「頼まれごとは試されごと」の精神で、常に拡大、進化を続けるファーストトーン
企業や学校案内、商品紹介、ブライダルなど、さまざまな映像制作を手掛けるのが、株式会社ファーストトーン。代表取締役の平倉 博司(ひらくら ひろし)さんは、もともとプロのジャズベーシスト。ブライダル音響の副業がきっかけで会社を設立。その後、映像制作や写真撮影へも事業を展開してきました。平倉さんに会社立ち上げの経緯や仕事への思い、今後の展望について伺いました。
元プロミュージシャン、33歳で始めた音響の副業がきっかけで起業
会社立ち上げまでの経歴をお聞かせください。
20歳からプロのジャズベーシストとしてホテルのラウンジやレストラン、イベントなどで演奏活動をしていました。ずっと音楽で生活するつもりでしたが、レギュラー出演の仕事が終了して…。娘が誕生していて、安定収入の必要性を感じるなか、33歳のとき演奏先の結婚式場で「ブライダルの音響をやってもらえないか」と依頼されたんです。未経験でしたが、「ミュージシャンなら音響の操作もなんとかなる。頼まれごとは試されごとだ」と迷わず引き受けました。でも実際はそんなに甘くはなかった。教えてくれる先輩もなく、すべて一人でやらないといけなくて、最初は失敗の連続でした。会場によっては音響機材を持ち込む必要があり、はじめは安めのものを買い揃えたのですが、ノイズなどのトラブルがよく起こりました。本で勉強したり、知り合いの業者さんに聞いたり…。それでも無理だと思ったことはなく、やっていける確信があったんです。
ゼロから強い精神力ですね。そこから起業に至ったのはなぜですか。
ミュージシャンと違い、音響では素人。プライドもないから、ストレスなく仕事ができていました。それに、音響は結婚式の数だけ必ず発生しますが、演奏はあくまでもオプションです。音響の仕事の方がしだいに忙しくなり、一人ではこなせず多くのアルバイトを雇うようになって。収入も本業を上回ったので、4年後の2008年にファーストトーンを立ち上げました。
ブライダル専門から、映像制作事業として拡大へ
会社設立後、映像事業を展開したきっかけをお聞かせください。
ブライダルは、いろんな会社が横につながり一つの結婚式を演出するという特殊な業態です。そんななか、ある会社からのお誘いで、ノウハウを提供してもらいながらブライダル映像制作を手掛けることに。ブライダル専門でしばらくやって軌道に乗りましたが、限られたシーズンの土日だけの稼働で、多く社員を雇えないのがネックでした。そこで、平日にもできそうな仕事を得ようと異業種交流会等に参加して、ここでつながったコンサルの方からの依頼で歯科ブランディングの映像を制作したのが、ブライダル以外で最初の制作事例です。彼が実質ディレクターの役割をしてくれて、制作のノウハウはこのときに「見て、感じて、覚える」ものでした。映像を見れば、「こんな風に撮ればいいものができるんじゃないか」という王道のような「答え」が出ています。そこから自分でもコツをつかみ、スタッフをディレクターに育てていきました。
ブランディングについてもご自身で勉強されたのですか。
そこはいい意味で適当で(笑)。音楽に精通しているのがよかったと思います。ブランディングとはイメージだから、映像を作るにあたって「音楽でいうとこういうことかな」と共通項が見いだせて理解しやすかったです。
多彩なジャンルを、企画から編集まで一貫して。映像も写真撮影もマルチに対応
現在の事業内容と、社名の由来をお聞かせください。
企業や学校案内、商品紹介、ブライダルなどの映像制作に加えて写真撮影、そしてWebとグラフィックの事業を始めたところです。音響については、現在は設備管理のみを行っています。社名の由来は、実は娘の名前でもあるんです。「初めて音を出したときの感動を忘れずに持ち続け、見る人に伝えたい」という意味を込めています。
同業他社と比べた強みはどこにあると思いますか。
一言で表すと「早い、うまい、安い」。一般的な映像会社と違って、当社では職種により仕事を分けず、一人の社員が企画、撮影からお客さま対応、編集まですべて担当します。その結果、他社では実現できないようなコストパフォーマンスとスピード感が実現できるのです。また、他社では絵だけで課題を解決させようとしている印象がありますが、当社ではコピーや音楽やデザインなども含めて総合的に工夫を凝らすよう心掛けています。ここ最近で多いのは大学や私立中学・高校の学校紹介です。毎年200校以上にもなりますが、毎年少しずつ違うように見せることが求められますね。そして数多くの案件があるから、作品もスタッフの質も底上げできるんです。新人スタッフには研修後、まずブライダル案件をやってもらいます。お客さまやいろんな立場の人と接するうえでマナーや緊張感が必要ですし、毎週のように案件を受注するのでスピード感や対応力が鍛えられるのです。平日は学校や会社紹介映像など他のジャンルの案件に携わることで、早い段階でのひとり立ちを促します。とにかく経験できる案件数が多く、成長する速度は業界でも随一とも言えると思います。
制作工程で大事にされていることは何ですか。
映像の目的やイメージが明確でないこともあるので「お互いの認識の統一」を重視しています。そうすれば編集もラクですから。
当社のWebサイトでもさまざまな制作実績を公開していますが、実際は大手企業も含めて豊富な案件を扱ってきて、映像サンプルが膨大にあります。先方の話を受けて、「それはこういう感じですか?」と具体的なサンプルを見せるのがいちばんわかりやすく、打ち合わせもスムーズですね。
スタッフの方には、写真撮影にも対応できるよう求められていますね。
当社では主に一眼レフカメラを使って、映像と写真両方の撮影を行っています。最近の一眼レフは高性能で、映像もきれいに撮れるからこそ、使う私たちもハイブリッドに対応できないと。
もちろん最初は得意な方から覚え、両方に慣れてもらいたいです。よく「〇〇を極めたい」と言葉に出す人がいますが、大半は極められていないと思います。「どちらかをやる」方がラクだという心理が働いているからでしょうね。
何でも対応するといえば私自身、最初は一人で音響、撮影、編集と全部やっていました。ケーキ入刀がいちばん大変で、曲を流した瞬間に全力で走って。すごい人だかりができるなかをかき分けて撮影して、また戻って曲を止めるという(笑)。
そんな経験がおありだからこそ説得力がありますね、2017年には東京にも拠点を構えましたが、ここまで事業を拡大された秘密はどこにあると思われますか。
やはりこれまでの作品実績を見て、問い合わせいただくことが多いですね。映像は進化するものだから、常に新しいことをしないといけない。スポーツ強豪校の映像をドローンで撮影した当時はまだドローン黎明期で。SNSでも反響が広がり、それを見たある会社からの依頼で、年間200校以上にものぼる学校紹介を手掛けるようになったんです。あとは、最近では大学の授業を短期間に190本以上を編集する案件なども引き受けています。たぶん他社では同条件で請けられないかと思いますが、これも私にとっては「頼まれごとは試されごと」。そうやってチャンスを広げてきて、おかげさまでいま日本でいちばん学校案件に携わっているんじゃないでしょうか。
常に状況に応じてチャレンジし続ける会社でありたい
いま振り返ると、ミュージシャンと映像制作の仕事とで、共通点や違いはどこにあると思われますか。
どちらもお客さまに喜んでいただけることがうれしいですね。ただ、ミュージシャンは一人のプレイヤーとして演奏してその場限りでの喜びをもたらすのに比べて、映像は関わる人たち全体で作り上げていくもので、しかも作品として残って長い間感動を与え続けられる点でやりがいは大きいと感じます。
設立から13年を迎えましたが、貴社の今後の展望についてお聞かせください。
昨年はコロナ禍で結婚式の数は激減し、ブライダル映像のみをやっていた会社は次々と撤退していきました。先ほど映像は進化するものだと言いましたが、その時、その状況に応じて、私たち自身も常に変わり続けながらオリジナルな作品を届けるチャレンジをしていきたいです。最近、Webやグラフィック事業も始めたところですが、お客さまにより映像を利用してもらうきっかけとして、そして映像との相乗効果を期待して拡大していければと思います。
映像クリエイターを目指す人にメッセージをお願いします。
撮影、編集、選曲、デザインなどいろんな技術をマルチに覚える必要はありますが、自分の向いている部分や、興味のあるジャンルを選んで、それを伸ばしていくといいと思います。でも、その前にまずは一通りのことに懸命に取り組むべきですね。早々に「〇〇だけを極める」ではクリエイターとして成長が見込めない。成長のためには、どこの会社を選ぶかが大きなカギを握りますが、作品サンプルを見て自分にピンと響いた会社にアプローチするといいんじゃないでしょうか。それが当社であればなおうれしいですね。
取材日:2021年3月2日 ライター:小田原 衣利
株式会社ファーストトーン
- 代表者名:平倉 博司
- 設立年月:2008年7月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:企業・店舗・イベント等各種映像制作・演出・写真撮影、ブライダルフォト・映像商品など
- 所在地:〒541-0057 大阪市中央区北久宝寺町1-9-6 ネオフィス堺筋本町301号
- 電話番号:06-6210-3939
- URL:https://first-tone.net/
- お問い合わせ先:上記URLの「お問い合わせ」ページより