来日30年。デザインオフィス・キュリオシティ主宰が語る“クリエイティブ”の哲学
閑静な住宅街にオフィスをかまえるデザインスタジオ、株式会社CURIOSITY(キュリオシティ)。東京・銀座にある大型複合商業施設「GINZA SIX」をはじめとする建築物や、空間を彩るインテリア、人が手に取るプロダクトまで、ありとあらゆるジャンルのデザインを手がける同社を率いるのが、フランス出身のリードデザイナーであるグエナエル・ニコラさんです。
1991年、東京に憧れて来日したニコラさんは、日産で大ヒットとなった車をデザインした坂井直樹(さかい なおき)氏に師事。1998年に会社を立ち上げて大手クライアントとのコラボレーションをいくつも実現。これまでの歩みの中で培われた、クリエイティブに対する哲学についてお話を伺いました。
初めて見た東京の景色は「フローティングシティ(浮遊都市)のよう」
貴社サイトのニコラさんの来歴によれば、1988年にはパリの大学でインテリアデザイン学士号を取得。1991年にロンドンの大学院でインダストリアルデザイン修士号を取得後、来日されたとあります。なぜ日本へ来られたのでしょうか?
もう、30年ほど前になるんですね。元々、日本の文化そのものより、東京に興味がありました。当時、雑誌で読んだ東京は自分の思い描いていた未来のイメージ。東京とヨーロッパの景色には数十年の開きがあるように見えていて、自分の目で確かめたかったので日本へ来ました。
初めて自分の目で見た東京の景色はどうでしたか?
驚きました。高速道路が建物の2〜3階ほどの高さの場所に張り巡らされていて、フローティングシティ(浮遊都市)のような印象だったから。空港から乗ったリムジンバスの中で外を見ると、窓の外に雑誌で読んでいた以上の光景が目の前に広がっていたんです。ヨーロッパに住む友人に説明しても「言い過ぎじゃない?」と言われるほど、興奮を抑えきれなかったです。
来日後、フリーランスとして活動し始めたそうですね。元々、その前提で日本へいらっしゃったのですか?
いえ、初めはあまり考えていなかったです。どうやって日本で仕事をすればよいかも、知らなかったから。ヨーロッパでは、学位を取れば自分の行きたい企業へコンタクトを取りやすい環境がありますが、日本にはその仕組みがありませんでした。
ターニングポイントだったのが、坂井さんとの出会いでした。ヨーロッパにいた時代から、雑誌を通して「一緒に仕事えをすれば面白いことができるかもしれない」と思っていたので、どうにかしてコンタクトを取ろうとしました。ですが坂井さんに50回ほど連絡しても、初めのうちはいっこうに返信がなかったです。でも、その後、手紙に種を添えて「一緒に仕事をすれば、この種を大きくさせられます」とメッセージを添えたら、翌日に電話をもらって。そこから、一緒に仕事をできるようになりました。
ニコラさんの熱意が伝わった、心を揺さぶられるエピソードですね。ちなみに、日本で初めて手がけたのはどういった仕事だったのでしょうか?
仏壇づくりでした。最初に「2ヶ月後に展示会があるから」と言われただけで、何を作ればよいかも決まっていませんでした。私自身はキリスト教徒なので当然ながら仏教も知らないし、本当にパニックになって。でも、頼まれたからにはデザイナーとしての責任を負わなければならないし、翌日には仏壇の販売店へ行き、リサーチから始めました。当時作った仏壇は、今でもオフィスの一角に飾ってあります。
作っている最中は難しかった。でも完成までの過程はやっぱり面白くて。当時から、自分のスタンスも変わっていません。相談されたからには、自分のイメージをふくらませて未来を考えつくす。常にそうやって仕事と向き合ってきました。
トータルに関われるホテルの仕事に興味あり、でも未来は考えすぎない。
建築物、インテリア、プロダクトなど、貴社の関わっているジャンルは多岐にわたります。なかでも、核になっているものは?
中心にあるのはインテリアですが、どれか一つではなくすべてが大切。ここ数年は、すべてを一貫して担えるプロジェクトにも関わり始めています。例えば、ホテルに関する事業はその一つ。これまで、小売り店舗のデザインを数多く手がけてきましたが、どれほど作り込んでも、多くの店舗は寿命が長くても5年ほど。数千軒に関わっても、残っている店舗がそう多くなかったのも寂しかったんです。どれほど仕事を頑張って、世界観を作り込んでも形が残らないのは切ない。
だから、大枠の建築物からその中にあるインテリア、ひいては、人が使う家具のデザインまでと、トータルに関われるホテルの仕事に興味があって。自分たちの会社だからこそ提案できるものだと自負を持ちつつ、コンセプトから提案しています。
会社は、1998年の設立から23年。今後のビジョンにはございますか?
あんまり考えていません。考えると、どうしようかと悩んで止まってしまうから。相談された仕事に対しては、クライアントのためにとゴールを描いているけど、会社に対しては動きながら考えようとしています。
アイデアがあれば次々と作り続けて、スタッフ同士で共有しながら進んでいく。自分たちにあるのは、リスクマネジメントではなく“可能性マネジメント”。一つのプロジェクトがあったら、限られた時間とお金で何ができるか。どこまで可能性を広げられるか、それを考えるのが私の役割であり責任だと思っています。
クリエイター同士は「磁石のように引き寄せ合うのも大切」
ともに働くスタッフの方々も、ニコラ社長と感性が似ている?
面接でも、そういった人たちを選んでいると思うから似ているでしょうね。あと、私にはない取り柄を持っているメンバーばかりなんですよ。
私の仕事は、クライアントと一緒にビジョンを描くこと。そして、スタッフはそれぞれ、空間のレイアウトが上手いとか、何かを作るときに色や素材の効果的な組み合わせを見つけるのが上手いとか、お互いの長所を活かしている。
CURIOSITYは、オープンソースソフトウェアのように柔軟だし、ときには、失敗もアイデアに変えられる環境にしています。
最後に、クリエイターのみなさんに向けて、メッセージをいただければと思います。
クリエイターには、絶えず「できないことはない」と信じてもらいたいです。何かアイデアがひらめいても「自分にできるかな?」と、押し込めてしまってはもったいない。
たとえ自分だけでできないことがあっても、探せばどこかにプロフェッショナルがいるはずだから。クリエイティブな仕事は「誰のためにやるか」に加えて「誰とやるのか」が重要だし、クリエイター同士は、磁石のように引き寄せ合うのも大切。
その結果「できる」のです。面白い人や出来事があれば自分から足を運び出会いましょう、きっと何かを思いついたり生みだしたりできると思います。まずは、おもむくままに行動してほしいですね。
取材日:2021年5月12日 ライター:カネコ シュウヘイ
株式会社CURIOSITY
- 代表者名:グナエナル・ニコラ
- 設立年月:1998年4月
- 資本金:300万円
- 事業内容:インテリア、建築、プロダクトなど各種デザイン業務
- 所在地:〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-13-16
- URL:https://curiosity.jp/
- お問い合わせ先:上記ホームページ「メール」又はSNSアイコンより