コロナ禍で新潟へ“移住”。モバイルアプリ事業の先にある10年後の未来「地方の時代が来る」
アプリ関連事業を手がけるフラー株式会社は、2020年11月15日に登記上の本社を新潟県に移し、都道府県をまたぐ千葉県との2本社体制を敷きました。コロナ禍でリモートワーク化による地方移住やワーケーションに関心が高まる中で注目されている企業です。
国内外5000社以上が活用するモバイルアプリの利用データ分析サービス「AppApe(アップエイプ)」や、モバイルアプリの企画から運用までを一貫して引き受ける企業や団体とのデジタルパートナー事業を核としている同社。
一方で、設立から10年目を迎えた現在、創業者であり代表取締役会長の渋谷修太さんは、出身地の新潟県でビジネスや若手起業家の育成にも積極的に取り組んでいます。これまでの経緯と、背景にある思いを伺いました。
アプリ分析サービス「AppApe」と知見を生かしたモバイルアプリ開発
元々は、“トヨタ”や“ソニー”のように「日本発で世界一といえるような会社を、ITの世界でも創りたい」と2011年11月15日に設立されたそうですね。
当時はちょうどスマホが普及し始めた時期で、この先「アプリがより多く増えていくだろう」と見通していたので、創業前に開発した“アプリ版Google”のような検索サービスを運用していました。その後、2012年には、アンインストーラーなどの機能が付いた端末の管理アプリ、スマホのバッテリー管理アプリをリリースしていきました。
それらの知見やノウハウを生かして、モバイルアプリの利用データ分析サービス「AppApe」をスタートしたのが2013年です。内容としてはテレビの視聴率調査に近いですが、世の中の人たちがどのようにアプリを使っているかという情報を、ゲームアプリの制作会社や広告代理店、コンサルティングファームなどの要望を受けて調査、提供しています。
その一方で、もう一つの核になっている企業や団体とのデジタルパートナー事業はどのように展開されていますか?
先ほどの「AppApe」とは反対に、IT分野と距離があったものの「これからはデジタル分野を強化しなければ」と考えている企業や団体がクライアントの中心です。
デジタルパートナーは自分たちでそう呼んでいて、アプリの企画から運用までを “一気通貫”でサポートすることにより、様々な業種の企業や新潟だけでなくあらゆる地域がITを駆使できるようにとミッションを掲げています。
自社アプリ開発からスタートして利用データの分析を経て、他社向けではありますがアプリ開発へ戻ってきたのは、弊社ならではの特徴だと思います。その知見やノウハウを生かして、従来の開発現場にあった「これを作って下さい」「はい、分かりました」という単純な流れではなく、モバイルアプリに関してクライアントが困っている課題を、ワンストップで解決できるのは、すべての事業の核でもあります。
コロナ禍に、一念発起で地元・新潟県へ「地方の時代が来る」
コロナ禍で地方で働くことにも関心が集まる中、2020年11月には元々あった新潟支社にも本社機能を持たせて、千葉県の柏市にあるオフィスとともに“2本社体制”を敷いているのもユニークですね。
そもそもは、僕自身が誰にも言わず地元の新潟県へ移住してしまったのです(笑)。昔から思い付いたらすぐ実行してしまう性格でもありましたし、リモートワーク中心になるにつれて「関東にいなくてもいい」と思って。それから、4〜5月にかけて緊急事態宣言が出た時期に「コロナ禍で地方へ戻りたい人たちの割合が増えている」というニュースを新聞で見かけて、決断しました。
また、会社自体の10周年が見えてきた時期で、10年をひと区切りとするとこれまでは「スマホやアプリが世界を変える」という思いで頑張ってきましたが、その次に世界を変えるのは「コロナだ」と直感しまして。
以前から「地方×ベンチャー×IT」のモデルケースになりたいという願いもあったので、僕自身も社長職から会長職となり「次の10年の波を作ろう」と一念発起しました。
新潟本社は、2020年11月、JR新潟駅南口にオープンしたITイノベーション拠点「NINNO(ニーノ)」にあります。どのような空間でしょうか?
東京にも似たようなシェアオフィス空間がありますが、集まった人や企業同士に「地元を盛り上げていこう」という熱があるのは、大きな違いだと思います。
「新潟県は100年以上続く会社が多い」と言われる土地柄でもあり、伝統を継ぎながらも「新しい取り組みをしたい」と考えている会社と、我々のようなベンチャー企業やスタートアップが手を取り合い、新潟県発のイノベーションを起こせるようにと考えています。
IT分野では東京が先行している印象もあるのですが、正直、地方との格差は感じますか?
いえ、これからは地方との差はますますなくなると思います。新潟県に本社を移してからは現地での採用者数も増えて、関東地方から希望して引っ越した社員もいました。おそらく東京に人材が集中していたのは、地方には「仕事がない」というのが主な理由だったと思いますが、会社側がきちんと「仕事を作る」流れができれば、これからの時代を担う若い世代が戻ってくるだろうと考えています。
実際、僕のように「地元へUターンしたい」という人たちが増えている印象もあり、コロナ禍で実家へ帰ることすら困難になりつつある今、その流れは急速に具現化していると思います。
これからは間違いなく「地方の時代が来る」と信じていますが、僕自身は自分が先頭になることで、新潟県へ帰りたい人たちの背中を押してあげたいです。
若手起業家の「恐れを知らず挑戦できる」という強さは刺激
2020年9月には新潟ベンチャー協会代表理事に就任されています。地元発の起業家育成にも尽力されていますが、若手経営者の方々から刺激を受けることはありますか?
かれこれ10年近く会社を経営してきたので相談に乗る機会が多々あるのですが、20代の方々からは学ぶことばかりです。「失うものもなく、恐れを知らずに挑戦できる」と彼らから強く感じます。何かをやろうとひらめいたときに、実行するまでのフットワークの軽さはすごく刺激を受けています。
「人間が一歩を踏み出せないのは知識があり過ぎるから」というのが持論で、僕自身は守るべきものが増え過ぎて、次に手を出すことができなくなっている部分もあります。今はもう、日がな一日ビジネスのアイデアを考えているような生活になりましたが、実現できるのは100分の1に満たないので、彼らにもシェアしながら地元を盛り上げていきたいです。
起業家に限らず、渋谷さんはどのような人と一緒に仕事をしたいですか?
素直に誰かを頼れる人がいいです。僕自身も事務処理が実は苦手で、完璧にできない部分もあるのです。会社を続けてこられたのは周りに助けてくれる人がいたからこそだと思っています。
個人でどれほど優秀だとしても、他人から「この人は別に応援しなくてもいいよね」と思われては成長も止まってしまうので、ときには、誰かにうまく甘えられるような人を求めます。
アプリ関連のサービス、「地方×IT×ベンチャー」、若手起業家の育成と、すでに手掛けている様々な事業を今後、どのように発展させていきたいですか?
これからは会社単体で成長する時代ではなく、いろいろな会社がチームとして何かを生み出す時代になってくると思うので、地元の新潟県で様々な会社をつなげるパイプ役となれるよう、頑張っていきたいと思います。
地方や若手起業家を育てるとなると、一見すると本業ではなく“社会貢献(CSR)”の一環のように見えるかもしれませんが、ただ、僕自身はむしろこちらの方が大切だと思っていて、社会的意義のあることや世の中の役に立つことを続けていけば、いずれはビジネスとしても発展できると考えています。そのため、現状で目に見えるメリットがなくとも、誰かが必要と思っていることには、とにかく取り組んでいきたいです。
取材日:2021年1月14日ライター:カネコシュウヘイ
フラー株式会社
- 代表者名:代表取締役会長 渋谷 修太、代表取締役社長 山﨑 将司
- 設立年月:2011年11月
- 資本金:9000万円
- 事業内容:分析支援事業、クライアントワーク事業
- 所在地:
(柏の葉本社)〒277-0871千葉県柏市若柴178番地4柏の葉キャンパス148街区2KOIL
(新潟本社)〒950-0911新潟県新潟市中央区笹口1丁目2PLAKA2NINNO - URL:https://fuller-inc.com/
- お問い合わせ先:上記サイト「お問い合わせ」より