誰のための曲なのか? 沖縄発の音楽制作会社スタジオエデンに学ぶ音楽クリエイターの流儀
開放感ある南国の沖縄県に本社を構えるのは、ゲームやアニメの楽曲制作を手掛ける株式会社スタジオエデンです。
代表取締役の杉浦 勇紀(すぎうら ゆうき)さんは、アーティスト活動を経て2007年にコンポーザー(作曲家)を開始。現在は、大手ゲーム会社などからの依頼を受けて、ユーザーの心に響く楽曲を世の中に数多く届けています。
日々の業務の背景には、どのような思いがあるのか。杉浦さんにお話を伺いました。
「BGMも書けるはずだからやってみて」の一言でコンポーザーに
現在のスタジオエデンは、どのような業務が中心でしょうか?
現在は、ゲームやアニメなどの音楽制作が中心です。主に、プレイステーションやニンテンドースイッチ、スマホアプリの主題歌やBGMを手掛けていまして、昨年はJR博多シティのテレビCM曲も担当するなど、うれしいことに業務の幅も広がってきました
杉浦さん自身は、どのように音楽クリエイターに?
若い頃から音楽が好きで、実は、過去にはバンドでメジャーデビューもしていました。現在の仕事に関わり始めたのは、2007年頃です。今もパートナー関係にあるアイディアファクトリー株式会社( https://www.ideaf.co.jp/ )のゲーム主題歌に抜擢された直後、代表取締役社長・佐藤嘉晃さんから「BGMも書けるはずだからやってみて」と30曲ほどを発注されました。
とはいえ、当時はプレッシャーもありました。バンドでは自分たちの表現したいモノを追求してましたが、誰かのための作品作りは慣れていなかったし、そもそもBGMを書いたことがなかったんです。でも、ゲームもゲーム音楽も昔から好きでしたし「よし、やってみよう!」と思い、この世界に飛び込んだのが最初のきっかけでした。
その後、どのように会社を設立されたのでしょうか?社名の由来も教えてください。
単純な流れといいますか、フリーランスとしての案件が増えてきたので、法人化をしました。社名は、パッと聞いた瞬間に常夏の沖縄が連想されればいいなと思いまして。
また「エデン」はヘブライ語で「歓喜」という意味もあり、商業音楽としてクライアントやユーザーに喜んでもらえる音楽を作ろうとする弊社の姿勢に近いなとも思いました。それは、会社の理念にある「人々に幸せな時間を過ごして頂けるゲーム音楽、喜んでいただける音楽の提供、人の求める音楽の創作」とも繋がっています。
沖縄県に本社をかまえている理由は?
そこは単に法人化をする前、2011年に移住してからずっと住み続けている土地だからです。当初は東京・中野に住んでいていましたが、沖縄に来てみて良かったのは自然豊かでビーチのさざ波であったり、天然の音色を聴いていると新たな発想も浮かんでくることですね。
以前は「沖縄でどうやって仕事しているの?」とよく聞かれたのですが、コロナ禍でリモートワークが浸透するにつれて「先がけだったね」と言われることが増えてきました。
クライアントとのやり取りで未知のアイデアが生まれる
音楽制作の基本的な流れを教えてください。
弊社で請け負う曲は、現状ではほぼすべて自分が作っています。作曲や編曲、レコーディングまで一環して担当。ただ案件のスケジュールによっては、外部の繋がりあるクリエイターに手伝っていただいています。曲作りはひじょうに孤独な作業でもありますが、主に、担当ディレクターと一緒に連携して作り上げる機会が多いです。
基本的にメールでのやり取りを中心にしながら作曲をしています。でもそうしていると、自分だけでは作れなかったはずのアイデアへたどり着くことがあるんです。だから僕にとっての「音楽作り」は、一人一人のスタッフとの人間関係そのものです。
曲を作るときは、どのようにイメージをふくらませていくのでしょうか?
僕の場合は、とにかく何小節か進めてみて、流れるままに最後まで仕上げていきます。よくいわれるような“産みの苦しみ”というのは、正直なところほぼないです。
曲のアイデア出しについてあえて言えば、ロボットをテーマにした作品へ関わる場合、実際にプラモデルや超合金などにふれて遊んでみます。子どもの頃の思い出が蘇りますし「すごい曲が書きたくなる」といった思いも込み上げてきます。
自分のやり方として、あまり細かく悩むとフォーカスするべきものがボヤけてしまうので、最初にひらめいた印象を大切にしています。クライアントの望む以上のクオリティを出そうと心がけながら、1曲ごとに向き合っています。
これまでたずさわった中で、印象的だった曲は何ですか?
直近では2020年9月に担当した、プレイステーション4の「アズールレーンクロスウェーブ( https://www.compileheart.com/alcw/ )」です。
スマホアプリから家庭用ゲーム機へ派生した作品で、家庭用向けに作ったロックなハードチューンが、おかげさまで本家のアプリ版へ採用されるほど好評で、元からのファンのみなさんにも響いたのがうれしかったです。
それをきっかけに、中国をはじめ海外からも楽曲制作の依頼が来るようになりました。
また、それよりも過去の作品でいえば、「薄桜鬼 真改( https://www.otomate.jp/hakuoki/shinkai/switch/ )」で手がけた楽曲で、2019年にオーケストラのコンサートが開催されたのも印象的でした。
他の方々が自分の楽曲を披露している場面に立ち会ったのが初めてで、不思議な感覚でした。アレンジが自然でその場でようやく「楽曲が完成した」と思えました。
音楽クリエイターには「誰のための曲なのか」を考える姿勢が必要
音楽クリエイターにとって、必要な姿勢は何でしょうか?
プロに向いているかどうかをみきわめるのであれば、そばにいる友だちや家族に「どんな曲が聞きたい?」と尋ねてみてください。それから作ってみて、相手から「こんな曲が聞きたかった!」と言われるようなら、その人はプロに向いていると思います。
僕にとっては、作品を任せてくれたディレクターやプロデューサーがまず喜んでくれるのが重要です。誰のための曲なのかを考えるのは、やはり大事ではないかと思います。
楽曲はときに作品そのものの印象を変えてしまいます。一見すると楽しいシーンであっても、音楽が変われば悲しいシーンに変わったりします。過去には、作品のシナリオライターさんから「先に仕上がった音楽を聴きながら発想を広げていきました」と言われたときはうれしかったです。ときには売り上げにも響くほど責任も重大な仕事だと、覚悟を持ってやるのも大切です。
この先、どのように会社を発展させていきたいですか?
ちょうど今、個人的に英語を勉強しているので、それを糧に業務の幅を広げていきたいです。日本語だけでは世界へ羽ばたくのは難しく、沖縄の環境を考えると英語というキーワードが加われば、きっと音楽作りとしても、ビジネスとしても可能性が広がるのではないかと考えています。その先は、世界中のクリエイターと一緒に、さまざまなメディアで意見交換をしながら展開していきたいです。
現在も「スタジオエデンで仕事をしてみたい」という問い合わせが多いので、作曲家をはじめ繋がりを増やしたいですね。また映画音楽など新しいジャンルにも挑戦してみたいです。そして僕自身はずっと制作現場へ関わっていたい気持ちがあります。RPG「ドラゴンクエスト」シリーズのテーマ曲を手掛けている、すぎやまこういちさんに憧れており、いくつになっても音楽作りをしていたいです。
取材日:2021年1月27日 ライター:カネコ シュウヘイ
株式会社スタジオエデン
- 代表者名:代表取締役 杉浦 勇紀
- 設立年月:2016年11月
- 資本金:700万円
- 事業内容:ゲームコンテンツにおける楽曲制作、アーティストマネージメント業務
- 所在地:沖縄県沖縄市
- URL:http://studioeden.co.jp/
- お問い合わせ先:上記サイト「制作のご依頼」より