「野生の王国」という動物ドキュメンタリー番組が好きになり、アマゾンのジャングルやアフリカのサバンナなど、世界を旅しながら野生動物を撮影する仕事をしたいと思っていました。

大学生の頃にコピーライターブームが起きました。「くうねるあそぶ。」の糸井重里さんや「目のつけどころが、シャープでしょ。」の仲畑貴志（なかはた たかし）さんらが活躍する姿を見て、広告をつくる仕事がかっこいいと感じました。しかし、それが就職に直結したわけではありません。

当時の私はまだ「どんな仕事が自分に向いているのか？」がわかりませんでした。そこで広告代理店なら様々な業種を見ることができますし、その中で「面白そう！」と感じた業種・業界に転職する手もあるのかなと考えたからです。

新卒で入った会社は、新聞社系の広告会社でした。営業としてタブロイド紙やフリーペーパーを3年ほど担当したのですが、もっとダイナミックな広告にも携わりたいと感じて東京に本社があるテレビCMを中心とした総合広告代理店に転職しました。その名古屋支店で電力会社や飲料会社の広告を任されていたのですが、入社4年目に会社が名古屋エリアから撤退することになってしまったんです。

お客様に事情を話すと「じゃあ、西森さんが引き継いでくださいよ」と背中を押してくれたんです。辞める会社からも「撤退予定だったのだから、トラブルさえなければ大丈夫」と快くOKが出て、名古屋の事業をそのまま引き継ぐことになりました。私が代表となり、この会社の同僚と3人でエムズコーポレーションを立ち上げました。

エムズコーポレーションの由来は、私たちが大切にする「マーケティング（企画力）」「メッセージ（情報力）」「メディア（提案力）」「マン（人間力）」「ムーブ（行動力）」の『5つのM』。これらを高め、あらゆる可能性に挑戦するという想いが込められています。表記はM’Sではなく、MS（Mの複数形）です。

テレビCMや交通広告、紙媒体などのメディアセールスを手掛ける「企画営業」、お客様のホームページ制作やDXの推進をサポートする「ウェブチーム」、採用ブランディングのお手伝いや求人サイトの運営を行う「採用支援」の3本柱で事業を進めています。自社メディアや社会貢献活動のサポートにも力を入れています。

採用支援として、愛知県に特化した転職サイト「じょぶる愛知」の運営を行っているほか、エムズコーポレーションのニュースレター（A4両面の情報発信ツール）を定期発行しています。社会貢献活動はエコキャップの収集や、備蓄の缶パンを賞味期限前に回収し、飢餓地域に届ける「救缶鳥（きゅうかんちょう）プロジェクト」に参加しています。その活動をニュースレターで発信することで、お客様から「うちでもやってみたい！」と問い合わせをいただくこともあります。SDGs（持続可能な開発目標）についても、話題になる2年も前から社内勉強会を行なっていました。

中小企業の経営者にはそれらの活動を「儲からない余計な仕事」「余裕のある大企業だけがやるもの」だと捉える方もいますが、社会貢献活動に取り組むからこそ世の中に受け入れてもらえる時代に変わっています。社会貢献を促し、それを広く社会に伝えるお手伝いをしたいと考えています。

柔道家として有名な嘉納治五郎（かのう じごろう）さんが掲げた「精力善用」「自他共栄」という言葉を大切にしています。「精力善用」とは、柔道に打ち込むことで磨かれた能力を「相手をねじ伏せることに使わず、世の中の役に立つことのために精いっぱい使いなさい」という意味です。そして、自分のもてる力を使って自分と他人を共に栄えさせる「自他共栄」はまさに、私たちが取り組む広告の仕事の本質です。

広告の仕事は、つきつめると「人間力」。人間力のある少数精鋭で事業を進めているのがエムズコーポレーションの強みです。お客様から信用いただいたことが会社設立のきっかけになったので「常にお客様のことを思って取り組む」という姿勢を大切にしています。それがお客さまとの長いおつきあいにつながっているのだと思います。

創業から25年が経ち、私が現役でいられるのもあと10年ほどとなりました。これからの10年で、永続する強い会社に向けての再構築を行なっていきたいです。具体的にはいままで総合広告代理店として顧客の「マーケティングの支援」に注力してきました。でもこれからは「ブランディング向上」を支援できる会社を目指しています。お客様が社会貢献を行うためのアイデアの提案や発信のお手伝いをすることが、エムズコーポレーションのブランディングにもつながるはずですので。

クリエイターは「独立心の強い人」と「従属的な人」に分かれるような気がします。ただそのような両極端な立ち位置ではなく「道義的な人」になることが重要です。「道義的な人」とは、クリエイティブのものさしを“自分ではなく、お客様でもなく、目的を達成すること”に当てる人。「何のために広告をつくるのか？」をしっかりと考え、そこに向かって自分の使命を果たすことで、社会に必要とされるクリエイターになれると思います。