に作り上げられるサービスを提供することです。実は近日中に、そのための住宅専門サイトを公開予定です。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増え、くつろげる場所としての家の重要性に気付いた方も多いはずです。照明やグリーンなどを効果的に使えば、自宅をもっと癒しの空間にできると、サイトを通して伝えていければと思っています(2020年11月初旬にプレオープン済み)。
最後に、空間デザインの仕事をしてみたい方へアドバイスをお願いします。
いろいろな場所へ行って、いろいろなものを見て、「誰が、なぜ、どのようにこれを作ったのか」と分析することが大切だと思います。つまり、そのコンセプトを自分なりに考えるのです。デザイナーは持って生まれたセンスが重要だと思われがちですが、実際に良質なものを見て感じ、それを自分なりに分析することで、どんどんセンスは磨かれます。旅をしたり、素敵なレストランへ行ったり、そんな楽しいこと全てが学びのチャンスです。
取材日:2020年10月28日 ライター:仲濱 淳
株式会社コンセプション
- 代表者名:代表取締役 平識伸二郎
- 設立年月:2011年10月
- 資本金:300万円
- 事業内容:商業施設、店舗、オフィス、ホテル、個人住宅などの空間デザ イン、インテリアデザイン設計・監理、およびオリジナル照明販売
- 所在地:〒900-0003 沖縄県那覇市安謝1-21-1
- URL:https://conception.zone/
- お問い合わせ先:098-868-8682