職種その他2021.08.25

地域貢献がしたいという想いで始めたサイクリングツアーで世界に挑戦

広島
株式会社mint 代表取締役
Satoshi Ishitobi
石飛 聡司

「sokoiko!(ソコイコ!)」という自転車を使ったツアーを運営する株式会社mint。インバウンド向けにスタートさせ、何度も企画を練り直し、ついにオンライン旅行代理店から表彰されるようになりました。コロナ禍でも前進し続けるmint・代表取締役の石飛聡司(いしとび さとし)さんにインタビュー。ショップの店長として全国を転々していた頃、広島に戻っての独立、そしてたどり着いた地域貢献できる仕事、さらには世界への挑戦に至るまでのお話を伺いました。

 

自分自身が苦手だと思うところにビジネスチャンスがある

起業されるまでのキャリアを教えてください。

実は大学を卒業してからラッパーになりたくて、一年半ぐらいバンドをやっていたんです。同時に、服や雑貨をセレクトして販売する雑貨店でアルバイトもしていました。音楽活動をしていくなかで、メンバーと「もうそろそろ、いい頃合いだよね」って話になり、ちゃんと就職することに。元々雑貨が大好きだったので、アルバイト先にそのまま就職したんです。

意外な経歴ですね! 就職していかがでしたか?

すぐに店長として名古屋へ行き、そこで約1年、次に浜松に行って同時に2店舗任せられました。そして岐阜へ行って新店の立ち上げをしながら約3年過ごして、最後は神戸に行きました。このとき、僕は30歳。結婚もしていて子どもが1歳の頃でした。このペースで転勤し続けるのは子育てが大変だし、僕も妻も広島出身だったので広島に戻ることに。ただ僕は人に何かを言われてやるのが苦手だったし、まだこの世にない新しいものを自分で考えて生み出していきたいと漠然に思っていたんです。だから広島の企業に就職するのではなく、独立することを決意しました。

すぐにmintを立ち上げたのですか?

いえ、最初は個人で仕事を始めました。雑貨店で店長をやっていたときは、接客をはじめ、営業や商品のディスプレイもする。さらに経理、スタッフの育成などあらゆる業務をしなくてはいけなかったんです。僕は営業やディスプレイ、接客は好きでしたが、経理が大嫌いでした。

そして僕と同じように経理が苦手な個人事業主はたくさんいるだろうと思ったんです。自分自身の苦手なところにフォーカスするとビジネスチャンスがあるのではないかと考えました。そこで独学と、親類に税理士がいたので教えてもらいながら、経理に関する資格をとり、前職のノウハウも活かして個人事業者さんのサポート事業をしていたんです。

なぜそこから起業することになったのですか?

経理をサポートする仕事を通して、数々のクライアントと接する機会が増えたんですが、いろいろな相談に乗っていたら「広告は作れないか?」と聞かれることが多かったんです。僕自身は、広告やデザインはできなかったので、同じように独立している仲間にお願いしていたんです。彼らとよく一緒に仕事をしていたので「会社にしてしまおう!」と決意し、2014年6月にデザイン事業をメインとして、mintを立ち上げました。社名は初期メンバー4人の名前の頭文字を繋げました。

 

何が本当にしたいのかを考えたら地域貢献だった

mintはその後どう進んでいきましたか?

最初の頃は、デザイン事業の規模はまだまだ小さかったですね。しばらくして初期メンバーであったシステムエンジニアの仲間が辞めることになりました。そこで「元々何がしたかったのか、自分たちには何ができるのか」を一度立ち止まって考えてみたんです。

仲間も県外から広島に戻ってきていたこともあり、地域に貢献できる仕事をメインにしたいねって。ファミリーレストランに深夜集まって、では何をしようかと話をしていると「そういえば最近外国人を街でよく見かけるよね」という話題に。どこを観光しているのだろうって調べたら、平和公園と宮島にしか行かず、日帰りしていることが分かったんです。

あんまり遊んでくれない、長く滞在していない、泊まってくれない、だから広島には経済効果が少ないって気がついて。地元の商店街などに経済効果があるよう、観光客にはさらに3時間広島にいてもらえる取り組みをしようと。僕たち道だけは詳しかったから、3時間で周遊するツアーを作りました。

どのような広島周遊ツアーを考えたのでしょうか?

広島の街を歩くとしんどいし、車を使った観光は別の資格が必要。バスや電車だと駅周辺しか遊べない。広島には魅力的な裏路地があったり、そこに店があったりするから「自由にめぐるなら自転車だ!」と思って、サイクリングツアーを考案しました。 気軽にどこへでも連れて行くよっていうスタンスにした観光企画事業「sokoiko! https://www.sokoiko-mint.com」を始めました。本当に何もないところからスタートさせたので、ビジネスプランをコンテストに出し、プレゼンもして。さらなる仲間集めと英語が話せるガイド探し、シェアサイクルサービスと連携するなど、少しずつ準備を進めていきました。

サイクリングツアーを始めてみていかがでしたか?

外国の人は、よく知られているスポットだけでなく、自分しか発見できなかったコアな場所をめぐるのが好きらしいとも聞いたので、サイクリングツアーは「ガイドブックに載っていない旅」というキャッチフレーズにしました。でもいざ「どこに行きたい?」と聞くと「よく分からない。あなたのおすすめでいいよ」って言われて。意外と何も要望を言われなかったんです。さらには、最初の半年間はお客さんが全然来ない。年間合わせても60人くらいでした。「これではやばい」と思って、一旦立ち止まって考えてみたら、やっぱり外国人は平和に興味があって広島に来ていると。では有名なスポットではなく、郊外にある被曝遺産や被曝樹木をめぐる「平和を学ぶツアー」をしたらどうかな?って思いついたんです。そうすると、参加者が年間200人に増えたんですよ。でもまだまだ少ない。今の5倍くらいにしたいと思って、参加してくれた外国人にWebサイトにレビューを書いてもらえないかとお願いしたんですが、なんと全然書いてくれない。ここで、自分たちのツアーにはまだ何か足りないなって気がつきました。ちょうどその頃、家族でグアム旅行に行ったんですよ。僕、いわゆるリゾート地みたいな場所に行くのが初めてで、どうせ行くなら勉強しようって思ったんです。パラセーリングやシュノーケリングなどのアクティビティーは、一体どうやって開催しているんだろうって気になって。参加したなかで楽しかったのは、バギーに乗る体験。最初バギーの運転練習をして、次に藪に入って行く。さらに道がないようなジャングルに進んで行き、草木を抜けて行くと世界一深いマリアナ海溝が見える崖へ急に出たんです。「これを見せたかったんだ」とガイドに言われたとき、突然現れた圧倒的な景色への驚きが強くて「僕たちのツアーに足りないのは、ハイライトシーンだ。歴史を単調に学ぶのではなく、ストーリー性もいるな」と思い知らされました。広島は原爆が落ちた日から復興する今日までの道のりを学びがちだけど、もっともっと前から街は存在している。この街はどう育って、どうして原爆が落ちたのか。そして落ちたときはどういう状況で、そこからどう復興してきたのかっていうのを戦前、戦中、戦後に分け、ストーリーを感じられるツアーに作り直したんです。

 

今後は海外で日本人向けのツアーを展開していきたい

この先、観光企画事業をどうしていきたいですか?

おかげさまでレビュー数も増えていき、オンライン旅行代理店からは表彰もされました。2021年6月下旬に発表された世界最大のレビューサイト「TripAdvisor」のトラベラーズチョイスという認証制度で、世界の1%だけがもらえるトラベラーズチョイスBest of Bestという認証をこの度いただきました。

同サイトに掲載されている日本の全アクティビティ(ツアーや各種体験コンテンツ)のなかでも東京、大阪、京都以外で唯一ベスト10に入ったんです。

でも新型コロナウイルスの流行により、当初ツアー参加者の95%は外国人だったので、売り上げは一時落ち込みました。そこで日本人をターゲットにしたり、あえて地元の人を対象にしたり、オンラインツアーにもチャレンジしました。新型コロナウイルスが流行する前から進めてはいましたが、広島市内に限らずいろいろな場所でやりたいと思い江田島や北広島まで広げました。

さらに長崎、島根、東京、奈良といった県外でもサイクリングツアーを展開していくことに。生まれ育った土地ではない場所を観光しているときって、自分の人生には関係ない、フィクションを見ているような気になりがちです。でもそんなことは全然なくて、どの場所にもその土地ならではの壮大なストーリーがあるし、きっとどこか自分に繋がるモノやコトがある。それは、こちらの伝え方次第で、自分ごととして捉えてもらえる。ツアーを終えると、映画を一本観たような感動を与えることも可能なんです。

だからsokoiko!のツアーを企画しているとき、僕は映画監督になっている気分になります。どこにスポットを当て、どう演出していくか。自転車でめぐりながら、どの場所でどんな話をするかが大切。ガイドにこの意図をしっかりと伝えるべく、僕が脚本も書いているんですよ。

チャレンジし続けているんですね!

10年後には世界でビジネスをやりたいんですよ。もっとsokoiko! の名前が浸透していったら、まずはタイかな。日本人が海外へ旅行に行ったとき、自由に街を周遊したり、裏路地に入ったりするのは少し怖いですよね。でもsokoiko! が運営している現地ガイドツアーがあれば、安心して参加してもらえるかなと。広島で外国人向けに始めた事業ですが、今後は日本全国、そして海外で幅広いターゲットに向けたツアーが提案できるようになりたいですね。

取材日:2021年7月6日 ライター:宮川 佳子

株式会社mint

  • 代表者名:石飛 聡司
  • 設立年月:2014年6月
  • 事業内容:観光企画事業、デザイン事業
  • 所在地:〒730-0854広島県広島市中区土橋町2-21ボイスビル4 101
  • URL:https://www.sokoiko-mint.com
  • お問い合わせ先:上記サイト「お問い合わせ」フォームより

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