印刷業の既成概念にとらわれず、挑戦し続けてきたパイオニア企業
1936年に仙台市で創業し、印刷業を柱に時代の変化をいち早くとらえ、進化を続けてきた「ハリウコミュニケーションズ株式会社」。常識や既成概念にとらわれない挑戦とコミュニケーションを積み重ね、印刷業にとどまらない幅広い事業を展開しています。
代表取締役の針生英一(はりう えいいち)さんに会社の足跡や他社との協働、今後の目標などのお話を伺いました。
前例がなくてもやってみるチャレンジ精神
ハリウコミュニケーションズのこれまでの歩みを教えてください。
弊社は1936年に初代である祖父の孝三が始めた製本所から、1949年に印刷業に業態を転換し法人化しました。当時の仙台市は市街地が小さく、街なかで工場用地を広げることは難しく、かといって企業単独で郊外に移転する土地もありませんでした。
上記の課題は他地域でも一緒でした。高度経済成長に伴い、国の新たな法律(中小企業基本法)のもと、中小企業が集団化して事業協同組合を設立し、必要な土地の購入・造成、工場新築や設備導入等に関して国から低利の融資を受けられるようになりました。
1963年に市内の印刷業・関連業が27社集って仙台印刷工業団地協同組合を設立し、若林区六丁の目に約1万6,500坪を取得(現在は2万2,000坪)。弊社は1966年に青葉区小松島にあった本社工場を移転しました。
社長に就くまでの足跡を教えてください。
私は、きょうだい3人のうち姉が2人の長男です。男が家業を継ぐのが当たり前の時代だったので、親はあまり言わなかったものの、親戚中からのプレッシャーは当然感じていましたし、自分も跡を継ぐことが一番いいだろうと思っていました。大学卒業後は、東京の印刷会社に就職し、2年間の研修を経て、1983年に仙台に戻り、父の会社に入社して2年間営業を担当しました。
組版にコンピューターを導入したのは、1981年頃でした。2代目だった父は結構新しいものが好きで、1970年代頃からコンピューターの導入を考えていたようですが、まだ処理能力が低いわりに高価で、当時主流であった活版印刷からコンピューターに移行するのは大きな賭けだった時代です。導入後はメーカーと二人三脚で試行錯誤を重ねながら、実用化に移行していきました。
コンピューターの導入に伴い、父にコンピューター関連の仕事を専門で受ける会社設立を提案し、1997年には情報処理と印刷の企画を行う子会社の専務取締役になりました。その後、1988年にマッキントッシュをいち早く導入し、図版制作のためにアドビのイラストレーター88を購入しましたが、実はまだ日本語対応していなかったことが判明した、などということもありました。
1988年に子会社として東京に進出したのですが、1990年に、父が急逝したため仙台に急遽戻り、すぐに社長に就任しました。当時30歳、急なことで大変でしたが、若いうちにトップになれたのは、後から考えれば良かったのかなと思います。
目先の利益にとらわれず先のお客さまとの出会いを模索
社長は印刷団地の理事長も務めていらっしゃいますが、どのような取り組みをされていますか。
印刷団地のメンバー企業は設立当時は27社ありました。それぞれに特徴があり、持っている設備やノウハウも違うので、お互い苦手な仕事を依頼し合ったりしています。組合として共同でさまざまな事業も行っていて、ライバルでありながらもお互い協力し合ってきました。50年経った今は17社ですが、良い関係が続いています。
また、私には、理事長になる以前から「印刷団地内にマーケティングセンターを作りたい」という構想がありました。地方のさまざまな企業がモノを作って全国展開するには、民間がマーケティング支援の機能を持たなければならないと思っていたのです。理事長になってから、印刷団地が持っていた新地下鉄駅前の土地の活用とマーケティングセンターである「ビジネスデザインセンター(BDC)の設立に重点的に取り組みました。
例えばBDCでは、岩手県釜石市の製麺メーカーの相談を受け、連携協定を結んでいる東経連ビジネスセンターと連携して、アルコール無添加の「いわて南部地粉そば」のマーケティング支援・販促支援を行なったり、仙台市の食品メーカーから相談を受け、新たな金華サバ寿司の商品化・販売促進を支援し、首都圏で大きな成功に繋げました。マーケティング機能を組合で持つというのは、全国でも初めての試みだと思います。
会社としては、まちづくりコーディネートや教育支援など、社会貢献にも尽力されてますね。
会社経営の傍ら、仙台のまちづくりや市民活動の活性化を支援している特定非営利活動法人「せんだい・みやぎNPOセンター」の理事を14年ほど勤めました。そこでのさまざまな出会いや考え方は企業経営に対してプラスになっています。企業としての立ち位置や考え方としては「これからは仙台のまちや人を良くしようといった発想をもとに、ビジネスを展開していかなければいけない」と思いました。
また、縁あって2003年に不登校の子供たちの支援を行なっている「仙台市不登校支援ネットワーク」の代表に就任しました。メンバーは大学、企業、NPO、行政など20者で構成されており、不登校の子供たちに自然体験、職場体験、教育支援、動物とのふれあいなどの場を作り、多くの人と触れ合う体験をサポートしています。弊社には毎年、多くの子供たちを受け入れていまして、工場でものづくり体験しています。
他にも、理科の特別授業や防災・減災、地域住民や学生たちのまち歩きのマップ作りのコーディネート、まちづくりのサポートなどに取り組んでいくなかで、自然と仕事とつながっています。事業に広がりが出てきたときに、お客さまから「社名が針生印刷だと印刷の仕事しかしてないみたいだから、社名を変えたら?」とのアドバイスもあり、2002年に「ハリウ コミュニケーションズ」に変更しました。
女性の力を生かし心身共の健康を育む働きやすい会社づくり
女性の力を生かしたり健康経営など、ユニークな取り組みも行っていらっしゃいますね。
「より働きやすい会社づくり」に取り組んでいます。一体感がある会社は強いので、働き方改革など、いろいろなことに取り組んでいます。生産性向上は重要なテーマのひとつであり、意識改革や制度改革、システム等の道具も必要です。コロナ禍もあって、社内の意識はこの一年くらいでだいぶ変わってきたと感じています。
また、NPOとの関りのなかで教わったのが、ダイバ―シティ(多様性)という考え方です。2000年に視察でアメリカに行ったときに、多様な意見や考え方が地域や企業に活力を生み出すことを学びました。そのためにはまず会社を経営する役員自体にもダイバーシティが根づいていなければなりません。そんな考えのもと「仙台女性リーダー・トレーニング・プログラム」に毎年女性社員を送り、女性管理職の育成にも力を入れています。
それから、全社員が子育てや介護など家庭と仕事を両立できるように、支援制度を積極的に使えるような声がけなども行ってきました。その結果、2012年と2020年に宮城県から「いきいき男女・にこにこ子育て応援企業」の最優秀賞、優秀賞をいただきました。他にも、日本創生のための将来世代応援知事同盟より、2020年に将来世代応援企業賞を受賞しました。
健康経営については、経済産業省が2017年に始めた「健康経営優良法人認定」をきっかけに、心の健康と体の健康の両方に目を向け「健康経営づくり」に取り組んでいます。月1回、社内食堂で、総務の社員たちが総出でバランスのいい食事を提供したり、ストレスへの対応やハラスメント撲滅も方針として打ち出し、指導しています。健康指導や日々の体調管理を行うだけでなく会社として医師とのつながりをもち、病院が苦手、あるいはかかりつけ医がいない社員と病院をつなぐ仕組みを作り、働きやすい環境づくりを行っています。
他にも力を入れていることはありますか。
2015年に国連が採択した「SDGs(持続可能な開発目標)」を意識した経営を行っています。私たちは紙を大量に使うので、できるだけ環境に優しい工場経営をしようと考えていますその一環で、10年以上前から再生米ぬか油で作られた「ライスインキ」を使って印刷しています。
また、デマンド装置の導入による使用電力の削減や太陽光パネルの設置、そして印刷業界独自の環境に関する認定制度「グリーンプリンティング(GP)」の認証も取得するなど、環境を意識した経営に取り組んでいます。
お客さまの課題を解決するさまざまな仕組みを作る
仕事のやりがいを感じるのはどんなときですか。また、社長として大変と思うことは何ですか。
厳しい仕事であっても、お客さまから「頑張ってくれたね」「良いものができたね」と言われるのはうれしいし、やりがいを感じます。お客さまに感謝されることが一番のモチベーションになり、次もいい仕事をしていこうと思います。
変化の激しい時代ですから、今後会社をどういう方向にもっていくか、答えを見つけていかなければならない。それは楽しみでもあり、一番大変なことです。
今後、会社で取り組んでいきたいことは何でしょうか。
私たちの仕事は、ただ印刷物を作るだけではなく、パートナーとしてお客さまの課題解決を続けていくこと。お客さまの懐に飛び込んでお客さまを知り、その先のことまで考え、見えてくる課題を解決するお手伝いが仕事です。
例えば、弊社では「モノづくり」のほかに、まちづくり、教育といった「コトづくり」も行ってきました。その中から課題を見つけて、デザイン、取材、Webや教材などのデジタルコンテンツ、動画制作の依頼も増えてきました。さまざまな切り口を持つことで、ワンストップで対応できる体制づくりに取り組んでいます。
また、2020年はコロナ禍でも将来に向けて積極的に投資を行うことができました。リモートで仕事ができる環境を構築することで、社内の生産性が30%上がり、取引先のお客さまも業務改善、時間短縮ができて、さらにいい仕事ができるようになる、今年はそういう流れを作っていきたいと思います。
若いクリエイターにメッセージをお願いします。
クリエイターは「お客さまの課題解決にいかに寄り添えるか」が大事。お客さまの話をよく聞いて、その業界を知り、さらに周辺のことも勉強する、そういう姿勢が大事です。常に先を考えて仕事をしてほしいと思います。
例えば、毎日新聞を読んだり、月1回でも2カ月に1回でも、なけなしのお金をはたいても本当に美味しいものを食べたり、いいものを着たり、美術館、音楽会へ出かけるなど。積極的に自分に投資をして本物を知ることが重要ですし、会社とは違った人的ネットワークを重視してほしいと思います。さまざまな体験や情報を得ることは自分への投資になります。そういったことを通じて、仕事にも広がりが出ると思います。
取材日:2020年12月15日 ライター:佐藤 由紀子
ハリウコミュニケーションズ株式会社
- 代表者名:針生 英一
- 設立年月:1949年2月(1936年10月創業)
- 資本金:4,600万円
- 事業内容:印刷、ホームページ、企画、デザイン、取材、制作、編集、出版、看板サインの計画・施工、イベント企画・運営、DVD-ROM、CD-ROM制作、サーバーレンタル、映像媒体の企画・制作・編集、学・社教育支援業務など
- 所在地:
本社・工場 〒984-0011 宮城県仙台市若林区六丁の目西町2-12
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