WEB・モバイル2021.03.03

「論語と算盤(そろばん)」。ビジネスと社会貢献の調和を意識、ITから新たなサービスへ事業の展開図る

金沢
株式会社Asian Bridge 代表取締役
Hironori Konishi
小西 広恭

実業家・渋沢栄一。日本の近代資本主義の父と称される彼が掲げる経営哲学が「論語と算盤(そろばん)」です。株式会社Asian Bridgeの代表取締役小西広恭(こにし ひろのり)さんは、利潤と道徳を調和させるというその考え方を強く意識して、企業経営に当たると語ります。

ソフトウェア開発会社を設立して14年目を迎え、ITソリューションにはじまり、ふるさとの特産品販売を支援するECサイト立ち上げ、インターンシップのマッチング事業など地域課題解決のためのさまざまなビジネスを展開する小西さんは、社会になくてはならない企業でありたいとさらなる高みを目指します。

 

逆風下で会社を立ち上げ事業拡大するも、7年目に突然迎えた経営危機

会社設立のきっかけをお聞かせください。

金沢で生まれ育ち、地元の国立高専を卒業後、大手電機メーカーのグループ会社に入社し、ソフトウェア開発に携わっていました。ただ大企業で働くよりも、新しいことに挑戦したいと思いフリーランスに。その後、自分一人の狭い世界の中で生きていくだけでなく、より視野の広い活動を展開したいと考えるようになり、2007年に会社を設立しました。

設立後はどのように事業を展開したのでしょうか?

会社設立前後には有名なベンチャー企業経営者が証券取引法違反容疑で逮捕され、さらにリーマンショックが起きるなど、新たな「ベンチャー企業」にとっては大変な逆風でした。営業活動で企業訪問して名刺を渡しても、担当者からは「名刺はないから」といただけなかった時もありました。それでも、ホームページ制作にはじまり、その後のスマホのシェア拡大やクラウド化の浸透で、業務用のソフトウェア開発の事業を拡大できました。

その後は順調に発展していったのですね。

それが会社設立7年目に存続の危機を迎えてしまいます。当時売上の4割強を占めていた大口の取引先から「来月からは契約しない」と取り引きを突然打ち切られたのです。

確認すると先方の仕事量が増え、対応する弊社スタッフの拘束時間も増える中で、担当者が先方との決め事を破ってしまいます。それが表面化し、先方から経緯を報告するよう求められました。私としては、厳しい要求にこたえていたスタッフを信じて先方に報告しましたが、先方の担当者は納得せず、打ち切りが決まりました。経営が立ち行かなくなる可能性も出てきました。

経営者としては、厳しい局面を迎えました。

その時、私は思いました。こんな状況に陥ったのも、経営者としてしっかり社内全般を見ていなかったからだ。自分が船頭として、強いリーダーシップをもってスタッフを引っ張っていなかったのだと。一瞬、もう疲れたな、辞めようかなという考えも脳裏をよぎりました。それでも自分が社長として何もできていなかったと、悔しくて、情けなくて。もう一度、自分が船頭として、働く人が誇りを持ち、社会に必要とされる会社となれるよう、一からやり直そうと気持ちを切り替え、立て直しを決意します。

 

苦境を乗り越え、会社としても経営者としても本当の意味でスタートラインに

具体的には、どのような手を打ちましたか。

当時20人を超えるスタッフがいました。彼らに渡す給与を確保するために、銀行から借り入れをし、その後はがむしゃらに営業に回りました。そして、そんな事態に陥った原因を振り返りました。それまで何のビジョンも持たず、経営理念も共有せずに、みんなが楽しく仕事をできればいいと思っていたのですが、それではいけないと、まず何をするべきか、目標をどう設定するかを考えてスタッフに伝えました。その結果、「昔は自由だったのに、急にまじめになった」と離れていくメンバーもいました。それでも「社会に必要とされる企業になろう」という呼び掛けに、大半のメンバーが同意し、事業を続けられました。

なんとか危機を切り抜けられたのですね。

この時に苦境を乗り越えた経験があって、会社としても経営者としても本当の意味でスタートラインに立てた気がします。ようやく今、当時立てた目標に近づいているのを実感しています。そして、ふるさと北陸の自治体や企業、生産者の方々といくつかの新しい取り組みやチャレンジをしているのですが、本当にワクワクしています。

 

コロナ禍でふるさとの生産者がオンライン販売できるようECサイト立ち上げ

能登半島の特産品を展開するオンラインショッピングサイト『NOTOteMA』(のとてま)を展開されています。このECサイトを開設されたのはどのような思いからですか?

地域の生産者の方々が、オンラインでの販売に着手したくても、その作業時間や人員、ノウハウがないため実現できない現状がありました。そこで、弊社で地域貢献の一環として商品の掲載、販売、配送などの運用も含めて請け負い、そういった事業者の皆さんが本業に集中しながら、手軽にEC販売を実現できるようにしようという思いではじめました。当初は能登の逸品を中心に開始しましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響が広がる中、北陸の皆さんのお役に立てるよう能登に限らず、無料で掲載したのを機に提供範囲を北陸全域に広げて現在に至ります。また、現地の生産者の方にオリジナルのクラフトビール商品を委託製造していただき、弊社のオリジナル商品として販売するといった取り組みも実験的にはじめております。

インターンシップのマッチングサイトや、主婦向けのセミナーにも取り組まれています。

首都圏での事業と異なり、北陸の事業は地域の問題や課題解決に主眼を置いて取り組んでいます。インターンシップのマッチングや主婦向けのセミナーといった事業は、地方の雇用や職に関するさまざまな課題を解決するためにはじめました。主婦も含めた地域の方、移住を希望する方、皆さんが職を探す際にまずは企業で短期間の経験を通じてミスマッチを防ぐようにと考えました。これは中小企業にとっても、人材の雇用のためのコストをなるべく抑えながら、ミスマッチを減らすことができるようにというのが目的です。

旅行業の登録もされています。取り組んだきっかけと手ごたえを教えてください。

外国人も含めた観光誘客で地域の消費活動を増やすという目的で、旅行業法に沿った登録を行い、チャレンジしました。OTA(オンライン予約)が主流の中で高付加価値の旅行というモデルはスタートしたものの、正直厳しいものがありました。ところが、コロナ禍で旅行に出かける機会が少ない中、富山県上市町からオンラインツアー業務を委託され、1月に企画運営を行いました。この時に、旅行業の時の経験が生きてきました。旅行業の時のお客さまが参加していただいたのです。取り組む事業の中には、時にうまく進まないケースもありますが、そこはベンチャーらしく、まずは小さくても踏み出す一歩を大切にしています。

ITに取り組む事業者は数多く存在します。他社と異なる点、独自性はどこにあると考えていますか?

同業者はあまり気にしていません。どんなビジネスモデルもアイデアも、同時に思いつく人は軽く1万人はいるのではないでしょうか。ただ、行動に移し、具現化し、なおかつ失敗にぶつかっても続ける人はかなり限られてきます。そういった意味で即断・実行し、まず実現させるという点が私たちの強みだと確信しています。

 

良心を持つ人々が集い、地域の課題を解決して社会に必要とされる存在目指す

東京、石川、富山、京都に事業所があります。各地で事業を展開するために意識して取り組んでいることはありますか?

出身地である金沢をはじめ能登や富山など北陸に根を下ろしながらも東京というハブがあり、そこで最先端のITソリューション開発を中小企業から上場企業まで幅広く開発を行っているノウハウとチームを有しており、私どもが他の企業と違う点だと思います。その地にある問題課題に着目し、それを「論語と算盤」の両輪でバランスをとって回すという意識を強く持つようにしています。どちらかだけでは必ずバランスを崩して事業が続かないと考えています。利益と社会貢献、二つのバランスを重視しています。各地域で事業を展開するにあたっては、まず弊社を知っていただくために、何度も足を運び、時にはお酒も酌み交わしつつ交流の輪を地道に広げています。

今後の展望、将来のビションなどお聞かせください。

目先の数年間の展望としては、先程も少し触れたのですが、新たなサービスの創出に大きく舵を切りながら、ITを通じて異業種とのアライアンスも強めていきます。成長の延長線上には海外への事業展開、上場も一つの手段として視野に入れています。3年後には事業規模を倍増したいと考えています。長期ビジョンとしては、Asian Bridgeという枠組みの中で、良心を持つ多くの人たちが集い、それぞれの個性を生かして活躍し、ビジネスを通して社会の問題を解決し、社会になくてはならない存在になるという目標を掲げています。

取材日:2021年2月4日 ライター:加茂谷 慎治

株式会社Asian Bridge

  • 代表者名:代表取締役 小西 広恭
  • 設立年月:2007年3月22日
  • 資本金:1000万円
  • 事業内容:
    スマートフォンアプリケーション開発関連事業/Webシステム開発関連事業/IT基盤構築運用関連事業/Webサービス関連事業/ソーシャルゲーム向けイラスト制作事業/社会インフラ関連IT事業/ITエンジニア派遣事業/飲食業(koikoi cafeの運営)
  • 所在地:
    本社 〒105-0014 東京都港区芝3-1-15 芝ボートビル 7F
    金沢LAB 〒920-0056 石川県金沢市出雲町イ400アイオーラボラトリ3棟
    富山LAB 〒930-0024 富山県富山市新川原町5-21
    京都出張所 〒600-8413 京都市下京区 烏丸通 仏光寺下る 大政所町680番地1FVC Mesh KYOTO 内
  • URL:https://asianbridge.co.jp/
  • お問い合わせ先:03-5442-2296

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP