アイデアをぎゅうぎゅう!オリジナルRPGにこだわるデスクワークス
いまインディー(自主制作)ゲームで話題のタイトル「RPGタイム!~ライトの伝説~」は、ゲームクリエイターになりたい少年ケンタくんが、ノートに手描きしたゲームの世界を冒険するRPG(ロールプレイングゲーム)です。
「2018年東京ゲームショウ」で6つもの賞を獲得したのをはじめ、国内外のイベントでスポットライトを浴びました。現在も開発中にもかかわらず発売を心待ちにする人が多くいます。
開発元の株式会社「デスクワークス」代表取締役の藤井知晴(ふじい ともはる)さんは、専門学校時代の卒業制作で作ったRPGをきっかけに、当時の同級生と一緒に構想に11年、制作に6年以上を費やし、満を持して公開し注目されています。藤井さんにこれまでの歩みや仕事への思い、今後の展望について伺いました。
卒業制作が大賞を受賞、その後の運命を変えることに
会社立ち上げまでのキャリアをお聞かせください。
子供の頃は将来の夢がいろいろありました。音楽もやりたいし、映像、イベントにも興味がある。もちろんゲームも好きで楽しんでいました。高校生になって進路を決める際に考え出した答えが「ゲーム」。音楽や映像、遊びも入っていて、自分のやりたいことが詰まっていた「ゲームを作る人」になりたいと思い、4年間学べる専門学校へ進みました。
卒業制作にチームで作ったRPG「バトルクエスト」がその後の転機になりました。当時、卒業制作に提出される多くは、作りやすいシューティングゲームやパズルゲーム。RPGは学生が作るにはハードルが高いものでした。でもRPGで育った世代の僕らとしては、自分たちが持っている力の範囲で、オリジナルのRPGをやりたいと思ったんです。
完成したのは20分くらいでクリアできる“なんちゃってRPG”でしたが、珍しさやアイデアの面白さを評価されました。さらには学校側の推薦で、卒業間際に「東京ゲームショウ」の日本ゲーム大賞アマチュア部門に出すことになり、応募したところ大賞を頂きまして。まさか自分たちが大賞をもらうなんて思いもしませんでした。他のメンバーはゲーム会社に行きましたが、僕は花も好きでそのときにはお花屋さんに就職していましたから(笑)。
お花屋さんの仕事は朝が早く定時が15時で、夜に自分でゲームの作品を作れたらとは思っていたものの、仕事が楽しくなると夜まで残るようになり、それも難しく…。
でも受賞を機に、「バトルクエスト」は改めておもしろい作品だったんだと再認識し、これをもっと作り込んで仕上げたい思いが湧いたんです。「自分はこんなにゲームを作りたかったのか」と思い知りましたね。1年で花屋を退職後、2社のゲーム会社でRPGやアクションゲームの制作に7年ほど携わっていました。
インディー開発にコツコツ6年間。貯金も底を尽きて…
ゲーム会社に入ってから「RPGタイム」を作るに至った経緯をお聞かせください。
本業のゲーム制作の傍ら、「RPGタイム」の前身となった「バトルクエスト」を会社で実現させようと、コンペのたびにPRしていたのですがダメで、このまま続けても会社の中で作らせてもらうのは難しいなと。ならば個人的に開発しようと思い、卒業制作を共に行った南場元樹(なんば もとき)と一緒に週末開発を始めたんです。土日に企画会議をしたり、平日の間に取り組んだ宿題をチェックし合ったり。
1年半後、開発に専念しようとゲーム会社を退職してフリーランスになりました。当時はこの開発が終わったら会社に戻るぐらいの気持ちで、2年でリリースさせる目標でしたが、2018年に公開できる段階に至るまでに気付けば6年も経っていて…。 そんななか学生時代の恩師には随分助けていただきました。
開発場所も先生の事務所の片隅を間借りしていました。2年で完成させて出ていく予定だったのが、法人を設立するまで結局7年居候していましたが(笑)。
この6年間はどんなことが大変でしたか?
何よりも人手やお金の面で苦労しました。RPGというボリュームのあるゲームを少人数で作るのは、普通なら無理があったなと。貯金を切り崩して生活を切り詰める日々でした。袋麺を相方と2人で分け合ったり、開発場所への交通費を節約するために自宅から片道1時間かけて歩いたり。お金がなくなると数カ月だけ他の会社に出向することもありましたが、基本的には開発に集中していて。2018年に公開したときには貯金がちょうどゼロになっていました…。
それは相当苦しかったですよね。なぜそこまでやり切れたのでしょうか?
「東京ゲームショウ」のインディーブースに出展することを目標にやってきました。国内だけでなく海外の優秀なクリエイターも応募するので、インディー開発者にとってはイベント会場に作品が並べられることすら狭き門です。開発を始めて数年した段階から何度かエントリーしましたが、なかなか通らなくて。でも販売への一歩としてまずはイベントで知ってもらう必要があると思っていたので「もう一年頑張ろう」とブラッシュアップを重ねてきました。
国内外のイベントで次々と賞を獲得した「RPGタイム!~ライトの伝説~」
そしてついに2018年、「BitSummit」というイベントで初公開となり、同年に出展した「東京ゲームショウ」では6つの賞 をいただいたそうですね。
10年以上温めてきた構想に、6年以上作り込んで貯めたパンチが効いたと思いました。南場が作った手書きの絵が1万枚以上にも上がったことにも驚かれて。「制作に6年かけた」と言うと皆さん納得していました。
これを皮切りに、「台北ゲームショウ」や「厦門(あもい)国際アニメマンガフェスティバルゲームコンテスト」など海外も含め、さまざまなイベントで次々と賞を獲得することができたんです。
ゲームの内容やおすすめポイントについてお聞かせください。
少年ケンタくんがノートに手描きした絵が動いて、ページをめくるたびにいろんな遊びや驚きの要素が入っています。あの手この手でプレイヤーに楽しんでもらえるアイデアをぎゅうぎゅうに詰め込んでいるので、ぜひプレイして欲しいです。
法人となって1年、会社づくりにも一生懸命取り組みたい
2019年8月に法人化されたきっかけをお聞かせください。
想像よりもタイトルの評判が高く、話が大きくなってきたことが要因です。プラットフォームはスマートフォンのほかコンシューマー機も予定しています。ただ法人でないとコンシューマー機用の開発機材の取り扱いが難しいこともあり、ここで覚悟を決めた次第です。
法人化されて1年で社員も8名に増えたそうですね。御社の事業内容や業務体制をお聞かせください。
事業内容はゲームの制作・開発がメインになります。設立メンバーがレベルデザイナーということもあり、レベルデザイナー主体のチームになっています。
今後はレベルデザイナーに特化した会社にするか、ゲームを1本作れるようデザイナーやプログラマーも補強していくべきか検討中です。
同業他社と比べた強みやこだわりをお聞かせください。
「RPGタイム!~ライトの伝説~」でもやっているように、「アイデアをぎゅうぎゅうに詰め込む」ことが会社のコンセプトであり強みです。研究や実践を重ねながら、アイデアを詰め込むためのさまざまなノウハウを溜めつつあります。また僕自身もオリジナルタイトルに長く携わっていたことから、新しいタイトルを作り続けたい、それができる会社にしたいと思っています。
仕事のうえで大事にしていることは何でしょうか?
「一生懸命にやる」ことです。勤めていたときは「チームの中で一番そのゲームのことを考えている人になろう」と思ってやってきた結果、全体を何でも知っている人として重宝された存在になれました。
でも会社を作って経営や監督する立場になってからは、「自分だけでなく同じ仕事をする仲間が力を発揮できる環境を作っていかないといけない」と思うようになりました。会社として何をしたら社員がもっと動きやすくなるのかを直接聞いて、包み隠さずに言える関係性を築けるように心掛けています。
スタッフにはどんなことを求めていますか。
仕様書をもとに作ってもらうときに、ただ書いてあることだけを実装してもアイデアの面白みは半分ぐらいに過ぎなくて。そこから湧いてくるアイデアを自主的に取り入れたり、実際に作ったものを見てさらにアイデアを追加したり、考えながら作ってほしいと思っています。
会社の今後の展望についてお聞かせください。
まずは「RPGタイム!~ライトの伝説~」を完成させることですね。長年開発してきた間に他のアイデアがいろいろと生まれてきたので、その中から一番いいものを選んで、次の作品も見据えた動きをしたいと考えています。
ゲームクリエイターを志す方にメッセージをお願いします。
ゲームを作るハードルが年々下がり、配信する場も増えてきていて、それっぽいものを作ることが簡単になってきました。
これからは作家性やオリジナリティー、スピード、流行を反映させる力、話題を作る力などがゲームクリエイターとして求められる気がしています。もし、僕らの作るゲームへアイデアを詰め込むことに興味がある人がいたらぜひ一緒にやりましょう。
取材日:2020年10月29日 ライター:小田原 衣利
株式会社デスクワークス
- 代表者名:代表取締役 藤井 知晴
- 設立年月:2019年8月
- 資本金:300万円
- 事業内容:コンピュータソフトウェアの企画、研究、開発、製造、販売
- 所在地:〒533-0031 大阪府大阪市東淀川区西淡路3丁目8番6-710号
- 電話番号:06-6829-7559
- URL:http://deskworks.jp
- お問い合わせ先: