グラフィック2021.03.10

“デジタルとアナログの融合”で、滋賀から人に楽しんでもらえるヒット企画を生む

滋賀
株式会社s.create(エスクリエイト) 代表取締役
Naofumi Mio
三尾 直文

滋賀県で最も有名なフリーペーパー「おでかけmoa」の編集長であり、株式会社s.create代表取締役の三尾直文(みお なおふみ)さん。

“滋賀の魅力を伝える”ことをモットーに、フリーペーパーやWebサイト、オンラインショップ、SNS発信のイベントなど、メディアの壁を越えた幅広い事業を手掛けています。

紙からネットへ、情報の在り方が大きな転換期を迎えている今、ヒット企画はどのように生まれるのでしょうか。その発想のコツに迫ります。

 

地域のため、経営者のために…アパレルからの意外な転向

会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。

学校を卒業してから、ずっとアパレルの仕事をしていました。勤務先は京都・大阪・神戸だったのですが、2008年にリーマンショックが起き、クライアントの社長さんたちが苦しんでいる姿を目の当たりにしました。

経営の相談もされましたが、自分は何しろ服のことしか分からなかったから、何のアドバイスもできなくて…。その経験から、「経営者の役に立つ仕事がしたい、そしてその仕事で地域貢献もできたら」と考えるようになりました。

その後、フリーペーパーなどを作っている京都の会社に転職し、滋賀の事業の責任者を任されるようになりました。僕にとっては地元でもある滋賀は、“ほどよく田舎”で“ほどよく都会”。とても暮らしやすいところだと、改めて感じました。

軌道に乗ってきた頃、「滋賀に事務所を作りたい」と社長に直訴したところ、「それなら自分で独立してやってみろ」と。いろいろなタイミングが重なり、滋賀の事業を引き継ぐかたちで会社がスタートしました。

 

株式会社s.create HP:https://shiga-create.jp/

 

フリーペーパー「おでかけmoa」の発行のほか、Webサイト運営にも力を入れていらっしゃいますね。

はい、フリーペーパーと連動したWebサイトの展開は、創業とほぼ同時に始めていました。紙の冊子は、配り終わってしまったらそこで終わりです。

読者さんから「今月はもうもらえないの?」という問い合わせのお電話も頂いていましたし、広告を出してくれているお店への反響や認知も考えたら、Webサイトは絶対に必要だと思ったんです。

僕が目指しているのは、“デジタルとアナログの融合”。フリーペーパーの誌面に載せられる情報量には限りがあるので、お店の紹介欄のQRコードからWebサイトへ誘導し、お店のメニューや写真、口コミ、GoogleMapと連動した地図などをチェックできるようにしています。

 

今後はWebだけに特化し、紙媒体をなくすこともあり得るのでしょうか?


「Webサイト一本にしないの?」という質問はよくされるのですが、「紙媒体は絶対に残したい」と考えています。インターネットがこれだけ普及しても新聞がなくならないように、僕は「紙媒体の需要はなくならない」と考えているんです。

インターネットでは、自分の知りたいことしか検索しませんよね。最近ではアクセス数を上げるためにいい加減な情報を出しているサイトも多いですし、どんどん情報の視野が狭くなってきているように感じています。

新聞、テレビ、フリーペーパーというメディアには、“たまたま出会える情報”がたくさんあります。

そのような新しい情報との出会いの場を大切にしたいと思っています。

 

ヒットする企画に必要なのは「自分の中のワクワクする心」

 

イベントの開催も手掛けていらっしゃいますが、これまで印象に残っているイベントはありますか?

2018年に始まった「滋賀ラーメンWAVE(ウェーブ)」の初回ですね。「滋賀ラーメン」という言葉を全国に広めたくて思いついた企画で、県内の参加ラーメン店を食べ歩き、すべての店舗のスタンプを集めるとオリジナルの景品がもらえるスタンプラリー式のイベントです。

フリーペーパーの誌面にも載せましたが、それ以上にツイッターやインスタグラムを通して情報が広まり、爆発的なヒットとなりました。これこそまさに目指していた“デジタルとアナログの融合”です。

お店の方から聞いた話では、京都、福井、和歌山などの県外からのお客さんや、女性1人のお客さんも多かったそうです。ラーメンWAVEは第2回、第3回、第4回と回を重ね、今や滋賀になくてはならないイベントに成長しました。その後、社員が考案したパンやスイーツのスタンプラリーや、滋賀地酒de女子会やスクールマルシェなどのイベントも企画し、これらも人気となっています。

 

このようなユニークな企画のアイデアは、どのようなところから生まれるのでしょうか?

純粋に、自分が「楽しい」と思えることをやりたかったんです。新しい事業や企画を考えるときには、自分が「あったら便利だな、楽しいだろうな」と思うことしかやらないと決めています。

ラーメンWAVEのとき、「スタンプラリーのスタンプをスマホで貯められるシステムを使いませんか?」とIT会社さんから声をかけられていたんです。でも、それはちょっと違うなと。

だって、台紙に赤いインクのスタンプを1つずつ「バンッ」と押してもらうほうがうれしくないですか?

少年心をくすぐるというか(笑)、集めていく達成感があるじゃないですか。デジタルな世の中だからこそ、そこは絶対にアナログにこだわりたかったんです。

集まった応募ハガキはインクがにじんでいたり、持ち歩いてくしゃくしゃになっていたり…。皆さんが一つ一つ周って、わざわざ切手を貼って送ってくれたんだと思うと、何とも言えないうれしさがありますね。

 

コロナ禍で気付いた、社員とのちょうど良い距離感。環境に対応する秘訣とは

創業者として、立ち上げからずっと第一線で仕事をされてきたと思いますが、社員の方々とはどのような関係で仕事をされているのでしょう?

僕は神経質なところがあって、社員の仕事を見ていると、つい口出しをしたくなってしまうんです。でも、それでは皆が窮屈に感じてしまうし、言われたことしかやらなくなってしまいますよね。

距離感の取り方が、本当に難しい。そんななか、昨年のコロナ禍でテレワークを導入したんですが、これがうまくはまりました。

思い切って、自分は会議に出ない、朝礼に出ない、用があるときだけ呼んでね、というスタンスにしたんです。そうしたら、社員から新しい企画のアイデアが出て、売り上げが上がって、チームワークも良くなった。

「これは自分がいないほうがいいなあ」と(笑)。

社員には、「自分で心に火をつけて、視野を広く意欲をもって…」という思いがあるので、これくらいの距離感がちょうどいいのだと気付きました。

今も、テレワークは継続しています。僕も手が空いた分、既存事業の見直しや新しい事業のアイデアを考えられるので助かっていますね。

今後は事業をどのように展開したいと考えていますか?

今回のコロナ禍で、長期目標を立ててもかなわないことを痛感しました。今は遠い先のことを考えず、目の前のことを一つ一つちゃんとやろう、と思っています。

新規事業やイベントにまずはチャレンジしてみて、失敗だったら、やめればいい。その繰り返しかなと。

取り組む事業を判断するときに、絶対に守っているルールがあります。それは「リスクがないこと、赤字になることはやらない」というルール。赤字にさえならなければ、会社を守っていけますから。

社員からどんなに面白そうなアイデアが出てきても、企画書と収支予測は絶対に出してもらい検討します。「好きだな、楽しそうだな」という感覚的な部分と、リスクをシビアに判断する部分、両方のバランスが大切だと考えています。

ただ、リスクがとても高い事業が1つだけあって、それがフリーペーパーなんです。でも、これだけはリスクをしょってでも発行し続けたいですね!

地域貢献という自分の初心がありますし、読者さんからの「ありがとう」「面白かった」の声が、社員のモチベーションにもなっている。楽しみにしてくれている読者が1人でもいる限り、「やめられないな」って思います。

取材日:2021年1月8日 ライター:土谷 真咲

 

株式会社s.create(エスクリエイト)

  • 代表者名:代表取締役 三尾 直文
  • 設立年月:2015年3月
  • 事業内容:印刷物やWEBサイトの企画・制作、イベント・セールスプロモーション、広告代理業、WEBマガジン&フリーペーパー「おでかけmoa」、おとどけmoa ONLINE SHOP、滋賀の住宅サイト「しがのいえ。」運営
  • 所在地:〒525-0032 滋賀県草津市大路3-1-19-2F
  • URL:https://shiga-create.jp/
  • お問い合わせ先: 077-565-0333 

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