WEB・モバイル2021.05.06

スタビライザーは被災地支援から始まり、成果を出すWebマーケティング会社へ進化

仙台
株式会社スタビライザー 代表取締役
Masanao Komatsu
小松 雅直

宮城県気仙沼市出身の小松雅直さんは、インハウスのWebの責任者で、会社役員も務めていました。

2011年、東日本大震災で被災した故郷の役に立ちたいという使命感から、資本金2011万311円で、気仙沼市に本社を置く株式会社スタビライザーを設立。

その後、社長・Web制作のマーケティングのプロとして顧客を増やしてきた小松さんに、仕事への思い、会社の強みなどを伺いました。

 

東日本大震災で被災した故郷・宮城県気仙沼市の役に立ちたくて会社を設立

株式会社スタビライザーを立ち上げる前は、どんな仕事をされていましたか。

以前は医療系の人材紹介会社で、Webの責任者をしていました。自社のWebサイトを外注の方と一緒に作っており、やっていたのは主にWebサイトに人を呼ぶにはどうしたらいいか、というマーケティングの部分です。

そこでは、7年間で累計20億円くらいの広告宣伝費を使いましたね。広告代理店の方から勧められるままにやって効果が出ないことも多く、失敗は半分くらいありました。きれいなデザインのサイトを作っても、そもそもWebサイトに来てもらわないことには意味がありません。このWebサイトに登録しよう、この会社にお願いしようと思ってもらうにはどうしたらいいかと、いつも考えていました。

Web制作やマーケティングは、どのように勉強されたのですか。

ほとんど独学です。未経験でも興味はありましたし、本を読んだり、他社のWebサイトを見たり、色々な広告を試したりするのは、全く苦ではなかったです。何か施策をうっても全く反応がないこと。一方アクセスが急増して申し込みにつながったこと。アクセスが増えても申し込みにつながらなかったことなど、リアルな反応があって、どんどん面白くなっていきました。自分で会社を立ち上げてからは、グロービスという経営大学院(ビジネススクール)に通いました。マーケティングやアカウンティング、人材マネジメントなど、学んだ企業の実際のケーススタディは200事例以上です。今は様々な業種を担当していますが、企業のリサーチや分析をする上で見るべきポイントは同じなので、そこで勉強したことは大変役に立っていますね。

株式会社スタビライザーを設立したきっかけを教えてください。

私は生まれも育ちも宮城県気仙沼市で、高校を卒業してから予備校・大学・就職とずっと東京に住んでいます。前職でインハウスのWeb担当をしていたときに東日本大震災が起きて、小・中学校があった近くに仮設住宅がぎっしりと建つのを見て、家や会社を流された人たちや子どもたちのために何かできないか、と思ったのがきっかけです。

現地のボランティアもできない、何ができるかわかりませんでした。ただ人材ビジネスに長く関わってきた経験から、1人でも2人でも雇用の手助けができればと、2011年10月に会社を立ち上げました。

会社を設立する初期費用は20万円前後かかりましたが、地方自治体に納める法人税は年間7万2,000円。とりあえず気仙沼市に会社を作れば、売り上げがゼロでも30年位で200万円位が自治体へ入る計算になります。復興のために長期的な支援をしたい、というのがスタートでした。

起業したときはまだ会社員だったそうですね。いつか独立しようと思っていたのでしょうか。

震災前は、起業などは考えもしませんでした。前職の会社で役員になり、成果を出せば役員報酬も出る年に起業して「地元に貢献したいので会社を立ち上げます」と会社に伝えましたが、退職する気はありませんでした。

それから3年くらい、平日は会社の仕事、週末は自分の会社の仕事をしていました。とりあえず名刺を作って挨拶に回り、頼まれたことをやる感じです。例えば、動画を見て文字起こしをするといった仕事を受けて、東京在住の気仙沼・三陸出身者や、親が被災して仕送りが減った学生に仕事を依頼して、比較的高い報酬を払うようにしていました。

ところが前の職場の親会社が業績を低迷させて、報酬が出ないときがあったのです。一生懸命やってきた結果が反故にされるなら、人の会社のためでなく自分の会社のために頑張ろうと気持ちを切り替えました。

Web制作会社は大きな設備投資は必要がなく、万が一辞めても借金はないし、起業経験は次のところで生きるだろうと。社名のスタビライザーとは「安定装置」という意味で、車などが安定走行するために必要な小さな部品です。震災後、初めて地元に行って、沿岸部を目の当たりにして、地元の人たちの生活や雇用を安定させなくてはと、感じたことをそのまま社名にしました。

 

クライアントが求めるWeb制作の先にある成果まで責任を持つ

Web制作に関わる御社の具体的な事業内容、強みを教えてください。

Webマーケティングのコンサルティングをしています。具体的には、どうやってサイトに来てもらうか、ユーザーに知ってもらうかをご提案します。例えば、医療系の人材紹介サイトで看護師が足りないなら、どんなWebサイトを作れば看護師が見てくれるか、転職したいと思って登録するか、転職するところまで考えないと人材紹介会社にお金が入りません。看護師が連絡をとりやすい時間帯はいつか、何故転職をするか、どうやってコンタクトをとるか。雇用する側とされる側が求めるギャップを埋めるにはどうするかを考え、Webサイトに表現します。発注側は、広告を出すことやWebサイト制作ではなく、その先の問い合わせや売り上げが目的です。ところが、制作側が「制作してお金が入ればあとは関係ありません」「言われたとおりに作りました」「売り上げにつながらないのは御社の営業力のせいです」といったケースは多く、良くないと思います。あくまでクライアントの一員となって利益を出そうと考える。発注を経験しているから分かることで、スタッフも全員発注側を経験している人を採用しています。高い予算で広告を出したい、Webサイトをリニューアルしたいとクライアントに言われても、言われたままに作りません。その会社の状況やデータをみて課題を考えると、クライアントが思っている課題が実際は些末だったり、課題が別なところにあったりします。Webサイトの見直しか、広告を出すのがいいのか、弊社がお手伝いできればしますし、解決できなければ別な会社を紹介することもあります。

どのようにして発注が増えたのでしょうか。思い出深い案件があれば教えてください。

前職で、老人ホームを検索するサイトを受けたとき、「老人ホームを探すのに、ネットなんて使わない」という反対の声が社内にありました。それがGoogleの検索結果で6、7位だったのが1位に上昇し、資料請求が1000件を超えたのです。その結果を他社に伝えると、それまで発注のない企業から依頼がきて、営業活動がラクになりましたね。

自社ではある証券会社の仕事で、ターゲティングやWebサイトのリニューアル、広告を考えました。結果、口座開設がすごく増えたのです。大手広告代理店から、うちに依頼がくるようになりました。

その会社が合併吸収されてなくなると、転職した担当課長から声をかけていただき、最初は少額の仕事の成果が出て大きな仕事につながり、そこから別な仕事が生まれたり、他社を紹介していただいたり、そうやって紹介で広がっていったのです。

地元の宮城県とのかかわりもありました。震災直後にイノベーション東北というGoogleの人材のマッチングを通して、たまたま気仙沼の高校生のプロジェクトをボランティアでお手伝いすることに。「目黒のさんま祭り」の事務局をボランティアで2年やりましたが、今はWebサイトをお手伝いしています。

また、宮城県の学校関連のWebサイトをボランティアで作ったら喜ばれてFacebookで広めてもらい、新たな受注につながったりも。そんなふうに、顧客は実績を出したお客の紹介がほとんどです。最初はひとりで始めた会社ですが、今は社員が10人。本当にお客や社員を含め、親切な方々のおかげです。

 

誰に向けてのメッセージか、ターゲットを明確にすることから始める

成果を出し、お客さまに喜ばれるために、どんな工夫をされていますか。

その企業や業界を知ることもですが、「クライアントの先にいるお客さん」へのヒアリングが大事です。例えば保険業界なら、加入者は、どんな人で、どんな目的で御社を使い、なぜ加入したか、などを徹底的にヒアリングします。よく例えるのが炊飯器を売る場合で、学生になら安い方がいい、大家族なら5合炊きができないとダメ、共働きなら早炊きができた方がいい、老人向けならおかゆや少量炊きが欲しいといった用途があります。

全員に買って欲しいと思っても、全員を一括りにしても売れません。さすがにあまり細かすぎると、マーケットが小さくなってしまいますが。でも誰に買って欲しいか、誰に向けたメッセージなのかを明確にして、会社の強みやメッセージを出していくことは多いですね。

仕事に取り組む上で大事にしていること、スタッフに求めることは?

仕事で大切にしていることは2つあります。1つは、クライアントの社員のひとりという気持ちで取り組むこと。弊社だけ儲かればいいとか、失敗すると分かっていて請け負うことは決してありません。もうひとつは、多少損しても信頼される方を選ぶこと。売り上げも大事ですが、AかBかの判断に迷った時は、どちらがお客さんから信頼されるかを基準に考えます。信用があればお金という形になり、売り上げがついてくるはずです。うちは、基本的に私が窓口になって仕事を受けるので、営業専任のスタッフはいませんし、何を売りなさいといった数字的なノルマもありません。社員に求めるのはお客に信頼されること、スキルを高めること。よそにいっても通用するスキルを身に付けてほしいですし、よそでも通用するけど、あえて弊社で働いているという状態が理想だと思います。

 

東京で震災が起きても社員を解雇せず続けられる基盤づくりを

御社を今後どのようにしたいか、展望を教えてください。

本社は気仙沼市に置いたまま動かしませんが、被災地支援自体は10年でひと区切りにしようと思っています。

気仙沼市では単発でデザインをお願いしたりしていますが、ここではまだ正社員として雇用するまでにはいたっていません。もう少し会社が大きくなれば、未経験でもやる気がある人たちを積極的に採用していきたいですね。

自分が子どもをもって初めて、保育園に迎えに行って、週に数日、短時間だけ働きたいという女性の気持ちが分かるようになりました。能力はあっても通勤が難しい人や、家庭や本人の体力の問題でフルタイムでは働けない方を、どんどん活用していけたらと思います。

またこれから、宮城県に限らず国内のどこかの地域が震災に見舞われる可能性は高いと言われています。会社の売り上げ目標はありませんが、利益は上げておきたい。万が一東京で震災が起きてWeb制作どころではなくなり、生活再建が優先になっても、社員を解雇しないで1年、2年と雇用できる体力をつけておきたいからです。

若いクリエイターにメッセージをお願いします。

若いクリエイターの方によくポートフォリオを見せていただくのですが、自社にとってはあまり参考になりません。自分の好きなもの、いいと思ったものを作っていても、必ずしも顧客の役に立つものではありません。制作したものでアクセス数や申し込み率がこれだけ上がったといった結果、データをきちんと追いかけられないと。

Webサイト、チラシ、バナーといったもの自体が欲しいと発注してくる会社は1社もなくて、そこから生まれる収益が欲しくて仕事を依頼してきます。

納品した後の成果を聞くのは難しいかもしれませんが「自分の納品したものは成果が出ているのか」といった部分は気にして、制作していってほしいです。

取材日:2021年3月22日 ライター:佐藤 由紀子

株式会社スタビライザー

  • 代表者名:小松 雅直
  • 設立年月:2011年10月
  • 資本金:20,110,311円
  • 事業内容:Webの売り上げを最大化するための(1)マーケティング・プランニング(進捗管理)、(2)実施(サイト制作、コンテンツ追加、SEO、リスティング他)(3)検証
  • 所在地:
    本社 宮城県気仙沼市笹が陣5-11
    東京 営業所東京都品川区上大崎3-3-9-311
  • URL:https://www.stabilizer.co.jp/company/
  • お問い合わせ先:https://www.stabilizer.co.jp/contact/

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