スペース2020.12.16

道産木材による家づくりを通して、居心地のいい暮らしを提案し続けていく

札幌
株式会社三五工務店 代表取締役社長
Hiroki Tanaka
田中 裕基
拡大

拡大

拡大

札幌で60年以上家づくりを行ってきた三五工務店は、「いごこちのいい暮らしをつくる幸夢店(こうむてん)」をコンセプトに、道産材を使って性能と意匠のバランスのとれた住宅づくりをはじめ、カフェや商業施設の建築、リフォームなどさまざまな取り組みを行っています。3代目の田中裕基(たなか ひろき)さんに、会社の足跡や今後の目標について話を伺いました。

“周りの幸せ”を仕事の軸とし、やるべきことに取り組む

会社を引き継ぐ以前のキャリアを教えてください。

大学在学中から飲食店で働いており、3年生の頃はフードコンサルティング会社で店舗の立ち上げや内装デザイン、メニュー作りに携わっていました。お客さまに喜んでいただき、それが売り上げにつながる仕組みや経営の裏側が面白かったのでそのまま就職し、27歳まで都内にある本社に勤務していました。そのときは、フードコンサルタントこそが天職だと思っていましたね。

そこから一転、後継者の道を選んだ理由を教えてください。

会社は祖父の代から続く工務店で、当初は弟が跡を継ぐ予定でした。僕は「3代目」と言われるのが嫌で、継ぐつもりはなく、自分の力で生きていこうと考えていました。 でも親に「とりあえずやってみて、嫌なら辞めていい」と言われ、建築を学ぶことはフードコンサルタントにも今後役立っていくと考え、1年の約束で三五工務店で働くことにしたんです。

心変わりされたきっかけは何ですか?

結局いろいろあって2年半が経ちましたが、飲食店のトータルプロデュースをするための店舗デザインや建築の知識が不足していましたので、せっかく建築に携わった経験を無駄にしたくないと思い、建築士の資格を取得しました。当時はまだ、「親の跡を継ぐ=楽をしている」と周りから思われるのではないかと抵抗感を抱いていましたし、自分がやりたいことをして自分の力で生きることや、自分の力で起業することがかっこいいと思っていました。今振り返ってみると、随分とがっていましたね(笑)。

建築士取得後に東京に戻るつもりだったのですが、妻に「自分のことしか考えない人は成功しない。あなた自身は幸せかもしれないけれど、周りは幸せじゃない」と言われ、大きな衝撃を受けたんです。自分としては、北海道に戻って来るときも 「キャリアを捨てて戻って来てやった」くらいの気持ちでしたし、ここでしっかり学んで自分の道を行くという姿がかっこいいと思っていたので、この言葉は大きかったですね。おかげで、今まで自分のことばかり優先してきたと気付いたんです。

同時に、自分はなんて残念な意地を張って生きてきたんだと反省しました。それからは、やりたいことをやるだけより、やらなくてはいけないことに取り組む尊さや、そうした道を選択することの本当の意味での難しさ、自分にしかできない困難な道を選ぶことこそが本当のかっこよさだと考えるようになりました。自分だけでなく、家族や、自分に縁のある方を幸せにしたいという想いに行きついた時、人生のパラダイムシフトが起きたんです。

会社を継ぐことへの心構えが大きく変化したんですね。

そうですね。価値観が変わったので、学ぶことも変わりましたし、自分が培ってきた飲食店起業の経験も工務店の事業に役立つようになればと思うようになり、ぶれなくなりました。自分のやりたいことでなく、“周りの幸せ”を軸にするとぶれません。かっこよく言えば、野心が志に変わったんです。

未来のために会社の問題点を掘り起こし、組織化していく

三五工務店の特徴を教えてください。

祖父の代から「真摯で真面目に、誰かの役に立つことをする誠実な会社」として、カラマツ、ナラ、カバなどの道産木材を使った家づくりをしています。 僕にとっての家づくりは、そこに住む人に安心・安全を与え、当たり前の幸せや楽しさを育んでもらう場所づくりだと思っています。家づくりを通してお施主さまの未来を見据えた暮らしをつくること、地元の職人さんや地場の協力業者さんと仕事を行い、次の世代へ伝統的な技術を残していくこと、そして、道産素材の良さを発信し続け、道産木材を始めとする素材の価値を高め、地元や北海道を豊かにすることが、僕たちの役割だと考えています。

企画住宅やリフォームも手掛けていらっしゃるんですね。

企画住宅は、注文住宅を手掛けるなかで得たお客さまのさまざまなご意見を集約し、これまでに培ったノウハウや、自分たちがいいと思うデザイン・仕様を盛り込んだ三五工務店の63年分の知恵と技術の集大成と呼べる住宅です。注文住宅は、打ち合わせに多大な時間とエネルギーがかかりますが、打ち合わせの労力や時間、コストを軽減しながら、注文住宅と変わらない高品質の住宅が手に入ると、多くの方にご満足いただいております。

リフォームは、長年の信用から多くのご依頼をいただいております。木々の経年変化の美しさを見せていただいたり、建築当時は小さかったお子さんの成長が見られたりと、家づくりは建てて終わりではなく、一生のお付き合いができることも魅力の一つですね。他社で建築後、リフォームからお付き合いが始まるお客様もいらっしゃいます。

リノベーションは三五工務店のテイストが好きな方からお声掛けをいただいております。リフォームとリノベーションを合わせて年間約800件を請け負っていますが、本当はもっと伸ばしたいと考えています。ただ、今のスタッフの人数ではこれが限界ですね。

社長になってから、取り組まれたことはありますか?

今まで、皆が頑張っているし何とかなっているからと封じてきたものを、根っこから掘り起こしました。例えば、お客さまにずっと寄り添い、最後まで図面変更をしながら家づくりを進めていましたが、なかなかスムーズに進まない部分もありました。ですから必要なコントロールをしながらお客さまに納得していただけるよう、提案の仕方を変えて効率化を図りました。それまでのやり方が全くダメだったわけではありませんが、会社と社員の未来を描いたとき、この選択が必要だったんです。

さらに、これまでの属人化スタイルから、会社としてチームとして動けるように組織化してきました。これまでのやり方を大きく変えていくわけですから、当然社内では考え方の違いもありましたし、その道筋を立てることへのエネルギーを要しました。正直、そこの成長痛は大きかったです。完全な組織化に向けての動きは今も続いていますが、一番痛いところは通り過ぎたかなと思っています。

発信手段の一つとしてカフェ運営や冊子を活用

田中さんが同じく代表をしている35designでは、カフェ運営にも力を入れていますね。

僕が建築業界に入って感じたのは、非常に閉鎖的だということです。道産木材の家も、興味がある人以外は知る術がありませんでしたし、さらに言うと、家を建てたい人にだけ頑張って営業をしている。でも、それでは遅いんです。その前の段階で自分たちの価値を伝えていかないと、気付いてもらえません。

一生懸命頑張っているスタッフたちの話が伝わらないなんて、もったいないじゃないですか。ですから、僕たちの仕事を一人でも多くの人たちに知ってもらうための情報発信基地として、道産木材や道産食材を生かしたカフェを三五工務店で建築し、グループ会社の35designで運営と発信を行っています。

リーフレットやフリーマガジンも発信手段の一つですか?

そうですね。営業スタッフがいないため、販促ツールとして冊子の制作をしています。こうした活動は対外的に見えますが、実は全部社内にも向けているんです。会社ではこんな取り組みをしていると、あえて逃げられない環境を作ることで、スタッフたちの意識改革を促しています。

社内の反応はいかがですか?

少しずつ慣れてきて、取り組む姿勢も変わってきたと思いますよ。僕が30歳の頃は正しさの押しつけで、「俺に付いて来い」という感じでしたが、今は僕が少し先を歩きながら、皆で同じ方向に向かっている感じでしょうか。 たどり着く先を一緒に描くためにも、社員とは思ったことを言い合える、いい関係だと思います。距離も近いですし、信頼してくれていると思いますよ。

地域貢献を目指し、北海道の自然を楽しむ仕組みを作りたい

新たな取り組みや、今後目指していることを教えてください。

今後はリノベーション部門を強化したいですし、ゆくゆくは家具店も作りたいと思っています。 個人的には、5年以内をめどに山を購入して、夏はキャンプやマウンテンバイク、冬は雪山でスキーやスノーボードができるような施設を作って、北海道を楽しめる娯楽を広げていきたいですね。北海道の良さはやっぱり自然だと思うので、本当の意味での北海道を楽しめる場所を作らないと、街にお金が落ちないと思います。 そういう施設って、あるようでないんですよ。雪の降る街に180万人が暮らしていて、自然と街が近い恵まれた環境をブランド化したいです。そのためには人の力とお金が必要ですから、今はとにかく頑張って会社の基盤を整えて、次のステージに進みたいと思っています。

今後、本州への進出は考えていますか?

メンテナンスやお客さまとの信頼関係を大切にする会社の理念に反するため、道外への進出は考えていません。ただし、施工はしませんが、僕たちの今の家づくりの技術やノウハウ、考え方を発信しています。

今後の人材にどのようなことを求めますか?

スタッフに求めるのは、誠実さや素直さ、物事を前向きに考えられることです。真面目に仕事に取り組む人を大切にしたいですし、実際に今のスタッフは皆そういうタイプだと思います。 そんな彼らとの仕事を通して、北海道に住んでいる皆さんに「自然を感じながら暮らしていくことが一番の幸せなんだ」と気付いてもらえるきっかけとなるような企業にしていきたいです。

取材日:2020年11月6日 ライター:八幡 智子

株式会社三五工務店

  • 代表者名:代表取締役社長 田中 裕基
  • 設立年月:1958年3月
  • 資本金:3,500万円
  • 事業内容:新築木造住宅の建築、住宅リフォーム・リノベーション、木造商業施設の建築など
  • 所在地:〒001-0034 北海道札幌市北区北34条西10丁目6-21
  • URL:https://www.kk35.jp/
  • お問い合わせ先:上記アドレスの「お問い合わせ」へ

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP