グラフィック2020.12.23

ダンサー×デザイナー×イベンター… 専門性にこだわらない、複合型クリエイターの無限の可能性

広島
株式会社Good life クリエイティブディレクター・代表取締役
Masayuki Kamimae
上前 昌之

あるときはグラフィックデザイン、あるときは映像制作、あるときはダンスイベント…。数え出すと切りがない。さまざまなクリエイティブを展開し、クライアントの要望に応えてきた「株式会社Good life」。 代表を務める上前昌之(かみまえ まさゆき)さんは現役ダンサーで、「30歳までは遊んでばかりの日々」と語る、珍しい経歴の持ち主です。いったいどのようにして起業するまでに至ったのか。これまでの道のりと今後の展望を伺いました。

30歳フリーター。社会人経験ゼロからの起業

大変びっくりしたのですが、キャリアのスタートはダンサーだったそうですね!

15歳からダンスをはじめ、大学入学と同時にプロとして活動していました。自分でクラブイベントを主催したり、地方を回ってパフォーマンスしたり、ダンス講師としても活動していましたね。ダンスを始めて28年経ちますが、今も生涯現役を掲げて踊っています。

ダンサーからクリエイターに転身するまでの経緯をお聞かせください。

大学時代はダンス漬けの毎日で、のめり込みすぎで単位を落としてしまったくらいです。同時に先輩からのお誘いでTV番組の制作なんかもやっていました。 若者に向けて15分くらいの深夜番組だったのですが、自分で企画し、街に出て撮影、テロップなどの編集まですべてやっていました。ちょうどデジタルビデオに移り変わる時代に映像技術を学びましたね。

「ダンサー」×「学生」×「映像クリエイター」とは、二足のわらじならぬ、三足のわらじだったんですね。

忙しすぎて一時は大学を休学しました。やがて就職活動の時期がやってきて、周りはちゃんと就職先を決めていたんですけど、僕はどうしても就職したくなくて(笑)。それで苦し紛れにアメリカ留学を選んだんです。ニューヨークに1年、ロサンゼルスに4年住んでいましたが、アルバイトをしてはクラブに踊りに行くという日々でした。 5年の就労ビザが切れて帰国する年にはもう30歳。

その年齢で社会人経験のない人間を雇ってくれる会社はどこにもないだろうと思いまして…。自分に何ができるかを考えたとき、クラブイベントで告知チラシやフライヤーを自分で作っていましたし、プログラミングも趣味でやっていたので、クリエイティブ分野ならできるだろうと思い、いきなりフリーランスで始め、2011年に法人化し、現在に至ります。

社会人経験がないまま独立したのですね。不安はなかったですか?

なかったですね。当時は自分に向いている、向いていないとかを考えている場合じゃなくて、「とにかくやるしかない!」という感じでした。不安を感じている余裕もなくガムシャラの日々。 でも、目の前の仕事に夢中で取り組んでお客さまに満足いただけると、意外と周りの人が次の仕事につないでくれて、また次の仕事と広がっていきました。

「できること」の掛け算が唯一無二のクリエイターに

現在の業務内容を教えてください。

広告の企画やデザイン、ホームページの制作や映像プロデュースもしますし、3D CAD(3次元設計ソフト)も扱えるので店舗内装などのプロデュースもやります。 事務所の隣でダンススタジオも運営しています。広島の地元企業をはじめ、観光施設や文化を発信するイベント関係など、クライアントもさまざまで、制作だけでなくブランディングから関わることもあります。

多彩ですね。その中で御社が一番得意としていることは何ですか?

正直、何が一番得意なのか自分ではよく分かっていないんですけど、できることをいくつも増やしていって、どこにもない特徴に変えていくことでしょうか。 例えば、僕くらいダンスができる人ってたくさんいると思うんです。だけど僕くらいダンスができて、映像編集もできる人となると少ないと思います。さらにホームページも作れる、デザインもできる人となると、もっと数が限られてくるはずです。

つまり自分のできることを増やし、掛け算のように組み合わせて特徴にしていくことで、付加価値が高まり、新たなビジネスチャンスにつながるのです。一緒に働く仲間にも一つのことを突き詰めるより、いろんなスキルを組み合わせてオンリーワンの存在になってもらいたいと思っています。

クリエイティブを行ううえで一番大切にされていることは何でしょうか?

どんなときでも楽しむことですね。作る過程を自分が楽しんでいないと、人を喜ばせることはできないんじゃないでしょうか。

作ることは、大変なときもあると思います。そういう時はどんな気持ちで取り組めばいいのでしょうか?

今までにないものを作ろうとするわけですから、困難はありますよね。でもそこは「大丈夫、絶対なんとかなる!」と自分に言い聞かせて諦めないことです。この間も、プロジェクションマッピング制作の案件で、3Dプリンターで70cmの模型を出力しなきゃいけなかったんです。でも国内には50cmまで出力できるところしか見当たらなくて…。

それでも探し続けていたら、海外工場を持っている九州の会社があり、そこでならできると連絡があったんです。さらに、模型の中を空洞にすることで予算も抑えられました。困難もポジティブに向き合っていると解決策は必ず出てきます。 あと、自分で作るものは絶対喜んでもらいたいじゃないですか。だから自分が関わる以上は、お客さまの想像を超えるクリエイティブを提供したいと常々考えています。そういう気持ちが困難な過程を楽しむことにつながると思います。

ダンスや海外留学の経験がクリエイティブに生かされていると感じることはありますか?

映像の編集がダンスの振り付けや構成を考えることと似ているので、自分の感覚が一番生かされているのではないかと思います。アメリカではよくクラブに行っていたのですが、本場のヒップホップカルチャーに触れたこともクリエイティブに影響しています。 チラシやフライヤーのデザイン、出会ってきた人々の生き方など、日本にはない感覚ですので、これまでにさまざまな経験を積めたことが、僕が求められている理由だと感じています。

遊ばざる者、働くべからず

今後の展望を教えてください。

さまざまな人の好きなことを組み合わせて、新しい価値を生み出せるコミュニティを創造していきたいですね。そう思ったきっかけは、僕の知り合いに世界的なブレイクダンサーがいるのですが、つい最近全治3カ月のケガをして踊れなくなってしまったんです。一流のダンサーとして技術を持っているのに、ケガをしただけで全く関係ない職に変わるなんてもったいないじゃないですか。それで今、ヒップホップカルチャーを全面に押し出した飲食店をプロデュースできないかと考えています。

「ダンス」×「飲食」です。ヒップホップ好きが集まる場になると思うし、ヒップホップに興味がない人もご飯を食べにきて、その文化に興味を持ってくれる可能性があります。そんなさまざまな要素を組み合わせたコミュニティを作り、人と人がつながりを生んでいけたらと思います。

新しいプラットフォームをクリエイティブしていくということですね。

せっかくいろんな経験をしているので、自分の持っているアイデアや人脈を使って「関わる人をハッピーにしたい」という思いが強いです。

ダンススタジオでも英会話やパルクールの教室を開いたりしていて、いろんな人の「好きなこと」を組み合わせて生かせる環境をつくっています。これからも、デザイン講座でも映像講座でも何でもいいので、たくさんのコミュニティの場を作っていければいいなと考えています。

さまざまなクリエイターと組んで仕事をされていますが、若いクリエイターと組むときに、どんな意識や技術を求めますか?

技術よりも素直な人柄ですね。数年前に弊社で新卒の女性を採用したのですが、採用当時、パソコンが全く使えませんでした。でも彼女はどんなことでも「やります」と明るく取り組んで、なんとかスキルを身に付けようと頑張っていましたし、猛スピードで上達していきました。

今や彼女は、グラフィックや映像もできますし、簡単なホームページも作れるようになって、フリーランスとして独立し活躍しています。「とりあえずやってみます」と言って取り組む、素直で前向きな人柄が、自身の成長や仕事につながっているのだと思います。

最後にクリエイティブを志す人たちにメッセージをお願いします。

遊ぶことを大事にしてください。

誤解を招くかもしれませんが「遊ばざる者、働くべからず」くらいに思っています。楽しく遊んでいるから仕事も頑張れますし、遊びから生まれる発想が仕事に生かせるのが、クリエイターの特権です。人がしていない遊びをしたり、行ったことがない場所に旅行したり、何でもいいと思います。 そういった体験はきっとものづくりのセンスにつながります。僕自身は、30歳まで遊んでしかいません(笑)。でも人と違う経験をしてきたからこそ、人と違う発想を持っていて、クリエイティブに役立っています。

取材日:2019年11月9日

株式会社Good life

  • 代表者名:代表取締役 上前 昌之
  • 設立年月:2011年3月
  • 資本金:500万円
  • 事業内容:広告デザイン、Webデザイン、映像ディレクション、ダンススタジオ、店舗プロデュース
  • 所在地:〒730-0043 広島県広島市中区富士見町8-5レガシービル101
  • お問い合わせ先:TEL.082-567-4646
  • URL:http://www.goodlife-inc.com/

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