四国には、世界に誇れる中小企業がある。「クリエイティブ・ファシリテーション」が生み出す新規事業の力
「6カ月のプロジェクトのうち、5カ月目までひたすら話し合いを続けていることも珍しくありません」
そう語るのは、クリエイティブを通じて企業の新商品開発や新規事業展開の支援を行う株式会社FISHのCEO、白川淳(しらかわ じゅん)さん。従来の広告会社や制作会社の常識にとらわれない「クリエイティブ・ファシリテーション」の考え方で、四国の中小企業の課題解決に奔走しています。
白川さんはどのようにして経営者の思いをくみ取り、世の中へ発信しているのでしょうか。これまでのプロジェクト・ストーリーを交えて教えていただきました。
従来の広告会社の枠を超えて、地元企業の課題を解決したい
起業に至るまでの白川さんのキャリアをお聞かせください。
転機となったのは子どもができたタイミングです。「地元に帰って働くのもアリかな」と考えていたときに、高松市に本社を置くセーラー広告株式会社とのご縁があり転職しました。約17年にわたり企画職を務めた後、2019年に社内で新規事業アイデアを募集するプロジェクトに手を挙げ、立ち上げた新規事業で会社として独立することになりました。
新規事業を立ち上げたいと考えたのはなぜですか?
地元企業の経営者が抱える課題に対して、従来の広告会社の業務領域だけでは応えきれないと感じていたからです。
セーラー広告では行政だけでなく民間の仕事も幅広く手掛け、地元の中小企業と関わる機会がたくさんありました。デジタル化や少子化の流れの中で、新商品開発や新規事業展開を検討している地元企業は少なくありません。
気づきを得たきっかけは、愛媛の小さな酒造メーカーさんの商品デザインの仕事をさせていただいたこと。その会社は家族経営ながらも海外のアワードを受賞し注目されていました。小さな会社でも全国や世界を相手に商売ができる。僕はその姿に感銘を受け、自分自身もそうした仕事に携わりたいと思ったんです。
そこで新商品開発や新規事業展開のコンサルティングを軸とした新会社の立ち上げを提案し、出資してもらえることになりました。
ゴールは成果物の納品ではなく「クライアントの課題解決」
そうして設立された株式会社FISHでは、自社の姿勢として「クリエイティブ・ファシリテーション」を掲げています。この言葉に込めた思いとは?
ファシリテーションを通じてクライアントの中にある答えを引き出すために、どのような取り組みを行っているのでしょうか?
一つは、とにかく「よく話を聞く」ことです。僕たちのプロジェクトは6カ月や1年単位となることも多いのですが、具体的なデザインなどを提案するのは期間の終盤。6カ月のプロジェクトであれば、5カ月目まではひたすら話し合いを続けている、といったことも珍しくありません。それだけクライアントを理解するための期間を設けているからこそ、同じ方向を見てアイデアを生み出し、ぶれることなく形にしていけるんです。
もう一つは、「クリエイティブの力を企業のために発揮する」こと。具体的にはデザイナーやプランナーが上流から入って商品開発や事業開発に関わり、言語化しにくい部分にも踏み込んでいきます。これには非常に意義があると思っていて。また、僕たちは広告業界出身者として市場や消費者の視点も持っており、これをクライアントの思いと掛け合わせていくことも大切だと考えています。
先ほどの「添い遂げる」という言葉の意味がよく分かりました。とはいえプロジェクトが長期化すれば、成果物を納品するまでのスパンも長期化してしまうのでは。つまり「なかなか売り上げが立たない」ということになりませんか?
だからこそ僕たちは成果物の納品をゴールとするのではなく、「クライアントの課題解決」をゴールとして仕事に向き合えています。
世界に誇れる強みを持つ企業が、四国にはたくさんある
これまでの仕事の中で、特に印象に残っているプロジェクトについて教えてください。
香川県にある、姫生水産(https://www.himeo.net/)さまというクライアントとの仕事を紹介させてください。
姫生水産さまは海老の天ぷらを主力商品とする会社です。大手スーパーマーケットの下請けでPB(プライベート・ブランド)商品を作っており、海老の天ぷらでは全国でも5本の指に入るほど、業界では名の知られた会社なんです。
ただ、PB商品の製造においてはコスト管理が重要であり、自社の技術を最大限に発揮することはできません。社長は「職人として納得しきれるレベルの商品を作り、次世代に引き継ぎたい」と考えていました。
コストを気にすることなく「本気で作る天ぷら」を世に送り出したい、と。
はい。その社長の思いを受けて、姫生水産さまの技術の粋を集めた天丼の冷凍食品を作るプロジェクトがスタートしました。販路開拓を担う別の企業とも連携して、「どんなブランドにするのか?」「味は?」「商品名は?」「パッケージは?」「ウェブサイトは?」など、徹底的に議論を重ねて形にしていきました。
こうして誕生したのが、妥協ゼロの商品をお届けする「HIMEJIRUSHI」ブランド。食材にも製造工程にも徹底的にこだわり、天ぷらのセットを、4000円を超えるプレミアム価格で販売しています。
なお姫生水産さまは「HIMEJIRUSHI」をきっかけに公式SNSアカウントを立ち上げ、積極的に天ぷらへの思いや技術力を、世界に向けて発信するようにもなりました。
このように、大手企業の下請けとして受託事業を手掛けていた中小企業から「オリジナル事業や商品を立ち上げたい」とご相談いただくケースが増えています。
世界に誇れる強みを持つ企業が、四国にはたくさんある。その魅力を地場だけでなく、全国、全世界へと発信していけるように尽力したいと思っています。
クリエイティブの力で地域の産業を応援し、地域の持続可能性を高めていく
将来に向けては、どのような展望を描いていますか
クリエイティブ・ファシリテーションという手法で四国の企業に貢献する。この基本方針は変わりません。1社ごとのクライアントに長期的に関わっていく必要があるので、たくさんの案件を引き受けるのではなく、僕たちがお手伝いすべき相手を絞り込み、添い遂げることにこだわっていきたいと思っています。
そのためには企業の経営者や事業責任者と真正面から向き合える人材が必要です。少数精鋭で、理念を共有できる仲間とともに歩んでいきたいですね。
経営者や事業責任者の思いを引き出し、議論を通じて商品開発や新規事業開発を進めていく仕事は簡単ではないと感じます。新しい仲間を迎え入れる際には、どのような素養を重視しますか?
ただ、本当に求められるのは、新しいことへ前向きに挑戦するスタンス。「クリエイティブの一機能を担う」のではなく、「経営者のパートナーになる」という意欲がある人と出会いたいです。
ありがとうございます。最後に、白川さんのように地方で活躍したいと考えているクリエイターへ向けてメッセージをお願いします。
地方で働く醍醐味は、自分で考えたアイデアやデザインを経営者に直接ぶつけられることだと思います。課題を抱える中小企業が身近にたくさん存在するからこそできる仕事です。そうして生まれたアイデアやデザインが形になり、世の中に発信され、大きな反響をいただく。これが僕自身の大きなやりがいとなっています。
クリエイティブの力で地域の産業を応援し、地域の持続可能性を高めていく。こんなに社会的意義のある仕事は、そうそうないんじゃないでしょうか。
取材日:2021年6月11日 ライター:多田 慎介
株式会社FISH
- 代表者名:白川 淳
- 設立年月:2020年4月
- 事業内容:マーケティング領域のコンサルティング、事業開発、プロダクト開発、ブランディング(企業・商品・地域)、広告コミュニケーション、施設・店舗プロデュース、デジタルコミュニケーション、地域課題解決
- 所在地:〒760-0029 香川県高松市丸亀町3-13 丸亀町参番街西館2F
- URL:https://fishinc.jp/
- お問い合わせ先:上記コーポレートサイト内「CONTACT」より